魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos29ザンクト・オルフェン~Heiligtum eines Belkan Ritter~
前書き
Heiligtum eines Belkan Ritter/ハイリヒトゥーム・アイネス・ベルカン・リッター/ベルカ騎士の聖域
†††Sideはやて†††
「ほぁ~、ここが本局かぁ~・・・」
今日26日、わたしら八神家は、「にゃはは。やっぱり驚くよね」なのはちゃん達と一緒に時空管理局、その本局にまでやって来た。わたしら八神家は健康診断と嘱託に必要な手続きをするため、なのはちゃん達は嘱託の手続きをするために。フェイトちゃんは付き添いってゆう立場や。
「それじゃあ、なのは達は僕とエイミィについて来てくれ」
トランスポーターホールを出たところでクロノ君がそう言われたなのはちゃん達は「はーい!」って元気よく返事。そんで「はやて達はわたしについて来てね♪」そう言うたシャルちゃんにわたしとシャマルは「はーい!」って返事、ヴィータは「おう!」で、ルシル君たちは「ああ」や。
「あ、そうだ。クロノ。今日はみんな、わたしの家に泊まってもらうから、わたし達の帰りを待たなくてもいいからね」
本局に向かうための転移に必要なトランスポーターの有るフェイトちゃんの家(正確にはリンディさんらハラオウンさんのやな)に集合した時、
――そうそう。はやて達さ。たぶんだけど今日はなのは達以上に局に拘束されちゃうかもだから、今日中に融合騎の技術者のところにまで行けないと思うの。でね。良かったら今日はわたしの家に泊まっていって。それで、朝一で技術者のところに連れて行くから――
シャルちゃんから自分の家に泊まった方が良いって言われた。わたしらはもちろん即オーケーやった。本局での手続きを終えた後、時間がないからってゆうて自宅に帰って、次の日にまた本局に行ってミッドチルダに行くなんて慌ただしすぎるしな。
「そうなのか? というと・・フェイト達も泊まりか?」
「そうだよ。だから今日はみんな地球には帰らないからね。ふっふっふ。招待者として腕の見せ所だね~♪」
「楽しみだなぁ、シャルちゃんのお家にお泊り会♪」
「うんっ。ミッドチルダのお家ってこともあるから余計にドキドキしちゃう♪」
なのはちゃんとすずかちゃん、みんなが笑顔で頷いた。わたしらがシャルちゃんの家に泊まるってことを決めた時、すずかちゃん達も泊まりたいって言うたんや。シャルちゃんはもちろんオーケーって即答。そうゆうわけで、今日はみんなでシャルちゃんの家に一泊する、初めての異世界でのお泊り会や。
「アリシアちゃんはやっぱり居ないんだね」
「あ、うん。アリシアは管理局に入るつもりはないみたいだから」
エイミィさんがそう言うと、フェイトちゃんが心底落ち込んだ表情を浮かべた。アリシアちゃんは昨夜のパーティの時、自分から管理局入りをせえへんことを決めた。
――前々からフェイトには言ってるけど、わたしの魔力量、ランクで言えばEだよ? 足手まといになるのは判り切っているし。それにね。わたし、普通の女の子として過ごしてみたいんだ。魔法の使えない、知らない友達もたくさん出来たし――
フェイトちゃん達はそれでもアリシアちゃんに局入りするように説得してたけど、アリシアちゃんは最後まで折れることなかった。そやから今ここにアリシアちゃんは居らん。
「残念だが、それがアリシアの望んだ意思だ。・・・っと、そろそろ向かわないと待たせてしまうな。少し急ごう。ついて来てくれ」
わたしらはまたここトランスポーターホールで待ち合わせることを決めてから一旦お別れや。クロノ君やエイミィさん、すずかちゃん達と別れて、わたしらはシャルちゃんを先頭にわたしらの今後を決める局員さんの居る応接室へ向かう。
