道を外した陰陽師
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第三十二話
「いや~、遊んだ遊んだ」
「遊んだ遊んだ、じゃないでしょ・・・少しは申し訳ないとか思わないの?」
「え、申し訳ない?何それおいしいの?」
「常識だって言ってんのよ!」
ラッちゃんに叱られた。
そんなに言われることかな・・・ただちょっと、景品といくつかの脅迫材料を使ってコインをもらっただけなのに。
あ、勿論出禁にはなってない。ちゃんと、そうしないように言っておいたし、そんなことしたらどうなるか分かってるだろうし。
「はぁ・・・間違いなくアンタ、昔よりあくどくなってるわ」
「そりゃ、外道ですから」
「それを便利ワードに使うんじゃないわよ・・・」
便利だったんだけど、最近では中々使えなくなってきてるんだよな・・・何か他の便利ワードはないものか。
「まあ、よかったじゃん。コインゲームでかなり時間は潰せたし、全部返したんだし」
「あれを返そうとしなかったら、さすがに手を出してたわよ、あたし」
「俺に効くとは思えないけどな」
まあ、俺としてもあんなにもらっても、だし。
それに、コインゲームなんて今後やらないだろうし。
で、本屋を回ってみたりラッちゃんの買い物に付き合ったり不良をボコったりしているうちに、時間はいい感じになっていた。
「っと・・・あ、もうそろそろ帰ってもいい時間だ」
「確かに、後五分で九時ね・・・」
「これとこれと・・・そう言うわけだから、そろそろ帰るか」
「そうね・・・ねえ、そろそろ突っ込んでもいいかしら?」
「何・・・っと」
はて、俺は今、何か問題でもある事をしているのだろうか・・・
「じゃあ・・・何で、歩きながら妖怪を退治してるのかしら?」
ああ、そんなこと。
「止まるだけ、時間の無駄じゃん」
「いや、時間の無駄って・・・」
「この程度相手にわざわざ止まってもなぁ・・・」
そう言いながら、棍棒を振り上げてきた鬼に向けてお札を投げ、消滅させる。
ん、これで全部だな。魂も俺の体に封印されたし、全部解決。
「はぁ・・・いっそ、鬼たちがかわいそうになってくるわ」
「まあまあ、こんなところに来たのが悪いんだから。住民登録はなかったし、問題ないだろ」
特に後処理が必要な問題もないし、突発的に顕現しただけだろうな。
昔、ここで鬼を大量に退治したりしたんだろう。
「さて、と。話を再開すると、そろそろ帰るわけだけど・・・ラッちゃんの家ってどのへん?」
「どうして?」
「いや、さすがに送るくらいはするって」
「ああ、そういう・・・」
納得した様子のラッちゃんが口にしたのは、俺がついこの間まで住んでいた・・・現俺の家のすぐ隣の、ものすっごくお世話になっている大家さんのところだった。
「・・・何号室?」
続いて言われた部屋番号は、ついこの間まで俺が暮らしていた部屋だった。
「・・・・・・」
「どうしたのよ、黙っちゃって」
「・・・いや、面白い偶然もあるもんだなぁ、って・・・俺が今住んでるとこ、そのすぐ隣」
「・・・あの、なんだかよく分からない土地の?外からいっくら見ても家が視えない?」
「そう、それ」
あの土地は元が呪われた土地なだけあって、中々に面白い。
一つ目に、空間がゆがんでいるせいで外から見ても中が見えないのだ。まあ、色々と隠さないといけない立場としては助かるものだ。
二つ目に、空間がゆがんでいるせいでかなり広い。光也に頼んで家を建てさせたら悪ふざけをして豪邸が建ってしまい、それでも土地が有り余っているくらいには。
で、最後の三つ目に・・・この中にある物は、全て穂積のコントロール下にある。
格上にあたる俺や殺女には何もできないようだが、それ以外のもの・・・家具だろうが鳥だろうが虫だろうが、何でも自由にできるんだそうだ。
だからまあ、侵入者の呼吸を封じて殺すことも出来るそうで、色々と助かるんだけど・・・なんだか、色々と物騒な家になったなぁ・・・
「・・・また変な家に住んでるわね」
「自覚はある。けど、結構住み心地はいいぞ」
「ゴメン、信憑性が欠片もない。霊とかでそう」
「だろうなぁ。ってか、普通に出るんだけど・・・なら、ちょっと寄ってくか?」
「・・・そうするわ」
よし、家もすぐ隣だし問題ないだろ。
========
「中に入ると、これは予想以上ね・・・」
「だろ?なかなか楽しい家だ」
そう言いながら、カズは扉を開く。すると・・・
「あ、カズ君おかえりー!」
そこには、席組み第九席の土御門さんがいた。
目をこすって再び見ると、そこにはやっぱり土御門さんがいた。
「ああ、ただいま。帰ってくるのを禁止されてたせいでこんな時間になった。そろそろ理由を話してもらっても?」
「まあまあ、それはパーティールームに入ってから・・・」
「待て、なんだその部屋は」
「コウコウに聞いたらあるって・・・って、そちらの方は?」
と、そこでようやくあたしのことを認識されたみたいだけど・・・ダメだ、何もしゃべれない。
と、それを知ってか知らずか、カズが言ってくれた。
「ああ、こちら同じクラスで、俺の幼馴染の伊達凉嵐」
「へえ・・・あ、確かカズ君の自己紹介の時の」
「そうそう」
あたしの知らないところで、あたしのことを紹介された。
それも、席組み第九席に・・・これ、どういう状況?
