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河童

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第五章


第五章

「そういえば先生って」
「何かしら」
 生徒の一人に応える。彼女は今は子供達の先生をしている。まだ泳げない子供達を中心に親切丁寧に教えているのである。
 プールサイドで休んでいる時にだ。声をかけられたのだ。その時彼女は青い競泳水着を着ていた。顔は小学校の時からの美しいままである。
「先生って河童って言われてますよね」
「何でなんですか?」
「やっぱり速いからですか?泳ぐのが」
「だからですか?」
「そう言われてるけれどね」
 それは彼女自身も認める。
「ただね」
「ただ?」
「それだけじゃないのよ」
「それだけじゃないって」
「何かあるんですか?」
「河童に負けないようになりたいって思ったのよ」
 にこりと笑ってそのうえで子供達に話した。
「それでなのよ」
「それで河童に」
「そういうことよ。河童みたいに泳げてね」
 こうも言うのだった。
「それで河童よりもね」
「それじゃあ僕も河童になれるかな」
「私も」
「なれるわよ」
 優しい笑みを浮かべて子供達に話す。
 そうしてであった。席を立ってだ。子供達に話す。
「それじゃあ休憩は終わりね」
「はい」
「じゃあ練習ですね」
「そうよ。プールに入りましょう」
 そして最後にこう言うのだった。
「河童になりにね」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
 子供達も笑顔で頷き席を立った。そうして皆でプールに入るのだった。河童みたいに泳げるようになりやがては河童より速くなる為に。


河童   完


                2009・12・18
 
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