徒然なるバカに
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名探偵コ○ンって、まじでバケモンだよね
1時間後。
正確に言うと、56分後。
おれは、桂に呼び出されるがまま、時計塔に来ていた。
「7時っていったはずだけど?」
と、彼女は手にしている腕時計をこれでもかと見せびらかし、言う。
「10分ちょっとしか変わらねえだろ」
「あら?それでも女性を待たせていた、ということに罪悪感を感じないのかしら、あなたは」
「欠片も感じねえよ」
むっ、と彼女は表情をしかめ、こう続ける。
「本当、デリカシーのない人ね。もう少し乙女心っていうのを学んだらどう?」
「おまえの口から乙女心なんて単語が出て来る日があろうとはな。びっくりし過ぎて眠気がぶっ飛んだよ」
「あら?これでもあなたよりは一般教養について多く携えているつもりよ?」
「一般教養について多く携えている猿人類を乙女とは言わねえよ」
朝っぱらからこの様な言い合いが繰り出され、繰り返される。出すほうも、返すほうも悪気以外のなんでもない会話。
「でだ、電話でも言ったけどよ。要件はなんだよ、こんな朝っぱらから人のこと呼び出しといてこんなくだらない言い合いが目的じゃねーだろ?あれか?先日の盗人のことについてか?」
これ以上争っていてもなにひとつと言って、利のないことであるのは明白だ。朝早くからこんなくだらないことに付き合わされたくない。
「あら?皆目見当がつかない、ってわけじゃないのね。話が早くて助かるわ」
今の彼女の返答で、事の要件、つまりは今回ここに呼び出されたであろう原因は、例の盗人の話であることになる。
「おれだってそこまでバカじゃねえよ。誰の仕業か知らんが、おれはそのせいで泥棒扱いを受けたんだ。気になるならまだしも、気にならないなんて嘘になるだろ」
「あら、いまさら被害者面?それに面倒ごとには巻き込まれたくないんじゃなかったかしら?」
「被害者面、じゃなくて被害者。それに面倒ごとにはもう巻き込まれてるよ」
「ふふっ、まあそうね。今回の件、あなたはそれほど事の元凶ではなさそうだし」
完璧なる被害者だっての。
だが、そのようなことを言ってしまうと、彼女は普段からの行いがどうたらこうたらと言うに決まっている。朝っぱらからそのような小言に付き合うほどの余裕はない。
「わざわざこんな朝早くに呼び出すってことは、なんか進展でもあったか?」
「いいえ、逆になにも進展がないから困っているのよ」
両手を上げ、お手上げのポーズをする彼女。
「しかもあれから同じようなことが2、3回も起こっているのよ。たまったものじゃないわ」
ため息まで漏らす有様。
「それを進展って言うんじゃねえのか?」
「犯人の確定になにかしら繋がるのならね」
「いや、だっておまえ。2、3回も同じようなことが起こってて、確定特定はまだしも、めぼしいものすらねえのかよ?」
「ついてたらあなたなんかに頼らないわよ」
「朝っぱらから呼び出しておいてよく言うよ」
まったくもって不愉快だ。感謝されるならまだしも、そのようなことを言われる筋合いは微塵もない。
それにしても不可思議だ。白皇学院、もとい今現在の学校にはそれなりにセキュリティーなるものが施されているはず。それに基づき警備員も徘徊しているというのに。それにここ白皇学院は、通っている生徒の八割が裕福な家の出だ、かなりの防犯施設が施されている。そのような施設への侵入を難なく成功させ、挙句の果て、防犯カメラにすら痕跡を残さずことをこなす。まるで平成の怪盗、とでも言っておこうか。
「ここまで手がかりもなにもないんじゃどうしようもないわね。この盗人さんは平成の怪盗かしら」
と、頬杖を尽きながら冗談交じりに言う。
おいおい……おれの思考回路はこいつと同じようなものだってことか?なんとも間抜けな話だな、おい。
「足掛かりすら掴めないようじゃ捜査も調査も無理な話だぞ。しかも他の生徒には他言無用、なんだろ?行き詰まりにも程が有るだろ」
「そうよね」
はぁ……、と大きなため息も隠さず、机に突っ伏す。
「あぁッ!なんでこう面倒ごとばかり押し付けてくるのよ!」
もうわけわかんないッ!と、続ける。
「私だって普通の一般生徒なのよぉ……。わからないものはわからないし、できないことはできないわよ……」
「まぁ、否定はしないね。でも生徒会長でここの教師より役に立つ、って時点で普通の一般生徒、って捉え方はされてねえんじゃねえの?」
「だからって、そんな問題文もヒントもないような問いに応えられるほど私は天才じゃないわよ……」
「あん?らしくねえな、なんか変なもんでも食ったか?」
「あのねぇ……、らしくないって言ったって今回は別ものよ?変なものも食べていないし、別にいつもとなんら変わりはしないわよ」
と、頬杖をつき直す。
そういうもんかね。しかし、桂の言っていることもわからんではない。問題文もヒントもない、ましてや答えすらないのではないかと思ってしまうほどの問題が目の前にあるのだから。
「ところで、優人くん」
「あん?」
先ほどまでやる気の欠片もなかった、生徒会長こと桂は頬杖をついたまま言葉を発する。
「あなたもあの日、ここに侵入したわよね?」
「侵入とは随分と大袈裟な物言いだなだな」
「登校期間でもない学校に無断で登校することが侵入以外のなにもでもないわ」
ん、一理ある。
「で、なぜ侵入してしまっているのに防犯カメラに写っていないの?偶然?必然?」
「必然って……。まあ、そのことに関しては必然って言い回しより、故意のほうがしっくりくるんじゃないか?」
「似たようなものでしょう?それに故意に防犯カメラに写っているわけじゃないのなら、故意の対義語の過失を使わないとしっくりこないじゃない。聞いたことある?過失不注意で防犯カメラに写ってしまった、なんて」
そう言われるとなにも言い返せない。よく考えて見ればわかることだ、故意に防犯カメラに映る、というのもおかしな物言いだな。
「で、どうなの?」
「そんなの必然以外のなにものでもないだろ?まあ、カメラに映らないように行動するのは何度やっても骨が折れるけどな」
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