「そういやさ、シャルロッテ。あたし達の処遇を決める局員ってどんな奴なんだ?」
「んー? レティ・ロウラン、レティ提督だよ。リンディ艦長の同郷の友人でね。すごく良い人だから、なんの心配もないよ」
シャルちゃんの笑顔に安堵する。シャルちゃんがそう言うんならなんの心配もあらへんって。それからわたしらは、シャルちゃんから今後のシグナム達の置かれる立場の予想を聞いた。それがホンマのことになるかどうかは・・・「着いたよ、ここだ」レティ提督次第やな。
「イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトです」
シャルちゃんがそう名乗りながらスライドドアの横にあるタッチパネルに触れると、『どうぞ』女性の声でそう返答があって、プシュッと音を立ててスライドドアが開いた。まずはシャルちゃんが入って、続いてわたし、車椅子を押してくれるリインフォース、そんでヴィータにシグナム、シャマルと続いて、最後にルシル君とザフィーラ。
「はじめまして。時空管理局本局・運用部次長兼次元航行部提督、レティ・ロウランです」
長テーブルを挟んで在る2脚のソファ、わたしらから見て右側に座ってた女性が立ち上りながら自己紹介。眼鏡を掛けててキャリアウーマンって感じや。そんなレティ提督にわたしらも自己紹介して、勧められるままに左側のソファに座って、シャルちゃんはレティ提督の隣に座った。
「リアンシェルト総部長やリンディから話を聴いているわ。これからよろしくね。八神家の八神はやてさん、騎士リインフォース、騎士シグナム、騎士ヴィータ、騎士シャマル、騎士ザフィーラ・・・、そして、騎士ルシリオン・セインテスト君。・・・そして――」
わたしらとレティ提督の間にあるテーブル上にモニターが6枚と展開された。表示されてるんは「パラディース・ヴェヒターの騎士たち」やった。レティ提督は眼鏡のつるの付け根をクイッと上げて順繰りにルシル君たちを見てった。
「もう1つの呼び名もあったわね。夜天の守護騎士とその主」
わたしらは黙る。これから何を言われてもしゃあないことやって。
「その呼び名についてだけど、上層部の決定で箝口令が敷かれたから、あなた達も自分たちが夜天の書の関係者ということは他言無用、言い回らないこと。いいわね?」
そやけどレティ提督から伝えられたのは予想外のことやった。レティ提督が言うにはわたしらが他の局員さん達から虐げられへんようにするための処置やって話で。ちょう引っかかるけど、ちゃんと働くためにはしゃあないよな。
「これまでのあなた達の活躍を見たところ、古代ベルカ式の使い手と言うだけでもすごいのに、あなたたち全員、魔力ランクがAA以上。どこの部署に行っても重宝されるわね。とは言え、リンディからはもちろん、あのリアンシェルト総部長からも、あなた達の希望を優先して配属させてほしいって言われているし。というわけで、どの部署に行きたいかしら?」
フッとクールに、でも優しい笑顔を浮かべたレティ提督。パラディース・ヴェヒターとしてのルシル君らが表示されてるモニターが消えて、時空管理局を構成してる部署の名前、その一覧が表示されたモニターが展開された。
「うーんと・・・。あの、出来ればみんな一緒に、同じ部署に務めたいんですけど・・・」
甘いことを言うてるってことは解ってるけど、でもやっぱり家族みんな一緒に居りたいなぁって思う。リンディさん、そんでレティ提督の上司さんらしいリアンシェルト総部長さんもわたしらの希望を聴いてほしいって言うてくれてるようやし。
レティ提督とシャルちゃんが「うーん」って唸りながらモニターと睨めっこ。とここで「とりあえず部署の説明をしていただいてもよろしいでしょうか?」ってシグナムがそう言うと、レティ提督がそれぞれの部署と仕組みと役割を教えてくれた。
