狼新聞
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第一章
第一章
狼新聞
新聞社である。しかしであった。
この新聞は新聞を売ることよりもだ。それを利用することだけを考えていた。
社長がだ。自らこう言った。
「いいか、まずはだ」
「はい」
「あれですね」
「そうだ、あれだ」
こう言ってからだった。
「あれを仕掛けるぞ」
「わかりました、それでは」
「この記事については」
「ついてはではないな」
社長はにやりと笑って言った。
「この記事もだな」
「ははは、言われてみればそうですね」
「確かに」
部下は皆社長のその言葉に笑った。そうしてだった。
ある記事が新聞に掲載された。何とサンゴ礁に落書きがしてある。環境破壊を告発する記事だ。
皆それを見て怒った。美しいサンゴ礁にこんなことをする人間がいるのかと。ダイバーやら現地の漁師やらが目の敵にされ新聞のきじは売れ社会に警鐘を鳴らす『良識派』の地位を確固たるものにさせた。しかしであった。
ある頭のいい人物がだ。事実を検証してだ。こう言い出したのだった。
「あれはあの新聞社の自作自演じゃないのか?」
こう主張したのである。
「あの時あそこにはシーズンじゃないからダイバーはいなかったし現地の漁師の人もいなかった筈だ」
「えっ、けれど」
「それでも」
「しかも」
この人物の指摘はさらに続いた。
「その日あの新聞社の記者がわざわざ水中カメラと何か棒みたいなものを持って潜るのを見た人がいるし」
「えっ、それは本当なのか?」
「ひょっとして」
「本当みたいだよ。実際に現地にあの新聞社の記者が入ってるし」
彼の検証はここまで行き届いていた。するとであった。
これまでの環境破壊への怒りは新聞社への疑念に変わっていった。そうしてであった。
疑いを持った者達はさらに検証を続けていく。するとであった。サンゴ礁を傷つけた者はその新聞社の記者その人だとわかったのだった。
真実がわかったその時にだ。これまでの環境破壊への怒りは新聞社の怒りに変わった。皆激怒して新聞社を糾弾した。
「ふざけるな!」
「御前等がやったんだろうが!」
「それをダイバーや現地の人達のせいにするな!」
「そうだ!責任取れ!」
こうした非難と糾弾の声が沸き起こった。しかしであった。
それに対してだ。新聞社はだ。まず記事を捏造した記者を免職にして蜥蜴の尻尾切りをしてからだ。社長が謝罪した。
その謝罪は凄いものだった。手を後ろに組んで出て来てイスに深々と座ってだ。そのうえでの謝罪だった。
皆これに唖然とした。だがこの話はこれで終わらせた。ところがであった。
この新聞社はまたやったのだ。またしてもだった。
過去の戦争である軍人が百人斬りをしたと報道した。しかもこれは敵軍の将兵を斬った話の筈が何故か捕虜や一般市民を虐殺した話になった。
しかもその他にも過去の写真が何故か略奪や蛮行の証拠写真になった。何故か異なる写真で殺されている同一人物がいてもだ。そうした明らかにおかしな写真まで虐殺の証拠写真とされていった。
この百人斬りの軍人の遺族はこれにより家庭が崩壊してしまった。あまりのことにだ。またある人物が検証をはじめたのであった。
今度はだ。日本刀の話だった。
「日本刀は一度の戦闘で百人も斬れない」
この事実から話された。
「それで何で百人斬りができるんだ?」
「そういえばそうだよな」
「しかも作戦を指揮しながら?」
「将校だからそうなる筈なのに」
「一体どんな軍人なんだ」
調べれば調べる程おかしな話だ。そしてだ。
常識から考えて到底有り得ない話という結論に至った。何しろ最後の最後に兜割りまでしているのだ。戦場を戦いながら百人斬りを競いそのうえで剣術の奥義まで出したのだ。剣術を知る者は言った。
「この軍人は恐ろしい達人だ。事実ならば」
こう言ったのである。
「事実とは絶対に思えない」
「そうだよな。荒木又右衛門で三十六人だけれどな」
「あれも創作だしな」
「時代劇とかじゃ刀で突いてるな」
「ああ、そうしてるな」
かなり昔のリアルな時代劇の映像を見ての話だ。
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