FAIRY TAIL 星と影と……(凍結)
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悪魔の島編
EP.15 覚悟
前書き
10ヶ月ぶりですが、まず一言。
まじすんませんでしたm(_ _)m
色々あって遅れましたが、これからも見てやるぜっていう方、これからもよろしくお願いします。
「しかし、ウルか……」
先に島民の宿営地を出たグレイに追いついた一行が遺跡を目指して走る中、最初に口を開いたのはワタルだった。
口にしたのは目下の問題である、封印された悪魔・デリオラや、その封印を解こうとしているグレイの兄弟子・リオンではなく、彼らの師・ウル。
既知の相手かのように師の名を口にしたワタルに、当然グレイは疑問を抱き、走りながら彼を問いただす。
「ウルを知ってるのか、ワタル?」
「知り合いって訳でも、大して知ってる訳でもないけどな」
昔の事だから思い出すのに時間が掛かっちまったが、と続け、ワタルは眉間に皺を寄せながら、ゆっくりと口を開いた。
「確か……十年近く前、北の大陸で見たある雑誌に、聖十大魔導候補として名前が挙がってた記憶がある」
「聖十大魔導だって!?」
「聖十って……なに?」
妖精の尻尾に入る前なのはもちろん、エルザと出会う前の旅で見た記事。普通なら忘却の彼方に追いやられているが、ある単語がワタルの記憶にその記事の存在を留まらせていた。
その単語……『聖十』にハッピーが驚き、ルーシィは疑問を口にする。
それに答えたのはハッピーだ。
「ルーシィ知らないの?聖十大魔導っていうのは、大陸で最も優れた魔導士十人に送られる称号の事だよ!」
「へぇー、凄いのね、ウルって人……」
「ヘッ……」
「(聖十、か……)」
感嘆したルーシィの声に、決戦を前に険しい顔をしていたグレイも顔を僅かに和らげる。師を褒められて悪い気はしないのだろう。
一方でエルザは聖十の話題に、一見しただけでは分からないほどではあるが顔を顰める。
そんな彼女の様子を横目で見ながらワタルは話を続けた。
「(ジークレインの事でも考えてんのかね。まあ、奴の事も気になるが……)重要なのはそこじゃない。その記事の最後には、ウルは……確か、ブラーゴという地方で失踪したとあったんだが……なるほど、絶対氷結、か」
「ああ――」
絶対氷結。
いかなる爆炎もその融解を許さない、文字通り融けない氷でもって対象を封じ込める氷属性の最強魔法。その実体は、術者の肉体を永遠に氷へと変換する魔法である。それは厳密な『死』ではないとはいえ、術者の身を滅ぼす魔法と言っても過言ではない。
グレイが一行に、自らの過去と共にその説明をしている間、ワタルは別の事を考えていた。
「(デリオラ、厄災の悪魔、不死身の悪魔……なにより、候補とはいえ、聖十に抜擢されるほどの魔導士が絶対氷結を、最後の手段を使わざるを得ない程の悪魔か)」
「? どうした、ワタル?」
走りながらも、黙ってしまったワタルに違和感を最初に抱いたのはやはりと言うべきか、エルザだった。
ワタルは目を瞬かせ、グレイの話を聞きながらも自分の変調に気付いた彼女に感心した。それと共に、最も長い時間を共にしてきた相手とはいえ、自分の様子を気取られた事に対して自らを戒めながらも、ワタルは応える。
「(気を抜きすぎたか、それともこいつが成長したのか……)いや、なんでもない。ただのS級クエストで終わって欲しいもんだって思っただけさ」
「あ、オイラ知ってるよ。そういうの、フラグっていうんだよね」
ハッピーに応える者はいなかった。
いや、何もツッコミがすべって場の空気が凍りついてしまった訳では無い。目的地である遺跡を目の前にした彼らが、その非常識な光景に対して絶句していたからだ。
「……遺跡が傾いて……る?」
「どうなってんだ―!?」
我に返ったルーシィが呟き、ハッピーが仰天する。
そう。一行の目的地であり、零帝・リオンの本拠地であり、デリオラの封印が解かれようとしている遺跡が斜めに、傾いていたのだ。