「みんな、どうや? みんなの意見をまず聞かせて」
「私は戦いしか能のない騎士です。この航空武装隊という部署ならばこの力を発揮できるかと」
「あたしもどっちかっつうと武装隊寄りだよな」
「私は医務局です。癒しと補助が本領ですし」
「我は何処へでも。主はやての意思のままに」
「私は・・・その、融合騎としての機能を失っていますが主はやてのデバイスですから、主はやての御側に」
そうや、リインフォースはもうユニゾン出来ひん体や。防衛システム切り離しの際に“夜天の書”の根幹部分も一緒に切り離したリインフォース。そこにはユニゾン機能も含まれてたんや。
「俺はどこでもいいかな。レティ提督にお任せします」
ルシル君がそう言う。本心は、わたしと一緒に居たい、って言ってほしかったのは胸の奥にしまい込む。ルシル君が「はやてはどうだ? なにか、あるか?」わたしにそう訊いてきた。みんなの希望を聴く限りわたしに向いてないものか、わたしの答え次第。もう一度、部署の一覧を眺める。
「捜査部でいいんじゃない?」
と、シャルちゃんがモニターの向かい側から捜査部ってゆう文字を指さした。するとレティ提督も「そうね~」って納得気味。捜査部。わたしらの世界でゆう警察みたいな部署や。シャルちゃんがチラッとわたしとルシル君を見ながら「はやてやルシルが就くとなると、特別捜査官かな?」って言うた。
「特別捜査官・・・?」
「ええ。特別捜査官。捜査や事件解決に役立つタイプのレアスキルの保有者が就くもので、要請に応じて他の部署に出向する、特別技能の専門家ね。最近できた、捜査部の分枝課・特別技能捜査課への所属になるかしら。でも・・・この子たち、レアスキル保有者なの?」
「俺は複製というものを」
ルシル君は複製ってゆう、その目で見た魔法・武器・能力・知識をそっくりそのまま複製して自在に扱うことが出来る。それどころかアレンジを加えてオリジナル以上の効果を持たせることも出来る。それを聴いたレティ提督はホンマに驚いてた。そやけど「わたしも・・・?」心当たりがないから小首を傾げる。
「リインフォース」
「っ。・・・確かに主はやてにもレアスキルは有る。夜天の魔導書の有していた蒐集行為。それは主はやてに受け継がれている」
初耳やった。それはシグナム達も同じで、「何故お前が知っている?」シャルちゃんにシグナムがそう訊いた。シャルちゃんは「ほら、はやてって物心つく前からリインフォースと一緒でしょ? ひょっとしたらって思ったんだけど」って知ってるんやなくて勘やった。
「どうする? 特別技能捜査課への所属。運用部次長の私ならみんな纏めて、八神家っていう一チームとして配属させること出来るけれど・・・」
レティ提督に訊かれて、わたしらは顔を見合わせた。みんな一緒にチームとして働ける。それはわたしらの希望通り。魔法やスキルで困ってる人たちを助けることも、守ることも出来る。
そやけど、それだとシャマルの希望には添えれへん。そう思うてると、「私はいいですよ。はやてちゃん達と一緒なら」シャマルが笑顔でそう言うてくれた。特別捜査官になったわたしの側でも医療に携えられるかもしれへんからって。
「そのことだけど、はやてさん、あなたの世界では義務教育課程というものがあるそうね」
忘れそうになってた・・・とゆうか完全に自分が小学生やってことを忘れてた。わたし、足が治ったら復学せなアカンのや。
「それを考えればあなたの勤務時間は、騎士たちに比べて短くなるのよね。だから・・・」
わたしが日常でのんびりしてる間にもシグナム達だけが仕事をせなアカンのか。そう思うと後ろめたさを感じてしまう。と、『お気になさらないでください、主はやて』って思念通話をシグナムが送って来た。気付けばみんながわたしを見て笑顔を向けてくれてた。そんなみんなに『おおきにな』ってお礼を言う。わたしはホンマにええ家族を持った。
