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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第130話 蜂蜜姫は考える

 
前書き
連休中もう一話更新予定しています
孫堅サイドで書くつもりです
その次は正宗サイドに戻ります 

 
「この南陽郡に兄様が来られるのかや!」

 美羽の歓声が彼女の執務室に響き渡る。美羽は満面の笑みで目を輝かせ渚(魯粛)に問いかけた。美羽はお人形の様なヒラヒラした豪奢な服装でなく、元の服装と同じ生地に似た上衣の胡服を着ていた。その上衣には朱雀の刺繍が施され、腰には無骨な作りだが鞘の細部や鍔の部分に見事な飾りを誂えた片手剣を下げていた。

「はい、美羽様」

 渚も笑顔で答えた。彼女の表情はやや疲労気味に見えた。日頃の政務で気苦労が絶えないのかもしれない。かく言う美羽も少し疲れ気味の表情をしていた。しかし、正宗が来訪する知らせが余程嬉しかったのか疲れが吹っ飛んだように見えた。

「何時来るのかの?」
「二週間後とのことです。麗羽様も同行されるそうです。美羽様、正宗様の使者より文を預かっております」

 渚は恭しく手紙を美羽に差し出す。美羽は渚から文を取り目を通す。

「誠か! 麗羽姉様が来るのかえ」

 美羽は麗羽が来ると聞き嬉しそうな表情から一変して面倒臭そうな表情を渚に向けた。

「美羽様、麗羽様の前で、そのような表情をなさらぬ様に。美羽様の従姉妹にございませんか」

 渚は美羽を嗜めるように言った。

「何となく姉様は苦手なのじゃ。何と言えばいいのかの」

 美羽は自分でも理由が分からないという表情で渚に言った。

「『虫が好かない』という言葉もありますし、美羽様は麗羽様と相性が悪いのかもしれませんね。でも、それを表に出さないことも大人の態度です」
「分かっておる。麗羽姉様も悪気がないことは重々承知している。妾も兄様に余計な迷惑をかけとうないしな」

 美羽の言葉に渚は満足気に頷く。その後、美羽は手元にある手紙に視線を戻す。

「美羽様〜。大好きな蜂蜜水にございます」

 手紙に目を通す美羽にさり気なく蜂蜜水を差し出すのは七乃。侍女仕事が板についてきたようだ。彼女はバスガイドのような出で立ちでなく青と白を基調にしたメイド服を身につけていた。

「七乃。蜂蜜水は一月に一度で良いと言うておろう」

 美羽は七乃のことをジト目で見た。

「もう。そんなことおっしゃらずに! 民の生活など気にせず豪華な生活を楽しむのが悪徳官吏の姿です〜」

 七乃は指を立て決めポーズを取り美羽に言う。

「悪徳官吏ではまずいじゃろう」
「美羽様、七乃殿の肩を持つわけではありませんが、もう我慢もよろしいかと。美羽様はこの数年よく頑張られました。南陽の行財政再建の目処も立ちましたし、民も美羽様に感謝しております」

 渚は優しい笑みを浮かべ美羽に語りかけた。

「南陽郡は大陸一の人口をほこり、郡でありながら他州の規模と変わらないじゃぞ。地力が桁違いなのじゃから、余程の馬鹿でなければ立て直すことなど造作ないのじゃ」

 美羽は渚の言葉は納得できない様子だった。

「美羽様が治めるまで、その真逆が起こっていたのです。それを正されたのは他でもない。美羽様でございます」
「そうですよ! 美羽様、自信を持ってください」

 渚と七乃は声を揃え、美羽を褒めた。美羽も少し照れた表情を浮かべ表情を二人から逸らした。

「ところで劉表のやつはどうしておるのじゃ」

 美羽は照れ隠しからか話題を逸らした。

「以前までは何もありませんでしたが、最近郡境に兵を寄越しては我らを挑発しております。劉表は優秀な人物ですが優柔不断で過激な策は好まない性格です。動いているのは劉表の義理の妹・蔡瑁でしょう」
「目障りじゃな。数年に渡る減税や商業振興など諸々の政策がやっと実ったというのにの」