下手人に心当たりがある……むしろ、アイツしか居ねえとばかりに、ワタルは頭を抱えた。
「何してくれてんだアイツは……!?」
「ああ。だが、狙ったのか偶然か……これで月の光はデリオラに当たらねえ」
「そういう事じゃないんだよ、グレイ!」
遺跡を通して地下のデリオラに月の光を当てる。これを阻止するために、この場に居ないナツは自分の力を存分に振るって遺跡を傾かせた。
確かに、あれだけ傾けば光はデリオラには届かないだろう。それだけなら万々歳だ……この遺跡が古い、という事を無視すれば。
古い遺跡は当然ながら脆い。そんな遺跡の柱……あれだけ傾いているという事は、基礎となっている柱を多数破壊したであろうことは想像に難くない。
つまり、あの遺跡はいつ崩れてもおかしくない、という訳だ。
「いつも物ぶっ壊しまくってるから、そういう事に気が回らないんだよ、あの馬鹿は……!」
「ちょ……じゃあ、どうするのよ!?」
「地下なら崩れても多少は安全だろうが……チッ」
崩壊の危険の説明を聞いて慌てるルーシィ。彼女に対してワタルは口を開いたのだが、周りを取り囲むような気配を察知した。苛立ちから舌打ちが漏れたのと、周りの茂みが音を立てたのはほぼ同時だった。
「誰かいるな……」
「ああ。ったく、この忙しい時に……」
ガサガサと、歯が擦れ合う音と共に、現れたのは……
「見つけたぞ、妖精の尻尾!」
「うわっ!?」
「変なのがいっぱいだ!」
剣や斧で武装した、目の部分だけ空いた覆面とローブの怪しさ満点の集団。その風貌の異様さと、現れた数が多さからか、ルーシィとハッピーがたじろぐ。
そんな彼らをよそに、ワタルとエルザは油断なく集団に目をやる。
「こいつらは……零帝の手下か」
「それ以外だったら驚きだな。……グレイ、お前は先に行け」
「ここは私たちに任せろ。リオンとの決着をつけてこい」
「ああ……!」
ワタルとエルザの背中を押す声にグレイは頷き、駆け出すが……ワタルはその背中へ、さらに言葉を掛ける。
「戻ったら説教だからな……必ず帰って来いよ」
「! ……ったく、勘弁してほしいぜ。……わかったよ」
念を押すワタルの言葉に、グレイはピクリと肩を震わせると、肩を竦めながら答えた。……背中を向きながらだが。
その姿に一抹の不安を感じ取ったワタルはエルザ達と背中合わせに立ち、武装集団に向かって武器を構えた。
「……見たところ素人ばかりのようだが、時間を掛ける訳にもいかないんでね。速攻で決めさせてもらうぞ」
遺跡の崩壊の危険と先のグレイの態度に対する不安から、ワタルは宣戦布告と共に、エルザと共に武装集団に身を躍らせ、ルーシィとハッピーは迎撃の体勢をとった。
= = =
大人ぶってすかした奴。
それがグレイの、ワタルに対する印象だった。
「(もう8年になるのか)」
グレイはワタルがエルザと共に妖精の尻尾の一員となった時の事を、走りながら思い返す。
妖精の尻尾に入って初めての後輩魔導士。
ワタルに関しては魔導士としての経験は彼の方が断然上であったが、それでも初めての後輩、それも年の近い彼らの加入に、当時10歳であったグレイは心躍らせた。気恥しくてそれを口にする事は無かったが。
エルザの方はすんなり加入が認められた。
だが、ワタルが自身の姓を口にすると、周りの大人たちだけでなく、いつもは温厚なマスターまでもが顔を顰め、雰囲気を険しくさせたのは今でもはっきりと覚えている。
『ギルドの仲間とは家族であり、身寄りの無いガキどもにとっては家でもある』
ウルの言葉を信じて妖精の尻尾にたどり着いたグレイがマスターに掛けられた言葉だ。師を失い、兄弟子とも決別して――妖精の尻尾に着くまでの短い間とはいえ――孤独だったグレイにとって、マカロフの温かい言葉や周りの大人たちの歓迎は心に沁みた。
そんなマスターや大人たちの、明らかに訳有りであろうワタルへの対応はとても友好的な物とは言えず、険悪ですらあった。
