戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE18 聖剣
~PM 15:00 特異災害対策機動部二課~
聖遺物というものは世界各国に存在する。その保存状況は様々で、欠片しかないものもあれば雄樹のアマダムやネフシュタンの鎧のように完全な状態で保存されているものもある。それらは完全聖遺物といい、一度発動すればシンフォギアのように歌によるエネルギー波を介することなく常時発動を保っていることが可能である。だがそれだけに扱いもデリケートで暴走などしようものならとても手が付けられるような代物ではない。古来の文献でも完全聖遺物の暴走で滅んだ文明もあればその力のおかげで救われたという事実も少なくはない。
現在、ここ機動部二課には三つの完全聖遺物が存在する。一つはアマダム。これは雄樹の体内にある為取り出すことは不可能。そして、現在もう一つ。かつてEU連合の経済破綻に伴い、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府にもたらされた経緯があり、 現在は私立リディアン音楽院の遥か地下1800mの最下層「アビス」にて厳重に保管されている完全聖遺物――――名はデュランダル。剣の型をしたくすんだ色のしているそれは現在狙われている聖遺物だ。今回、その事実が判明したため場所を移すという作戦が弦十郎から言い渡されている。
それから、三つ目。九郎ヶ丘から発掘された新たな完全聖遺物。これは石像のようなもので、形は大きなクワガタを模様している。内部よりアマダムと同じ反応が検出されているらしいが詳しいことは未だわかっていない。これも作戦に入るかに見えたがなにもわかっていない以上、使用方法もわからないため今回の作戦からは外されている。
「はぁ・・・・なんか疲れたなぁ・・・・」
がっくりと肩を落とす響をみて苦笑しながらエレベーターに乗る。
「俺も結構わからないこといっぱいあったからね、今回。というか了子さんいつのまにまた一人で発掘行ってたんだろ。俺も行きたかったのに・・・・」
不満を漏らす雄樹に今度は響が苦笑する。
「ユウ兄はホントに冒険すきなんだね」
「うん、これは父さん譲りかな。あっちこっちいろんな国まわったりしてたし、その影響かも」
と、響は先日みゆきから聞かされた話を思い出す。明かされた家族の死。それを聞かされた時響は考える。自分なら、彼に何をしてあげられただろうか。結局そのことに対する答えはでなかったが今でも考えてしまうときがある。特に、こんな風に家族のことを話すときの笑顔は見てて心が締め付けられるような感覚になる。今まで涙や怒りと言った感情を見せたことがない雄樹だからこそ響は誰よりも心配だった。
何もしてあげられない無力な自分が、嫌だった。だからせめて強くなりたい。この笑顔を守れるくらいに、強く。
「響ちゃん・・・・?」
言われて手を握っていたことに気が付く。そのことに一瞬困惑するも響は雄樹を見上げて言う。何よりも強い意志を込めて。
「ユウ兄…私、もっと強くなる。ユウ兄のこと守れるくらい、ユウ兄が安心してまた冒険に行けるくらい、もっとずっと!」
目じりに涙が浮かんでいるのを見て雄樹は一瞬、ほんの一瞬だけ切なそうな顔をした後すぐに笑顔を浮かべて涙を拭ったあと「ありがとう」と一言。その笑顔が、とても儚く見えた気がして響は少し切なくなった。
♪
~PM 18:00 都内某所~
すっかり陽も落ち、車通りの少なくなったハイウェイを二台のトレーラーと黒づくめの車が数台、その後ろからバイクが一台。デュランダルを積んだトレーラーが一台とダミー、つまりは囮のトレーラーが一台と、それぞれ翼が乗るトレーラー、そして了子が運転するトレーラーには響が乗りその後ろを雄樹がビートチェイサーにて護衛する。
ここまでは・・・・順調。ノイズによる襲撃もネフシュタンによる工作もない。順調、順調なのだが・・・・
「・・・・おかしいわね」
了子がハンドルを操作しながらつぶやく。
「これほど大掛かりに誘っているにも関わらずなんにもないなんて…デュランダルはどうでもいいというの?」
二手に分かれての陽動。しかもこれだけわかりやすくやっているにも関わらずなんのアクションもないところを見ると敵はデュランダルを見逃したと考えてしまう。あれだけの規模でネフシュタンを盗りに来た時のことを考えるとこれは少しおかしい。なにもないことにこしたことはないが、この不穏な空気はなんだ・・・・?
「・・・・、了子さん!」
雄樹が通信回線を繋げて叫ぶ。視線の先には――――ノイズの大群が。
「まさか、気づかれてた!?」
なるほど。あちらがダミーと扱うのであれば必然的にこちらが戦力を削ぐ必要がある。いかにも向こうが本物を積んでいるように見せかける為に振り分けたのが仇となったか。それに今は橋の上。ここで停車して戦うのも一つだがそれだと挟み撃ちにあう可能性もある。了子が選択したのは、正面突破。つまりこの大群を突っ切ること。アクセルを踏み込んでスピードを上げるとノイズを轢きながら突き進んでいく光景を雄樹は後ろから見ていた。
この人、見かけによらずこういうところはもの凄い。
「って、かんしんしてる場合じゃない!」
雄樹もアクセルを蒸してトレーラーに着ける。すると――――
「よォ!」
聞こえた声に雄樹はトレーラーの上を見るそこにはあのネフシュタンが。
「きみは・・・・!」
「おまえのせいでこっちも色々とあるんでな・・・・悪いが今日で決着つけさせてもらうぜ!?」
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