 美羽は面倒臭そうな表情を渚に返す。再度、七乃が美羽に蜂蜜水を差し出すと、美羽は今度は何も言わず受け取りちびちびと飲みはじめた。その様子を見て七乃は腕を組みガッツポーズをする。

「美羽様、仕方がありません。利あるところに人は集うものでございます。こちらから手を出さない限り劉表は動くことはございません」
「じゃろうな。蔡瑁が嫌がらせのように兵を引き連れ郡境を彷徨いているのもこちらに非がある状況をつくりたいのが見え見えじゃ。蔡瑁はこのまま無視で良い。渚、秋の収穫からは税率を通常通りに戻せるかの。そろそろ郡の国庫も心許ないのじゃ」

 美羽は南陽郡で悪徳官吏と不逞豪族を誅殺して以来、疲弊した南陽郡を立て直すために本来の税率の半分に引き下げていた。その穴を埋めるため美羽は自分を筆頭に官吏に質素倹約を奨励し、誅殺した悪徳官吏と不逞豪族が溜め込んでいた財貨を当てたり、私費を投じたり苦労をしてやりくりを行なっていた。

「本来の南陽郡の経済力に復活したとまでは言えませんが、本来の八割までは復活していると思います。美羽様、今年は税率を八割まで戻し、後の二割は正宗様に知恵をお借りしてはいかがでしょうか? 正宗様は奇抜な政策で冀州を豊かにしていると冥琳様より聞いております」
「兄様にかの?」

 美羽は少し悩む表情で渚を見た。

「美羽様、ご懸念でも?」
「懸念はないのじゃ。できれば南陽郡の立て直しは妾自らの手で成し遂げたいと思っただけじゃ。兄様に妾が一人前に頑張っていると見せたくてな」

 美羽は顔を俯き加減にゆっくり喋り始めた。その様子を渚は微笑ましく見つめ、七乃は美羽の様子に悶絶しかけていた。

「美羽様。正宗様を頼られたからといって、美羽様の頑張りが無に期すことなどございません。失礼ながら正宗様とて万能ではございません。その証拠に正宗様は多くの家臣を取り立てられ自らの足りないモノを補っておられるます」

 美羽は渚の一言一言を黙って聞いていた。最後には表情から悩みが消え元気に満ちた表情を渚と七乃に返していた。その表情に渚は満足げに、七乃は悦に浸っていた。

「わかった。渚、兄様に頼るのじゃ! そうときまれば兄様を歓待する仕度をしなければならぬな。何がよいかの。流石に日頃妾達が食しておる粟の粥は食べさせられぬよな?」

 美羽は渚の表情を期待に膨らむ表情で見つめる。美羽は納得して粗食に耐えていたが、彼女も育ち盛りなだけに久方ぶりに美味しい食べ物も食べたいと思ったのだろう。

「お任せください。主君に恥を欠かせるような饗応などできません」
「誠かや!? 誠なのじゃな? 誠じゃぞ?」

 美羽は渚にしつこく三度確認した。彼女は日頃どのようなモノを食べていたのだろうか。

「美羽様、二言はございません。当日は部下に命じて狩りに向わせましょう」
「やったのじゃ!」

 美羽は年相応の笑みを渚に返し、嬉しそうに蜂蜜水を少しずつ飲んでいた。その様子に陶酔する者は言わずもがな美羽専属侍女の七乃だった。



「美羽様、ご機嫌でございますね」
「本当です。いつもは元気のない表情でお腹を空かせてらっしゃいますのに」

 美羽と渚の会話が一段落ついた頃、明命(周泰)と亜莎(呂蒙)が美羽の執務室に入ってきた。二人はそれぞれ美羽の親衛隊隊長、親衛隊副隊長を任されていた。また、南陽郡の郡都「襄陽」の治安維持も彼女達の管轄であった。襄陽の治安維持に携わる人員の不足は慢性的だった。これは美羽の進める商業振興により日に日に人と物の流入が激しくなったことが大きい。人が増えればよからぬことを考える者も増える。結果、治安維持に割く人材も人口増加に比例して増やす必要に迫られた。しかし、ただ人材を増やせばいいものでなく、質と量を両立させ増やすという難題に美羽達は迫られていた。そこに天の助けの如く美羽達の前に助け舟が舞い降りた。冥琳の叔母・周欣(しゅうきん)は揚州丹陽郡大守で、彼女は冥琳の頼みで募兵した丹陽兵四千、彼女が信のおける者達の縁者から集めた二千、合わせて六千を彼女の妹・周昂に預け美羽の元に送りこんだのだった。