「・・・兼任、ですね。はやてが学校に行っている間とかシグナム達はフリーだから・・・」
「ええ。はやてさんが居ない間、騎士シャマルは医務局へ、騎士シグナムと騎士ヴィータは武装隊へ務めるというのはどうかしら? はやてさんの仕事の時に、はやてさんの補佐官となる。それならあなた達の希望に添えると思うわ」
レティ提督からの提案を聴いて改めて顔を見合わせて頷き合った後、「それでお願いします」わたしがレティ提督にお辞儀すると、ルシル君やリインフォース達も「お願いします」ってお辞儀した。
「あ、そうそう。ルシリオン君。あなたも学校に通うようにね。リンディが転入手続きもしておくからって」
「・・・・はい? え、あの、ん? 俺も学校へ通え、っていうことですか?」
「え? 私、今そう言わなかったかしら?」
ルシル君がホンマに混乱してる。レティ提督の話やと、ルシル君の転入先はすずかちゃん達と同じ私立聖祥大学付属小学校。そんで、なんとわたしも来年の4月から聖祥小に通うことになるみたい。とは言うても、最終的に決めるのは本人であるわたしとルシル君や。わたしとしては感謝で胸いっぱいや。すずかちゃん達と一緒の学校に通えるんやもん。そやけどルシル君はどうなんやろ。
「正直ね、ルシリオン君、あなたほどの実力者は管理局だけでなく次元世界でもそうはいないわ。ランサーとしてのあなたは恐ろしく強かったもの。だからすぐにでも局の仕事に就いてもらいたいって思うの。でも、あなたはまだ10歳にも満たない子供。保護観察と管理局従事だからと言って強要は出来ないわ。まずはあなたも学校に通って、教養を深めるといいわ。きっと亡くなられているあなたのご両親も望んでいるはずだから」
「俺が、学校?・・・小学生?・・・あ、あー、ご、ご厚意、感謝します、レティ提督」
ルシル君がなんやブツブツ呟いた後、レティ提督にお礼を言うた。こうしてわたしらの今後の処遇は決まった。
わたしら八神家は全員、本籍を捜査部・特別技能捜査課に置くことになった。チームリーダーのわたしが学校へ行ってる間や休暇がズレて仕事をしてへん時は、シグナムとヴィータは武装隊へ、シャマルは医務局に務めることになった。リインフォースはデバイスとして常にわたしと一緒。ザフィーラは入局やなくてわたしやシャマルの護衛ってゆうお手伝いさん的な立場や。
「――とりあえず、決めておきたかったことは決まったわね。捜査部や武装隊、医務局にはこちらから手続きをしておきます。お疲れ様でした」
†††Sideはやて⇒ルシリオン†††
レティ提督との対話も終わり、その後ははやての健康診断、俺たち全員の魔力量測定などの検査も無事に終了。今日一日で全ての問題が片付いたことは嬉しい。あとは、シャルの実家があると言うミッドチルダは北部ベルカ自治領サンクト=オルフェン(かつての聖王家領の名前の1つを持って来たんだな)へ向かうだけ。
その最後の目的を果たす為になのは達と合流した俺たち八神家とシャルは今、本局⇔ミッド北部間を繋ぐ次元船の定期便に乗るために次元港を目指して「ダッシュ、ダッシュ、ダッシュぅぅーーー!」本局内の廊下を猛然とダッシュ中。
「これに乗り遅れたら今日は本局泊まりだよ!」
「トランスポーターを使えばいいんじゃないの!?」
「ダメなんだよ、アリサ。アレって本当は緊急時じゃないと使えないんだ・・・!」
先頭を走るシャルが俺たちに速度を上げるよう言外に言い、アリサがトランスポーター使用を提案するがフェイトがそれを却下。だから俺たちは走り続ける。車椅子のはやては今リインフォースに横抱きにされ、車椅子は折り畳まれてザフィーラが持っている。
「アレ、あそこ! 乗りまぁ~~す!」
ようやく辿り着いた本局次元港。俺たちは飛び乗るようにして乗船。それからすぐに次元船は出港、一路ミッドチルダへと向かう。そして俺たちはようやく一息吐け、なのは達と話が出来るようになった。
