戦国異伝
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第百六十九話 三方ヶ原の戦いその十三
「徳川の死んだ者はどの者もこちらを向いていました」
「背を向けていた者はおりませんでした」
小山田も信玄に言う。
「誰一人として」
「三河武士、流石じゃな」
信玄は彼等を認めて言った。
「見事な戦ぶりじゃった」
「我等は勝ちましたが」
「強うございましたな」
「見事な戦ぶりでした」
「相手に不足はありませぬでした」
武田にとって圧倒的な数ととうにもならないまでに有利な状況で戦った、だがそれでもだというのである。
だからだ、この二人も言うのだ。
「徳川家康も軍勢も見事ですな」
「御館様の仰る通りに」
「あの者はわしの左足か」
信玄は笑って言った。
「それになろうか」
「あの者は左足ですか」
「御館様の」
「うむ、右足は北条でな」
北条氏康も忘れていなかった、今は手を結んでいるが彼と信玄も何度も剣を交えているのだ。その彼についても言うのだった。
「そしてあの者は左足じゃ」
「上杉、織田を両手とし」
「そのうえで」
「ははは、天下を治めるには敵が必要じゃ」
笑っての言葉だ。
「だからな」
「徳川家康もまた」
「使いますか」
「そうするとしようぞ、では翌朝な」
「はい、ここを発ち」
「三河に向かいましょうぞ」
「織田の動きはどうか」
信玄は穴山にこのことを問うた。
「どうしておる」
「動きは速く我等が織田と会うのは尾張ではないかと」
「三河じゃな」
「はい、あの国での戦になるかと」
「数は幾らじゃ」
「十五万です」
穴山は信玄に確かな顔で答えた。
「それだけです」
「そうか、十五万か」
「はい」
「我等の三倍以上じゃな」
すぐにこう言った信玄だった。
「それだけじゃな」
「そうなります」
「ふむ、三倍以上の相手か」
今度は相手の方が多い、だがだった。
信玄は笑みを浮かべてだ、こう言うのだった。
「織田信長とな」
「その織田とですな」
「数の多い」
「戦うのが楽しみじゃ」
「では」
家臣達も応えそのうえでだった。武田軍は徳川軍を破った後で意気揚々と三河に入るのだった。織田信長と武田信玄の激突は避けられなくなっていた。
第百六十九話 完
2014・1・28
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