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遊戯王GX~鉄砲水の四方山話~

作者:久本誠一
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ターン9 ノース校と選ばれし戦士(中)

 
前書き
前回までのあらすじ。
ノース校が来た。先鋒対決、見事剣山が逆転勝利。勝負は次峰、【ハングリーバーガーSP】天田対【葵流忍法】葵・クラディーへと続くのであった(注、今回のメインはこの2人のデュエルではありません) 

 
「これより、5分間の休憩に入りますノーネ。選手の皆さんは次の試合の準備を、観客の皆さんもトイレは混まないうちに行っておくことをお勧めしますーノ」

 クロノス先生のアナウンスが響く中、何気なくノース校側を見てみる。初戦は剣山が勝ってくれたけど、裏を返せば余裕のなくなったあっちはこれまで以上に本気でかかってくるということ。とはいえ次峰は葵ちゃん、あんまり心配はしていない。3番手は夢想だし、こりゃ下手すると僕の出番ないまま終わったりして。どれほどギスギスした空気になっているかと野次馬根性全開でのぞいてみると、意外にもそこには向こうの次峰、天田(てんだ)しかいなかった。そのままじっと見ていると、向こうも僕の視線に気が付いて近寄ってきた。

「……何か、用か」
「あ、いや別に。ね、他のみんなどこ行ったの?」

 わざわざ聞くほどのことでもないだろうけど、せっかく会話してくれてるんだからやっぱり聞いておきたい。天田は軽く肩をすくめ、若干呆れたようなポーズをとった。

「……サンダーに会いに行くんだと。で、俺も行きたかったんだけど、別にサンダーとは試合の後でも会えるし、どちらかというと次の試合で勝つことをまず考えないといけないしな」
「なるほどねー。でも、うちの葵ちゃんも強いからね?」
「……だろうな。なにせ、去年サンダーとあそこまでの勝負をした男の選んだメンバーだからな、こちらも警戒ぐらいはするさ」

 そう言ってもらうのは嬉しい。随分僕も偉くなったものだ。ちょっと気を良くしていると、辺りをきょろきょろと警戒するように見回した天田が、誰にも見られないように自分の体で隠しながら僕になにかケースのようなものを押し付けてきた。依然として周りを警戒しつつ、声を低くして僕に話しかける。

「……話は変わるが、何も言わずにこれを受け取ってくれ。頼む」
「え?え、あーうん」

 まったく意味が分からないが、もらえるものはもらっておこう。あーでも、億に一つどころか兆に一つでラブレターとかだったらどうしよ。僕にはもう好きな人がいるし、そもそもそういった趣味はありませんってはっきり断ったほうがいいんじゃなかろうか。

「……頼む。本当はサンダーに渡したかったんだが、サンダーが光の結社に入っていたとあっては渡しづらいんだ」

 何を考えているのかはわからないけど、とても真剣な天田の目を見る。ふうむ、これは素直に受け取っておいた方が面白そうだ。何かはわからないけど、いつかこのケースの中身が役に立つ。そんな気がする。

「……誰もいない場所で、誰にも見られないように開封してくれ。使い方はお前に任せるが、できれば最終的にはサンダーに渡してほしい」
「あいよ、よくわかんないけど頼まれたよ。でも、このことって鎧田たちは」
「……あいつらは何も知らんはずだ。これはノース校に代々伝わっていたレアカード、アームド・ドラゴンの他にもう2つあるレアカードだ。教職員はおろか、あいつらにさえ気づかれないように盗ってくるのはかなり骨が折れた」
「へー、そんなものが………でも、なんで?そりゃ許可は下りないだろうけど、別にわざわざ他の皆にまで黙ってることはないんじゃない?」
「……俺の勘だが、どうも今回は嫌な予感がしてな。あいつらでさえ今一つ信用できないんだ、と言ったらお前は笑うか?」

 いいや、と首を横に振る。嫌な予感、か。そういえば、夢想もつい昨日は同じことを言ってたっけ。実際、あそこで夢想がついてきてくれなかったらあの3人組相手はかなり厳しかったろう。そして、今は夢想に続き天田まで同じことを言う。気のせいだったら笑い飛ばせばいいだけだし、警戒するに越したことはないだろう。

「……俺は、別に光の結社に恨みがあるわけではない。ただ、怖い。あそこに入った人間は、全員目つきがおかしくなる。何かわからないものを信仰し、そのほかのことに目が行かなくなる。つい昨日まで隣で笑っていた友が、同じ結社の人間以外とはまともに話すらしなくなる。だから俺は、光の結社をなんとかしたい。そう思うんだ」
「そっか。なら、僕と一緒だよ。恨みなんてものは特にないけど、友達を返してほしい。言うことなんてそれだけさ」
「……ふ。同じことを考えていたか。だが、勝負は勝負。俺は、負けはせんから覚悟しておけ」