「なのはちゃん達はこれからどうするん? わたしらはみんな捜査部・特別技能捜査課ってゆう部署に配属や」
一般的な飛行機のような3席3列という並びの席順である次元船内部。俺たちは船の先頭で、一番右からなのは、アリサ、すずか。通路を挟んでシャル、フェイト、はやて。もう1つの通路を挟んでヴィータ、リインフォース、シャマル。そしてシャマルの後席――左から俺、シグナム、ザフィーラという座席順だ。
「私とアリサちゃんとフェイトちゃんはこれから3ヵ月間、武装隊の陸士訓練校の速成コースに入って、卒業後は、私は武装隊士官候補生として・・・」
「私は執務官候補生で・・・」
「あたしは陸戦魔導師としてミッドのどこかの陸士部隊に入隊して、捜査官として頑張る。はやて達と同じ捜査部ね。ま、唯一の違いは、はやて達は本局内の捜査部の中のいち課で、あたしは地上本部の捜査部の、ね」
「私はデバイスマイスターになるために士官学校の技術士コースに通いながらマリエルさんやドクターに弟子入り♪」
なのはとフェイトは先の次元世界と同じ配属先だな。アリサは空を飛べないため航空武装隊ではなく陸士部隊、すずかはエンジニアという夢を純粋科学ではなく魔導科学で叶えるか。
「へぇー。それぞれちゃんと行き先が決まって何よりだよ。・・・わたしはどうしようっかなぁ~」
シャルが両手を後頭部に回して座席にもたれ掛りながらそう漏らす。その意味を察した俺は、シャルの今後の部署の候補を提案しようとした時、それより早くなのはが「どうしようかな、って・・・シャルちゃんはこのままクロノ君の補佐でしょ、エイミィさんと一緒に・・・?」と訊いた。
「んんー? あぁ、艦船1隻が専有できる戦力って決まりがあるんだよ。いくら執務官補佐とは言え、AAA以上のわたしとクロノ、フェイトが一緒になるのは規定上許可が下りないの。だから必然的にわたしがアースラを降りないと」
「あ、ご、ごめん、シャル。私・・・そんなつもりじゃ・・・!」
見ていて可哀想になるほどフェイトがオロオロと狼狽え始める。シャルは「気にしないで良いよ。今後のフェイトとハラオウン家の関係を想えば、ね♪」とウィンク。なのは達はシャルの今の発言の意味を知っているのか「あぁ」っと納得。
俺もどういうことが判っているから納得しそうになる。が、「どうゆうこと?」はやてを始めとした八神家は事情を知らないため、俺も「何かあるのか?」と知らないフリをする。
「私とアリシアって他に家族は居なくて・・・。だからリンディ提督から養子縁組の話が来ていて、その・・・」
「そういうこと。少しでもフェイトとハラオウン家を一緒にした方が良いかなぁって思ったわけ。それにね・・・悔しいんだよぉぉぉぉーーーーッ!」
シャルが叫ぶ。すると当然「コホン。お客さま。他のお客さまのご迷惑になりますので」とキャビンクルーの女性に注意される羽目になる。俺たち全員でごめんなさいと謝罪して、その場を収める。シャルからの「あぅぅ、ごめんね、みんな」謝罪を改めて受け取ったところで、「んで? なにが悔しいわけ?」アリサが訊ねる。
「はやてとルシル、来年の4月から・・・なのは達と同じ学校に通うんだよ」
「「「「えええええーーーーッッ!?」」」」
なのは達が叫ぶと、「コホン!」先ほどと同じキャビンクルーがすかさず参上して強めの咳払い。なのは達が頭を下げつつ「ごめんなさい」と謝る。次も何かしらの不意の情報で驚きの声を上げ、また叱られるのも勘弁、そして他の乗客に迷惑だということで念話での会話へと切り替えることに。
『――で、さっきの続きだけど。なのは達だけじゃなくてはやてやルシルまでもが聖祥小学校へ通うことになった。な、の、に! わたしは学校に通えずにひたすら仕事! 理不尽じゃない!?』
