道を外した陰陽師
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第二十八話
「お・・・意外と残ったな。今ので残り二、三人にするつもりだったのに」
一輝がそう言うのを強化してもらった聴力で聞き取りながら、耳を疑いたくなった。
そして・・・
「本当に、意外と残りましたね・・・。私も、二、三人しか残らないと・・・思い、ました」
「私は、今のでゲーム終了も考えたんだけどね~」
そうあっさりと言った二人にも、驚いた。
「・・・一輝は何をしたんだ?」
「ん?簡単なことだよ。ね、みゃんみゃん?」
「はい。・・・ただ、不動金縛りを使っただけ、ですから・・・」
「真言は、」
「カズ君なら、間違いなくいらないかな~」
「手加減も、して・・・ましたし」
そんなことを話している間にも、リタイアしたものは全員屋上に運び込まれていた。
片手間でやって、この早さ・・・弱々しい話し方に似合わない強さだな。
だてに第六席をやっていない、ということか。
「まあでも、いいことだよね。才ある人が多いのは」
「はい。大体・・・一輝さんの一億分の一、くらいでしょうか?」
・・・うん、本当によく分かった。
やっぱり、一輝は・・・席組みは全員が規格外だ。
常識で考えたらダメなんだろうな。
========
手加減したつもりはなかったんだけど、こんなに残ったのか・・・
さすがは名門校、と言うべきなのか。
ここ最近の呪校戦は負けしかないけど、だからと言って実力がないわけじゃないんだな。うんうん。
「「火気将来、火行符、急急如律令!」」
「「水気将来、水行符、急急如律令!」」
と、腕を組んで考え事をしていたら左右から二人一組で行符を放ってきた。
まあ、今ので実力差を判断して二人一組を組んだのは正しい。
けど・・・この偶然は、ダメだろ。もう少し考えて行動しようぜ。
「五行相剋、水剋火」
真上に跳び、水気のコントロールを乗っ取って相剋する。
そのまま、残った水気に木行符を投げ、
「五行相生、水生木」
相生のおかげでほんの少しの呪力で済んだ木気を使って火気を使った二人を拘束。
ついでに、跳んでいる俺に近づいて刀を振り上げている二人も、木気に向けて投げつけて拘束する。
ついでに水気を投げた二人に土気を投げて落とし穴を形成。落ちたところに不動金縛りを使い戦闘不能状態にする。
よし、これで六人。
ほっとけば気絶するまで締め上げるだろうから、術だけ維持して放置。
今使ってる術は木、土、金縛りの三つ。・・・手加減することを考えると、後三つまでかな。
「木生火、は死人が出かねないし・・・これかな」
そう言いながら呪札を九枚取り出し、俺の周りで円を描かせる。
「払い、清めよ」
超基礎、淀みを清める術。いまどき普通より才能があれば幼稚園児でも使える術を使い、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前」
一枚一枚、表に九字を一文字ずつ刻む。
そして裏面に、
「臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・前・行」
古き九字を刻み、そこで三つの術を開放する。
封印、払い、そしてこの三つのつながりを整えるための新しき九字。
結果として起こるのは・・・ここにいる全員の呪力と妖力を、八割払う。
陰陽師と言うのは、卵であろうとプロであろうと、無意識のうちに呪力を、血液のように体中に巡らせている。
だから、その流れを乱されたり量が急に減ったりすると・・・気絶してしまったり、色々な不具合を起こしたりする。
今回はそうならないギリギリの量を払ったので、大丈夫だろうけど。
ゼロになれば死んでしまうため、そうならないように死ぬその瞬間まで使わない呪力が体内にあるくらいなのだ。
このあたりの術は、使うのに少し気を使うんだけど・・・ま、どうとでもなるか。
そして、妖怪はいうまでもなく、なので・・・全員が、倒れた。
ルール通り、特殊なことはしていない。
ただ、基礎的な術を三つ同時に、他のやつらが何かできるより前に素早く使っただけ。それだけで、残り全員戦闘不能。
「ん~・・・有望なものあり。ただし、全員まだまだ、ってとこかな」
「いや、校舎の壁を登りながら冷静に言われても・・・」
屋上についたら、雪姫にそう言われた。
とりあえず、呪力強化した聴覚を戻してやりながら考えてみる。
今やったこと。ただ壁を登っただけ。
「・・・そんなに言われるようなことか、壁登り?」
「どう考えても普通ではないだろう。道具すら使ってないんだから」
「そうか・・・?殺女と美羽はどう思う?」
同意を得られないかと思い、二人にも聞いてみた。
「私、は・・・普通にできます。猫の血が・・・混ざって、ますから」
「私も、普通にできるかな~。よく校舎の壁をよじ登って屋上に入っては、そのたびに怒られてた!」
美羽は遠慮がちに、殺女は楽しい思い出を語るように言ってきた。
「と言うか、ユッキーも出来るんじゃないの?」
「そいういや・・・忍者だしな。俺の部屋にも入ってきたんだし」
ふと、初めてあった日のことを思い出した。
あの時、俺が住んでいたのは最上階。
そこにベランダから入ってきたんだから、そう何だと思ってたんだけど・・・
「・・・あれは、一族で習ったものだ。忍びとしては必要だと言われてな」
「ほら、一族みんなできるんじゃん」
「普通はできないだろ・・・出来るようになるまでに、どれだけかかったか・・・」
そういうものなのかねえ?
