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戦姫絶唱シンフォギア/K

作者:tubaki7
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EPISODE1 復活


~AM9:00 某所 研究施設~


響を送り届けた後雄樹はバイクを押してとあるエレベーターへと乗り込む。勢いよく地下へと下っていく鉄の箱は普通とは思えないほどのスピードで下へ下へと向かう。いつ乗ってもこの内臓が浮かび上がる感じは慣れないものだと愚痴をこぼしながらも目的の階に到着したようでエレベーターが止まる。扉が開くと、そこにはまるで映画のセットのような機材が設置された秘密基地のような場所に出る。中央に仁王立ちする大柄な男は振り返って雄樹に歩み寄る。


「お帰り、雄樹君。この前の調査はお疲れさま」

「はい。あ、これからリハーサルですか」


正面の大きなモニターに映るライブ会場、ステージの中央にジャージ姿で立つ二人の少女を見て雄樹が言う。青い少女がオレンジ色の少女にアイコンタクトをおくるとサッと開いて両サイドに伸びた花道を駆けていく。軽快なメロディに乗りながら、マイクに声を乗せて歌う姿は今人気急上昇のツヴァイウィングの風鳴 翼と天羽 奏の姿がある。


「ああ。それに実験の準備も順調に進んでいる。了子君のところへは行かなくていいのか?」

「本番の時に立ち会う予定です。俺、機械苦手なんで」


かえって邪魔になると付け加えて男、風鳴弦十郎は苦笑する。機械は苦手ということに心当たりがあるらしくそれを思い出してそれなら仕方ないかと納得する。以前彼に持たせた端末機器がとんでもない形で返却されたのは今でも覚えている。いったいどういう扱いをしたらそうなるのかと言いたくなるほどのものだ。日常的に使うものは必要最低限操作できるもののこの機械音痴はとんでもないレベル、それがよくわかる了子はそう言ったのだろう。


「ネフシュタンの鎧に、あれ・・・・この前のベルト」

「ん?ああ、アレは了子君がどうせならってことで同時にやるらしい。鎧に続く完全聖遺物らしいからな」


あの時、ベルトを見たときに見たビジョンは今でも鮮明に残っている。赤い姿をしたあのベルトをつけた戦士がノイズと戦う姿を。あれはこのベルトが見せたものだったのだろうか?でもあの場では自分以外なにも見ていないようでただの幻覚だったのかもしれない。寝て起きた直後、ということもあるしそうなんだろうと納得しようとしたが・・・・どうもはっきり記憶しすぎている。幻覚や夢にしてはあまりにもはっきりしていることからいまだにきになって仕方ない。

今となっては、確かめようもないが。

モニターではリハーサルが終わったようで二人が戻っていく。弦十郎に行くかと言われて二つ返事で返し後に続いてエレベーターに乗り込んだ。




~AM10:00 ライブ会場バックステージ~


地上から地下へ、そしてまあた地上へ。あのエレベーターは絶対おかしい、そしてあのスピードでまったく動じないこの上司も絶対におかしいと思う。雄樹は少し震える膝を抑えながら降りてあとに続く。行き違うスタッフにあいさつしながらお目当ての二人がいたことを確認して手を振る。最初に気づいたのは奏だった。


「ひっさしぶりだな雄樹!いつ帰ってたんだよ?」

「二週間前。奏ちゃんも元気そうだね」


もちろん、と互いにサムズアップ。


「奏は緊張しないの?」


後ろから顔をのぞかせた翼が憂鬱そうに言う。対照的に奏は「全然」とマイペースに笑うのを見てため息。これだけ大きなステージで、しかも観客数もかなりのものだ。緊張しない方が無理というもの。元気のなり翼をみて「でも!」と言葉を続ける。


「あたしはそんな緊張も楽しいんだよ。それに翼と一緒なんだ。なんにも恐くないし、できるって思えてくる。だから平気なんさ」


奏の言葉に元気づけられた翼の表情が少し明るくなる。


「翼ちゃん、俺も応援してるから。二人で思いっきり、悔いの残らないように全力で歌ってきな。会場では見れないけど、モニタの向こうからしっかり見てるから」


笑顔にサムズアップ。雄樹のトレードマークのそれは本当に不思議な力を持っていると弦十郎を含めた特異災害対策起動部二課の面々は思う。落ち込んでいた人間を一瞬にして励ましてしまうそれはまさに魔法のようなものかもしれないと。