子供ながら、いや、子供だったからこそ、周りのそんな雰囲気を直感的に感じ取ったグレイ。
それが『何故』なのかを考えなかったのもまた、グレイが幼かった故だったが……当時のグレイにとって、そんな事は重要ではなかった。
挨拶を終えたワタルに対して、グレイが勝負を挑んだのは、そこが理由だ。
『周りが新入りに対して否定的なら、先輩である自分が親身になってやろう』
彼らが入るまで、ギルドで一番の新米だった当時のグレイは先輩風を吹かせようと、そんな事を考えたのだ。
それに、腹が立ったという事もあった。
周囲の否定的な視線を受けてなお、ワタルの表情に苦痛と言った感情は見られず、それを受け入れる諦観のようなものすら感じられた。
否定されて当たり前だと言わんばかりの、ワタルの冷めた雰囲気を感じたグレイは苛立った。
『どんな事情があるのか知らないが、妖精の尻尾を嘗めるな』
一度受け入れた『仲間』を簡単に否定するほど、このギルドは薄情でも弱くも無い。
そんな思いを胸に、ギルドの奥でマカロフに何か言われたのか、幾らかマシと言える顔つきになった――それでもまだ陰りがある雰囲気の――ワタルに勝負を挑んだのだ。
それを言葉にして伝えられるほど器用な性格ではなかったし、単純に新入りの力量に興味があった、という理由もあった事は否定しない。男子の性というヤツだ
まあ、結果は手加減され、ボロ負けもいいとこだった訳だが。
それでも、模擬戦で自分の力を示したワタルはギルド内で孤立することなく、嘗ての自分がそうであったように、時間と共にギルドのメンバーとして馴染んでいったワタルを見て、立ち上がった甲斐があったものだと、ホッとした。
当然、彼らの1年後に入ったナツ程オープンではないものの、いつか彼らを超えてやろうという思いは、しっかりとグレイの胸に燃えている。負けっぱなしは気に食わないのもまた、男子の性だろう。
「(でもその前に……)止められるのはオレしか居ないしな」
過去に思いを馳せるのを打ち切り、グレイは見知った魔力のぶつかり合いをすぐそばまで感じられるところで足を止めた。
リオンの魔法であろう氷に遮られていても、グレイははっきりとナツとリオンの魔力を感じ取り、氷に手を当てて自分の魔力を侵食させた。
「(悪いな、ワタル。戻るって約束……守れないかもな)」
それでも、自分とずっと競い合ってきたライバルである桜色の髪の少年であろうと、これだけは他人に譲る訳にはいかない。
グレイの魔力がリオンの氷に干渉して、流し込んだ箇所からピキピキと音を立てて亀裂が入る。
これはグレイの清算すべき罪であり、果たさなければならない責任であり、決めた覚悟であった。
亀裂はどんどん大きくなり、壁を挟んで反対側のナツとリオンは戦いの手を止め、何事かと亀裂に目を向ける。
そして……
パリィン!!
大きな音と共に氷が砕け、グレイはナツ、そしてリオンと再び相対した。
「ナツ……コイツとのケジメはオレにつけさせてくれ」
「……テメェ一回負けてんじゃねーか!」
グレイがナツとリオンの間に割って入り、少し呆気にとられたものの、ナツはグレイの言葉に顔を顰めて返す。
戦っていた獲物をよこせという、ナツの嫌いそうな事だ。グレイには予想通りの反応だった。
予想通り過ぎて笑みすら出てきそうだ。これが最期かもしれないのに。
「……次はねえからよ。これで最後だ」
グレイの真剣な表情と声音に黙ったナツ。
彼が自分の頼みを了承してくれたものと解釈して、グレイはリオンに向き直る。
「大した自信だな」
「……10年前のあの時、ウルが『死んだ』のはオレのせいだ」
一度完封した弟弟子が何を言い出すのかと呆れ、せせら笑うリオンに対し、グレイはあくまで冷静に言葉を紡ぐ。
兄弟子の神聖な目標を奪うきっかけを作ってしまった自分の罪を。
「だが、仲間をキズつけ、村を消し……あの氷を、デリオラを解き放とうとするお前だけは許さねえ」
肉体の消滅と引き換えに、デリオラを封じたウルの弟子としての責任を。
