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大きな古時計

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第二章


第二章

「ひい爺ちゃんが死んでまだ一週間だよな」
「ええ、そうよ」
 少女が兄に対して答えた。
「お通夜も告別式も終わったけれどね」
「死んだ時のこと覚えているかしら」
「ああ」
 息子が妻の言葉に頷いた。
「一週間前の十二時だったな」
「夜のね」
「見て」
 ここで孫娘が時計を指差した。
「時計の時刻。その時のままよ」
「あっ、本当だ」
 少年がそれを見て思わず声をあげた。
「あの時の時間で止まってるんだ」
「そうね」
「何かそれを見てると」
 また少女が言った。
「不思議ね。この時計って本当にひいお爺ちゃんと一緒だったのね」
「生きる時も死ぬ時も」
 青年の言葉だ。
「ずっと一緒だったんだな」
「そうね。ずっとね」
「なあ」
 老人が皆に声をかけてきた。
「何?」
「どうする?」
 こう皆に対して問うたのだった。
「この時計」
「どうするって」
「もう動かないんだよ」
 時計を見上げつつ皆に再び問う。
「二度と。百年も動いてきたから」
「百年も動いたから」
「そう、寿命なんだよ」
 この言葉の間も時計を見ているのである。
「寿命で。二度と動かないんだ」
「そう。二度となのね」
「うん」
 孫娘である少女の言葉に頷いた。
「絶対にね。何もかもが寿命で」
「そうなの。ひいお爺ちゃんと一緒なのね」
「だから。時計としてはもう駄目なんだよ」
 このことが重ね重ね告げられる。まるで皆の心に刻み込むかのように。
「動くことはないんだ。永遠にね」
「それじゃあ」
「動かない時計は意味がないわね」
 老女が言った。
「だって。時間を知らせるものだからそれが動かなくなったら」
「その通りだ」
 孫息子もそれに賛同した。
「飾っていても仕方がないよな。動かない時計は」
「それじゃあ」
「待って」
 老人が結論を出そうとしたその時だった。ここで少女が言ったのだった。
「捨てるの?」
「だって。動かないんだよ」
 孫息子は己の娘に顔を向けて説明した。
「それだったらもう置いておいても意味ないじゃないか」
「そうだよな。それだったら」
「けれどよ」
 兄も賛成していたが彼女はそれでもここであえて言うのだった。
「この時計はひいお爺ちゃんと一緒にこの家に来たのよね」
「ああ」
「だったら。ひいお爺ちゃんと一緒じゃない」
 彼女の言葉はこうだった。
「ひいお爺ちゃんと。違うかしら」
「ひいお爺ちゃんと?」
「そうよ」
 兄に対して答えた。
「ひいお爺ちゃんとね。だから」
「捨てないでおくというのか」
「確かにこの時計は動かないわ」
 これは彼女も認めるところだった。
「けれど」
「けれど?」
「ひいお爺ちゃんと一緒なのよ」
 このことをまた言うのだった。
「だから。これを捨てるのは」
「嫌なのね」
「時計なら一杯あるじゃない」
 少女は今度はこのことを皆に告げた。
「皆が困らない位の数が。だから」
「この時計が動かなくてもいいというのね」
「ええ」
 自分の祖母に述べた言葉だ。彼女は今家族の皆を説得にかかっていた。
「一個位動かなくなった時計があってもいいじゃない。それに」
「そこから先はわかったよ」
 兄は苦笑いを浮かべて妹に答えた。
「この時計はひい爺ちゃんだからだよな」
「駄目かしら」
「そうだな」
 彼はここでは一旦自分の意見を止めた。
 
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