少年は魔人になるようです
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第90話 少年は力《闇》を手に入れるようです
Side ラカン
「あー……っと?今なんて言った?千雨嬢ちゃん。」
「私にも『闇の魔法』を使える様にさせろ―――そう言ったんだけど?」
ボウズ達が危険になった仲間を助けに行った僅か10秒。今度は俺が大ピンチになっちまった。
この嬢ちゃんは一等頭の良い、俺らの世界にゃ一番遠い・・・いや、一番遠くに居たいと思ってる子だと
思ってたんだがな?
「分かってるとは思うが、大抵の人間は適性が合わず死ぬんだぞ?
そもそも闇属性の魔法も使えねぇ嬢ちゃんじゃぁ(バシュバシュッ!)……使えるのかい。」
「誰にも言ってなかったけどな。この際だからバラしとくが私は全属性使えるぞ?」
「なん・・・だとぉ!?」
『闇の魔法』を習得してぇつったのもそうだが、更に驚く羽目になるとは。
全属性使えるだと?ンなデタラメな事出来んのは愁磨くらいなもんだと思ってたが・・・有りえねぇ。
魔法にゃ相性が合って、火を一属性として砂を八属性とした円の関係だ。
火は水に弱いし風は雷に弱ぇ。適正の関係はちょい面倒で奇数が右回り、偶数が左回りの順番の円で、
重なった属性同士を併用しては使えねぇ。
「……幼等部で習う事だぜ?」
「それで闇と光は相殺しあう、んな事は知ってるんだよ、ゲームだって当たり前にある事だ。
使えるっつっても『魔法の射手』五本くらいだけどな。」
そう言いながら無詠唱で魔法の矢を追加で9本撃つ事で、自分の言う事を証明する嬢ちゃん。
あいつらも大概だがここにも魔法理論の根本を無視する奴が居るとはな・・・。
そうなりゃ適正はあるんだろうが、習得したところでボウズ程の出力は出せねぇ。
何故なら、『|闇の魔法』の本質は―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide ―――
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
「きゃぁああああああ!」
「っちゃぁーこりゃマズいねぇ!まき絵、敵は見える!?」
「全っ然!霧が濃いしもう勘弁してよぉー!」
時はネギが飛び出した少々前。岩石地帯で賞金稼ぎに襲われたまき絵と和美だったが、
姿の見えない遠距離の敵からの魔法の矢を雨の様に受け、逃げる事すら敵わない。
ネギに渡鴉の人見"のゴーレムを飛ばしたが、早くても到着は10分後。
救助が来るのは更に後・・・。マジで年貢の納め時かなー、と和美が諦めかけたその時。
ザッ
「大会に合わせて来てみれば……随分なお出迎えをされているようですね。」
「さ、桜咲さん!とまっつん!助かったよぉ!」
「おやおや、若いお嬢さんに愛称をつけられてしまったよ刹那君。私もまだまだ捨てたモノでは
ないようだね?はっはっはっは!」
背後に着地音一つ、しかし影は二つ。刹那と松永もまた、導かれるようにオスティアへ到着した。
それを何を思ったのか"まっつん"呼ばわりした和美だったが、呼ばれた松永は非常に上機嫌だ。
・・・無論、それを見る刹那の周囲は氷河期もかくやと言う凍霞が吹き荒び、目は虚ろだが。
「さて、それでは終わらせて来ようかね。申し訳ないが刹那君は自分で身を護って頂けるかな?
大変遺憾ではあるが、風魔の恵風は二人までしか張れないのでね。」
「そんな事は百も承知です。と言うか、私が行くので貴方はここで二人を護っていてください。
高名な賞金稼ぎでしたら陽動くらいするでしょう。」
「ふぅむ、そうなったらこちらに強い者が来る可能性が高い。宜しい、任せよう。」
『戦闘狂め・・・』と呟き、"閃の眼"で霧を見通して敵の人数を把握し、縮地で距離を詰める。
500mまで近づくと相手も気付き、散開しつつ広範囲に降らせていた魔法の矢を刹那の周囲に降らせる。
ギュゥン ギュゥン ギュゥン
「やれやれ………五月蠅いのは苦手なのですが。」
「待て、一発も当たっていない!魔法障壁だ!」
「あの量の魔法の矢を防ぎ切るだと……!?まさかBクラス以上か!」
総数二千を超える『魔法の射手』を黄金と漆黒に輝く障壁で防ぎ、平然と荒野を歩く。
勿論魔法が不得意な刹那が張った障壁ではなく、"十束"と"不動行光"に宿った怨念による障壁だ。
この世のあらゆるモノに呪詛をかけ殺す、陰陽と仏法と地獄の呪法の融合術式。
攻撃を通せるのは"神"レベルの天使か信長・松永以上に殺した人間か、あるいは―――
「その黒衣……以前見た事があります。『黒い猟犬』とか言いましたか。
名を売ろうとするのは勝手ですが、か弱い女の子二人を大人数で追うのは如何なものかと。」
「抜かせ!!丁度良い、貴様も餌の一人だ!」
ボボボッ!!