「明命、亜莎。よいところにきたのじゃ。実はのう。兄様がこの南陽にこられることになったのじゃ」
「正宗様がですか!?」

 明命と亜莎は二人揃えて驚いた表情で同じことを美羽に聞いた。

「そうじゃ。それに兄様が到着された日の夕餉はご馳走じゃぞ! 二人とも楽しみにしておれ」

 美羽は嬉しそうに親指を立て明命と亜莎に元気一杯に微笑む。

「ええ!」
「本当ですか!」

 明命と亜莎は驚き美羽に駆け寄ると、美羽も二人に駆け寄っていった。

「誠じゃ! 今から楽しみで堪らないのじゃ」

 三人は自分達だけの世界に入りこみ食べ物の話に盛り上がっていた。

「美羽様、しっかりしてください。二人もです。他の家臣に見られては笑われてしまいますよ」

 盛り上がる三人に困り顔の渚が注意した。

「渚、悪かったのじゃ。つい嬉しくての。のう明命と亜莎?」
「はい」

 明命と亜莎は美羽に嬉しそうに口を揃えて返事した。渚は三人の様子を優しい表情で見ていたが何かに気づいたのか明命に声をかけた。

「明命、伊奈瀬は一緒ではなかったのですか?」

 伊奈瀬は冥琳の叔母・周昂のことで、襄陽に丹陽兵六千を届けてからは暫く客将として襄陽警備に力を貸していた。その後、美羽の家臣として仕えるようになる。美羽に仕えた切欠は彼女からの申し出で美羽としては願ったり叶ったりだったことは言うまでも無い。

「伊奈瀬さんですか? 鍛錬してから寄ると言っていましたけど」
「そうですか。彼女も精が出ますね」
「伊奈瀬さんに何か急用でも」
「正宗様が襄陽に来ることは美羽から話があったと思います。正宗様の共に冥琳様も来られるそうです。彼女は冥琳様の叔母なので伝えておいて方がいいと思っただけです」
「じゃあ、私が伝えておきましょうか?」
「大丈夫です。正宗様が来られるのは二週間後。明日来るというのでないですから私から伝えておきます。ああ。朱里様も来られると言っていました。鉄心にも伝えておかないといけません。忙しくなりそうですね」

 渚は美羽に頭を下げ、忙しそうに執務室を去っていった。

「渚様は相変わらず忙しそうですね」

 亜莎が美羽に唐突に言った。

「もう一人位、渚のような人物が欲しいところじゃな。本当に渚には苦労をかけている。妾は渚に足を向けて寝れんのじゃ」

 美羽は亜莎の言葉を噛み締めるように瞑目し何度も頷く。

「美羽様、人材募集は捗っておられないのですか?」
「芳しくないのう。お眼鏡に適う人物となるとなかなか難しいのじゃ。伊奈瀬が来てくれなかったら渚が過労で死んでおったかもしれん」

 美羽は真剣な表情で明命と亜莎を見つめた。

「最近は劉表の間者だけでなく、長沙郡大守・孫堅の間者も襄陽に入ってきているようですし人材確保は危急の課題だと思います」

 明命はふと美羽に南陽郡に入り込んでいる間者の話をはじめた。

「そんなに多いのかの?」
「はい、去年まで孫堅は南陽郡に目を向けていないようでしたが、今年に入ってから徐々に増えて来ています。孫堅は無頼者上がりということもあり、彼女の放った間者は補足しやすいので今のところ問題ないですけど数が増えると大変になると思います」
「領内が安定してきたと思ったら次は外に面倒な奴等が湧いてくるとはな」

