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万華鏡

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第七十九話 マラソン大会その七

「本当にな」
「そうよね」
「いい人は早く死ぬっていうけれどな」
「本当に残念よね」
「村山さんもだよな」
 美優はこの伝説の選手の名前も出した。
「若かったよな」
「今生きておられててもね」
「普通だよな」
「ええ、まだ六十ちょっとだったから」
 村山が旅立ったのはだ、本当に若過ぎた。
「若かったわよね」
「村山さんってあれよね」
 景子も村山実について言う。
「本当に阪神を愛してたのよね」
「そうだったみたいね」
「そんな人がね」 
 若くして世を去るということが、というのだ。
「残念よね」
「嫌な奴は生き残るよな」
 美優は顔を顰めさせてこうも言った。
「巨人のトップとか」
「あいつね」
「あいつ本当に長生きよね」
 他の四人も彼については忌々しげに言う。
「まだ死なないとかね」
「ないわよね」
「もう九十近いのに」
「身体壊しても生きてて」
「一体幾つまで生きるのかしら」
「百まで?」
 実に不吉な言葉まで出て来た。
「百歳まで生きるとか」
「うわ、それはないわ」
「あんなのが百歳まで生きたら」
「迷惑だよ」
「球界にとってね」
「日本にとっても」
 憎まれっ子世に憚らずというがだ、とにかく長生きしてもらうと困る人間も長生きしたりしてしまうのが世の中だ。
 美優はここでだ、こんなことも言った。
「いい人程っていうけれどな」
「そうよね、早く死んだりして」
「それで長生きして欲しくない人が長生きしたりする」
「世の中ってね」
「そういうこともあるわよね」
「ったくよ、老害って言葉習ったけれどさ」
 美優もこの言葉をここで出した。
「あの爺さんこそまさにそうだよな」
「まさに老害よね」
「それそのものよね」
「二十年以上球界にのさばってね」
「日本にも」 
 四人もこう言う。
「それでやりたい放題やって」
「北の将軍様みたいに」
「というか将軍様そのままよね」
「そっくりじゃない」
 この例えはよくネットで見られる、ならず者国家の独裁者とその会長がどう違うかというのである、腐敗した横暴な権力者として。
「日本にもそうした人いるから」
「嫌よね」
「ああいった権力者ってね」
「好きになれないわ」
「この人だってあれだろ」
 美優は今自分が読んでいる阪神タイガース、というかプロ野球についての本に丁度写真が載っている選手を言った、見れば口髭で阪神のユニフォームを着て明るい笑顔でそこにいる。
「若くしてだよな」
「あっ、辻さんね」
「ヒゲ辻よね」
「その人もよね」
「お亡くなりになってるのよね」
「そうだよな、まだ若かったっていうけれど」
 その彼もだというのだ。
「もうお亡くなりになってるよな」
「そうなの、その人もね」
 実際にだとだ、里香が美優に答えた。ここでも里香がそうした。
「若くして」
「だよな」
「いい人だったらしいわ」
「村山さんとバッテリー組んでたよな」
「そうなの、その辻さんはね」
 ヒゲ辻は村山、ダンプ辻は江夏と言われていた。ただそれは田渕幸一の登場で彼がメインとなってしまう。
「村山さんとよ」
「バッテリーでもういないんだな」
「そうね」
「残念だな」
 美優はしみじみとした口調で言った。 
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