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聖女

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第三章


第三章

「パスタはイタリアだから」
「じゃあ肉はどうしますか?」
「肉は。そうだな」
 ここで考えるジョバンニだった。
「日本、そしてスペインと続いたからな」
「どの国でいきますか?」
「何か無性に不機嫌にもなるがドイツにするか」
 どういうわけか本当に不機嫌な顔を微かに見せたジョバンニだった。
「肉は」
「ドイツですか」
「どうもな。ドイツ人は」
 その言葉を続ける。
「あまりあかぬけた感じもしない武骨な連中だが」
「やたらと大きいですしね」
「しかも数が多い」
 とにかく観光旅行といえばイタリアにやって来るのがドイツ人なのだ。彼等のイタリアへの憧れは神聖ローマ帝国の時代からだ。そしてイタリアの方も。
「まあいいとしよう」
「そうですね」
 二人は笑って話をここまでとするのだった。
「付き合いが長いからな」
「そういうことですね。それじゃあ」
「ドイツ風のソーセージの盛り合わせか」
「それですか」
「こっちのロールキャベツもいいがな」
「どちらにします?」
「しかしここはソーセージだ」
 ジョバンニがここで選んだのはソーセージだった。
「アイスバインとかいうのも面白そうだが残念なことにこの店にはない」
「アイスバインですか」
「豚の腿肉を丸ごと茹でたものさ」
「それはそれで美味しそうですね」
「しかしここはイタリアだ。そして完全なドイツ料理の店じゃない」
「だからないんですね」
「幸か不幸か。だから」
 決断を下すというのだ。こうした場合にはあっさりと決めてしまうのがジョバンニの粋だった。
「ここはソーセージだ」
「わかりました」
「ワインは赤だ」
 選んだ酒はそれだった。
「鰻なら赤でもいけるな」
「まあそうですね」
「だったら赤だ。ランブルスコだ」
 選んだ酒はそれだった。北イタリアモデナ産である。
「飲みやすいしな」
「ランブルスコですか」
「嫌か?」
「いえ、大好きです」
 にこりと笑って師匠に返すミショネだった。
「甘くて泡だっていい感じですよね」
「だから私も好きなんだがな」
「僕もです」
 二人の酒の好みは一致していた。
「じゃあお酒はそれで」
「まずは二本ずつだな」
「わかりました」
「それでだ。最後は」
 遂に最後のメニュー選びだった。既にパンも選んでいた。
「デザートだが」
「ケーキにしますか?」
「ケーキか」
「最初と最後は我が国で占めません?」
 そしてこう言うミショネであった。
「それでどうでしょうか」
「イタリア風のケーキか」
「お嫌いですか?」
「いや」
 それについては否定するジョバンニだった。
「ケーキなら何でもいい」
「じゃあそれにしましょう」
「そうするか。じゃあこれだな」
 そしてケーキの中から一つを選んだ。
「これにしよう」
「フルーツケーキですか」
「果物に限る」
 笑顔で言うジョバンニであった。
「デザートならばな」
「フルーツ自体もありますが?」
「いや、今食べたいのはイタリアの料理だ」
 しかしミショネにこう返す。
「イタリアのものを料理したな」
「だからですか」
「ああ。じゃあミショネ」
「はい」
「御前は何にするんだ?」
「じゃあ僕はですね」
 師匠の言葉を受けて彼はまたメニューを見る。そしてそこからあるものを指差すのだった。それは。
「これにします」
「苺のタルトか」16
「これでいいですよね」
「他人の食べるものにケチをつける趣味はない」
 こう返すジョバンニだった。
「別にな」
「それも粋というやつですね」
「僕が御前に教えるのは絵だけじゃないだろ?」
 笑ってこう言うジョバンニだった。
「酒に美女に遊びに。それに」
「粋ですか」
「その中で粋が一番大きい」
 ここをさらに強調するのだった。
「とりわけな。だから」
「粋を身に着けてですか」
「高校を卒業したらどうするんだ?」
「美術大学に進むつもりです」
 画家を志す人間としては普通の進路の選択であった。
「そのつもりですけれど」
「だったら余計に粋を身に着けるんだな」
「美術大学に行くなら余計にですか」
「まあそれはおいおいな。少しずつ教えていくさ」
「御願いします」
「粋は奥が深い」
 にんまりと笑っての言葉であった。
「絵を描けるのも粋がわかってるからだからな」
「そういうことですか」
「そうさ。さて」
 ここでワインとパスタが来た。
「食べるか。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「バッカスとアフロディーテに乾杯だ」
 言葉に出したのはキリストの神ではなくギリシアの神々だった。
「まずはその二人にだ」
「はい。それでは僕も」
 そしてミショネもそれに従う。その後でちゃんとキリストの神を讃えるのはやはりカトリックのお膝元だけのことはった。そうして美酒と美食を楽しみながら。最後のデザートが届いたところでジョバンニが不意にミショネに対して言ってきたのであった。
 
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