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いがみの権太  〜義経千本桜より〜

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第七章


第七章

「貴方様は」
「梶原様ですか?」
「左様」
 男は彼等の問いに対して堂々と答えた。その後ろには多くの者達が従っている。
「それがしが梶原景時だ」
「そうですか。それで一体何の御用で?」
「白を切ろうとしても無駄だ」
 まずはそれは防いだ景時だった。
「この家に平維盛を匿っているな?」
「いえ、それは」
「隠しても無駄だ」
 続いて言い逃れも防いだ。そうしてそのうえで弥左衛門を追い詰めていく。
 追い詰めながら彼は。さらに弥左衛門に対して問うのであった。
「いるな」
「・・・・・・・・・」
 弥左衛門は今は答えられなかった。だが最早沈黙は何の意味もなかった。
 景時はさらに言ってきた。沈黙していても。
「すぐに引き渡せ」
「わかりました。それではです」
 ここであの酢桶を差し出すのだった。
「隠し通すことはできないと思い」
「どうしたのだ?」
「この中に首があります」
 彼は言うのだった。
「首を切ってここに」
「そうか。では貰い受けよう」
「はい」
 こうしてあの酢桶の中の首が引き渡される。景時の周りの者達がまずその酢桶を確かめる。しかしその中にあったものは。
「!?何だこれは」
「銭ではないか」
 中にあったのは銭であった。先程権太がせびり取ったあの銭である。皆その銭を見て驚きを隠せなかった。
「賄賂か!?」
「いや、違う」
 景時は周りのその言葉は否定した。
「話に聞くとこの店の主はそのような者ではない」
「左様ですか」
「まことに首がある筈だ」
 景時もそれはわかった。
「しかし何処にそれが」
「首ならここです」
 ここでその権太が酢桶を持って出て来た。
「ほら、ここに」
「おお、確かに」
 景時は権太がその酢桶から出して来た首を見て頷いてみせた。
「それこそまさに維盛の首だ」
「それだけではありませんよ」
 権太はさらに言うのだった。
「ほら、ここに」
「むっ!?」
「なっ・・・・・・!」
 息子が店の奥から引き出してきた二人を見て。弥左衛門は絶句してしまった。
 何とそこにいたのは若葉と六代だった。二人共既に縛ってありしかも猿轡までさせられている。何の為に縛られているかは最早明白だった。
「あなた、あれは」
「何という奴だ・・・・・・」
 弥左衛門は隣に来ていた年老いた女房の言葉に血が滲む言葉で応えた。
「我が子とはいえ・・・・・・」
「ここまで人の道を離れていたなんて」
「許せん・・・・・・」
 遂に弥左衛門の心が切れた。
「こうなっては最早」
「よくやったな」
 景時はそんな彼等には気付かず権太に対して労いの声をかけていた。
「褒美としてこの者達を匿っていた父の罪を許そう」
「そんなのどうでもいいですよ」
 権太はここでも外道だった。少なくともそうは見えた。
「それよりも褒美ですよ」
「そうか。それが欲しいのだな」
「当たり前でさ」
 下卑た笑みでこう応えるのだった。
「それが目当てだからな」
「何という男だ」
「全くだ」
 そんな彼を見て景時の後ろに控えている者達も顔を顰めさせてひそひそと言い合うのだった。彼等から見ての今の彼は目に余るものがあった。
 
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