「ふ~ん・・・凉嵐、か・・・なんて呼ぼう?ねえ、何て呼んでほしい?」
「え、えっと・・・」
「あ、俺はラッちゃんって呼んでるぞ?」
「そっか。じゃあラッちゃん!私は土御門殺女!気軽に殺女かあだ名で呼んでね!」
「えっと、その・・・」
と、そう口ごもっていたら腕を引かれ、家の中に入るよう促される。
で、何も言えずに引っ張られていくあたしを見て、カズは何も言わずについてくる。
むしろ、軽く笑ってる感じで・・・こっちの気持ちも考えろ・・・
そして、そのまま階段で地下に降りて行き、土御門さんが広い部屋にカズを押しこむと、
『お誕生日おめでとう!』
という声とともに、クラッカーが大量に鳴らされ・・・カズがクラッカーの中身で埋められた。
・・・まず間違いなく。やり過ぎなんだろうけど・・・
「・・・なあ、色々と言いたいことはあるんだけど、まずいいか?」
「どうした、一輝?」
と、カズの質問に真っ先に反応した雪姫さん・・・何でここにいるのか、かなり気になるけど、今のあたしはそれ以上に気になる事があって、声が出せずにいる。
「じゃあ・・・これは悪ふざけか!?クラッカーの中身で埋まるとか、あり得ないだろ!?」
「まあ、正論だが・・・殺女がならせるだけならそう、と言い始めてな」
「ならせるだけにしても、この九人でどうやって・・・ああ、美羽か」
「はい。その・・・ごめんな、さい」
「いいよ、もう・・・全部殺女が悪いんだから」
「ちょっと!私が悪いの!?」
うん、あたしも話を聞いた限りだと土御門さんが悪いと思う。
でも、何でカズはこの状況でそっちが気になるのか・・・ってか、何でカズは匂宮さんと当然のように話して・・・
うん・・・そろそろ限界。
「ねえ、カズ。ちょっと聞いてもいい?」
「ああ、別にいいが・・・どうしたんだ?そんな態度なんて珍しい」
「どういう意味よ。・・・って、そうじゃなくて・・・これ、アンタの誕生パーティーなのよね?」
「みたいだな、この感じだと」
カズはそう言いながら、部屋を見る。
ケーキや『寺西一輝、誕生日おめでとう!』と書かれた横断幕。疑いようもなくカズの誕生日パーティーだ。
「つまり、ここにいる人はそれに呼ばれて?」
「なんだろうな。全く・・・どんだけ暇なんだか」
「だったら・・・何でこんなに、席組みの人がいるのよ!?」
失礼だとは分かっているけど、それでも中にいる、さっきクラッカーを鳴らしていた人たちを順番に指差していく。
「全く、何で俺がこんなところに・・・」
「全く、お兄ちゃんはもう少し人とのつながりを大切にしないと」
「そうは言うがな、夜露・・・席組みが九人も一つの場所にいるのは」
まず、妹と思われる人に振りまわされている席組み第一席、『降神師』の夜刀神白夜さん。
「ワシみたいな老いぼれまで誘ってもらってよかったのか?」
「いやいや、ジージーはまだまだ元気じゃん!十分現役でしょ?」
「老いぼれは、さっさと若いもんに場所を明け渡すもんじゃよ香呂がそうであったようにな」
「いやいや、あの人はジージー以上に現役でやれるはずなんだけど・・・」
と、土御門さんにジージーと呼ばれているのは、席組み第二席、『犬神使い』の犬神慈吾朗さん。
片手にお猪口を持って日本酒を飲んでいる姿が、やけに様になっている。
で、朗らかに話しているのも席組み第九席、『金剛力』の土御門殺女さん。
で、何にも話していないけどさっきクラッカーを鳴らしてからずっとビールをジョッキで飲んでいるのは席組み第四席、『化け狐』の稲葉前さん。
カズの前で少しおろおろとした感じでこっちを見ているのが、席組み第六席、『化け猫交じり』の匂宮美羽さん。
視線を動かせば、キッチンで調理をしている女性を手伝っているのは、席組み第七席、『刀使い』の九頭原匁さんに、席組み第八席、『式神使い』の星御門鈴女さん。
とても太い手で、しかし丁寧に料理を運んでいるのは席組み第十席、『雷撃』の雷剛拳さん。
「何なの、この豪華なメンバーは!?これがあんたの誕生日を祝うために集まったって!?あと一人いれば一般的に知られてる席組み全員集合するじゃない!」
「ああ、もっともだ。すっごい最もな意見なんだけど・・・現に集まっちゃってるしなぁ・・・」
「集まっちゃってるしなぁ、じゃないわよ!あんたどんな立場なの!?」
「立場、か・・・どんな立場なんだろうな・・・」
と、そこで一つ、気になる発言があったことを思い出した。
「そういえば・・・さっき、夜刀神さん『席組みが九人も』って言ってなかった?」
その瞬間、カズの表情がひきつった・・・ように見えた。
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