 美羽はうんざりとした表情になり考え込む。

「今からでも防諜部隊の層を厚くすべきだと思います。今後のことも考えれば南陽郡だけでなく荊州全域に諜報の網を張るべきです。そうなると少なくも連隊規模の人員は必要です。任務の性格上、人選は慎重に行なう必要があるためできるだけ早急に対処すべきです」

 明命は美羽に防諜部隊の強化を進言する。美羽は彼女の進言と頷きながら黙って聞いていた。

「明命の言う通り、こちらの手の内は漏れないようにしなければいけません。孫堅のことは詳しくは知りませんが風聞から察するに人一倍野心の強く気性の激しい人物と思います。南陽郡にとって災禍を招く人物と見て問題ないかと」

 亜莎が美羽に孫堅の危険性を訴えた。それに美羽は渋い表情を返す。

「美羽様、このまま孫堅を放置することは私達にとって危険です。孫堅は間違いなく南陽郡を狙っています。このままだと劉表と通じるとも限りません」

 明命は亜莎の言葉に続き畳み掛けるように美羽に「孫堅に対するべき準備をすべき」と言わんばかりの物言いをした。

「美羽様、そんなに難しい顔をしてなくても大丈夫です。殺しちゃえいいんです。どんなに凄い人物でも死んだら終わりです」

 美羽の側に控える七乃は美羽の顔を上から覗き込むように見た。彼女は言葉と裏腹に彼女の表情は微塵も悪心を感じさせていなかった。

「七乃。孫堅、暗殺しろというのかや?」
「いいえ。暗殺など滅相もない」

 美羽は苦い表情を七乃に向け口を開く。七乃は玩具を与えられた子供のように無邪気な表情を浮かべ、美羽の言葉を直ぐに否定した。

「七乃さん。では、どうされるのです?」

 亜莎は七乃の表情から彼女が碌でもないことを思いついたことを理解しつつも彼女の策に興味を持っているようだった。亜莎にしてみれば、いずれ美羽と孫堅が事を構えるになるなら可能な限り被害を最小限にしたいと考えいるのだろう。それが如何に卑劣な策であろうと。
 対して明命は美羽と七乃のことを何も口を挟まず真剣な表情で様子を窺っていた。孫堅を謀殺するとなれば明命が動く可能性でありいろいろと思うところがあるのだろう。

「孫堅に劉表を攻撃させればいいのですよ」

 七乃は美羽に意表をつく答えを告げた。

「孫堅が劉表を襲う理由があるまい」
「そんなことはないと思います。孫堅の治める長沙郡は異民族が多く住んでいるため、彼らの反乱は枚挙の暇がない。お陰で経済的には裕福とはとてもいえません。その上、彼女の元にいる者達の多くは武辺者ばかりで内政に優れた人物は少ない。県であれば問題ないでしょうが郡を治めるきれる程の人材の数は要していません」
「孫堅が金に困っていることと劉表を攻撃することとどう繋がるのじゃ」
「孫堅は血の気が多いんです。私怨で荊州刺史王叡、前南陽太守の張シを殺しちゃっています。全て場当たり的にです。だから切欠さえ与えれば考えなしに劉表を襲撃して潰し合ってくれると思うんですよ」
「あの。七乃さん、話の腰を折って申し訳ないのですが質問いいでしょうか?」
「何です?」

 七乃は亜莎の問いかけに質問を言うように促す。

「荊州刺史と前南陽太守を殺して孫堅の立場は凄く不味い状況じゃないですか?」
「そうですよ。中央が不安定な状況でなく、ここが辺境でなければ孫堅は逆賊として討伐されていてもおかしくないでしょうね。それを一番理解しているのは孫堅自身と思います。孫堅はつけ込み所満載なんです」
「七乃。お前が孫堅と劉表が手を組む心配はないと言いきる理由はそこにあるのか?」

 美羽が七乃にたずねると七乃は意地の悪そうな笑みを浮かべ頷いた。

「劉表の性格からして名士と言うには憚れる孫堅と共闘はありえんのじゃ」

 美羽は七乃の態度を見ると考え込みながら呟いた。

「美羽様は正宗様にお願いして、征南将軍の官職を得るべきです。そうすれば揚州、荊州で軍事行動を行なう名分を得ることができます。劉表も何もいえません。孫堅も黙って待っていれば美羽様に近寄ってくると思います。美羽様がいつ孫堅の過去の件を持ち出して賊として攻撃してこないとも限りませんから」