 ちょっと笑ってそう言い残し、そのまま戻っていく天田。言われたとおりにケースをポケットの奥深くに押し込み、何食わぬ顔をして夢想たちのところに戻る。さて、そろそろ時間かな。

「あーあー、それでは皆さん、お待たせしたノーネ。第2回戦、これより始めますノーネ!」
「頑張ってね、葵ちゃん!」

 そう声をかけると、彼女はそっと振り向いて、普段の様子に似つかない、どこか寒気をする笑顔をして見せた。

「………ええ、先輩」










 さて、それではここで時間を少し巻き戻そう。時は、剣山のデュエルが終わる、その少し前………丸藤翔は、走っていた。彼は今の今まで遅い朝飯となった弁当、朝ご飯を作っておらず、しかもそのことをすっかり忘れていた清明からお詫びの品として急遽タダで貰うことになった観戦用のそれを食べていた。その間は観客席にいたのだが、いざ食べ終わって戻ろうとするとごみ箱はすでに弁当の空箱で満員状態。そこらへんに放置するわけにもいかず、わざわざ他のごみ箱を探してさまよっていたのだ。そのあたりに、彼の誠実ではあるが要領の悪さが目立つ点がよく表れているといえるだろう。

「ふー、すっかり遅くなっちゃったよ。急がないと、もう剣山君の試合も終わりそうだったし………と、トイレトイレ」

 ちなみに、彼のこの戦いにおけるポジションは副将である。5分の休憩があることも考えれば、別にそこまで全力で走る必要はないのだが。
 そしてトイレに入り軽く用を足し、手を洗っていると外から声が聞こえてきた。

「ふわ~ああ、ねーむい眠い。さっさと顔洗って戻りますかね」

 その声に聞き覚えがある気がして、なんとなく個室の中に隠れる翔。当然ここは男子トイレの中であり、わざわざ隠れる必要なんてどこにもない。だが、なんとなく顔を合わせたくない相手なような気がしたのだ。そのまま個室の中でドアに耳を立てて様子をうかがっていると、ジャバジャバと水道の水が流れる音がしばらく続いた。どうやら本当に顔を洗いに来ただけらしい、と一息ついた次の瞬間。

「しっかし、サンダーもえっぐいこと考えるよなあ………でもまあ、これが決まったらアカデミア本校も、だもんな。さすがサンダーだぜ。さ、かーえろっと」
「ま、待って!」
「あー?」

 とても不穏な台詞を聞き、思わず個室から飛び出していた。怪訝そうに振り返った、その声の主は。

「おっと。お前は確か今年の本校側代表メンバーじゃねえか」
「お前は!確か、去年ノース校で中堅だった………えーと、誰だっけ」
「なんだよもう、覚えてないのかよ!俺だよ俺、去年初手攻撃力9600のモンタージュ・ドラゴン出したサンダー四天王の百、酒田(さけだ)だよ!」
「あ、思い出した。次のターン夢想さんに強制転移やられてた人だ」
「ええーい、そんなもん思い出すな!」

 じたばたと手を振り回して怒っているポーズを取った後、なんとか落ち着いたように息を吐く酒田。身長の関係で再び翔を見下ろす形になったその眼には、先ほどまでのおどけた様子とはうってかわって真剣な光が宿っていた。

「まあいいさ。さてと、お前を向こうに帰らせていらんことを考えられると厄介だし、多少手順は変わるがしょうがねえ。お前、さっき『待て』って言ったよな?デュエリストに向かって待てなんて言う以上、当然デュエルの覚悟はできてるんだろ?」
「え、ええ!?」

 翔は別に、そこまで非戦的な性格ではない。規格外なデュエル馬鹿である十代や清明と暮らしているせいで影こそは薄いが本人にそこそこの向上心があり腕も決して悪くはないため、ラーイエローへの昇格も間近である。それになにより、酒田がさっき漏らした言葉の内容も気になっていた。だから彼は少し迷ったものの、結局はデュエルディスクを構えるのだった。その様子を見た酒田が意外そうに、だが嬉しそうにニヤリと笑う。

「「デュエル!」」

「おいチビ、デュエルディスクの決定を待つまでもないな!先行はお前にくれてやるよ」
「………わかった。僕が先行だ。永続魔法、機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)を発動。さらに永続魔法、マシン・デベロッパーも発動」

 1枚ずつ、ゆっくりと戦線を整えていく翔。去年の今頃に比べれば、自分だって進歩している。本当ならこんな奴じゃなくて、十代(アニキ)にそれを見せたかった。そう思いながらも、デュエルの手は休めない。

