道を外した陰陽師
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第三十話
「えっと・・・ラッちゃん?大丈夫か?」
「ゴメン、気まずいかもしれないけど、もう少ししたら戻るから・・・」
「あー・・・了解」
顔を真っ赤にして伏せているラッちゃんの手を引きながら、俺も頬をポリポリと掻いていた。
そこで前から自転車が来たので、手を少し強くひいて当たらないよう誘導しつつ、俺自身も普段の感じに戻ろうと、少し強めに意識する。
先ほど、予定通り歩きまわっているうちに見つけたファミレスで昼食をとったんだけど・・・
========
「あー・・・ここでいいか?」
「別にいいわよ、どこでも。というか、ファミレスって何か違うものなの?」
「少しは違うんじゃないか?それに、お前はメニューも気にするかな、と」
「好き嫌いは特にないわよ、あたし」
「知ってる。でも、鶏肉があった方がうれしいだろ?」
そう返すと、ラッちゃんは少し、ニヤリ、というような笑い方をした。
「ふうん、よく覚えてるじゃない」
「そりゃ、幼馴染ですから。小、中の修学旅行で、旅館で鶏肉が出たときのあの表情と言ったら、」
「忘れなさい、今すぐに!」
恥ずかしいことをお思い出した、と言わんばかりに顔を赤くするラッちゃんを、俺はなだめにかかる。
これまでに三回行った(小、中、中の三回だ)修学旅行の内二回が同じ行動班だった関係もあって、食事の際ラッちゃんは俺の目の前に座っていた。
だからまあ、あの時の表情はしっかりと見ている。そして、幼馴染だからこそ弄られたくない話題だということも、しっかりと理解している。
「いい表情だったと思うぞ、あれ。結構な人数が男女問わずに注目してた」
「だからこそ忘れたいのよ!ああもう、あんなに見られて・・・」
そこまで悲観することなのだろうか?
「あの後、ラッちゃんのことが好きだって奴が急に増えたと思うんだけど」
「・・・何でそう思うのよ。後、ラッちゃん言うな」
「いや、色々と相談されたりしたんだよ・・・」
まあ、小学校時代はそうでもなかったし、男子からの人気が上がる程度だった。
だが、中学校の時はガチ・・・付き合いたいとか、そういう連中が大量発生した。
そりゃ、ラッちゃんは美人だからそうなるだろうな、とは思ってたんだけど。
で、だ。そんな奴らからしてみれば幼馴染であり男避けとしてよく一緒に帰ったりしていた俺が彼氏だと思っているやつはかなりいた。
だからこそ、色々と聞き出されたりして・・・ラッちゃんのプライベート以外はほとんど全部はかされた。
「ま、その辺りはまたあとでってことで。注文、何にするか決まったか?」
「・・・これ」
そう言いながらラッちゃんが指差したのは、鶏肉メインのメニュー。相変わらずで安心した。
で、注文したものが一通りそろったので食事をしながら話を始める。
「こうしてアンタと一緒に食事をとるのも、ずいぶんと久しぶりに感じるわね」
「実際には、九か月もたってないんだけどな」
「それでも、よ。昔はしょっちゅうこうしてファミレスに来てたんだから」
「ああ、週四回近く来てたな。特に意味なんて無かったり、ラッちゃんの勉強見たり」
「アンタが反省文書くように見はったり、宿題やるように見はったり」
確か、勉強を見てたのは俺がラッちゃんの両親から頼まれたからだったな。結構成績が大変なことになってるから、と。
んでもって、ラッちゃんが監視役に抜擢されたのは、俺を扱うのに一番慣れているのがラッちゃんだから、と教師陣に頼まれた形だ。
「にしても、ラッちゃん。よく俺なしで零厘入れたな」
「頑張ったのよ、かなり・・・と言いたいところなんだけど」
そこでラッちゃんは、少し言いづらそうに話しだした。