少し不思議に思ってから、気絶している集団を校庭に戻してもらい、治癒符をなげて全員起こす。
そして、まだ学校にいる連中にこれから部活動見学を始めるように言って、解散とした。
「ふ~、終わった終わった。たまにはこれくらいのも面白いな~」
「普段はもっと大変なことになるしね。ところで・・・カズ君はこれからどうするの?」
そういや・・・なぜか九時まで帰ってくるの禁止されてたな。
「一つ用事があるから、それを済ませて・・・テキトーにその辺ふらついてる」
「うんうん、存分に遊んできなよ!」
「家に帰ってくるな、って言った本人に許可されることか・・・?」
そう言ってから美羽にお礼を言い、俺は校舎に向けて歩きだす。
一応、待ち合わせの時間はまだ先なんだけど・・・あいつの性格上、そうもいかないだろうし。
急いで向った方がいいか。
========
「遅い」
「いや、まだ時間まで十分以上あるからな・・・」
予想通りと言うかなんというか・・・呆れ四割関心四割懐かしさ二割で返事をしながら部屋に入り、空間に穴をあけてここに置いておくものを取り出して置いていく。
今いる部屋は、在留陰陽師が使う・・・つまりは、俺の個室だ。
学校内で二番目に広い部屋となっている。まあ、一番でかい職員室と大差ないんだけど。
で、テレビとか冷蔵庫とか電子レンジとかを置いてからお茶を淹れて、待ち人の前に出す。
対面する側に俺の分も置いて、テーブルにお茶菓子を置いたところで、
「・・・相変わらずの何でもありね」
そう、言われた。
そのままカップをとって一口飲み、驚いたように目を見開いた。
「そうか?あのころよりも何でもアリになった自信はあるんだけど」
「確かにそうね。ええ、もう何が起こってもおかしくないんじゃないかしら?」
「何でもはできないな。限りなく近いことはできるかもしれないけど」
懐かしいテンポでの会話をして、どちらからということもなく笑い始める。
そして、ある程度おさまったところで俺から話を切り出す。
「まず、お前が聞きたいことを話すにはいくつかの国家機密に触れる危険がある。だから、この部屋を結界で覆うことになるし、他言無用の呪いを受けてもらわないといけない。それでもいいか?」
「別にいいわよ、それくらい。こんな中途半端なままだと色々と気になって仕方ないし」
了解を得られたので、呪札を取り出して呪いをかける。
ついでに式神を一体展開してかけ札を相談中に代えさせて、そのまま結界を張る。
「それで、カズ・・・鬼道一輝なのよね?」
「今は寺西だけどな、ラッちゃん・・・伊達凉嵐」
その瞬間に伸びてきた手を、俺はよけた。
「その呼び方すんなって、もう何回目!?」
「まあまあ、いいじゃねえかラッちゃん。可愛いあだ名だと思うぜ?」
「ほんの少しでも名前の原型が残ってれば受け入れるわよ!でも、原型どこにもないじゃない!」
「でも、泳ぐの好きだろ?」
「確かにそうだけど!」
うんうん、このやり取りも本当に懐かしいな。
ラッちゃんは、名前の通りイタチの妖怪だ。正確には、母親がイタチの妖怪で父親はイタチのクオーター。
結果として、八分の三人間、残りは人間と言う何とも言い難い血の引き方をしている。
「はぁ・・・じゃあ、ちゃんと話してもらうわよ?」
「OK。とりあえず、ラッちゃんはどこまで知ってるんだ?」
「だから、その呼び方するなって・・・まあいいわ。そうね・・・知ってるのは、霊獣白澤が率いていた妖怪の群れによって、本家分家がすべて同時に襲撃を受け、鬼道の血は全滅した、って感じかしら?」
「つまり、一般的に広まってるのそのままだ、と」
光也のやつ、中々に丁寧な仕事をしたみたいだな。
