求道
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第五章
第五章
「その為にここに来ましたから」
「それではだ」
言葉は彼のその言葉を聞いて。また言ってきた。
「私はその相手をしよう」
「修行のですか」
「まさか一人で修行するつもりだったのか?」
真顔で凌駕に対して問うてきた。その表情は面の中からもはっきりわかる程強いものであった。そしてそれは言葉にも出ていた。彼女の言葉に。
「一人で」
「それは」
「一人で修行するのもいい」
彼女もそれはいいと言うのだった。
「しかしだ。一人よりも二人だ」
「二人ですか」
「そうだ。剣は一本より二本あった方がいい」
言葉は次にこう彼に述べた。
「二本あった方がな」
「ではそれでは」
「そうだ。二本だ」
凌駕にまた二本と言ってみせてきたのだ。
「二本だ。その二本の剣で修行しようぞ」
「私と貴女でですか」
「剣を目指すのは私とて同じだ」
それは凌駕だけではない。言葉も同じだというのだ。静かだが強い言葉で。
「私とてな」
「ですが貴女は」
自分よりも遥かに強いと言おうとする。しかしそれより前に彼女の言葉が来たのだった。完全に彼の機先を制するものであった。それを言うのだった。
「見誤っては困る」
「見誤るとは?」
「貴殿は強い」
凌駕に対する言葉だった。
「かなりな。私との強さの違いはまさに紙一重だ」
「いえ、そのようなことは」
「事実だ」
彼に対してそれでも告げるのだった。
「紙一重の差がここまで出るのですか」
「その通りだ。私も同じだ」
またあらためて彼に告げた言葉だ。
「共にだ。剣の道を極めようぞ」
「はい、それでは」
「究め極めさらに窮める」
言葉の表現は同じだが意味は違っていた。
「まずは極めそこから窮めに向かおうぞ」
「はい、二人で」
こうして二人は静かな山寺において修行に入った。二人で剣を交える日々が続き共に深い山の中で修行を続けた。その結果彼等はさらに強くなった。
剣の道を極めていく。そしてやがて凌駕はある日。勝負の場において言葉から見事な一本を取ったのだった。突きがその喉に突き刺さった。
「入ったな」
「はい」
誰がどう見ても一本だった。その突きは鮮やかなまでに言葉の喉に突き刺さった。
「私から遂に一本だ」
「私は遂に」
「どうやら私を超えたようだ」
そして言葉は次に彼にこう告げた。
「私をな」
「貴女をなのですね」
「剣を極めた」
そしてこうも告げるのだった。
「遂にな」
「極めたのですか」
「しかし極めただけだ」
だがこうも彼に言うのだった。極めただけだと。
「まだ道は果てしないぞ。わかっているな」
「はい」
静かな調子で彼女の言葉に頷くのだった。
「それはもう」
「窮めよ」
次に出した言葉はこれであった。
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