「そして、ジャイロイドを守備表示で召喚。マシン・デペロッパーは機械族の攻撃力を上げる効果があるけど、守備力には影響しない。カードをセットして、これでターンエンドっス」

 ジャイロイド 守1000

 様子見ということで、ある程度の守りを固める。決して天狗にならないようにと自分に言い聞かせながら、ちらりと酒田の様子をうかがった。

「俺のターン。手札から魔法カード、オノマト連携(ペア)を発動!」
「オノマト……連携?」

 聞き覚えのない単語に首を傾げる翔。彼の記憶が確かならば、酒田のデッキは最上級モンスターだらけの一歩間違えれば手札事故まっしぐらな圧倒的な重さを誇るものだったはずだが。その反応が期待通りのものだったらしく、またまたにやりと酒田が笑う。

「俺は去年、あの河風とかいう女に負けた。それで1つ賢くなったのさ。最初から馬鹿でかい攻撃力の超大型モンスターを1体出すよりも、多少総攻撃力を下げてでも戦線を分厚くした方がリスクが少ないってことをな。オノマト連携の続きだ、手札を1枚捨てることでデッキからズババ、ガガガ、ゴゴゴ、ドドドのモンスターから1種類ずつ2枚までサーチができる。俺が手札に加えるのは、ドドドバスターとゴゴゴジャイアント。そしてドドドバスターは自分の場にモンスターがいない時、手札から自分のレベルを4にして特殊召喚できる!」

 ドドドバスター 攻1900 ☆6→4

「だ、だけどジャイロイドは1ターンに1回戦闘破壊されない効果がある!これでなんとか」
「ならないんだな、それが!自分フィールドの戦士族モンスター1体をリリースすることで、手札のターレット・ウォリアー特殊召喚!そしてターレット・ウォリアーをこの効果で特殊召喚した時、リリースした戦士族の攻撃力ぶん自身の攻撃力をアップさせる」

 両肩に小さな砲台を備え付けたまさに動く城壁のような戦士が、ドドドバスターの構えていた大型ハンマーを受け継いでぐっと握りしめる。

 ターレット・ウォリアー 攻1200→3100

「驚くのはこれからだぜ!まだ残ってる召喚権を使ってゴゴゴジャイアントを通常召喚、そのまま効果発動!召喚に成功したこのカードを守備表示にすることで、墓地のゴゴゴモンスター1体を守備表示で特殊召喚できる………甦れ、ゴゴゴゴラム!さらにゴゴゴゴラムが特殊召喚された時、その表示形式は変更されるぜ。ゴラム、攻撃表示に変更だ!」

 ゴゴゴジャイアント 攻2000→守0
 ゴゴゴゴラム 守0→攻2300

「最初にオノマト連携の効果で捨てたモンスター……!」
「だから言ったろ、戦線を分厚くするって。そして自分フィールドのゴゴゴをリリースすることで、このカードは手札から特殊召喚できる!ゴゴゴジャイアント、進化!ゴゴゴゴーレム-GF(ゴールデンフォーム)!!」

 ゴゴゴゴーレム-GF 攻?

 赤茶色の巨人、ジャイアントの姿が黄金色に光を放ち、その右腕に岩が集まってよりパワーアップ。胸の中心には赤く光るコアが出現し、はるかに増したパワーを制御することを可能にする金の巨人がターレット・ウォリアー共々その岩の体から圧迫感を放ち翔を圧倒する。

「攻撃力が、ない?」
「ああ、そうさ。GFの攻撃力は決まっていない………なぜなら、攻撃力は今リリースした進化前のゴゴゴモンスターの倍の数値になるからだ!」

 ゴゴゴゴーレム-GF 攻4000

「さあ、ド派手にやらせてもらうぜ!GF、ジャイロイドを攻撃だ!グレートキャノン!」
「トラップ発動、スーパーチャージ!自分の場にロイドだけがいて相手が攻撃してきたとき、カードを2枚ドロー!」

 岩の拳が迫り、ジャイロイドのプロペラの付け根に直撃する。辛うじて大破は避けたものの、もう空を飛ぶことはできないだろう。

 ゴゴゴゴーレム-GF 攻4000→ジャイロイド 守1000

「一回は耐えても、もう一回は無理だろ!ゴゴゴゴラムで続けて攻撃だ!」

 ずんぐりむっくりの岩石の戦士が手にした金棒を振り下ろし、すでにスクラップ寸前だったジャイロイドを完全に打ち壊す。

 ゴゴゴゴラム 攻2300→ジャイロイド 守1000(破壊)

「だけど、この瞬間に2枚の永続魔法の効果を発動!マシン・デペロッパーはフィールドの機械族が破壊された時、このカードにジャンクカウンターを2つ乗せるっス。さらに機甲部隊の最前線があるときに機械族が戦闘破壊されたら、同じ属性でより攻撃力の低いモンスター1体をデッキから呼び出せる。僕が呼び出すのは風属性のビークロイド、サイクロイド!」

