戦国異伝
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第百七十話 信長と信玄その六
「しかも縦の厚みもある」
「まるで厚い帯の様じゃな」
「これで敵を防ぐ」
「武田の騎馬隊をか」
「確かにこの陣ではな」
どうかとだ、氏家は前を見た。前にはまだ武田の軍勢はいない。
「武田が来てもな」
「うむ、鉄砲で撃てる」
「まずはそれで敵の数を減らせる」
このことはよしとした、だが。
武田には騎馬隊がある、それで氏家は言うのだ。
「問題は騎馬隊じゃな」
「あの者達じゃな」
「武田のな」
「武田の切り札じゃ」
それだけの強さを誇るというのだ、彼等は。
「あの者達が鉄砲に怯まず突っ込んでくればな」
「うむ、陣は抜けられるな」
「一気にな」
二人も真剣な顔で氏家に返す。
「そうなってしまうわ」
「武田の強さではな」
「その通りじゃ、それが為にじゃ」
どうするのかはもう答えがあった、それは。
槍だった、織田家の誇る異様なまでに長い槍が整然と立っていた。槍のその長い柄までが青く塗られている。
「あの槍で騎馬隊を防ぐとのことじゃな」
「織田家の長い槍でな」
「これでな」
「鉄砲を撃ち槍で敵を防ぎ」
そしてだった。
「弓で撃つ」
「三段じゃな」
「それで武田の攻めを防ぐか」
「そうするのじゃな」
「そのうえでな」
ここで言ったのは稲葉だった、今彼等がいる横に伸びている分厚い陣を見ての言葉だ。まさに青い帯だ。
「武田が一つの場所にこだわれば」
「そこに兵をさらに向けてじゃな」
「陣を動かして武田を包みにかかる」
「そうなっておるな」
「戦になれば」
「武田は強い、数はこちらより少ないが」
稲葉はこのことも言った、武田は四万五千で織田は十五万だ。織田の数は三倍以上だ。確かに武田の兵は強く織田の兵は弱く正面からぶつかれば数なぞものの役に立たない、しかし攻め方によってはというのだ。
「横から攻めればな」
「一方を防ぎつつな」
「そうすればな」
「勝てるやも知れぬな」
こう言った稲葉だった。
「そうすれば」
「うむ、ではな」
「陣は整えた」
氏家と不破が応えた。
「後は武田の軍勢が来ればな」
「戦じゃ」
「いよいよな」
後は相手が来るだけだった、その中で。
今度は不破がだった、空を見上げて二人に言った。見れば空は日はもう傾きの最初に入ろうとしていた。
その日を見てだ、不破は二人に言った。
「もうすぐ武田は来るな」
「来るのは夕刻じゃな」
「その頃じゃな」
「そうじゃな、ではな」
夕刻に来る、それならだった。
「戦になるのはな」
「明日じゃな」
「明日の朝じゃな」
そうなるというのだ、戦は。
「明日の朝から大きな戦じゃな、武田を相手に」
「相当なものじゃな」
「さて、どうなるかじゃ」
また言う不破だった。
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