| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百六十八話 横ぎりその六

「そして天下を治める股肱の一人とする」
「そうされますか」
「無論大事なのは二人じゃ」
「織田信長と上杉謙信ですか」
「あの二人は外せぬ」 
 彼の天下にもというのだ。
「しかしそれと共にな」
「徳川家康もまた」
「用いる、あの者は天下の者じゃ」
「そこまでの者ですか」
「そうじゃ、そう思わぬか」
「確かにそれなりの者ですが」
 原もそれはわかる、家康は武辺もさることながら政もよい、三河も彼が戻ってから豊かになってきている。
 だが、だ。それでもなのだ。
「ですが天下の者ですか」
「その通りじゃ」
「では御館様がおられねば」
「運がよければ天下人やも知れぬな」
 そうなっているかも知れないというのだ、家康は。
「少なくとも織田信長にも然程遅れは取っておらぬ」
「織田信長と比べても」
「それ程変わらぬ」
 そこまでの資質がだ、家康にはあるというのだ。
「そこまでの者じゃ」
「左様ですか、では」
「あの者も手に入れる」
 生きればというのだ。
「他の徳川の者達もな」
「ではその為にも」
「徳川も織田も倒すぞ」
「わかりました」
「さて、ではじゃ」
 ここまで原に話してだ、信玄はまた全軍に告げた。
「足を少し遅めよ」
「わかりました」
「そして、ですな」
「あの場で戦う」 
 その場が何処なのかはもう言うまでもなかった、今の武田軍においては。
「わかったな」
「さすれば」
「まずは足を緩め」
「徳川の軍勢から目を離すでないぞ」
 余裕と共に言う信玄だった、彼は今はあえて軍の足を緩めさせ進みを遅くした。そのうえで家康を見ていた。
 武田が浜松城を攻めずに三河に向かっていると聞いてだ、信長は瞬時に顔を強張らせてこう言ったのだった。
「これはまずいのう」
「まずいですか」
「これは」
「大いにな、まさかと思ったが」
 ここで大谷を見てだ、信長は言った。
「御主の言う通りになったな」
「それがしもまさかと思いました」
 大谷自身もだとだ、彼は馬上において答えた。織田の軍勢は今も三河に向けて兵を進めている。その中でその報を聞いたのだ。
「ですがこう来ると」
「竹千代が危ういな」
「はい、武田は徳川殿を誘いだしています」
「そして竹千代は気付いておらぬ」
「徳川のどの方々も」
「これは危ういわ」
 信長は強張った顔のまま言った。
「竹千代も徳川の軍勢も」
「ですな。これでは」
「急ぐか、ここは」
 信長は前を見て言った。
「間に合わぬであろうが」
「おそらく我等が武田の軍勢と遭う前に」
 それよりも前にだというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