 壊れたヘリコプター(ジャイロイド)の部品を組み立て、新しく自転車(サイクロイド)が作り出される。攻守も低いバニラモンスターだが、翔のデッキでは装備魔法の補助輪を駆使して戦う立派なアタッカーである。もっともその補助輪がない以上、ただの壁にしかならないのだが。

 マシン・デペロッパー(0)→(2)
 サイクロイド 守1000

「覚悟しな、おんぼろ自転車!ターレット・ウォリアーで攻撃だ!」

 生ける城壁が、両肩の砲台から球を乱射しつつ巨大ハンマーを振り下ろす。当然そんなオーバーキル気味な一撃に単体では弱小モンスターであるサイクロイドが太刀打ちできるはずもなく、これまた一瞬でスクラップになる。

 ターレット・ウォリアー 攻3100→サイクロイド 守1000(破壊)
 マシン・デペロッパー(2)→(4)

「うわっ!き、機甲部隊の最前線………の効果は1ターンに1度だから使えないけど、マシン・デペロッパーにはこれでジャンクカウンターがもう2つ追加!」
「どうだ!俺はこれで、ターンエンドだ」

 翔 LP4000 手札:3
モンスター:なし
魔法・罠:機甲部隊の最前線
     マシン・デペロッパー(4)

 酒田 LP4000 手札:2
モンスター:ターレット・ウォリアー(攻)
      ゴゴゴゴーレム-GF(攻)
      ゴゴゴゴラム(攻)
魔法・罠:なし

 モンスターこそ失ったが、今のターンの猛攻をノーダメージで防ぎ切った。そこに、翔の成長の姿が見られるだろう。そして、それに天狗にならないように気を付けながら次の一手を考える。

「僕のターン!マシン・デペロッパーの効果発動!このカードを墓地に送ることで、その時乗っていたジャンクカウンターの数以下のレベルを持つモンスター1体を墓地から蘇生させる!」
「へっ、またジャイロイドか?いいぜ、やってみろよ」
「いいや。僕が蘇生させるのはレベル3、サイクロイドさ」
「はぁ!?ふざけてんのかテメェ!」

 サイクロイド 攻800

 えらい言われようではあるが、実際このタイミングではもう1度ジャイロイドを呼ぶのが得策と言えるだろう。ただしそれは、あくまでもフィールドのみを見た場合。サイクロイドを複数採用している翔のデッキにとっては、この方が都合のいい場合もあるのだ。

「魔法カード、融合を発動。同名機械族モンスター2体………場と手札のサイクロイド2体を素材にして、融合召喚!ペアサイクロイド!」

 子供用自転車のサイズが大人用のそれ程度に大きくなり、オレンジ色だったカラーも赤を基調とした攻撃的な色に変わる。椅子も通常の自転車と同じ1つから、その後ろにもう1つ備え付けられた。その姿はまさに、2人乗り用自転車。

 ペアサイクロイド 攻1600

「なんだなんだ、融合までしてやっとレベル3アタッカークラスかよ。火力がないなあ、火力がよお!」

 お前の火力は高すぎる。そんな事実を言える人間がこの場にいなかったのは、翔にとっては不幸なことだったろう。

「うるさい!さらに、サブマリンロイドを召喚!」

 サブマリンロイド 攻800

「そしてバトル!ペアサイクロイドは攻撃力が低い代わりにダイレクトアタッカーの力を持つモンスター。ペアサイクロイドでダイレクトアタック!ダブル・サイクロン」

 ペアサイクロイド 攻1600→酒田(直接攻撃)
 酒田 LP4000→2400

「ちっ、めんどくさい真似してくれんじゃねえか」
「まだまだ!サブマリンロイドは水中や地中に潜むことができるビークロイド。このカードも自身の効果でダイレクトアタックができる!ディープ・デス・インパクト!」

 地中を突き進む魚雷の一撃が、酒田の足元で爆発する。その爆風に煽られ、酒田の髪が逆立った。

 サブマリンロイド 攻800→酒田(直接攻撃)
 酒田 LP2400→1600

「どうだ!」
「面白いことやってくれんじゃねえか。だけどな、そのおかげでお前の場にいるのは大したことない攻撃力のモンスターが2体だけ。たっぷり礼をしてやるから覚悟しとけよ」
「そんなことさせるもんか!サブマリンロイドの効果発動、このカードがダイレクトアタックをした後、このカードを守備表示にできる。これなら戦闘ダメージは」
「いいや、ダメだね。ゴゴゴゴーレム-GFのモンスター効果!相手フィールドでモンスター効果が発動した時、このカードの攻撃力を1500ポイント下げることでその発動を無効にする!パワー・チェンジ・バリア!」