翼の沈んだテンションも浮上する。奏に比べたら微々たるものだが、それでもしっかりと翼の励みになっているのがわかる。若いとはいいものだなと心中でおじさん臭いことを呟きながら時計を見る。


「さて、そろそろ俺達も戻ろう。それじゃあな」

「ハイ。じゃ、頑張ってね」


手を振りエレベーターへと向かう。アレにまた乗らなきゃいけないのか・・・・・そう思うとテンションが下がる。丸めた背をみてケラケラと笑いながら奏は、


「んじゃ、アタシ等も行きますか」

「うん。行こう、奏」




















~PM16:30 地下研究施設~


先ほどの司令室とは逆に薄暗い部屋に雄樹はいる。特殊強化ガラスの向こうにはケーブルにつながれたネフシュタンと完全聖遺物アマダムがある。実験開始時刻、つまいりはツヴァイウィングのライブ開始30分まえと差し迫った研究室は局員達がせわしく動いていた。なにもしない自分が激しく場違いだと思いつつなにか手伝うことはないかと聞くも「機械には絶対触らないで」と一同から言われ仕方なく了子の近くに立つしかない。たまに落ちた書類とかを拾ったり、力仕事をしたりすることはあってもやっぱり激しく場違いなのは否めない。さらに時間が進むにつれて増していく緊張感に自分までそわそわしてくる。

そして、時は来た。


準備が終えてからおおよそ3分後。実験開始と同時に計器の波が一気に振れる。直後、ネフシュタンが輝きを放つ。慌ただしくなる室内に木霊する悲鳴にもにた声、まぶしいほどの光が視界を埋め、片手をあげて光を遮る雄樹。かろうじて見えるようになったと思った直後、システムがダウンした音と共に光が消え、代わりに――――爆発が起こる。特殊合金でできた壁を吹っ飛ばすほどの威力の爆発は機器を、人を飲み込んで横殴りに吹き荒れる。

何が起きたのか。状況把握をしようとあたりを見回すと、そこには“奴ら”がいた。認定特異災害――――ノイズ。触れたものを自身もろとも灰へと変える未知の生物。それが現れたのだ。


「五代君!」

「緒川さん!」


騒ぎは司令室まで届いているようで翼のマネージャー兼エージェントの緒川慎次が破壊された扉を潜って中に入ってくる。


「まだ生き残っている人たちをお願いします。俺は了子さんを担いで行くんで」

「わかりました。――――っ、後ろ!」


緒川の警告にさっと跳び退いて躱す。倒れた了子を緒川がかついでなんとか避難するも、雄樹は実験ルームの方に追いやられてしまった。ノイズに囲まれ逃げ場を失ってしまう雄樹。死を覚悟した彼の頭に、あの光景が再びよぎる。視線を動かすと、そこにはベルトが。


「・・・・・!」


ダッシュして台の上のベルトをつかむ。


「五代君、なにを!?」

「つけてみます!」

「・・・・ちょ、どういうことよこれ?!って、五代君あなたなにやってるの!?」


意識をもどした了子が叫ぶ。それに答える間もなく雄樹はベルトを腰に当てた。直後まばゆい光が空間全体を覆い、“ノイズの障壁を払った”。ベルトは、雄樹の体内へと消える。焼け付くような猛烈な痛みが身体を襲い、のた打ち回るように転がる。ノイズは・・・・まだ健在。


「このままじゃ、死ぬ・・・・!?」


迫りくノイズ。もはややけくそと言わんばかりに拳を繰り出すと、雄樹の手にふれたノイズが“灰となって消滅し、左手が白く変わっていた”。戸惑う雄樹、直感と勢いに身を任せ続けざまに拳を放つと、やがてそれが全身を覆う。


「これは・・・・」

「五代君が・・・・変わった・・・・?」


白いボディにオレンジの複眼。そこには五代雄樹の人間としての姿ではなくなっていた。 
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