一つ一つの力
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第三章
第三章
「今お屋敷の中の猫は何匹ですか?」
見ただけでもう五匹はいる。白いのもいれば黒いのもいる。三毛猫もいれば寅猫もいる。種類も様々な猫がいるようだった。
「一体」
「二十匹はいると思うわ」
美幸は少し困った顔で述べたのだった。
「多分だけれど」
「多分ですか」
「お嬢様が拾って来るだけじゃなくて何処から聞いたのか自然に猫が屋敷の前に来たり猫を預けに来たりする人も出て来たりしているのよ」
「そうした人達もですか」
「ええ、そうなのよ」
その少し困った顔での言葉であった。
「だからこれからもどんどん増えるわ」
「そうですか。参りましたね」
「しかも猫だけじゃなくて」
それだけではないというのであった。
「犬もね。困っている犬がいたら拾ってきだして」
「今度は犬もですか」
「今外に三匹いるわ」
「何時の間に三匹も」
「貴女が運転の順番でない時にね。拾ったのよ」
そのことも今話すのだった。
「それでまた増えて」
「それでですか」
「お嬢様はその全部の面倒を見ておられるわ」
「その二十匹の猫と三匹の犬もですか」
「ええ、そうよ」
そうだと語るのだった。
「お嬢様お一人でね」
「凄いですね、それはまた」
町田は話を聞いて呆れたがそれ以上に感嘆していた。
「お嬢様は口だけの方ではないことはわかっていましたが」
「何もかも御一人でやっておられるわ」
また話す美幸だった。
「犬達の散歩もね」
「御立派ですね」
素直な賞賛の言葉だった。
「まことに」
「ええ。これからもどんどん犬や猫が増えていくでしょうけれど」
「はい」
「多分お嬢様は全ての面倒を見続けられるわ」
こう話すのだった。
「きっとね」
「それじゃあ私達は」
「どうしたものかしら」
だがここで美幸の言葉は少し鈍いものになってしまった。
「こうしたことってはじめてだから」
「私もです」
「お金はね」
お金のことはわかるので話すことができた美幸だった。
「奥様が内密にお嬢様の口座にお金を振り込んで下さっているわ」
「その犬や猫達の御飯やそういったものの為ですね」
「そうよ。だからお金は大丈夫なの」
言いながら周りにいる猫達を見た。螺旋階段の終わりのその端で赤絨毯の上で丸くなっている猫もいれば適当に歩き回っている猫もいるどれも実にマイペースである。
「お嬢様はお世話に専念しておられるわ」
「その専念がかなりのものですが」
「それを見せてもらっているだけだけれど」
今野美幸はまさにそれだけである。そう自分自身で言うのである。
「お嬢様は元々一途な方だったわ」
「はい」
「それで純真でね。いい意味でね」
このことは既によくわかっている彼等だった。わかっているからこそ言えることだった。
「それでも。あそこまでとはね」
「思いませんでしたか」
「そうよ。お嬢様にはそれこそ生まれられて赤ちゃんだった時からお世話をさせてもらっているけれど」
「それでもなのですね」
「ええ、そうよ」
こう答えるのだった。
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