 金色の巨人が胸のコアから人型の光線を放ち、申し訳程度についた両腕で守りを固めようとしたサブマリンロイドを強引に戦闘モードに引き戻した。

 ゴゴゴゴーレム-GF 攻4000→2500

「そんな!か、カードをセットしてターンエンド……」
「なら、俺のターンだな。ドロー、野獣戦士ピューマンを召喚だ」

 野獣戦士ピューマン 攻1600

「そしてバトル、ターレット・ウォリアーでペアサイクロイドを攻撃!リボルビング・ショット!」

 再び銃を乱射しながらハンマー片手にとびかかる動く要塞。2人乗り自転車はなかなか市販されておらず知名度も低いなかなかレアな代物ではあるが、だからといって戦闘目的の要塞に勝てるわけではない。ジャイロイドよりもステータスは高いものの耐性を1つも持っていないペアサイクロイドが、あっという間にくず鉄の塊に変化する。

 ターレット・ウォリアー 攻3100→ペアサイクロイド 攻1600(破壊)
 翔 LP4000→2500

「機甲部隊の最前線の効果!ペアサイクロイドは地属性、だから地属性のエクスプレスロイドを特殊召喚!」

 エクスプレスロイド 守1600

「守備力1600、ねえ。確かにピューマンじゃ破壊できねーけど、それがなんだってんだ」
「僕の狙いはそこじゃないよ、エクスプレスロイドの効果発動。このカードが特殊召喚されたことで、墓地のロイドモンスター2体を手札に加えることができる!」
「何っ!?くそ、GFの効果は強制効果だ。パワーチェンジ・バリア………攻撃力1500を犠牲にして、相手フィールドのモンスター効果を無効にする。まんまとやりやがったな」

 ゴゴゴゴーレム-GF 攻2500→1000

「へへへ、どうだ!恐れ入ったか!」

 うまいことエクスプレスロイドの効果を使って酒田の裏をかいたのがよっぽど嬉しかったらしく、あれだけ自分に言い聞かせていたのも忘れて大威張りで胸を張る翔。だがそれは、かえって酒田の闘志に火をつけたようだ。

「ああ、恐れ入ったぜ。正直、お前みたいなチビがここまでやるとは思わなかった。だから、ここからはさらに本気だぜ!とは言ったものの他の奴らじゃ火力が足りねえし、これはしょうがねえ。ゴゴゴゴラム、エクスプレスロイドを攻撃だ!」

 ゴゴゴゴラム 攻2300→エクスプレスロイド 守1600(破壊)

「次、ピューマン!サブマリンロイドに攻撃!ブラック・スラッシュ!」

 野獣戦士ピューマン 攻1600→サブマリンロイド 攻800(破壊)
 翔 LP2500→1700

「GFで………ダメージはデメリット効果で半分になっちまうしな、大人しく守備にしとくか。さらに野獣戦士ピューマンのモンスター効果発動。このカードをリリースして、デッキに存在する俺のエースモンスター………異次元エスパースター・ロビンをサーチする。カードをセットして、ターン終了だ」

 翔 LP1700 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:機甲部隊の最前線

 酒田 LP1600 手札:2
モンスター:ターレット・ウォリアー(攻)
      ゴゴゴゴーレム-GF(守)
      ゴゴゴゴラム(攻)
魔法・罠:1(伏せ)

場の状況も手札もライフも、全て酒田の方がリードしている。だが、翔はもう負ける気がしなかった。先ほどの攻防で自信をつけた彼は、そのまま押し切るカードを求めてドローを行う。

「魔法カード発動、貪欲な壺!墓地のエクスプレスロイド、ペアサイクロイド、ジャイロイド、サイクロイド、サイクロイドの5体をデッキに戻してさらに2枚のカードをドロー。そして魔法カード、ブラック・ホールを発動!フィールド上の全モンスターを破壊する!」
「なに!?ここでそんなガチカード使いやがって!トラップ発動、神の宣告!ライフを半分払うことになるが、その発動は無効になるぜ」

 酒田 LP1600→800

「防がれちゃったか……カードを伏せて、ターンエンド」
「危なかったな、ったく。俺のターン、EM(エンタメイト)ディスカバー・ヒッポ召喚だ!」

 EMディスカバー・ヒッポ 攻800

 シルクハットをつけたピンク色のカバ。だが、その攻撃力はこれまで彼が使ってきたモンスターのことを考えるとおかしなぐらいに低い。

「ディスカバー・ヒッポのモンスター効果だ。このカードを召喚したターン、俺はレベル7以上のモンスターをアドバンス召喚できる。ゴゴゴゴーレム-GFとヒッポをリリースし、アドバンス召喚!光の意思を守るため、今日も正義の大盤振る舞い!異次元エスパースター・ロビン、満を持して参上!」

