戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE6 疾走
~AM 11:00 街中 ショッピングモール アイス店前~
「流星群?」
今夜見れるという一大イベントを聞いて雄樹がアイスを食べながら訊きかえす。その隣で響は目を星のように輝かせながら三段乗せのアイスを見つめてよだれを垂らす。子供のようなその姿は見ていてなんだかホッとする。
「うん。今日の夜ピークらしくって、未来と二人で見ようって話してたんだ。あ、ユウ兄も一緒に見ない?きっと楽しいよ」
響の提案に少し考えたあと「俺はいいよ」と断りを入れる。当然響からは抗議の声が上がったが仕事があるからと言うと渋々納得してくれたようで引きさがる。せっかくの誘いだがいろんな理由で自分が行くのは些かマズイというのは全く視野に入れていないよいうで屈託のない顔で誘ってくるのだから困る。
時々、この子の将来が心配になるのはそのせいだろうなぁ、と心中で呟きながら自分もアイスを一口。響はもう食べ終わるようでコーンをまるで小動物のようにかじりついている。
「慌てなくてもアイスは逃げないよ?」
ポケットからハンカチをだして頬についているカスを取る。カップル――――というよりは親子のようんい見えるのだろうか。周囲の目がなんだか微笑ましいのはおそらく後者の目で見られているに違いない。でもそんなことは気にせず二人は次の場所へと歩き出す。
「翼ちゃんと昨日なにか話した?」
「うん。ちょっとキツイ感じはあったけど、多分根はいい人なんだと思う。イメージとは少し違ったけどね」
「どんなこと話した?」
「えっと、主にシンフォギアとかその辺の説明を了子さんと一緒に。・・・・でも、私のシンフォギアが“ガングニール”って確認が取れた時の翼さん・・・・ちょっと恐かった」
えへへ、と苦笑する。そのことについて心当たりのある雄樹としては話していいものかどうか迷いどころだった。迂闊に話してしまえば翼の雷を喰らいかねない。ただでさえピリピリした感じなのにこれ以上距離をおかれたらもう話すどころか挨拶も返してくれなさそうな気さえしてくる。
でも、話さなければ・・・・響のことだ。きっと自分が奏の代わりになる、と言い出しそうな感じもある。事情を知ったうえで発言しそうだが、この場合どちらに転んでもきっと響はこんな風に言いそうだ。だが翼の心情を自分が勝手に話すのも・・・・。
「ユウ兄~、何してるの?置いてくよ~!」
いつの間にか思考の海に浸っていたらしい。響が数メートル先にいる。慌てて追いかけて隣に並ぶ。
大丈夫・・・・だよね。
「…ん?どうかした?」
「いや、別に。さ、次行こう!時間はたっぷりあるし」
「あ、ちょっと待ってよ~!」
♪
~同時刻 テレビ局内 楽屋~
――――みんなに笑顔で、いてほしいんだ!だから見てて。俺の、変身!!
あれが彼の決意。彼の想い。防人として、戦士として戦場に立つ覚悟を決めた者の目と心は確かにそこにあった。
わかる。あの人がどれだけ悩んであの答えをだしたか。伊達に長い付き合いをしているわけではない。悩んで、悩んで、悩み抜いての一年越しの答えだってことくらい。それがどんなに苦渋のものだったかも。
しかし、それを善しとしない自分がいる。自らを一振りの剣とし、目の前の災悪を振り払う者となることを誓った自分に笑顔や涙などいらない。剣はただ剣であればいい。そこに感傷などいらない。あの日、自分の失態で招いた結果は変えられずともそれを背負って歩いていくことはできる。無様に生き恥を晒しながらも、たとえ片翼になろうとも飛んでみせると決めた。
なのに、彼の笑顔を見ているとそれが揺らぐ。根底から否定されるような、見透かされているような、得体のしれない不快感――――いや、一種の恐怖とも言うべきか。とにかく、今まで出会ったなかでもっとも苦手な人種だ。
そして、立花 響。奏のシンフォギアであったガングニールの新たな奏者として現れた彼女もまた同じ。覚悟のない子供が戦場に立つべきじゃない。ただ“頑張る”だけならだれにでもできる。しかしそれに命がかかわってくるなら話は別だ。軽い気持ちできめてもらっては困る。
「・・・・ハァ」
考えることを一旦放棄してため息をつく。相変わらず悩みの種は増える一方だ。
「どうしたんですか?ため息なんてついて」
なんだかうれしそうな顔でマネージャーの緒川が言う。それに多少イラっとして言葉のみを向ける。
「ただの精神統一です。ため息ではありません」
「そうやって否定するあたりそうでしたって言ってるようなものですよ」
「・・・・」
「・・・・気になりますか?二人のこと」
考えを当てられたことに内心ドキッとしてすぐに表情を改める。こうもあっさりと言い当てられるということは表にだしていたか?