おそらく全員がこう思うはずだ。理不尽じゃないだろ、と。シャルは俺たち嘱託とは違って正式な局員で、エリート候補の執務官補佐・・・は関係ないか。とにかく理不尽なんかじゃない。学校に通えないのは君の雇用形態の所為だ。
『でね。これを機に嘱託に契約変更して、ルシルやはやて達と同じ特別技能捜査課へ異動願いでも出そうかなぁ、なんて♪ そしたらわたしも聖祥小学校に通えて、そして仕事じゃはやて達ヴォルケンズと、わたしとルシルのペアで競い合ったりしてさ♪』
『待ってくれ』『ちょう待ち』
はやてと2人してシャルの今の発言に異を唱えると、『ん? わたし、何か変なこと言った?』と素で解っていない風なシャルが訊き返してきた。
『なぁ、シャルちゃん。ルシル君もわたしら八神家チームなんやけど』
『えー。だってはやてにリインフォース、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。もう十分すぎるじゃん。ルシルくらい貸してよ~』
『ア~カ~ン♪ ルシル君も一緒や。これからもずっと、な♪』
はやてとシャルの座る真ん中の列から異様な空気が漂ってくる。少し腰を浮かしてはやて達の方を見る。はやてもシャルも笑顔なんだが、2人の間には目には見ない火花が散っているかのように感じる。というか、2人の間の席に座るフェイトが少し・・・いいや、かなり可哀想だ。
『シャル、君にも仲間が居るだろ? アルテルミナスとセラティナ。その2人と組めばいいじゃないか』
フェイトの助け舟になれば、と思ってそう言ってみたら『ひっどぉ~い! 恋する乙女の気持ちくらい理解してよ!』確かにフェイトは助けられたが、矛先が俺に向いてしまった。それから次元港に着くまでの間ずっと、シャルは如何に俺が好きなのかを全員に語った。小っ恥ずかしい話を延々と聞かされたなのは達には本気で謝ろうと思う。
(土下座で足りるかどうか判らないけどな・・・、はぁ・・・)
†††Sideルシリオン⇒なのは†††
ミッドチルダ北部の次元港に到着した後は、そこからシャルちゃんの実家のあるザンクト・オルフェンへのバスに乗って30分。見えてきたのは地球で言うヨーロッパのような西洋建築の街並み。大自然に囲まれた街は夕日に染まっているおかげでとっても穏やかに見えて幻想的。
「今日はもう遅いから、予定通りこのままわたしの家に向かうね」
「うん、それでええよ」
はやてちゃん達の目的はリインフォースさんに代わる融合騎の誕生で、その融合騎に詳しいっていう技術者さんに会いに行くことだったけど、シャルちゃんの言うように日がそろそろ暮れ始めるから明日に回された。
バスから降りて街路を歩いていると、「騎士イリス、おかえりなさい」ってシャルちゃんに向かって挨拶する人がたくさん居ることにちょっとビックリ。シャルちゃんは「ただいまー♪」笑顔を振りまいて挨拶を返してく。
「シャルちゃんって有名人・・・?」
「わたしっていうよりはフライハイト家がね。ここベルカ自治領を管理する領主だから。フライハイト家の下に6つの家柄――六家があって、フライハイト家とその六家でここを統治・管理しているの」
はやてちゃんにそう答えたシャルちゃん。改めて知ると本当にすごいんだよね、シャルちゃんって。シャルちゃんの新たな一面を見ることが出来たのは嬉しいな♪ それから目的地に着くまでの間、挨拶はもちろん、パン屋さんからは胡桃パンを、果物屋さんからはフルーツの試食を、他にもクレープとかケーキとかを貰っちゃった。
そんなこんなで「あれがわたしの家♪」辿り着いたのが目的地だったシャルちゃんの家なんだけど・・・。
「ほわぁ~・・・」
私はシャルちゃんのお家を見て言葉を失った。アリサちゃんも「家っていうか・・・」呆けちゃって、すずかちゃんが「宮殿・・・だよね」ポツリと漏らす。目の前にそびえ立っているのはどう見ても宮殿で、「すごいなぁ、シャルちゃん。お姫さまみたいや」はやてちゃんの言うように宮殿に住んでるってなるとお姫さまみたい。