 異次元エスパースター・ロビン 攻3000

「スター・ロビン!いや、それよりも今光の意思って………まさか!」

 何かに気づき、はっと息をのむ翔。だがもう遅い。このことを清明たち本校メンバーに伝えるには、このデュエルを何としてでも制さなければならない。

「何をぼさっとしてやがる!ゴゴゴゴラムでダイレクトアタック………念のため言っとくが、ロビンが場にいる限りお前はロビン以外を攻撃できず、効果対象にもとれないぜ。その伏せカードがなんだとしても、それが対象をとる効果ならロビン以外には発動すらできないんだよお!」

 ゴゴゴゴラムが金棒片手に、無防備な翔に殴りかかってくる。だが、いざ叩き付けようと金棒を振り上げた瞬間、その姿がいきなり爆発した。ゴラムだけではない。ターレット・ウォリアーが、そしてスター・ロビンまでもが同時に爆発を起こす。

「な、何をしやがった!」
「これだよ。対象を取らない攻撃反応カード、聖なるバリア-ミラーフォース。これならスター・ロビンの効果に引っかかることもなく発動できて、相手の攻撃表示モンスターを全滅させられるからね」

 逆転に次ぐ逆転。もっとも、ここでただで終わるほどの男ならば、彼にサンダー四天王の座は務まらないのだが。

「ゴゴゴゴラムのモンスター効果発動、このカードが墓地に送られたことでデッキからゴゴゴモンスター1体を墓地に送る。ゴゴゴゴーレムを送ってターンエンドだ」

 翔 LP1700 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:機甲部隊の最前線

 酒田 LP800 手札:1
モンスター:なし
魔法・罠:なし

「僕のターン、来た!ドリルロイドを召喚、そのまま攻撃!」

 両手と鼻がドリル状になったモグラをモチーフにしたと思われるロイドが、3つのドリルを駆使して突っ込んだが、その攻撃はまだ届かない。

「異次元エスパースター・ロビン、正義のヒーローは何度だって立ち上がる!相手のダイレクトアタック時、このカードを守備表示で特殊召喚………スター・ロビンよ永久(とわ)に!」

 異次元エスパースター・ロビン 守1500

「だけどドリルロイドの攻撃力は1600だし、何かしてきてもこのカードには守備モンスターを一方的に効果破壊する効果がある。そのまま攻撃だ!」
「悪いな、これだけじゃねえ!ロビンの効果の発動にチェーンして、手札のバトルフェーダーを発動!直接攻撃宣言時に特殊召喚し、このバトルフェイズは終了だ」

 バトルフェーダー 守0

「そ、そんな」

 翔の残りライフは1700、そしてロビンの攻撃力は3000。もし次のターンに酒田がモンスターを引かなければギリギリ持ちこたえられるが、それでもかなりライフは厳しくなる。モンスターを引いたらその時点でまず間違いなく終了と、翔にとってはかなり勝率の悪い賭けとなってしまった。
 だが、手札のない翔にはどうすることもできない。

「悪いな、俺のターンだ。ドロー!ちっ、闇がいないのに開闢かよ。ったく、運が良かったな。スター・ロビンを攻撃表示にしてドリルロイドに攻撃!ビック・リパンチ!」

 異次元エスパースター・ロビン 攻3000→ドリルロイド 攻1600(破壊)
 翔 LP1700→300

 この瞬間、すでにすべての運命は決していたといえるだろう。バトルの神様は1回のデュエルで何度も何度も微笑んでくれるわけではない、先ほどのターンが酒田にとって最後のチャンスだったのだ。そしてそれを生かしきれなかった場合、待っているのは当然、敗北一直線であると相場が決まっているわけで。

「機甲部隊の最前線の効果で、地属性のエクスプレスロイドをまた召喚!もう一回効果を使って、墓地のサブマリンロイドと今破壊されたドリルロイドを手札に加えるよ」

 エクスプレスロイド 守1600

「チッ……ターンエンドだよ、ターンエンド」

 翔 LP300 手札:3
モンスター:エクスプレスロイド(守)
魔法・罠:機甲部隊の最前線

 酒田 LP800 手札:1
モンスター:異次元エスパースター・ロビン(攻)
      バトルフェーダー(守)
魔法・罠:なし

「僕のターン、ドロー。このカードは………よし、魔法カード発動、パワー・ボンド!この究極の融合カードで、手札のスチーム、ドリル、サブマリンの3体のロイドを融合!現れろ、スーパービークロイド!」