「気にしてなどいません。というか、今日はやけに楽しそうですね。私を弄ってそんなに楽しいですか?」
あからさまに不機嫌ですと対応する翼。それに苦笑しながら緒川は否定する。
「違いますよ。…ただ、昨日の一件以来なんだか少し変わったかな、と」
「変わった?私がですか?」
「はい。奏さんが殉職して以来のあなたは正直見ていられないほどに酷かったです。ですが、昨日から少しではありますけど変わった気がします。少なくとも・・・・僕はいい方にむいているかと」
「・・・・バカバカしい」
「そうやって悪態ついたり感情を表に出したり、以前の翼さんには見られませんでしたから」
ハッとして振り返ると緒川が雄樹と同じようにサムズアップで笑顔を浮かべているのに気づく。
「…言いたいこと、思っていることは言わなきゃずっと伝わらない。だから言葉ってあるんだと思う。ただ喋るだけじゃなくて、そこに想いを乗せて伝えるから言葉ってすごいんだ。たまに傷つけたりしちゃう時もあるけど、拳で解決するよりは、ずっといい。・・・・って、雄樹さんが言ってました。だから僕も思ってるだけじゃなくて、これからは言うことにしたんです」
どうですか?と笑う緒川の笑顔は子供のような無邪気さがあって。それを向けられている自分がなんだか恥ずかしくて姿勢を直す。
「・・・・綺麗ごとです。私達は防人で、相手はノイズです。言葉を持たない脅威を振り払うには戦うしかない。そのために私は歌うんです」
「・・・・そうですか」
その一言はどこか諦めに似たものが含まれているような気さえした。時計を見ればもうすぐ定刻、翼は椅子かあ立ち上がり楽屋をでる。
「・・・・でも」
「?」
「・・・・僕は信じてます。またあの時のような歌が聴けること」
出て行き際にかけた言葉がはたして伝わったかはわからない。それでも、緒川は想いを言の葉に乗せる。きっとそれが、彼女の本当の歌に届くと信じて。
♪
~PM 15:30 街道 移動中~
「いや~こんなに遊んだの久しぶりだぁ」
「俺も。ここんとこ忙しかったし、響ちゃんとなにかするのもずいぶん久しぶりだったしね」
ビートチェイサーで街中を走りながらそんな会話をする。思い出話やこれまでのことを互いに話し合いながら花を咲かせていると急にヘルメット内に備わっている通信機に呼び出し音が鳴った。何だろうと備わっているモニタを操作して通信に応える。
《楽しんでいるところ悪いが緊急事態だ。地下にノイズが現れた。二人だけになるが、頼めるか?》
弦十郎の問いに力強い返事で返す。出現ポイントの詳細をビートチェイサーに送られてきたのを確認すると雄樹は車体を急旋回させ、緊急車両扱いになるよう前部カウルからサイレンを出して鳴らす。けたましい音と赤い光が周囲に緊急事態がおこったことを知らせ、若干込み合っていた車道をさながらモーゼのように空けていく。信号が赤だが今は緊急車両、お構いなしにアクセルを蒸す。
「飛ばすよ。響ちゃん、ギアの展開できる?」
「もちろん!」
響が後ろで歌うのを聞いて雄樹もクウガへと変身する。この状態なら、最高速度でむかうこともできる!