さて、どこまで話すか・・・
「あ、それとその白澤については席組みが退治した、とも聞いてるわ」
「あー・・・それについては事実だな」
畜生、中途半端に誤魔化しにくい・・・
「それで?何でカズは生きてるのかしら?」
「そうだな・・・とりあえず、うちが本家分家関係なく妖怪の群れに襲われたのは事実だ」
んで、今の地位とあわせて考えると・・
「んでもって、俺と湖札以外は全員殺された」
「・・・湖札ちゃんは、外国を回ってるから分かるとして・・・アンタは?」
「・・・全部、殺した」
その瞬間にラッちゃんがカップを落としそうになったので、手を伸ばして受け止めてからテーブルに戻す。
「話を戻しても?」
「・・・ええ、お願い」
「じゃあ・・・まず、家に帰ったら大量の妖怪がいて、家族を皆殺されたからぶちギレて殺しつくした。分家の方に行ってたやつらも来たから、それも殺した」
「・・・大概、規格外ね」
「自覚はしてるよ。そうでもなけりゃ、第十五位にはなれない。・・・で、白澤にも何も考えずに立ち向かって、気づいたら今の席組みの一人が殺してた」
うん、嘘はついていない。
間違いなく、どんどん来る妖怪を片っ端から殺していったのは俺だし、白澤を殺したのも今の席組みの第三席が殺した。
だから嘘はついてない。心は痛まない。うん、オッケー。
「・・・運がよかったわね」
「まあ、そうだな。運は良かった」
「それで?今の立場になったいきさつは?」
「まず・・・まだ俺が奥義を体現できてなかったから、鬼道の一族は一時的に滅ぶことになる。んで、うちはあんまり評判が良くないからな・・・」
「そうでもないでしょ。鬼道の一族を本当に忌み嫌ってるのなんて、もう何十年も前じゃない」
「だとしても、まだ心の底から嫌ってるやつらはいるからな」
そんな奴らに知られたら、まず間違いなく俺が襲われる。
「そういうわけで、鬼道の一族は全滅したことになったんだよ」
「自由にしていられるのは?」
「後見人が光也で、俺に実力があったおかげで中々に自由にさせてもらってる。まあ、殺女のパートナーをする、って条件のもとだけど」
と、ここまでどうにか話してからリラックスをするためにお茶を一口飲み、ラッちゃんに視線を向ける。
とりあえず、納得はしてくれたようだ。うんうん、良かった。
「とりあえず、納得したわ。もう一度聞くけど、カズなのよね?」
「ああ。ラッちゃんの・・・伊達凉嵐の幼馴染、一輝ですよ」
「そう・・・・うん、結局はそれさえ分かればよかったのよ。本当に・・・」
そう言いながらうつむいたラッちゃんを見て、少し心が痛むのを感じて・・・
「うん、とりあえず一発殴らせて」
「いや、わけが分からん」
謎すぎる発言をしてきた。
それどころか、立ち上がって逃げ出した俺を追いかけ始める。
「アンタねぇ・・・!人がどれだけ・・・!」
「待て!その先を言われないと俺には何にも分からん!」
殴られたくないのでわりと本気で逃げていたのだが、まあそこはさすがイタチ。
脚の速さではなくその技術で追いつかれ、床に押し倒された。
「イッツ・・・なあ、ラッちゃん、」
「人が、どんだけ・・・」
・・・ああ、うん。
またやっちまったみたいだな、俺は。
「人がどんだけ、心配したと」
「・・・ゴメン」
いつもいつも、俺が何かすると心配して、こんな顔をしてたなぁ・・・
そう、ラッちゃんの泣き顔を少し懐かしく感じて、同時に心苦しく思ってから・・・
そのころと同じように胸を貸して、ぽかぽかと殴られるのを受け入れながらそっと抱き締めた。
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