 七乃は話を止め、三人の様子を確認した後、話を再開した。

「孫堅には恭順の印に劉表の勢力下である江夏郡でも襲撃させればいいと思います。後は劉表と孫堅が勝手に殺し合うというわけです」

 七乃の話を聞く三人は真剣な表情になる。美羽の難敵となりえるのは劉表。これに孫堅が加わると両面作戦となり美羽陣営は戦力的にも経済的にも疲弊は避けられない。仮に勝利できても、その後の荊州を治めきる余力が残っているか疑問が残る。できることなら両者が潰し合ってくれるに越したことはないのだ。

「美羽様、七乃さんの策は実現性はあります。孫堅を亡き者にできなくても、孫堅と劉表が潰し合ってくれれば私達にとって漁夫の利を得る機会があると思います」

 亜莎は自らの両拳を握り締め七乃の提案した策を賛成した。

「亜莎の言う通りですけど、現状だと劉表と孫堅が通じる可能性が高いと思います。表向きは無理でも両者互いに示し合わせて行動することで南陽郡に侵攻する可能性があります。両者の目的は合致していますし両者が組む可能性が無いとは限らないと思います」

 明命は七乃の案に懸念を抱いている様子だった。

「明命の言うことも最もですけど、劉表は絶対に南陽郡に侵攻しないと思いますよ。用心深くて優柔不断な彼女では無理です」

 七乃は明命の考えを否定した。

「何故、そうまで言いきれるのです」

 明命は七乃の考えに納得がいかない様子だった。

「美羽様を攻撃するということは正宗様を敵に回すということです。正宗様は冀州で三十万ともいわれる大軍を保有する軍閥の頭目。そして、黄巾の乱では華北で武名を轟かせた人物でもある。そんな人物を真正面から敵に回す度胸が劉表にあると思いません。彼女は勝てる戦でも石橋を叩いてわたる人物です。そこが彼女の長所でもある。独立気質の強い豪族達がひしめく荊州を曲がりなりにも治めているのはその慎重さがあるからです。それに南陽郡に侵攻する名分がありません。だからこそ蔡瑁は郡境でコソコソと彷徨いているんです」

 七乃は三人の先生のように自論を分かりやすく説明した。三人は七乃の博識振りに驚いている様子だった。普段は「美羽様命」の変態のように思われている彼女だが無能という訳ではない。特に悪知恵を考える時の彼女の頭脳は冴え渡る。

「しかし、七乃。計画が失敗し事実が劉表と孫堅に露見したら、流石の劉表も重い腰をあげるのではないか?」

 美羽は七乃の話を聞き気になる点を質問した。

「その可能性は否定できません。でも、孫堅はともかく、劉表は腰が重いと思います。精々、蔡瑁が出張る程度、劉表自らが指揮を取るとは思えません」
「劉表が表立って出てこない理由は、もしもの時は蔡瑁を捨て石にするためですか?」

 七乃の説明で足らない部分を確認するように明命が質問した。

「ええ。劉表はできるなら穏便に済まそうと思うはず。孫堅は過去の行動から考えて美羽様を亡き者にしようと手段を選ばず攻撃してくるでしょうね。でも、意外に孫堅は全てを承知の上で美羽様の命に従うかもしれませんよ。例え相手が自分のことを捨て石にするつもりであると分かっていても、それを利用してのし上がろうとするのが孫堅だと思います」

 美羽は七乃の話を聞き、瞑目して黙考した。その様子を見て、その場にいる三人も会話を辞め、美羽が話はじめるのを黙って待っていた。

「七乃、ことがことゆえ、他の者も交えてもう一度話し合おうと思う。明命と亜莎もどうじゃ」
「それがよろしいと思います」

 七乃は頷いた。

「南陽郡に正宗様が来られた時にご相談してはどうでしょうか?」
「兄様にか?」
「正宗様も美羽様が頼られることは嬉しいと思います」
「そうじゃの」

 明命の提案に美羽は少し考えていたが頷いた。 
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