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戦国異伝

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第百六十八話 横ぎりその八

 だからだ、信玄の意図を読み取り言うのだ。
「敵はそれぞれ叩くべきじゃからな」
「では、ですな」
「ここは」
「そうじゃ、徳川を誘い出してじゃ」
 そしてだというのだ。
「然るべき場所で叩く」
「そしてその叩き方はですか」
「武田だからこそ」
「うむ、二十四将に真田幸村もおる」
 それならというのだ。
「尚且つ徳川の兵は一万二千」
「武田は四万五千」
「これではですな」
「確実に負ける」
 それが家康の辿る運命だというのだ。
「散々に打ち破られるわ」
「武田が相手ではですか」
「東海一の弓取りといえども」
「勝てぬわ」
「到底ですな」
「どうしても勝てぬ」
 今の徳川ではというのだ。
「徳川家康自身もな」
「危ういですか」
「その首が」
「うむ。しかしじゃ」
 ここでだ、氏康は口調を少し穏やかなものにさせた。そのうえで自身の前にいる二十八将達にこうう言ったのだった。
「徳川家康は生き残るであろうな」
「惨敗してもですか」
「それでもですか」
「うむ、生きることはな」
 それ自体はというのだ。
「出来るであろうな」
「それは何故でしょうか」
 ここで氏康に問うたのは幻庵だ、今も見事な僧衣を着ている。
「徳川殿が敗れても生きられると思う根拠は」
「徳川の者達が守るからじゃ」
「徳川の家臣と兵達がですか」
「徳川家は確かに小さい」
 北条から見てもだ、徳川家は五十万石だ。今戦国にそれぞれ覇を唱える家々と比べると確かに小さい。
 しかしだ、それでもだというのだ。
「だが兵は強くしかも一つにまとまっておる」
「どの家よりもですな」
「主君への忠義は絶対じゃ」
 それが徳川家だというのだ。
「だからじゃ」
「徳川家康はあの者達に守られてですか」
「それで、ですか」
「命は拾う」
「そうなりますか」
「しかも織田家から僅かでも人が来ておりますな」
「はい」
 その通りだとだ、風魔が氏康に畏まって答える。
「飛騨者達が」
「あの一騎当千の忍達がじゃな」
「兵は送れませんでしたが」
 織田家もそこまでの余裕はなかった、必死に兵を集めてそれで三河に向かったからである。
 だが、だ。それでもだったのだ。
「あの者達を送りました」
「左様か。ではな」 
 そのことも聞いてだ、また言う氏康だった。
「余計にじゃ。徳川家康は助かるわ」
「飛騨者達の助けもあってですか」
「うむ、助かる」
 必ずだ、そうなるというのだ。
「徳川家康はな。そしてな」
「そして?」
「そしてとは」
「あの者も傑物じゃ」
 氏康も見抜いていた、家康の資質を。それで今こう言うのだった。 
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