美しき異形達
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第十三話 向日葵の紹介その十五
薙刀をやや下に向けて構えて摺り足で間合いを詰める、その横では。
向日葵がムカデの怪人と戦闘に入っていた、すぐに。
矢を放つ、まずは一発だった。
だが怪人はその矢を右に動いてかわしてだ、こう言ったのだった。
「無駄だ」
「あっさりかわしたわね」
「この程度ではな」
何ともないというのだ。
「俺には当たらない」
「まあ今のは挨拶だからね」
「そちらにしてもか」
「当たるとは思っていなかったわ」
向日葵にしてもというのだ。
「むしろ当たったらびっくりするわ」
「貴様もわかっているのだな」
「闘いはね。さて」
「さて、か」
「あんたの攻撃はどんなものかしら」
「それを見せてやろう」
怪人はこう言ってだった、すると。
その右手にムカデを出してきた、生きているムカデだ。
そのムカデを向日葵に向かって投げてきた、向日葵はそのムカデを矢で落とした。だがそのムカデはというと。
矢にぶつかったところで爆発した、向日葵はその爆発を見て言った。
「毒なんて生易しいものじゃないのね」
「相手に触れるかその近くでな」
「爆発する代物ね」
「生きた、爆発するムカデだ」
それが怪人が今投げたものだというのだ。
「面白いものだろう」
「かなりね、正直どんな構造か知りたい位よ」
「俺の分身の一つだ」
そのムカデは、というのだ。
「この通りな」
「そうなのね」
「そうだ、貴様はこのムカデでだ」
「倒されるっていうのね」
「そうなる、俺によってな」
「面白いわね、けれど」
それでもと言う向日葵だった、弓矢を持ったまま。
「私も生きたいからね」
「だからだな」
「そうよ、あんたに勝つわ」
絶対に、というのだ。
「そうして生き残ってやるわ」
「そう言うと思っていた」
「じゃあね」
「どちらが死ぬかな」
「今からはっきりさせましょう」
こうやり取りをしてだった、そうして。
向日葵とムカデは間合いを保ったまま弓矢と爆弾で攻防を繰り返す、どちらも一歩も引かず互角であった。
だが、だった。ここで。
薊はだ、闘いを見つつこんなことを言った。
「埓が明かないね」
「そうね。今のままではね」
菖蒲も薊のその言葉に応えて言う。
「決着はつかないわ」
「どうしたらいいかね」
「もう向日葵さんも考えていると思うけれど」
闘っている当人が、というのだ。
「弓矢の数は一本とは限らないわ」
「?あたし弓のことはよく知らないけれどな」
「手裏剣にしても」
菖蒲は薊と話しながら菊に顔を向けて言った。
「放つのは一つだけとは決まってないわね」
「投げられるのなら何発でもいいわよ」
菊も実際にそうだとだ、菖蒲に答えた。
「手裏剣って結構重いからあまり沢山同時に投げられないけれどね」
「そうね」
「ああ、つまりはか」
菖蒲と菊のその話を聞いてだ、薊もすぐにわかった。
それでだ、強い顔で頷いて言うのだった。
「弓矢も同時にか」
「放っていいのよ」
「放てればか」
「問題は向日葵さんにそれが出来るか」
「そのことに気付いてか」
「それだけよ」
こう話しつつだ、菖蒲は向日葵の闘いを見守っていた。いざという時は助太刀する覚悟をしていたがそれは他の面々もだ。
向日葵と怪人は弓矢とムカデでの攻防を続けた、だが。
ここでだ、不意にだった。
向日葵は己の弓に矢を二本つがえた、そして。
その矢を同時に放った、するとだった。
一本目の弓矢が怪人が投げたムカデを爆発させてだ、二本目の矢は。
怪人の右胸を貫いた、これで怪人の動きが止まるとだった。
向日葵は今度は三本だった、三本の矢がだった。
それぞれ怪人の額、喉、心臓を貫いた。これでだった。
怪人は三つの急所を貫かれて勝負をつけた、それを見て向日葵は会心の笑顔で言った。
「私の勝ちね」
「矢は一本とは限らない、か」
「そうよ。上手に出来たわね」
「見事な腕だな」
矢は光だ、その光でだ。
怪人は三つの急所を貫かれていた、それで死が近付く中で言うのだった。
「負けだ」
「そのことを認めるのね」
「死ぬのではな」
敗北、それをというのだ。
「その他はない」
「そうね、じゃあ」
「さらばだ、言っておくがだ」
「知っていることは、よね」
「何もない、貴様達が聞きたいことはな」
こう言うのだった、その灰になろうとしている身体で。
「こちらも知らない」
「じゃあ仕方ないわね、これで」
「死なせてもらう」
こう言ってだ、怪人は完全に灰となり散って消えた。闘いに勝った向日葵は会心の笑みから人権な面持ちになり敵の死を見届けた。
第十三話 完
2014・4・9
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