溜息をつき構えも無くトコトコと歩いて来る刹那に、筋骨隆々な四人が一斉に襲い掛かる。
しかし、その拳は当たる事無く地を割るだけに留まった。
「はぁ………あなた方は一度も女性の扱いと言うものを教えられなかったのですか?
私が相手で良かったですね。」
「い、いつの間に後ろ、に………?」
「相手を見た目で判断しない。覚えておくと良いです。」
―――ガガガガンッ
刹那が立ち去った後に、打撃音4つ。速度強化の『虚神』と『光皇』による神速の刀背打ちで呆気無く
賞金稼ぎは全滅し、後ろに控えていた数匹の砂蟲もいつの間にか細切れになっていた。
"剣の塔"と各地での戦闘、松永との手合せで、刹那の強さは既に大戦期の詠春に迫っている。
殊勝な刹那にはその自負があり、油断も無かった。―――以前までは。
ドジャァッ!!
「くぅっ…!?」
「ほぉぉウ、脆弱な護法を使ってイると思ったが鋭い。朕の奇襲ニ反応出来るとは。」
「こ、子供の魔族……!?」
数キロ先から突撃を仕掛けて来た魔族に容易く魔刀二本の障壁を切り裂かれ、その爪撃を寸手で受ける。
速度も気配の消し方も松永と同等だったが、それに反応するだけに留まったのは、各地での戦闘のせいだ。
手合せ以外で刹那が生命の危機を感じる事が無かった為、平時の戦いは自分の脅威足り得ないと精神に
刻まれてしまった。・・・それ故、強者との戦闘では真価を発揮する。
「魔族ぅ?いや、真気に食わぬ事ダが朕はクォーターぞ。影族と竜人と悪魔の、な。
地獄では貴族であったが、落ちぶレてのう!今は傭兵なぞに身を窶しているのだ。」
「成程……通りでいつも一緒にいるアレと同じ気配がすると思いました……。」
「その"アレ"のう。今頃どうなっている事やら。」
「なに……!?」
………
……
…
「これは"憤怒"の所の魔軍師団長。最近見ぬと思うたが人間界におったとは。」
「おやおや、そういう貴殿はムルムル公。大公爵が人間界にどのような用件であるかな?」
今か今かと敵を待っていた松永の所に現れたのは、松永よりも遥かに上位の悪魔。
鷲に乗った騎士甲冑だけを見入れば中世の騎士と見紛う姿だが、その実は地獄の伯爵、ソロモン72柱。
序列54位の"ささやき"ムルムル。その後ろには、率いている30の軍団の一部が控えている。
それを見て松永は嗤っているが、後ろのまき絵と和美は既に気絶済みだ。
「用件、ふぅむ……強いて言うならば儂の眷属に席をそろそろ与えてやろうかと思うての。
どうせならば成り上がりの一番気に食わぬ小僧めが一泡吹けば良いと考えた訳じゃ。」
「はっはっは、手厳しいですなぁ。どうせならば信長公を倒して頂ければ我輩が成り上がれたのだがね。
全く、地獄の者はどうして。全員が全員"強欲"足り得る―――浅慮な輩よ!!」
ドォン! ボォン! ドガンドガァァン!!
瞬間、地殻を底まで破壊出来よう爆撃が連続してムルムルと軍団を襲った。
"天我爆散"の名を受けた松永の固有技能は『天地灰燼』。任意の場所を、自分を殺せるだけの威力で
爆破する能力だが―――
「いきなり酷いではないか、儂の全軍の20%が吹き飛んだわ。困った童じゃ。」
「………やはりと言う他ない。我輩の能力を使っても効果は無い様であるな。
では、我輩らしく行かせて貰おう!!」
松永が踏み込むと同時、その陰から風が吹き荒れ、ムルムルを一緒に切り裂く。
契約でしかない主従であるにも関わらず、地獄までついて来た"風魔"の小太郎。
しかし、地獄の伯爵はその二重の剣舞と爆撃を涼しい顔で受け切る。
「所詮元は人間じゃのう。どれだけ種族を変え、存在を変え、地位を与えられようとも……
"神"に創られた儂らとは、その限界に超えられん壁がある!!」
ガドゥン!