シャルちゃんが門の側に有るインターホンらしきモノに触れると、門の奥――宮殿の方からリンゴォーンっていう鐘の音が聞こえてきた。と、門扉にモニターが展開。メイドさんが映し出された。
『お帰りなさいませ、イリスお嬢様。そして、よくお出で下さいました、ご友人方。どうぞ中へお入りくださいませ』
メイドさんが綺麗にお辞儀するとモニターが消えて、門扉が左右にスライドして開いて行った。シャルちゃんが「ささ、どうぞ、どうぞ、遠慮なくぅ~♪」門を潜ってものすごく広いにお庭に入って行く。招かれるままに私たちも宮殿の玄関に続く一本道(100mはあるよ)を歩く。
(道の両側に噴水、お花畑・・・それに植木の迷路のようなものまである・・・)
アリサちゃんやすずかちゃんのお家で十分耐性が付いたって思ってたけど、シャルちゃんのお家には驚かざるを得ないよ。みんなも双みたいで無言で歩く中、「家に帰って来るのも久しぶりだなぁ」懐かしそうに呟いたのが聞こえたから、「そうなの?」って聞いてみる。
「家に居たら、いっつも女の子らしくしなさい、って父様がうるさくてさ~。確かにわたしは女の子だよ? でも、騎士でもあるわけ。わたしとしては格好よくて綺麗な騎士っていうのに憧れがあって・・・。だから姫扱いされる家を出て管理局に入ったの」
初めて聞いたシャルちゃんの入局の動機。予想外なその動機を聞いてちょこっと残念な気持ちになった。シャルちゃんもあのすごい魔法やレアスキルを活かすために、とかだと勝手に思い込んでた私にも問題があるんだけど。
「なんつうか、不純な動機つうかさ」
「判ってる。今思うとわたし自身もそう思うから」
ヴィータちゃんにそう言われてガックリ肩を落とすシャルちゃんが、「ま、今となってはわたしもフェイト達と同じ動機で局務めだよ。この力を役立てたいってね♪」振り向きざまに笑顔を浮かべた。
「っと、そんなこと言ってる間に玄関にとうちゃ~く♪」
シャルちゃんに続いて私たちも大きな両開きの玄関扉の前に到着した後、シャルちゃんは「たっだいまぁー!」バアン!と勢いよくドアノブを手前に引いて扉を開けた。そして私たちを一流ホテルのような豪華さのあるエントランスホールで出迎えてくれたのは、「お帰りなさいませ、イリスお嬢様。いらっしゃいませ、ご友人方」メイドさん10人。横一列に並んで私たちにお辞儀した。
「ただいま、プリアムス、みんな。父様と母様・・・は、まだ仕事中か」
「はい。旦那様は司祭、奥様は枢機卿でいらっしゃいますから」
さっき門のモニターに映ったメイドさん――プリアムスさんがそう応じた。と、その時、「イリス!」シャルちゃんの名前を呼ぶ声がした。エントランスホールの奥にあるY字階段の右側にある扉から1人の男の人(お兄ちゃんと同い年くらい)が居て、シャルちゃんに手を振っていた。その男の人の奥から「コラ、ロッサ」女の人の声でそう窘めるのが聞こえた。
「おお! ヴェロッサ、それにこの声は・・・カリム!」
シャルちゃんが満面の笑みを浮かべる。男の人――ヴェロッサさんと、扉の奥から現れた綺麗な女の人――カリムさん(忍さんと同い年くらい?)が「お邪魔しています」ってシャルちゃんにお辞儀した。
「うん、いらっしゃい。あ、みんなに紹介するよ。ヴェロッサ・アコースとカリム・グラシア。カリムはわたしと同じように聖王教会と管理局を兼任していて、階級は一等陸佐。ヴェロッサは本局・査察課に入ったばかりの査察官。んで、2人とも古代ベルカ式の使い手だよ。みんなの先輩ってことだね♪」
私たちの側までやって来たヴェロッサさんとカリムさんを紹介してくれたシャルちゃん。
「よろしくぅ~。ヴェロッサ・アコースだよ」
「カリム・グラシアです。よろしくお願いしますね」
