湯の国の至る所で爆音が鳴り響き、建物が陸続と崩壊していく。
上から降り注ぐ瓦礫に逃げまとう人々。もはやパレードどころではなくなっていたのは論を待たない。
「みんな、大丈夫か !」
ヤマトはトランシーバーで班員の安否を確かめる。ほっとしたことに、次々と応答が返ってくる。
「こちらダンテ、爆発に巻き込まれましたが大丈夫です。子供を一人救助しました」
「よくやった ! 後はその子を避難所まで案内してやるんだ」
「わかりました」
ダンテは爆発寸前、子供を抱き抱えていた。爆風で遠くへ吹き飛ばされたが少年は無傷、ダンテは幸いにも軽傷で済んだのであった。
「こちらラオ、俺も爆発に巻き込まれましたが大丈夫だ。今はヤマト先生と一緒に人々の避難を促しているところだぜ」
「十二神体術奥義其之一・
毘羯羅ァ !」
マヤの叫び声と同時に轟音が鳴り響く。
自慢の拳で瓦礫を粉々にし、人々が避難するのを促す。
「キャーッ !」
観光大使、ミスナの上から大量の瓦礫が降り注ぐ。
これらの下敷きになったら当然ただでは済まされない。ミスナはただただしゃがんで頭を抱えることしかできない。暫くして凄まじい音が鳴り響く…。
「オラオラオラオラオラーァッ !」
「火遁・鳳仙火の術 !」
「木遁・木錠壁 !」
マヤは毘羯羅で、ダンテは火遁・鳳仙火で口からホウセンカの美の如く火の玉を複数個掃出し瓦礫を砕く。そしてヤマトは木錠壁で木の壁を展開し、ミスナを瓦礫から守った。コンビ技がうまくいったせいか木錠壁には傷一つついていない。瓦礫を最小限の形に砕いていたこともあるか。
「ミスナさん、大丈夫ですか」
「はい、ありがとうございます。あなたたちはほんっと頼もしい !」
ミスナは笑みを浮かべる。
ダンテとマヤは少し照れていた。自分たちは当たり前の事をやっているだけと思っていたが、それでも人に感謝されるというのは嬉しいという事である。そして、数分が経ってラオも合流する。
「ヤマト先生、人々の避難が終わりました」
「そうか、ラオ、君もよくやった。見知らぬ人(特に女性だけど)との交流に慣れている君だから迅速に時限式起爆札の存在の把握に繋がったと思う」
「いやぁ~、しかし、あの子かわいかったなぁ~。もっとお喋りしたかったなぁ~」
「(…。前言撤回しなきゃいけないのか ?)」
「取り敢えず、ミスナさんを避難させよう」
「ほーぅ、やはりお前らが護衛だったか」
ヤマト達がミスナを避難場所に連れて行こうという時にその男は現れた。
高身長で金髪、更に後ろに茶髪でパーマのかかった少年を連れている男だ。彼らは
二人組で動いているようである。その口ぶりは、一連の出来事は自分たちが関係していると感じさせるようなものであった。
「じゃぁ、こちらも一言言わせてもらおう。『やはり君たちの仕業だったか』」
「なんでこんなことするんです !」
「そーだそーだ ! 女の子がかわいそうだろ !」
「てめーはこんな時でも女のことしか頭にねーのかよ ! まぁ、それはいいとして、てめーらの目的は何だ ?」
四人は二人に問いかけるが、二人は急に印を結び始め、拳を振り上げる。
どうやら質問に答える気はない――――というよりも四人を倒してしまおうと考えているのか…。
「「土遁・土崩れ(つちなだれ) !」」
二人の目の前から大量の土が噴出し、五人に向かって降りかかる。
「皆 ! 高い所に移動するんだ !」
ヤマトがそう指示すると五人は一斉に建物の屋根の上に飛び乗り、二人もそれに合わせて屋根の上に移動。だが、状況は変わっていた。
今、ヤマトの目の前にいるのが金髪の大男であり、ダンテ、ラオ、マヤ、ミスナが対峙するのが茶髪の男であった。
「俺は、こいつを殺る。お前はその三人、否、四人を始末しろ」
「りょーかーい」
「そうか……、さっきの土遁の術は !」
ヤマトは眉間に皺を寄せ、しまったと今にも言いそうである。
先程の二人の術は五人を土の中に埋めるために使ったのではなく、上忍と下忍達を引き離すために行ったのだ。激流の様に迫りくる土から一刻も早く逃れる為には自分のいる位置から最短で飛び乗れる建物の高いところに移動しなければならない。そこを彼らは利用したのだ。
「皆 ! 気をつけろ ! こいつらは只者では、クッ !」
キン ! と甲高い金属音が響く。
