異邦人
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第三章
第三章
「どうしてもな」
「ああ、そういえばあんたさっきからずっと泳いでるよな」
「止まらないでな」
「だから。止まることができないんだよ」
あらためてこのことを鰐達に対して話した。
「絶対にな」
「へえ、そりゃ大変だな」
「ずっと泳いでないといけないのか」
「身体が疲れるだろ」
「いや、全然」
しかしそれはないというのである。鮫自身は。
「身体は疲れないさ。平気さ」
「ずっと動いてるのにかい?」
「またどうしてなんだ?」
「わしの身体がそういうふうにできているからなんだよ」
だからだというのである。
「だからな。わしは幾ら動いても疲れることはないんだよ」
「だからか」
「そうさ。それにしてもあんた達の話をもっと聞きたいな」
あらためて彼等に述べるのだった。
「色々とな。聞かせてくれるか?」
「いや、それよりもだよ」
「こっちこそだよ」
鰐達はそれぞれ彼に対して言葉を返してきた。
「あんたのその話を聞きたいな」
「海のことをな」
「じゃあお互い話していくかい?」
鮫は彼等の言葉を受けてこう提案してきたのだった。
「それだったらさ。お互いのいる世界のことをな」
「おお、そうだな」
「それはいい」
鰐達も鮫の言葉を受けて一斉に喜びの声をあげて応えた。
「じゃあな。早速な」
「まずは虎や象のことだがな」
「ああ」
彼等はお互いのいる世界のことを話した。途方もない大きさの十本足の烏賊のことも海の中の鮫以上に凶暴なシャチという生き物のことも。鰐達も丘にいる虎という誇り高い動物や猿という頭のいい動物のことも。お互い全て話し合ったのであった。
数日が経った。鮫は泳ぎながら寝て鰐達は川辺で寝る。そうやって数日間話して寝てそれを繰り返した。そうしてその中でお互いが知っていることを全て言い合ったのであった。
「いや、海って凄いな」
「全くだよ」
鰐達は鮫から聞いた海の話を聞き終えてこう言うのだった。
「そんなに凄い世界なのか」
「あんたはそこにずっといたんだな」
「そうさ。いや、それでもだよ」
今度は鮫が彼等に対して応えるのだった。
「あんた達もいい場所に住んでるよな」
「そうかい?」
「そんなにいいかい?」
「いいさ。だってな」
そしてここでその鰐達に対して話すのだった。
「河もよく聞いてみれば凄くいい場所じゃないか」
「そうかい?」
「そうだ。川辺の奇麗な場所は見られるし」
まず言うのはこのことだった。
「そして色々な陸の生物も見られてさ」
「そんなにいいのか」
「こっちの世界も」
「いいさ。とてもな」
また話す鮫だった。
「ずっと過ごしたいと思う位さ」
「じゃあずっとここにいたらどうだい?」
「だよな。あんたさえよければ」
「どうだい?それで」
「いや、止めておいた方がいいな」
しかしここで鰐の中でもとりわけ年老いた者が言ってきた。この鰐達の群れで長老でありリーダーでもある長老だ。彼が言ってきたのだ。
「それはな」
「あれっ、長老」
「それはどうしてですか?」
「わし等は河にいる」
まずはそう言うのだった。
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