「ふ、ふ…!元天使風情に粋がられるとは、我ながら無様!!」
言いつつ、刹那に渡した愛刀"十束"の代わりに手に入れた魔刀"羅刹九星"を振るう。
地獄においても希少な魔"王"刀の一振りだが、今の松永ではその真価を発揮できない。
実力も、経験も、殺した数も桁違い。だと言うのに―――
「(―――何故こ奴は嗤っている?勝てるとでも思っておるのか?)」
5分と経たず500合を超えた打ち込みを悉く弾かれ、合間に反撃を貰い、既に半死同然。
幾ら狂人と言えども、死合が愉しいだけでこんなにも嗤えるものなのか・・・疑問が付き纏い、決定的な
攻撃をムルムルは出せずにいた。そしてそれこそが上位悪魔の失念をも織り込んだ松永の作戦。
「『二黒:召喚:セツナ・サクラザキ』!」
「また勝手に…!!『神鳴流退魔奥義 祓殿忌火』――」
ゴォウ!!
「人げ…!?「『朱雀丙丁』!!」
ゴァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ぐぬううううウぅう!?」
"羅刹九星"の能力の一つにより、南・・・つまりムルムルの真後ろに空間転移させられた刹那が
退魔奥義に方位の凶を乗せた浄化の炎で焼き尽くす。
大抵の悪魔・魔族ならば成仏すらし得る技であるが、そう易い相手ではない。
「バァァァァゥ!……見事!人と人より堕ちた身で儂に一矢報いた!よもや乗り物と儂も焼かれるとは。」
「あれで倒せませんか……流石に驚きです。対悪魔用に改良したのですが。」
「はっはっは、これは参った。我輩も少々本気を出さなくてはいけないようだ。」
炎を弾いたムルムルに驚いた刹那だったが、更に続けた松永に二人が眼を見開く。
遊ばれているに過ぎないと思った格上の伯爵悪魔相手に本気を出していなかった事と、それを相手に
"少々"本気を出せば十分と取れる言質を取った事も。
「ほう……?愉快な事を言うものだ。では折角だから見せて貰おうかな、元人間よ。」
「ええ、それではご覧に入れよう。刹那君、離れていてくれたまえ。
――"天我!爆さ(ズガガガガガガガァァァン!!)……何事かね。」
漸く来た見せ場だとばかりに演出を発動させた松永の周囲に影が集まろうとした時、上空から多数の雷が
降り注ぐ。明らかにムルムルと松永を狙ったその魔法の発生源は、当然。
「ね、ネギ君!と肉体労働派諸君!」
「ちょっと、助けに来たのにその言い草は何!?」
遅ればせながら登場したネギと、明日菜・古菲・楓の戦闘組だった。
Side out
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Side ネギ
「なんぞ続々集まって来よったのう。それにそこな剣士。儂の眷属が相手しとったはずじゃがのう?」
朝倉さんからの知らせを受けて飛んで来たら、既に賞金稼ぎらしい人達は倒れていて、初老の男と
桜咲さんと松永と忍者っぽい人がいた。
その後ろを見ると、まき絵さんと朝倉さんが影魔法みたいな物で包まれて気絶している。
・・・どうやら、松永と桜咲さんが守っていてくれたみたいだ。そうなると相手はあの老人だけど。
あの二人がかりで倒せない相手・・・それにこの気配、悪魔か。
「彼女なら地獄にお帰り頂きましたよ?勿論話し合いでですが。」
「やはり乗り気ではなかったか……やれやれ。人間の我が強すぎる嫌いがあるのう……!?」
ゴガァッ!
まき絵さんと朝倉さんを襲った奴等の仲間の上、悪魔ならば容赦はいらない。
『闇き夜の型』を発動させて、即座に悪魔に殴りかかる。でも、何かの羽のような物で防御されてしまう。
やっぱり、今のままでは倒せない・・・!!
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 来れ雷精 風の精 雷を纏いて 吹きすさべ南洋の嵐!
『雷の暴風』"!!」
「先程の魔法かね……?」
「いけない、ネギ先生!相手は上位の伯爵級悪魔です!」
僕の魔法を見て、悪魔がさっきの羽を集めて盾の様な物を作り出す。
今の僕が出せる中で中位の魔法だから、ただ撃ってもこいつには効かないだろう。|だから僕は撃たない
《・・・・・・・・・》。
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 影の地 統ぶる者スカサハの
我が手に授けん 三十の棘もつ 霊しき槍を
『雷の投擲』 『固定』!!"」
「魔法を固定した……!?」
『雷の暴風』を右手に、『雷の投擲』を左手に術式固定する。
ラカンさんが見せた『闇の魔法』の使い方を見て、僕が考えた術式。まさかいきなり使う事に
なるとは思わなかったけれど・・・いや、何事も同じだ。技を、魔法を合わせたれたならば―――
「『双腕―――掌握』!!」
自分の闇だって、飲み込んで見せる!!
Side out
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