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4部分:第四章
第四章
「部屋だけれど」
「部屋は?」
「隣になったから」
「隣に」
「隣の部屋空いてるからって」
だからだというのである。
「それでそこになったからね」
「そんなの聞いてないけれど」
このことをまた言う雪だった。
「レイちゃんがお隣って」
「宜しくね」
扉の向こうから明るい声が聞こえてきた。
「これからね」
「・・・・・・・・・」
その問いには答えようとしない雪だった。
沈黙した。だがレイラニはその彼女に更に話してきた。
「楽しくやろうね」
こう言って今は扉の向こうから姿を消すのだった。しかしそうして彼女の気配を感じなくなると。雪は蹲ったままで一人呟くのであった。
「何であんなに明るいんだろう」
レイラ二のその明るさを思い出して呟くのだった。今の彼女にはそうとしか思えなかった。
その次の日だ。蹲ったまま眠っていたら。不意に扉をノックする音が聞こえてきた。
「何?」
「雪ちゃん、雪ちゃん」
明るい声がまた扉の向こうから聞こえてきた。
「起きてる?」
「何?一体」
「起きてるからね」
その明るい声での言葉である。
「いいかな」
「いいかなって」
「御飯食べよう」
こう彼女に言ってくるのである。
「御飯をね。一緒にね」
「一緒に?」
「そうよ。一緒にね」
つまり朝食を誘いに来たというわけである。
「食べよう」
「いい」
雪はレイラニのその呼びかけを断った。
「いいから」
「いいって」
「後で食べる」
こう言うだけだった。
「後で自分で食べるから」
「いいの?」
「放っておいて」
今度は完全に拒む言葉だった。
「私のことはもう」
「いいの?」
「いいから」
また拒む言葉を出すのだった。自然にである。
「私のことは」
「何でなの?」
「いいから」
この言葉が自然と出て来る。
「本当にいいから」
「じゃあ朝はいいのね」
「いいわ」
ベッドの上から動こうとはしない。全くである。
「だからね」
「わかったわ。それじゃあね」
「もういいから」
また言うのであった。しかしである。
その夜にだ。また扉をノックする音が聞こえてきた。そしてあの声もだ。
「雪ちゃん」
「レイちゃん?」
「そうよ、いい?」
また声をかけてきたのである。扉の向こうからだ。
「いいかな」
「何なの?今度は」
「晩御飯食べない?」
夜も彼女に声をかけてきたのだ。
「今から」
「いい」
またこう言うだけだった。なお昼もそうだったが朝は母が運んできた盆の上のそれを中に入れて食べた。それで済ませたのである。
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