『自分:第1章』
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『姉の就学』
姉が就学し、楽しそうに友達と遊んでた。
その声を家の中から聞いては羨ましく思う。
そして目の前の母親の背中を睨み突ける。
零那が家から出るのを許されるのは、母親の酒とツマミを買いに行かされる時のみ。
『何かあった時の為に』書かされていた名前と住所は、コイツの酒を買いに行く時の為か?
幼児にも『憎しみ』は確実に在った。
ビール瓶10本程を買いに行かされた時、1段1段が高くて辛い階段をビールの重さが更に険しいモノにする。
登り切った時、チカラが抜け『ガシャンッ!!』
勿論、怒声の嵐。
本当に母親を嫌いだったのは確かだけれど、更に嫌いになったのも確かだろう。
兄は、この頃、ランドセルをゴミ収集所に捨てていて、姿が無くて、問題になっていた。
職員も一緒に探してた。
父親の『まっ!』も無くなった。
姿を見ることも声を聞くことも叶わなくなった。
それも全部コイツのせいだと。
育児どころか、家事すら一切しないコイツの...
もしかしたら『憎しみ』なんかよりもっと...
幼児が、まさかそんな...
ただ、ただ、こんな家に居たく無い気持ちは痛い程に解ってた。
だから、兄が見つかった時『かわいそう』と思った。
『産まんかったら良かったやん』
兄を捜すこともロクにせず、育児も家事もせん。
何の為に兄や姉や自分を産んだんか解らんかった。
幼児なら普通は親に甘えたくて構って欲しくて...沢山の愛を与えられたいはず。
『愛』とか、感じたことも無ければ言葉すら知らんかった。
だから、愛されたいとかも想ったことが無かったかも。
そんな感情は無駄やと解ってるから本能で排除してたんかも。
ばぁちゃんが亡くなった。
母親の母親。
逢ったことは記憶に無い。
赤ちゃんの時に抱かれてるらしいけど。
大阪から船で島に来た。
沢山の人が集まってる光景にビックリした。
『外の世界』って感じ。
兄が言う。
『ばあちゃんはミカンの白い筋も汁を垂らすことなく綺麗に剥くんやで。あんな優しい顔しとるけど、めっちゃ怖かったんやで。』
葬式終わりの、ちらし寿司がキラキラしてて綺麗で...観たことも食べたことも無いモノに感動して、姉と必死で食べた。
いっぱい食べるとおなかが苦しくなるってのを産まれて初めて体感した。
こんなに美味しいモノもう二度と食べれんって危機感も在ったんだろうと思う。
葬式を理解することは出来てなかった。
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