 3体ものモンスターを用いた融合召喚。地上、地中、水中で働く3体の力が1つになり、サブマリンロイドの潜水艦型をベースに巨大化していく。

「なんだ、このモンスター!?」
「僕のエースモンスター、スーパービークロイド-ジャンボドリル!」

 スーパービークロイド-ジャンボドリル 攻3000

「味な真似しやがるぜ。だがな、ロビンが存在する限り相手はロビン以外を攻撃できず、そしてそのモンスターの攻撃力はロビンと全く同じ。それじゃあ攻撃はできねえはずだぜ!」
「ううん。それは違うよ」
「何?」

 スーパービークロイド-ジャンボドリル 攻3000→6000

「こ、攻撃力が……」
「これが、パワー・ボンドの力。このカードで融合された機械族は、攻撃力が元々の数値ぶんアップする!」
「く、くっ…………」
「さっき、火力が足りないとか言ってたよね。だけど、今は僕の火力の方が上!行っけえ、ジャンボドリル!

 スーパービークロイド-ジャンボドリル 攻6000
→異次元エスパースター・ロビン 攻3000(破壊)
 酒田 LP800→0




「ま、負けちまった………やべ、サンダーになんて言ったらいいか」
「今は、僕の質問に答えてもらうよ!」

 半ば呆然と呟く酒田の目の前にずい、と立ちふさがる翔。一瞬視線が辺りをさまよったものの逃げることは無理だと判断したらしく、やむを得ないといった様子でぽつぽつと全てのことを話し始める。最初の内は黙って聞いていた翔だったが、話が進むにつれてみるみるうちに顔色が青くなっていった。そして話がすべて終わったとき、翔は全てを理解した。

「そ、それじゃあ………」
「ああ、そういうことだな。もうほとんどうまくいってるし、最悪ばれても問題ないタイミングだったってわけだ。ま、ばれないに越したことはなかったんだけどな。ハハハハハ」
「は、早くみんなに伝えないと!」

 酒田のことはもう放っておき、一目散に会場めがけて走り出す翔。その後ろ姿を酒田は、くっくっくと笑いながら最後まで見送っていた。










「あー、翔!今までずっと何やってたの!今一番重要なとこなんだよ!」

 どたどたといかにも全速力!といったふうに顔を真っ赤にして走りこんできた翔を見つけ、ついつい声を荒げてしまう。あんまり説教めいたことはやりたくないんだけど、これはいくらなんでも遅すぎる。一食食べて帰ってくるだけなのに、なんでこんなに時間がかかるんだろうか。

「はあ、はあ………そ、そんなことよりみんな!今、今の試合は……!」
「え?まあ、見ての通りこんな感じだけど」

 葵 LP850 手札:1
モンスター:銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトンドラゴン)(攻)
魔法・罠:なし

 天田 LP900 手札:2
モンスター:ハングリーバーガー(攻)
魔法・罠:補給部隊

「……俺のターン、ドロー!ふん、遅いぞ。装備魔法カード、リチュアル・ウェポンを発動。このカードはレベル6以下の儀式モンスターにのみ装備でき、その攻守を1500ポイントアップさせる」

 ハングリーバーガー 攻2000→3500 守1850→3350

 すでに儀式魔人3体の力を得てフィールドを暴れまわっていたハングリーバーガーが包み紙の鎧とポテトの剣を装着し、ますます手が付けられない強さになっていく。対する葵ちゃんも相手の特殊召喚を封じる儀式魔人リリーサーの効果に苦しみながらもなんとかエースの銀河眼召喚に成功したものの、状況はかなり苦しい。負けるな、葵ちゃん。

「ほら、翔も応援しないと」
「そうだドン、丸藤先輩。ここで俺たちが応援しないで、いつやるのかって話ザウルス!」
「これならなんとか………いや、やっぱり駄目だ!清明君、早くこの試合を止めさせて!」
「へっ?」

 まったく、いきなり帰ってきて何言ってんだ翔は。確かに状況は苦しいけど、そうなったからって棄権するのはさすがに卑怯すぎる。どうせ乗りかかった船なんだ、最後まで葵ちゃんを信じるのが筋ってものだろう。

「いいから、早く!訳は全部後で話すッス!」
「うーん、やっぱり昨日からの嫌な予感が消えないなあ、なんだって。ねえ、清明。もしかして、ちゃんと話を聞いた方がいいんじゃないの、だってさ」
「そ、そうっスよ!早くしないと!」