「共に罰を受けるんだ、リオン……!」
命を懸けてでも、弟弟子として兄弟子を止めるという覚悟を。
「それは……!?」
手を水平にしてクロスさせた構えはウルの弟子であった二人にとっては因縁深い構え。
今この瞬間も、氷となったウルが不死の悪魔・デリオラを封じている絶対氷結魔法。
余裕の表情を凍りつかせたリオンは、焦りの表情を浮かべてその名を口にする。
「絶対氷結!?」
「選ぶんだ、リオン。共に死ぬか……生きるかだ!!」
睨むリオンに臆することなく、自分の命を賭け金にしたグレイの覚悟が、凍りついた部屋に木霊した。
= = =
一方、遺跡の外。
襲い掛かってきた50人ほどの武装集団に躍りかかったワタルは、当て身や手刀、側頭部への蹴りなどの、魔法武器を使わない体術で敵の数を減らし、攪乱していた。
だが、感じられる力が数の割に弱い事をすぐに感知し、暴れるのを中断してルーシィ達の元に戻る。
「(やはり上空の膜のせいか……感知がいつもより鈍いな)ひぃ、ふぅ、みぃ……まともな魔導士は5人ってとこか」
島上空に存在する魔力の膜が、感知をジャミングしていたため気付くのが遅れたワタルはと内心で舌打ちし、エルザに迎撃を任せると、目を閉じ、右手の人差し指と中指だけを立てた。忍者の印のようなその構えはワタルが集中する時の構えだ。
いつもならこの程度であれば、意識を少し傾けるだけで周りを把握できるワタルだったが、月の雫によってできた膜に覆われたこの島は、魔力に敏感なワタルには大都市の雑踏音の中に放り込まれたようなものであった。
遺跡崩落の可能性から、急いでいたワタルが戦闘を中断してまで感知に集中したのは、魔導士とそうでない者の魔力に対する耐性の違いがあるからである。
魔法を使うから当然なのだが、魔導士は一般人より魔力の耐性が高い……というより、一般人のそれは皆無に近い。空気中に含まれるエーテルナノ程度なら誤差の範囲だが、耐性の低い者は魔法攻撃をぶつけられれば炎や電撃、氷といったダメージ以外にも、魔法に含まれるエーテルナノが中毒を起こし、本当に最悪の場合は死に至る事がある。
ワタルが魔法を使わなかった理由も、そこにあった。直接魔力を打ち込むワタルの“魂威”は、例え僅かな魔力であっても、魔導士でない者にとっては致命傷になり得るほど危険なものなのだ。
閑話休題
しかし、そこは感知能力に長けたワタル。意識を周辺のみに集中する事によって、数秒で魔導士の魔力の数と位置を特定すると、考える時間も惜しいとばかりにルーシィとエルザに指示を出す。
「(全員を相手するのも面倒だしな……)エルザは2人、右手の剣を持った奴とその奥の杖持ちを。残りの3人は俺がやる」
「ああ、任せろ」
エルザの返答を待つのもそこそこに、ワタルは忍者刀を換装。身体能力を活性化させ、再び集団の中に飛び込んだ。
先程までのような、注目を集めるための大雑把な立ち回りではなく、狙いを定めた肉食獣の如き動きで、ワタルは一番奥の魔導士に接近する。
「フッ!」
「ウグッ!?」
息を短く一気に吐き、対象の後方まで木々の間を縫うように回り込み、後頭部に一撃。獲物に選ばれた哀れな覆面の魔導士は短いうめき声と共に崩れ落ちた。
その音で、ワタルが自分たちの後ろに移動していた事に気付いた襲撃者たちは戦慄した。気絶した魔導士の近くにいた者でさえワタルの接近には気付けず、急に現れたように見えたワタルに向かって襲い掛かった者もいたが、ワタルはそれを無視して鎖鎌に換装して両方の鎌を投擲し、鎖を持ち操作する。
「なっ!?」
「うわ!?」
切り札である仲間の魔導士の1人が呆気なくやられ、動揺も抜けきらない中、残った魔導士2人の腕に鎖が巻き付く。
ついでに魔力による操作で、鎌を鎖の間に差し込むように固定する。
「そらよっ!!」
鎖を引っ張れば、当然2人の魔導士の身体は宙を舞う。ワタルは鎖を魔力で操り、何人か巻き込みながら魔導士達の身体を激突させた。
「(……よし、終わったな。エルザの方は――)……わーお」