金髪の大男はクナイを持ち、ヤマトの頸動脈を狙いに行き、それをヤマトは間一髪のところで右手で持っているクナイで食い止めている。ヤマトも実際只者ではない。暗部時代に数々の修羅場を乗り越えている。とっさの対応にも慣れていた。
「ほーぅ。幾らかはやってくれそうだな…。俺を楽しませてくれよ…… ?」
「楽しませる時間を与えてやるつもりはないけどね」
「んま、悪く思わないでくれよ。これも命令だからさ~」
茶髪の男は懐から千本を取り出し、四人に向かって投げつける。だが、千本はダンテに全て弾かれる。ダンテの両眼は既に写輪眼となっていた。
「(どうしよう……、ミスナさんをこんな危ない戦場に居させる訳にもいかない……)」
「誰か、ミスナさんを安全な場所へ ! 」
「じゃぁ、僕が連れて行こう」
ダンテは戦闘に入る前にミスナのことを心配していたが、ヤマトはちゃんと手を打っていた。目の前に現れたのはヤマトであるが、ヤマトは隣の屋上で金髪の男と戦っているはずである。そう、これはヤマトの木分身である。先程の接近戦で一回敵から離れた後、すぐさま木分身を作っていたのだ。
「みんな、無事でね !」
そう言い残し、ミスナはヤマトにお姫様抱っこされ、その場を去って行った。それを見たラオは羨ましい、もしお姫様抱っこしているのが自分だったらなんて想像を膨らますがそんなことをしている余裕はない。
「あーあ、一人逃しちゃった。まぁいいや。取りあえずは、君たちを始末するね」
茶髪の男は三人に急接近し、素早いスピードで拳をついていく。マヤはそれをかわし、先程の攻撃に負けないくらいのスピードで右拳を茶髪の男向かっていれようとするがすぐにかわされ、左回し蹴りをくらい、数メートル飛ばされる。その後すぐにラオに迫り、鳩尾に拳を入れる。ラオも数メートル吹っ飛ばされ、倒れこんでしまう。カメラを用意する時間などなかった。そしてすぐさまダンテに近づき、右で回し蹴りをするが間一髪のところでダンテはそれを避け、一旦距離をおく。どうやら茶髪の男は体術に精通しているようである。
「へぇ~、君、うちは一族の末裔でしょ。写輪眼って便利だよね~」
「(写輪眼を使ってもギリギリだった……。この人相当強い !)」
茶髪の男の攻撃を避けきれたのはダンテのみであるが、写輪眼がなかったら危なかったところである。一方、茶髪の男は三人を前にしても余裕なのか息切れひとつ見せない。ダンテ達よりも実践慣れしていることが顕著に表れていた。
「さーて、そこの二人が立ち直る前にとどめを刺すか。お前は後回しにしよう。土遁・土針槍(どとん・どしんそう) !」
茶髪の男は土で槍を形作り、穂から針状のものが何本も浮かび出る。敵を八つ裂きにするには最適の武器といったところであろう。
「まずは女、お前からだ」
そういって槍を振り上げ、マヤの体めがけてその矛先が牙をむく。ダンテも茶髪の男向かって阻止しようとするがあと一歩間に合いそうにもなかった。しかし……、
「亜鞍一族なめんなよクソ野郎 ! 十二神体術奥義・其之二 !
招杜羅ァ !」
倒れていたマヤの両腕にオレンジ色のオーラが現出し、そのオーラは虎を形作り、両腕を振って虎を茶髪の男めがけて放つ。一匹虎は吠えながら土針槍を噛砕き、もう一匹は茶髪の男めがけて襲い掛かる。男はなんとかして避けるが鋭い牙が右腕をかすった。
「ちっ、まだこんなもの隠し持っていやがったか」
「今だチャラチャラ野郎 ! 」
「チョリーッス !」
ラオは上空へおもいっきりジャンプし、カメラを構え、茶髪の男を撮影圏内に捕える。男は危機感を感じてかラオの撮影圏内から抜け出そうとする。しかし、一連の流れを見ていたダンテは自分のするべきことが分かっていた。
「火遁・鳳仙花爪紅(かとん・ほうせんかつまべに) !」
そこへダンテは多くの手裏剣を投げ、それに火遁・鳳仙火のように口から炎を手裏剣に向かって吐きだし、炎を纏った手裏剣は男めがけて急接近する。炎の手裏剣は何枚か男に刺さり、さらに炎は服を伝って一気に燃え広がる。
「くぁぁぁぁぁ !」
男は火まみれになり、地面に倒れ伏す。
暫く時間がたってジューと食べ物でいうこんがり焼けあがりましたというような音がして、三人はその男に近寄る。
「どうよ。オレ達の連携プレー。パネエッっしょ」
「フン。チャラチャラ野郎にしては上出来だ。よくダンテの攻撃範囲に誘導してくれたもんだぜ。そしてダンテ、お前、手裏剣術やっぱりうめーな」
「はは……。それはイタチさんに」
三人は初めて敵を倒せた喜びに浸っていたが……