 なんだか妙に焦って早く早くと繰り返すだけの翔に何を感じたのか、夢想まで乗り気になり始める。うーん、そうは言ってもなあ。そうこうしているうちに、試合が動き出した。

「……さらに、悪魔の調理師(デビルズ・コック)を召喚。お前の手札に伏せカードはなく、すでにオネストは墓地。これで終わりだ」

 悪魔の調理師 攻1800

 さすがの葵ちゃんも、もう限界だろうか。銀河眼を打点で上回ったハングリーバーガーの攻撃を回避するには、銀河眼自身の効果を使ってお互いをゲームから除外させるしかない。だが、それをやってしまってはそのあとの悪魔の調理師の攻撃が素通しになる。頼みの綱のオネストも使い切った今、このまま攻撃を待つことしかできない。
 …………棄権、しよっかな。

「先輩、なに考えてんですか?黙って見ててくださいよ」
「あ、聞こえてた?」
「そりゃまあ、あれだけ大声で喋られたら。それに、もう遅いですよ」
「葵ちゃん、それってどういう」

 何がもう遅いのか、と聞こうとした瞬間、こちらを向いて喋っていた葵ちゃんがくるりと前を向き天田に対して声を張る。

「さあ、来なさい!葵流忍法、真正面から迎え撃ちます!」
「……その意気やよし。ハングリーバーガーで銀河眼の光子竜を攻撃、暴飲暴食メタボリック!」
「銀河眼の効果発動、銀河忍法コズミック・ワープ!戦闘を行う相手とこのカードを、ゲームから除外します!」

 2体のモンスターが銀河の隙間に消え、装備する対象のなくなった包み紙とポテトが地面に落ちる。これで葵ちゃんの場にカードはもうないが、天田にはまだ攻撃権のある悪魔の調理師が控えている。ふぅ、と一拍おいたのち、天田が口を開いた。

「……終わりだ。悪魔の調理師で―――――」
「させませんよ?」
「……む?」

 まるで目が笑ってない笑顔を浮かべ、攻撃宣言を遮る葵ちゃん。でも、もうこの状況でできることなんてたかが知れている。確か彼女のデッキにはクリボーは入ってるけどバトルフェーダーや速攻のかかしは入ってないはずだし。

「私は、いえ私たちはこの時をずっと待っていたんですよ………あなたがノース校(あちら)最後の一人です。手札から、ディメンション・ワンダラーの効果発動。銀河眼の光子竜が効果を使った時にこのカードを手札から捨てることで、相手に効果ダメージを与えることができます」
「……なるほど、起死回生の一手というわけか。だが、俺にだって意地がある。ノース校四天王としての意地がな。速攻魔法、神秘の中華なべを発動。自分のモンスター1体をリリースし、その攻撃力か守備力の数値ぶんだけライフを回復する!俺が選択するのは、悪魔の調理師の攻撃力1800だ」

 悪魔の調理師が大鍋を巧みに操り、なにやらいい匂いのする炒め物を作り出す。しかし具材にも焼き色がついてあとは味を整えるだけ、となったあたりで足を滑らせたのか、そのまま本人が鍋の中に吸い込まれてしまった。怖いよ演出!

 天田 LP900→2700

 とはいえ、これで天田のライフは一気に2700まで持ちあがった。いくらダメージが来るのかはわからないけど、まあバーンカードならせいぜい1000ダメージぐらいがいいとこだろう。とはいえ、これで悪魔の調理師の攻撃がなくなったんだから………と、そこまで考えた時、また葵ちゃんが微笑んだ。

「ライフ回復ですか。その程度のライフで逃げようなんて、いくらなんでも虫が良すぎですよ。ディメンション・ワンダラーの効果ダメージは、発動トリガーとなる銀河眼の攻撃力と同じ数値です」
「……馬鹿な!そんな数値のバーンカードが……!」
「3000の効果ダメージ。防げるものなら、防いでみてください」
「は、早くこの試合を中止にしないと!」

 そんなことを言われても、もう遅い。勝敗は既に決したのだ。

 天田 LP2700→0

「……むぅっ!」

 その場に倒れる天田。その様子を見た翔が、絶望したように一言もらす。

「間に合わなかった……これで、ノース校は全員………」
「ねえ翔、さっきからなんなのさ一体。いい加減ちゃんと説明してよ!」

 ただならぬ様子を感じ、いい加減はっきりさせたいと翔の方へ向き直る。睨みつけるように問い詰めた時、葵ちゃんの声がした。

「その必要はありませんよ、せーんぱい。………さあ天田さん、あなたも私たちと共に行きましょう?もう、みんな待ってますよ」

 そう言いつつ、倒れたままの天田に手を差し伸べる。その手を、がっしりと天田が掴んで立ち上がった。

「……無論だ。多少入った時期は遅いが、光の結社(・・・・)のために今からでも全力を尽くさせてもらう」
「え………?」

 はっはっは、ふふふと笑いあう二人。その姿は、とてもとても遠いものに感じられた。 
 

 
後書き
細かなネタバレはまた次回に。 
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