「カズの言う通り、あたしは成績的には入れないわ」
「じゃあ・・・特別枠?」
「正解。この体質のおかげで、あっさりと入れたのよ」
俺達が通っている零厘や美羽が通っている人憑などには、特別枠という制度がある。
それは、名前の通り特別な人を受け入れる制度。
その例としては、異常能力者であったり、血の引き方が特殊であったり、とまあ様々なわけだけど。
「まあ、一種類の血をそこまで中途半端な形で引いてるのなんてラッちゃんくらいだろうからな」
「そういうことよ。最近では、複数の血を引いてるのなんてむしろ珍しくないみたいだし」
「意外と会ってたりするんだよなぁ・・・あ、殺女も特別枠だ」
「いや、席組みの特別枠をあたしと一緒にしないで・・・レベルが違いすぎるから」
「あ、俺も特別枠だ」
「それは仕事こみでしょ?」
うん、特別枠が多すぎる。
ついでに言うと、鬼道の一族も特別枠の対象だったりする。
日本で一番多くの霊獣を葬ってきた一族。さらには、日本で最も異質な奥義を継承していく一族。
十分に、対象にはなっていたらしい。もう滅んだ扱いだから消えたんだけど。
「まあ何にしても、普通に受験しているのは雪姫くらい、ってところか」
「彼女は普通に受験して零厘に入れるんだ・・・」
「ああ。受験前に俺と殺女の二人がつきっきりで受験勉強をさせたんだけどな」
「何そのすっごい待遇」
うん、まあ中々な家庭教師だとは思う。
そして、そんな中でちゃんと教えられたことを記憶して合格した雪姫は、一番すごい。
「じゃあ、俺はまた教えた方がいいのか?」
「あ、出来るならお願い。時間があるときでいいから」
「まあ、依頼関係は夜にやってるからいいんだけど。場所は・・・うちでやるか?」
「そっちがそれでいいなら、それでいいわ」
「んじゃ、そういうことで。また同居人にも挨拶していけよ」
「そうさせてもらうわ。・・・そう言えば、同居人ってどんな人なの?」
答えづらい質問を・・・まず間違いなく、名前を出した瞬間に何を考えてるのか、といわれる。女三人に男一人がおかしいことくらい、しっかりと理解している。
「・・・個性的だぞ」
「・・・アンタが個性的って評価するのは、かなりじゃない?」
「いや、そんなことは・・・一人を除いて、そんなことはないな」
「一人いるのね」
まあ、うん。
俺でも心から個性的だと思うやつが一人いる。あいつは、間違いなく個性的だ。
「こちら、本日のスペシャルメニューです」
と、そんな感じで一瞬会話が途切れたところでウエイターが何か運んできた。
それを見ると・・・明らかに一人分ではないパフェだった。
「・・・こんなの頼んだっけ?」
「あたしは頼んでないけど・・・」
「こちら、本日のスペシャルメニュー・・・カップルの方に無料サービスさせていただいているものです」
その瞬間、俺とラッちゃんは噎せた。
その間にウエイターはパフェを置いて去ってしまったので、返すことも出来ない。
「・・・・・・・・・」
そんな中、先に復活した俺はスプーンを持って、目の前に持ってくる。
それは、明らかに自分で食べるには長すぎる長さで・・・うん、まあそういう意図なんだろうなぁ。
「・・・・・・あ、あーん」
「本気か、ラッちゃん」
「こ、この状況でやらないのもおかしいでしょ。ほら、早く口をあけなさいよ」
俺は少しためらってから、ラッちゃんの差し出しているスプーンにのっているパフェを食べた。
そして、そのまま俺が持っていたスプーンでパフェをすくい、ラッちゃんの前に差し出すと・・・ラッちゃんもまた、顔を真っ赤にしてそれを食べた。
「んじゃ、ここからは普通に、」
「あ、あーん」
「マジか・・・」
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