なくなれ交流戦
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第一章
なくなれ交流戦
根室千佳は絶好調だった、毎日が楽しかった。
それで家でもだ、兄の寿に満面の笑顔でこう言っていた。
「お兄ちゃん悪いわね」
「今年は、っていうんだな」
「そう、優勝するから」
こう言うのだった。
「カープがね」
「ったく、こっちはなあ」
兄はその妹に苦々しい顔で言うしかなかった。
「どうにもな」
「投打が噛み合ってないわね」
「暗黒時代よりは勝ってるけれどな」
それもかなりだ。
「ぶっちぎりの最下位じゃないにしても」
「それでもよね」
「カープがトップでなあ」
「二位だからね、阪神」
「何で昨シーズンの後半から急に強くなったんだよ」
「これまで必死に若手を育ててきたからよ」
それでだとだ、千佳はやはり兄ににこにことして言うのだった。
「その結果よ」
「フリーエージェントで巨人にピッチャー取られただろ」
「そういえばそういうこともあったわね」
「それで何でかえって強くなったんだよ」
「一岡、巨人も馬鹿よね」
その強くなった理由も言う。
「あんないいピッチャー出すなんて」
「まあ巨人はな」
寿は阪神ファンだ、それも生きがいの全てと言っていいまでの。その彼が巨人を好きな筈がなくこう言うのだった。
「そうしたチームだよ」
「他のチームから選手を強奪するだけでね」
「北朝鮮みたいにな」
「それで若手を見ないで育てないから」
「だからな、折角の有望な若手がな」
「中継ぎ、抑えでね」
その一岡がというのだ。
「活躍してくれてな」
「勝ってるんだな」
「そう、やっぱり頼りになる中継ぎ抑えがいたら」
「阪神もいるぞ」
寿は妹に口を尖らせて反論した。
「というかこっちはな」
「阪神はずっとよね」
「中継ぎ抑えには困ってないさ」
今もいうのだ。
「そっちはな、最近先発が不安でもな」
「それが今ではうちもなのよ」
阪神もというのだ。
「いいでしょ」
「それで打線も売ってくれて」
「まあ今年はね」
「カープ優勝だってんだな」
「苦節二十数年よ」
その間ずっとだったというのだ。
「十六年だったかしら、連続でBクラスで」
「金本と新井有り難うな」
「・・・・・・今は機嫌いいし阪神だから許してあげるわ」
これが機嫌が悪く巨人相手なら容赦はしなかったというのだ、例え実の兄であろうとも。
「まあずっと辛かったけれど」
「その暗黒時代がか」
「そう、お兄ちゃんはカープの栄華を見ていてね」
「誰が見るんだよ、そんなの」
寿はまた口を尖らせた、
「一体」
「日本国民全員がよ」
「カープ優勝か」
「このままね」
「そんなこと言ってな」
寿はとにかく浮かれている妹に眉を顰めさせて言った。
「また交流戦でな」
「負けまくるっていうのね」
「そうなるぞ」
「今シーズンは大丈夫よ」
広島の調子からだ、千佳は言い返した。
「今年はぶっちぎりでね」
「交流戦もっていうんだな」
「パ・リーグなんて怖くないわよ」
少なくとも千佳はこう思っている。
「そうね、交流戦優勝の時のお祝いの用意をしないと」
「何処まで浮かれてるんだ」
「阪神は可哀想だけれど二位ね」
「馬鹿、優勝するのはこっちだよ」
寿も阪神を愛している、それならこう言うのが当然だった。とにかく千佳は広島東洋カープの好調にこの上ない程上機嫌だった。
これは家でだけでなく学校でもだった、真っ赤なグッズに身を包みしゃもじさえ持ってクラスメイト達に言うのだった。
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