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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手、逃げ回る

 “ノーネーム”のみんなと別れてから、僕は自室で当日の準備を進めていた。
 他のみんなとは違って楽器を使うわけではないので、軽くのどのケアをしてから本番衣装を整え、楽譜を眺めているだけなんだけど。

 口の中でのど飴を転がしながら、ふとロロちゃんとの会話を思い出した。

至高の一品(ベスト・ワン)、か・・・」

 何度思い返してみても、思い入れのあるマイクなどはない。
 初めて大勢の前で歌ったときにつかったマイクは、こんなものがあっても邪魔なだけだな・・・と鬱陶しく思ったし、それ以降はマイクなどの機器は一切使っていない。

「・・・まあ、考えても仕方ないのかな。まだ出会ってないだけかもしれないし」

 そう結論付けて、再び楽譜に目を走らせる。
 大抵の曲はその場でどうにかなるんだけど、それでも眺めておいて損にはならない。他に時間をつぶすようなものは持ってないし、ラッテンさんとユイちゃん、ロロちゃんは今頃自分の楽器の調整中だろう。レヴィちゃんはユイちゃんにつきあってるだろうから、特にやることがないのだ。

 と、そんな風に考えながら時間を潰していて、少しうとうとしてきたところで・・・建物全体が揺れて、一気に目を覚ます。
 慌てて部屋を出たら、すぐ近くの部屋からも皆が出てくるのが見えた。

「これって一体、」
「分からないですけど、襲撃なのかもしれませんね」

 ラッテンさんが指差す先には・・・巨大な腕が、壁を貫いて生えてきていた。

「・・・あれって、壁についてたオブジェとかじゃないですよね?」
「ユイは、あんなもの見た気がしないな~。レヴィちゃんは?」
「自分も、記憶にないっスね~。と言うか、あんなものは一度見たら忘れないっスよ」
「・・・あんなの、なかった、です」

 ロロちゃんが言うってことは、間違いないだろう。
 というか、あんな趣味の悪い物はまずつけないはず。現実逃避したかっただけだし。

「・・・とりあえず、外に出ましょうか?」

 僕の提案にみんなが頷いたので、念のために剣の舞で剣に乗って外に向かう。
 走って体力を消費するよりは、いざという時にそのまま攻撃に出られた方がいいだろうという考えのもとからきてたんだけど・・・どうやら、それは当たりだったらしい。
 何度も襲われて、そのたびに剣で牽制しながら進んでいく。

「・・・これ、どうすればいいんでしょう?」
「多分、魔王の残党ですから殺してしまっても問題はないでしょうけど・・・一々それをするのも面倒ですね。このまま逃げ続けましょう」

 ラッテンさんの提案に全員が頷いて、皆で逃げて逃げて逃げ回って・・・巨人が一人もいなくなってから、本部に向かった。
 そこで話を聞いて、ジン君が新しいギフトを受け取って、少しの間何もない時間を過ごしてから・・・再び巨人族の襲撃を受けた。
 それを、ジン君が新しく受け取ったギフト・・・ペストを使って退けて、僕はこれで終わりだと思っていた。だからなのかな?僕は油断していた。

 相手が使っていた竪琴、あの音に変なものが混ざっていることに気付きながらも僕は何も考えなかった。
 本来なら、楽器や音楽といったものに対して一番敏感に反応できる僕たち四人は、むしろ一番出遅れた。
 そして・・・ゲームが、開始された。

『ギフトゲーム名“SUN SYNCHRONOUS ORBIT in VAMPIRE KING”

   ・プレイヤー一覧
      ・獣の帯に巻かれた全ての生命体。
      ※但し獣の帯が消失した場合、無期限でゲームを一時中断とする。

   ・プレイヤー側敗北条件
      ・なし(死亡も敗北と認めず)

   ・プレイヤー側禁止事項
      ・なし

   ・プレイヤー側ペナルティ条項
      ・ゲームマスターと交戦した全てのプレイヤーは時間制限を設ける。
      ・時間制限は十日毎にリセットされ繰り返される。
      ・ペナルティは“串刺し刑”“磔刑”“焚刑”からランダムに選出。
      ・解除方法はゲームクリア及び中断された際にのみ適用。
      ※プレイヤーの死亡は解除条件に含まず、永続的にペナルティが課される。

   ・ホストマスター側 勝利条件
      ・なし

   ・プレイヤー側 勝利条件
     一、ゲームマスター・“魔王ドラキュラ”の殺害。
     二、ゲームマスター・“レティシア=ドラクレア”の殺害。
     三、砕かれた星空を集め、獣の帯を玉座に捧げよ。
     四、玉座に正された獣の帯を導に、鎖に繫がれた革命指導者の心臓を撃て。

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
                        “          ”印』


 それも、おそらくこれまでに経験した中で最も最悪のゲームが。
 
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