「ファミリーネームが違うけど、2人は姉弟でね。カリムがお姉ちゃんで、ヴェロッサが弟ね」
私たちに笑顔を振りまいて、そして可愛がるようにシャルちゃんの頭を撫でるヴェロッサさんと、優雅に一礼するカリムさん。シャルちゃんは続けて「で、2人にも、そしてみんなにも紹介するよ。わたしの友達♪」2人やメイドさん達に私たちを紹介してくれた。私たちも自己紹介していく中、ルシル君とシグナムさん達が名乗ったところで「え?」カリムさんが信じられないことを聞いたって風に驚いた。
「初めてお目にかかった時からもしやと思いましたが・・・ルシリオン君、あなたは魔神オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードの関係者では? それにリインフォースさん達は・・・グラオベン・オルデンの・・・」
「ああ。元グラオベン・オルデンで、今は八神の騎士パラディース・ヴェヒターだ」
シグナムさんがそう答えたら、カリムさんが「やはり、そうでしたか」って目を爛々と輝かせ始めた。そしてヴェロッサさんは「あなた達があの有名な・・・!」って驚きを見せた。
「古代ベルカ史にあるイリュリア戦争時、グラシア家はフライハイト家と共に戦っていました」
「ええ、憶えているわ。ズィルバーン・ローゼのセリカ・グラシア。あなたのファミリーネームを聞いた時、私もね、もしかしてって思ったの」
シャマルさんがそう返すとカリムさんはさらに目を、表情を輝かせた。そんなカリムさんを見たヴェロッサさんが未だにシャルちゃんの頭を撫でつつ「カリムは歴史マニアだから」って苦笑。
「それで、ルシリオン君は・・・?」
「ふっふっふ~♪ ルシルはね・・・聴いて驚け、カリム、ヴェロッサ! ルシルはわたしの未来の旦那様なのだ!」
シャルちゃんのこの突拍子もない発言には誰もが「へ?」と呆ける中、「いやだなぁ、イリス」ヴェロッサさんが笑い声を上げた。シャルちゃんがヴェロッサさんの手から逃れてルシル君の右腕に抱きついた。
「「あああああああ!!」」
声を上げるのはライバル関係にあるはやてちゃんと・・・どうしてかヴェロッサさんも。カリムさんが「この子ったら」って苦笑しているとヴェロッサさんは咳払いして「イリス。はしたないよ」ってやんわり注意しながらシャルちゃんとルシル君を引き放そうとした。はやてちゃんも「は~な~れ~て~」参加する。
「イリスお嬢様、カリム様、ヴェロッサ様、ご友人方も。いつまでもお立ちになっていてはお疲れになるでしょう。応接室へどうぞ」
プリアムスさんが咳払い1つするとシャルちゃんが「あ、ごめんね!」ルシル君の腕をパッと離して「こっち、こっち!」って先を行っちゃった。それを見送っていると「それでは皆様も」プリアムスさんが私たちを招いてくれた。
「遅ればせながら、わたくし、フライハイト家女中長のプリアムスと申します。今宵は最高のおもてなしをご用意させていただきますね」
他のメイドさんに仕事に戻るよう指示を出して、そう笑顔を向けてくれたプリアムスさんに「お世話になります!」って私たちも笑顔を返した。
後書き
ドーブロエ・ウートロ。ドブリ・ジェン。ドーブルイ・ヴェーチェル。
やってしまった! 思った以上に文字数が増えてミッド編が終わらなかった。と、とにかく、なのは達の今後の行先を決定させました。なのはとフェイトは原作通り、はやてたち八神家はある種原作通り、アリサとすずかもそれぞれの目的の為に自ら道を決定しました。
そして、早めにカリムとヴェロッサが登場。ヴェロッサですが・・・彼がルシルのある種ライバルとなります。ルシルにとっては迷惑千万なわけですが・・・これも女難の運命を背負った彼に付いて回る試練です。
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