――――――それも束の間だった
「うん。パないね。でもこれで終わりだ。まさか両方の性質変化を使わなくちゃいけなくなるとはね~。これでも『元』中忍なんだけどな~」
三人の背後に、『声』。目の前にあるのはただの土であった。
「んま、こっちをはやく終わらせて兄貴の方へ合流しよ~」
そういって男は顔を歪ませ、不気味な笑みを浮かべながら印を素早く結んでいく。そして、男は大きな声でその術名を口にする。
「泥遁・混凝土(でいとん・コンクリート) !」
男は口からコンクリートを大量に吐き出し、三人にかける。あたりに散らばったコンクリートは徐々に固まり始め、体にかかった部分も固まり始める。その分重量が増すため、三人の動きが段々と鈍くなっていく。かわそうにもかわせない状況へと陥っていったのだ。
「くっ、足が……」
ダンテは両足にコンクリートが付着し固まって動けなくなる。
「ちっ、両腕がいう事きかねェ……」
マヤは両腕にコンクリートが付着。自由に動かせなくなってしまった。
「まじありえねェ~ ! 」
ラオは体の胴体の部分と地面にコンクリートが付着。仰向けになったまま、不自由な状態となってしまった。
「みな、大丈夫か ! くっ !」
「おい、お前の相手は、俺だろうが」
皆の無事を案じるヤマトだが目の前の敵が邪魔で援護しようにも援護できない。
金髪の男も相当のやり手でヤマトも手を焼いていたところである。
「おーい、兄貴~、こいつら始末したら、兄貴のところ援護行くわ~。手こずってるっしょ~ ?」
「ふん、生意気な……。いいからさっさと殺れ」
「はーい。それと、君たち、その驚いている様子だと、チャクラの性質変化を知らないようだね。可哀そうに……。んま、知らなかったのが悪いね。あとそのコンクリート、俺特製でよほどの衝撃や熱を外部から与えない限り壊れもしないし溶けもしないから。んじゃ、そろそろ死んでもらうわ。泥遁・混凝千本(でいとん・コンクリ千本) !」
チャクラの性質変化。泥遁の術。
聞いたことないようなワードに驚きながら三人は相手の強さを悟った。自分たちが攻撃していたのは紛れもなく土遁分身。それはダンテの写輪眼をもってしても見極められない高度なものであった。
泥というからには恐らく相手は水遁系の術も使えるという事である。三人は性質変化という言葉の定義がいまいち掴めないが、相手が土遁と水遁の両方が使えるということはわかっていた。しかし、その考えが今となっては無意味だと三人は半ば諦めていた。目の前にコンクリ製の千本がいくつも迫りくる。内部から何をやってもほぼ無駄であるし、外部から力を加えようにもヤマトは戦闘中であるし、周りには誰もいない。
―――――絶望とはこのことを言うのだろうか
だが、一人、ダンテは昨日の一人の忍の言ったことを思い出す。
―――――俺は仲間を助けられるなら、命をかけてもいいと思っているよ
まさに今がその時じゃないか、ダンテはそう心に言い聞かせ、両目を一旦閉じ、力一杯両目にチャクラを集める。
「おいおいおい、うちはが聞いて呆れるぜ。あきらめて両目を瞑っちゃって」
茶髪の男はもう勝利を確信しきっている。挙句、うちは一族を馬鹿にするようなことまで言ってのけた。だが、それが仇となるとは思ってもいなかっただろう。
「うちはをなめるな……。写輪眼はほぼ全てのことを見抜く。お前は今勝利を確信しきっている。自分の泥遁に隙はなし、そう思っているんだろ ?」
「あったりまえでしょ ! お前たちはもはやコンクリの餌食 ! もうすぐなかなか抜けないいたーいコンクリ千本が何本も突き刺さるのさ ! 」
「はっきりいってやる。お前は僕の『更なる写輪眼』でどうにでもなる」
「面白いこというねぇ~。でももう……… !」
茶髪の男は見てはいけないものを見てしまったかのように口をあんぐり開いている。
―――――これがうちはの力だ
―――――これがお前を破る手段だ
―――――これが仲間を守るために使うべき力だ
「
天火明命 !」
ダンテの右眼からは血涙が出始め暫くしてダンテは両目を思いっきり開く。大きな円形が四つ重っていて、円の途中に車輪のような文様の写輪眼、万華鏡写輪眼は男の全てを見透かしているかのように見つめ続けている。そしてダンテに見つめられたもの全てに黒い炎がつきはじめ、コンクリ千本は三人に届く寸前でドロドロに溶かされる。そして、男にも黒い炎が容赦なく襲うのであった。