アクセルを蒸し、さらにスピードを上げる。もうじき夕暮れだ、なんとかして彼女を約束の時間までに送り届けたい。その一信で雄樹は街を駆け抜ける。モニタが示す位置付近にさいかかったのを確認すると減速し、地下鉄入口へとそのまま侵入する。階段を下っていくと、そこにはノイズの群れが。
響が跳び、歌いながら拳を繰り出す。ノイズを灰へと変え、次の標的へと攻撃を繰り出す。雄樹もビートチェイサーに跨ったまま車体を起こし、ウィリー走行でノイズを蹴散らす。手首のハンドリングから出るエネルギーを得てビートチェイサーはクウガのアームドギアといっても過言ではない状態へとなっている。そのためノイズを攻撃しても当たるし灰化もしない。
「も~、今日は朝から楽しみにしてたの、に!」
愚痴をもらしながノイズを殴る。なんとも器用なことをすると苦笑いする。
「時間までユウ兄と遊んで!夜は未来と流星群見るの!それを・・・・邪魔するなあああああああああああああああ!!!!」
叫びとともに思いっきり殴りつける。吹っ飛んだノイズが周囲を巻き込んで灰になり、残った者は恐れをなして逃げていく。結構なスピードだ。
「ユウ兄、行って!」
『え、でも時間・・・・』
「いいから行って!」
『は、はい!』
何故だか気押されして響を乗せて走り出す。反応を見ると地上へとむかっているようだ。ルートを変更して下水へと入り、街の郊外へと進んでいる。このまま行けば人気のない道路へと出るが・・・・
(それでも追いかけるんだろうな~・・・・)
内心で苦笑してノイズを追いかける。地上に出た頃にはもうすっかり陽も暮れていてライトをつける。夕闇の中を走り続けると、そのさきにいくつものライトがあることに気づく。回転する赤いライトの特殊ボディの車は二課のものだ。数台の車のライトの中に浮かぶシルエットは天羽々斬を纏った風鳴 翼の姿。
直後、翼が大刀を握り、跳んで斬撃を一閃。巨大な刃の一振りはノイズの群れを一瞬にして全てを灰へと変えた。無駄のない太刀筋はまさに防人と言うのにふさわしいものがある。
ビートチェイサーを停車させて響が降りる。翼へと歩み寄ると、
「翼さん・・・・私、頑張ってもっと強くなります!今はまだダメダメかもしれませんけど・・・・でも、必ず強くなってみせます。“奏さんの代わりに翼さんと一緒に戦えるように”!」
まっすぐな目。まっすぐな言葉。なんの曇りのない言葉と想いを受けて、翼は緒川を通じて雄樹が言っていた言葉を思い出す。
――――言いたいこと、思っていることは言わなきゃずっと伝わらない。だから言葉ってあるんだと思う。ただ喋るだけじゃなくて、そこに想いを乗せて伝えるから言葉ってすごいんだ。
ああ・・・・そういうことか。本当に凄いものだ。言葉というものは・・・・。
翼の雰囲気が変わったことにいち早く気づいたのは雄樹だった。彼女が変わったのは間違いなく響の一言。あの言葉は彼女にとっておそらく一番のNGワード。今の翼なら何かしらあってもおかしくない。
「・・・・そうね。一緒に戦いましょう」
翼の言葉に響が笑顔になる。
だが、それは彼女が望んだものではなかった。
「私とあなた。一緒に戦いましょう。今、この場で」
切っ先を突き付ける翼。描いていた最悪の事態になってしまったことに雄樹は内心で舌打ちをする。翼が、剣ほ振るう。その太刀筋の迷いはない。完全に響を・・・・倒す気せ感じる。自分が飛び出したと気づいたのは、そんな翼の剣を眼前に捉えた時だった。
美しく弧を描いた剣が雄樹に振り下ろされる。響を捉えるはずだったその剣は割って入った雄樹を切り裂き、火花を散らした。
「ユウ兄ィ!」
膝をついてなんとか堪える雄樹。翼はそれを見てただ立ち尽くす。雄樹は心配そうに覗き込む響に大丈夫とサムズアップで返し、翼を見上げる。
『…翼ちゃんの気持ちはよくわかる。でも、きみのその剣は人を傷つける為にあるものじゃないはずだよ。それに・・・・そんな顔でいたら、きみ自身もただ哀しいだけだよ』
「・・・・綺麗事だ。防人である私は無情の一振り。涙だの笑顔だの、私には必要ありません。…あなたの言うみんなの笑顔も、それはただの綺麗ごとにすぎない。現実はそんなに優しくも、温かくもないんです」
突き放すような翼の言葉。どうしてそこまでするのかと問いただそうとした響だが、次の雄樹の言葉に黙る。
『…そうだよ。だからこそ現実にしたいじゃない。本当は綺麗事が一番いいんだもの。…暴力でしかやり取りできないのなんて、悲しすぎるから』
雄樹の言葉が、胸に突き刺さる。翼は唇をかみしめ、踵を返す。
それからは、誰も言葉を発することはなかった・・・・。
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