Transmigration Yuto
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旧校舎のディアボロス
オカルト研究部
「粗茶です」
「あっどうも」
ソファーに座る兵藤一誠に朱乃がお茶を淹れている。
「美味いです」
「あらあら。ありがとうございます」
うふふ、と嬉しそうに笑う朱乃。
テーブルを囲んでソファーに座る兵藤一誠、僕、小猫、リアス。
「朱乃、あなたもこちらに座ってちょうだい」
「はい、部長」
朱乃もリアスの隣に腰を下ろした。
僕達全員の視線が兵藤一誠に集まる。
「単刀直入に言うわ。私達は悪魔なの」
口を開くリアス。
「信じられないって顔ね。まあ、仕方ないわ。でも、あなたも昨夜、黒い翼の男を見たでしょう?あれは堕天使。元々は神に仕えていた天使だったんだけれど、邪な感情を持っていたため、地獄に堕ちてしまった存在。私たち悪魔の敵でもあるわ」
黙ったままの兵藤一誠に説明を始めるリアス。
「私たち悪魔は堕天使と太古の昔から争っているわ。冥界―――人間界で言うところの『地獄』の覇権を巡ってね。地獄は悪魔と堕天使の領土で二分化しているの。悪魔は人間と契約して代価をもらい、力を蓄える。堕天使は人間を操りながら悪魔を滅ぼそうとする。ここに神の命を受けて悪魔と堕天使を問答無用で倒しに来る天使も含めると三竦み。それを大昔から繰り広げているのよ」
「いやいや、先輩。いくらなんでもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には難易度の高いお話ですよ。え?オカルト研究部ってこう言うこと?」
すでに本物をその眼ではっきりと確認しているはずの兵藤一誠がわけがわからないとばかりに喚きたてる。
これだから、何も知らない一般人の偏見である常識に凝り固まった人間は嫌なんだ。未知の領域に足を踏み入れて混乱しているのはわかるが、その目で見たことを信じないのはいただけない。
何故なら、何度も同じ説明を強要させられるからだ。
「オカルト研究部は仮の姿、私の趣味。本当は私たち悪魔の集まりなの」
それは正確ではないと思う。朱乃から聞いた話から考えれば、オカルト研究部を復活させた結果リアスは自分の眷属でオカルト研究部を固めたのだから。
仮の姿ではないだろう。
「―――天野夕麻」
その一言で兵藤一誠は目を見開いた。
「あの日、あなたは天野夕麻ちゃんとデートをしていたわね」
「………冗談なら、ここで終えてください。正直、その話をこう言う雰囲気で話したくない」
怒気の含まれた声で兵藤一誠は答えた。
「彼女は存在していたわ。確かにね」
はっきりとリアスは言った。
「まあ、念入りに自分であなたの周囲にいた証拠を消したようだけれど」
リアスが指を鳴らすと、朱乃が懐から一枚の写真を取り出し、兵藤一誠に見せた。
「この子よね?天野夕麻ちゃんって」
写真に写っていたのは黒髪の女堕天使だった。その写真に、兵藤一誠は言葉を失っている。
「この子は、いえ、これは堕天使。昨夜、あなたを襲った存在と同質の者よ」
言葉を失ったままの兵藤一誠に対し、リアスは説明を続ける。
「このだ天使はとある目的があってあなたと接触した。そして、その目的を果たしたから、あなたの周囲から自分の記憶と記録を消させたの」
「目的?」
「そう、あなたを殺すため」
「―――ッ!な、何で俺がそんな!」
「落ち着いてイッセー。仕方なかった………いいえ、運がなかったのでしょうね。殺されない所持者もいるわけだし………」
「運がなかったって!」
「あの日、あなたは彼女とデートして、最後にあの公園で殺されたのよ」
「でも、俺生きてるッスよ!大体、何で俺が狙われるんだよ!」
自分が狙われる理由なんてない、とでも思っているんだろう。
「彼女があなたに近付いた理由はあなたの身にとある物騒なものが付いているかいないか調査するためだったの。きっと反応が曖昧だったんでしょうね。だから、時間を掛けてゆっくりと調べた、そして、確定した。あなたが神器を身に宿す存在だと―――」
―――神器。それは僕も宿しているものだ。
ここは、現在動ける眷属の中で唯一の神器所有者である僕が説明を引き継ぐべきだろう。
「神器とは、特定の人間に宿る規格外の力を持ったアイテムみたいなものだ。歴史上に残る人物の多くが神器所有者だと言われている。神器の力で歴史に名を残したんだよ。当然、現代でも神器を宿す人間は多くいる。世界的に活躍する方々の多くにも、神器所有者は多いんだ」
「大半は人間社会規模でしか機能しないものばかりなのだけれど、私たち悪魔や堕天使の存在を脅かすほどの力を持った神器も多いわ。イッセー、手を上に翳してちょうだい」
説明を引き継いだり明日が兵藤一誠を促す。
「いいから、早く」
困惑する兵藤一誠をリアスは急かした。
急かされた兵藤一誠は左腕を上げる。
「目を閉じて、あなたの中で一番強いと感じる何かを心の中で想像してみてちょうだい」
「い、一番強い存在………。ド、ドラグ・ソボールの空孫悟かな………」
「では、それを想像して、その人物が一番強く見える姿を思い浮かべるのよ」
「………………」
「ゆっくりと腕を下げて、その場で立ち上がって」
言われた通りにする兵藤一誠。
この工程は、神器の発現を促す方法の一つだ。
この方法は力をすぐに使いこなせないが大抵は成功するので急ぎでない限り、すぐに神器を自覚させることができるのでよく用いられている。
