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戦国異伝

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第百七十話 信長と信玄その三

「わたくしがわかったのはこの度の戦のことです」
「ですか、ですから」
「今はですね」
「それだけですか」
「織田も武田も」
「干戈を交えるだけですか」
「そしてわたくしもです」
 謙信は毅然として言った、己の諸将に。
「織田信長と戦いますが」
「まだ、ですか」
「制することは出来ない」
「そうなのですか」
「次の戦いであの者を制するには至りません」
 星にだ、そう教えられたというのだ。
「まだ、です」
「そうですか、では」
「今はですか」
「織田と戦おうとも」
「制することは出来ませんか」
「天下は一つになろうとしていますが」
 このことも星に教えられたというのだ。
「しかしです」
「それでもですか」
「まだ殿が天下に正義を示させるのは」
「まだですね」
「先ですね」
「そうです」
 だからだというのだ。
「ここはです」
「まだですか」
「天下は一つにならない」
「少し先なのですか」
「時は間もなくです」
 天下統一、その時はというのだ。
「そしてわたくしがです」
「幕府の下に天下を統一される」
「そうなりますね」
「そうです、正義を示すのです」
 この天下にだというのだ。
「では宜しいですね」
「はい、では」
「今はです」
「織田家との戦に向かい」
「出陣ですね」
「この戦いは織田を倒すのではなく」
 星が見せている運命に従えばだ、どうなるかというのだ。
「織田に我等の力を見せる戦です」
「そちらですね」
「今は」
「思う存分見せるのです」
 謙信は毅然として語っていく。
「わかりましたね」
「はい、では」
「いざ」
 上杉の家臣達は口々に応える、こうしてだった。
 上杉家は出陣に入った、甲斐の虎の次は越後の龍だった。
 家康が敗れたという報はすぐに信長にも伝わった、だが信長は家康が無事と聞いてまずはほっとしてこう言った。
「それは何よりじゃ」
「ですな、徳川殿がご無事ならば」
「まずは」
「徳川十六将も飛騨者達も全員無事じゃ」
 それならとだ、信長はさらに言う。
「まずはよし、三千の兵を失ったのは残念じゃがな」
「それでもですな」
「徳川殿がご無事なのは」
「うむ、いいことじゃ」
 安堵しての言葉だった。
「心配させおる」
「九死に一生だったそうですが」
「それでもです」
「徳川殿はご無事です」
「何とか」
「そうじゃな、しかも三河者は全て敵を向いて死んでおったという」
 このことについても言う信長だった。 
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