| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

子供の質問

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章


第三章

「ほんまにどんなふうになるかな」
「それ。楽しみにしとこうで」
「ああ」
 こんなやり取りをしたコタツの中だった。それから暫くしてまた由紀夫が兼修の家に遊びに来た。彼は今度はこの子を住吉大社に連れて行ったのだった。
 そしてそこでまたしても。由紀夫は兼修に尋ねるのだった。
 指差したのは橋だった。極端にアーチ状になっているその橋を指差して。彼に尋ねてきた。
「これ何か?」
「これは橋や」
 まずはこれを橋だと答えるのだった。
「川とか池に作るもんや。人様が渡れるようにな」
「それこの前教えてくれたな」
 このことはちゃんと覚えている由紀夫だった。
「橋ってそういうもんやって」
「そやったな」
「けど何でこの橋あんなに上に曲がってるん?」
 彼が気にしているのはこのことだった。
「この橋何ていうん?」
「たいこ橋っていうんや」
 この橋の名前も教えるのだった。
「この橋はな」
「たいこ橋っていうんや」
「どや、おもろい橋やろ」
 完全な関西弁で由紀夫に告げる。
「こんな形の橋があるってな」
「橋ってまっすぐなだけやないんや」
 由紀夫にとってはそれが思わぬことだった。少なくとも彼は目を驚きで丸くさせていた。そのうえで好奇心でその目をきらきらとさせていた。
「こんな曲がったのも」
「何でもそうやで」
 兼修は穏やかに笑って彼に話した。
「まっすぐなものもあれば曲がったものもな」
「色々あるんやな」
「そうやで。それでまっすぐがよくて曲がったのも悪いってわけやないんやで」
「どっちもええのん?」
 由紀夫はまた兼修に顔を向けて尋ねた。彼にはまだわかりにくいことだったがそれでも大叔父に対してここでも尋ねたのであった。
「それは」
「ええんや。何でもそれぞれやからや」
「それぞれなん」
 由紀夫は目をぱちくりとさせて兼修の話を聞いていた。
「何でもそれぞれなん」
「そうや。わしはわし、由紀ちゃんは由紀ちゃん」
 自分と甥の子に例えても話すのだった。
「違うやろ?けれどそれが悪いってことやあらへん」
「そうなんや」
「そうや。まあそれはおいおいわかるから」
 まだ由紀夫には難しい話をしていると思ってここでこの話は止めた。そうしてそのうえで話を変えて。またたいこ橋を見て言うのだった。
「ほなこのたいこ橋な」
「うん」
「これから二人で渡ろか」
 由紀夫に顔をむけて告げた言葉だった。
「二人で。どうや?」
「うん。それやったら」
 由紀夫も楽しそうに笑って兼修のその言葉に頷いた。
「渡ろ。おっちゃん」
「ああ。二人でな」
 こうして今は二人並んで、由紀夫の手を握ってこのたいこ橋を渡る兼修だった。これは昔のことで今は。由紀夫はもう大人になっていて子供もいる。大学の助手になっている彼はもうすぐ助教授になるとも言われていた。しかし今日は兼修の家でぼやいていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