一番効率的で、すぐに力を扱えるようにするには戦闘で死の危険を感じさせることなのだが、今はこれでいいだろう。
「その人物の一番強く言える姿を真似るの。強くよ?軽くじゃダメ」
絶句する兵藤一誠。
ドラグ・ソボールと言えば、昔流行ったアニメらしいが、どんなものかは知らない。
「ほら、早くなさい」
多分だが、空孫悟なるキャラクターを知らないリアスは当然兵藤一誠を急かす。
「ドラゴン波!」
兵藤一誠は開いた両掌を上下に合わせて前へ突き出す格好のまま、声を張り上げた。今のがドラゴン波と言うものの真似なのだろう。
「さあ、目を開けて。この魔力漂う空間でなら、神器もこれで容易に発現するはず」
普通の所有者ならこの場所でなくとも発現するが、兵藤一誠は死を身近に感じても発現しなかったようだからこの場所でもないと発現しないだろう。
兵藤一誠が目を開いた瞬間、カッと兵藤一誠の左腕が光り出した。
光は次第に形を成し、左腕を覆っていく。
光が止んだ時、兵藤一誠の左腕には赤い篭手の姿をした神器が装着されていた。
「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!」
叫ぶ兵藤一誠。
「それが神器。あなたのものよ。一度ちゃんと発現ができれば、後はあなたの意思でどこにいても発動可能になるわ」
一見龍の手に見えるが、それにしては赤過ぎる。
通常の、一般的に有り触れているとされている戦闘用の封印系神器である龍の手は、過去に天使たちに狩られたドラゴンたちの魂の一つを宿し、その力を聖書の神によって調整されたものだ。
能力は所有者の力を倍加すると言う、あまりドラゴンらしくない効果だが、封印によってその力の大半を押さえ込まれているのだからある意味当然だ。
中身はそこそこ凄いのに、封印と多数存在すると言う理由のせいで不遇な扱いを受けている神器である。
龍の手の色は、封印されているドラゴンの司っている色が反映される。
赤となると、炎関係のドラゴンになるのだが、それだと赤黒い色になるはずだ。兵藤一誠の篭手は、血のような美しい赤だ。
その上兵士の駒八つ消費と言うのは、例え兵藤一誠の才能が歴史上に存在するあらゆる偉人よりも優れていたとしても一般人だと考えれば規格外過ぎる。
となると、答えは一つしかない。
封印系にして、ドラゴン系神器の中でもトップクラスの力を持つ神滅具の一つ、赤龍帝の篭手。これなら説明が付く。
もしかすると、リアスは凄い拾い物をしたのかもしれない。
「あなたはその神器を危険視されて、堕天使―――天野夕麻に殺されたの」
神滅具の一つならば堕天使が危険視するのも当然だ。普通の戦闘用の神器でも危険視されるのに、神をも殺せるとされる神滅具が危険視されないはずがない。
「瀕死の中、あなたは私を呼んだのよ。この紙から私を召喚してね」
リアスが取り出したのは簡易召喚魔方陣のチラシだ。
「これ、私達が配っているチラシなのよ。魔方陣は、私たち悪魔を召喚するためのもの。最近は魔方陣を書くまでして悪魔を呼び寄せる人はいないから、こうしてチラシとして、悪魔を召喚しそうな人間に配っているのよ。お得な簡易魔方陣。あの日、たまたま私達が使役している使い魔が人間に化けて繁華街でチラシを配っていたの。それをイッセーが手にした。そして堕天使に攻撃されたイッセーは死の間際に私を呼んだの。私を呼ぶほど願いが強かったんでしょうね。普段なら眷属の朱乃たちが呼ばれているはずなんだけれど」
普通に考えるのなら死にたくない、と言う思いが強かったと思うところなんだが、何故か彼は性欲関係の願いでリアスを召喚したとしか思えない。
「召喚された私はあなたを見て、すぐに神器所有者で堕天使に害されたのだと察したわ。問題はここから。イッセーは死ぬ寸前だった。堕天使の光の槍に身を貫かれれば、悪魔じゃなくても人間なら即死。イッセーもそんな感じだったの。そこで私はあなたの命を救うことを選んだ」
神器を抜き出すと言う手もあったと言うのに、僕らの主はお人好しだ。僕なら神器を抜き出して自分で使うか眷属の誰かに渡していただろう。
「―――悪魔としてね。イッセー、あなたは私、リアス・グレモリーの眷属として生まれ変わったわ。私の下僕の悪魔として」
次の瞬間、僕はリアスたちと合わせて悪魔の翼を出した。
それに誘発されて兵藤一誠の背中からも悪魔の翼が生える。
「改めて紹介するわね。祐斗」
リアスに名を呼ばれ、僕は兵藤一誠に向かって自己紹介する。
「僕は木場祐斗。兵藤くんと同じ二年生だ。君と同じ人間からの転生悪魔で、神器所有者でもある。よろしく」
「………一年生。………塔城小猫です。よろしくお願いします。………悪魔です」
「三年生、姫島朱乃ですわ。一応、研究部の副部長も兼任しております。今後もよろしくお願いします。これでも悪魔ですわ。うふふ」
僕に続いて小猫と朱乃が自己紹介する。
「そして、私が彼らの主であり、悪魔でもあるグレモリー家のリアス・グレモリーよ。家の爵位は公爵。よろしくね、イッセー」
こうして、僕らは新しい仲間を迎えた。
赤龍帝の篭手が眷属に入るとなれば心強いが、助平心を全開にすることだけは止めてもらいたい。
普段からおっぱいおっぱい叫ぶ姿を思い出し、何故か乳龍帝おっぱいドラゴンと言う言葉が思い浮かんだ。
願わくば、将来兵藤くんがこう呼ばれないように。
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