魔力の弱体化から2人の気絶を確認したワタルはエルザの方に意識を向けると、ワタルは感心の声を漏らす。
任せた2人の内、杖を持った方は既に切り伏せられ、残る1人も丁度今、切り掛かろうとしたところを逆に懐に潜り込まれ、槍の石突で鳩尾を突かれ悶絶したところだった。
長い得物を持つエルザに対し、極至近距離で戦おうとした敵の魔導士の判断は正しかったが、それは彼女の罠。長い槍という取り回しの悪い得物をこれ見よがしに振って敵に印象付け接近を誘い、まんまと飛び込んできた敵に対し逆に飛び込むことで意表を突いたのだ。
「流石だな。……さて、まだやるかい? 頼みの綱はもう切れてるぞ」
舞うように、妖精女王の名に恥じぬ動きで敵を仕留めてみせたエルザに賞賛を贈ると、ワタルは襲撃者たちの首領格に向き直った。
この世界では魔法を使えるものと使えない者の戦闘力の差はとても大きい。傭兵ギルドやトレジャーハンターギルドなど、武力を持つ集団は存在するが、一番強力なのは魔導士ギルドだ。
魔導士の絶対数が世界の1割と少ないにもかかわらず、王国軍に魔法部隊があり、評議会の一番の悩みの種となっているのが魔導士の闇ギルドであることからも、魔法の強大さが分かるだろう。
敵魔導士のみを狙い、その撃破に無傷で成功した事で力の差を見せつけ、降伏を促すワタル。
味方の魔導士をあっさり倒した者たちに、魔法を使えない自分たちが敵うはずがない。
そんな心理を利用して一気に突破しようしたのだが……
「ま、待て……零帝様の邪魔は、させん……」
呻き声と共に武器を頼りなく構える老婆が1人。
だが、戦闘中に覆面がはがれて露わになったその目は爛々と輝き、並々ならぬ感情を秘めていた。
老婆の声に触発されたのか、ワタル達の力を目の当たりにして戦意を失いつつあった者たちも各々に武器を構え直す。
「(こいつら……)」
そんな彼らを見て、ワタルは眉を潜め、注意深く観察する。
一度折れた心を持ち直すのは簡単な事ではない。ましてや、見た限り彼らは戦いに関しては素人だ。
そんな彼らが、一度降伏しそうになった心を奮い立たせ、再び立ちふさがる。
それは何故か。彼らの目の中にある感情は何なのか。何が彼らをそうさせるのか。
時間が無い事よりも、その興味が勝ったワタルはそんな事に頭を回しながら、視界に入ったある物を見る。それが何なのか、思い出したのと同時に、同じ事に気付いたエルザが口を開いた。
「その髪飾り……貴様ら、ブラーゴの民か」
「ブラーゴ? ブラーゴって確か……」
老婆の特徴的な髪飾りを民族衣装としていた北の地方の名前は、ルーシィにも聞き覚えのあるものだった。
デリオラが最後に暴れ、最期はウルに封印された町。グレイの話にも出てきた街の名前だ。
「なるほど……訳有りか?」
「ぐ……ああ。私たちは――――」
ワタルに指摘された老婆は顔を歪めると、自分たちの事情について話し始めた。
ワタル達が彼女の話に耳を傾けようとしたその時だ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………
突如として地鳴りが鳴り響き、地面が揺れ始めた。
「何の音だ?」
「地震? まさか、デリオラが!?」
「いや、これは……」
動揺する一同をよそに、ワタルは遺跡の方に振り返った。
「……そんな……」
ルーシィが呆然と呟くのも無理はないだろう。彼女の知識では、それはまさに有り得ない事だった。
ナツの破壊行為によって傾いていた遺跡が、何事も無かったかのように平然と、悠然として佇んでいたのだ。
後書き
久々の投稿のくせにほとんど話が進んでないorz
まあ、オリ主の設定とかいろいろ考えていたせいなんですけどね。
マガジンの方で、関する重要なことが公開されましたが、この話ではあんまり関係ないかな。
感想、意見などありましたら、お願いします。
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