ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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召喚者-ティファニア-part1/半妖精の召喚の儀
幼き日の夢を、ルイズは見ていた。
ルイズの母は娘であるルイズの名を叫びながら彼女を探し回っていた。ルイズは魔法がうまく使えないことを母親にしかられ、母が目を離した隙をついて逃亡した。
彼女には二人の姉がいる。姉たちと比べて物覚えが悪いと指摘されていたが、ルイズとて好きでこんな状態になったわけじゃない。自分が才がないからというのもわかるが、それでも現実が理不尽に思えて我慢ならなかったルイズはどうしようもなく逃げ出したのだ。
「ルイズお嬢様ーーー!どこにおられるのですかーーーー!?」
母からルイズ捜索を命じられた執事やメイドたちも共にルイズたちを探している。自分たちの背後の草陰にルイズが隠れているとも知らず、彼らはぼやきだす。
「ルイズお嬢様も難儀だな。自分だけ魔法ができないだなんて…」
「ああ、本当にかわいそうだな。奥様だけじゃない。旦那様もお厳しい方だしな」
悔しかった。同情してくれる彼らのことを悪く考えているわけではない。でも、同情されている自分が情けなくて許せなかった。歯噛みする思いをかみしめながら彼女は、自分が『秘密の場所』と呼ぶ場所へこっそりと向かう。
そこは中庭にある池。嫌なことがあるとルイズはそこへ向かう。小舟に乗ると、ルイズは抱えた膝に顔をうずめて泣きじゃくった。
父は領地のことで大忙しで家を空けまくり。厳しすぎてルイズの気持ちを考えているとは思い難い母。母親同様厳格さばかりが飛びぬけて口を開けばきつい言葉しか言ってこない一番上の姉。唯一穏やかな性格の二人目の姉だけは自分に対して優しい言葉をかけてくれる。でも、体が弱いから時折甘えることができないことがある。ちぃ姉様に無理な負担を駆けたくない。だからこの日のルイズは…。
「…一人ぼっち…」
「僕のルイズ、泣いているのかい?」
顔を上げると、そこには一人の青年がいた。銀髪の長い髪をたなびかせ、その上に帽子を被っている人。ルイズは彼を見た途端、さっきまでの沈んだ顔から一転して明るくなった。
「子爵様?いらしていたのですか?」
「ああ、例の約束でお父上に呼び出されたんだ。そして来てみれば、使用人たちが君を探していると聞いてね。もしかしてと思ってここに来たんだ」
『子爵様』、それはルイズの憧れの男でもあった。10歳ほど年上の人物で、ルイズに対して二人目の姉以外で数少ない優しい言葉を何度もかけてくれる、ルイズの支え。
「また、母上殿にお叱りを受けたみたいだね」
「…ごめんなさい」
「どうして謝るんだ?気にしなくていい、僕からとりなしてあげよう。さあ、おいで」
「はい…!」
子爵と呼ばれた青年は、ルイズに手を差し伸べると、ルイズはほんのり顔を赤らめながら手を伸ばしていく。すると、一陣の風が吹き抜け彼の帽子を吹き飛ばした。
「さあ、俺のルイズ」
ルイズは驚いて目を見開いた。そこにいたのは子爵ではなくなっていた。
自分の使い魔である黒髪の少年、サイトだった。いつの間にか自分の姿も16歳の姿に戻っていた。
「な、なんで!?」
「なんでって…お前は俺が好きなんだろ?俺もなんだ。ルイズ」
「ば、馬鹿言ってんじゃないわよ!!」
急にこの犬は何を言い出すんだ。怒りか、それともこんな歯を浮くセリフを言われて照れたのか、ルイズの顔が赤みがさす。
「約束するよ、ルイズ。俺が君を守るよ。どんな奴にも手を出させない」
優しく自分の頬に触れるサイトに、ルイズはついに動けなくなってしまう。いつもならすぐに鞭を振って罰を与えてくれようかと思っていたのに、どうして体が動かないのだ?いや、違う。これは緊張だ。ルイズが内心強く望んでいた言葉だった。それが彼女から自由を奪っていく。
サイトがだんだんと近づいて自分を押し倒そうとのしかかってくる。自分の唇を奪い取ろうとしている。
―――――だ、だめ!
ルイズはこの時不思議なくらい素早く動けた。自分を押し倒してきているサイトを、両手で押し戻し、恥ずかしさのあまりサイトから逃げ出そうと走り出す。だがルイズは忘れていた、ここは池の水面に浮かぶ小舟だということに。夢の中とはいえ、現実では当然のごとく彼女は足を踏み外して池にボチャン!と落ちてしまった。
「ひゃう!!?」
が、冷たさを感じなかった。落ちた途端にずぶ濡れになるだろうと思っていたのに、水の感触がまったくない。どうしてだろう。顔を上げると、そこは自分の屋敷の庭ではなくなっていた。
ルイズは、どこかの建物の中に居た。
その様式は、ハルケギニアでは決して見ることがないであろう作りだった。そして、相手を素直に評価しないルイズさえ素直に評価させるほど立派で美しいと感動を促した。
どこかの、塔のようだ。最下層へ深々と吹き抜けが存在し、落ちたら一巻の終わりと見て取れるほどの高さのようだ。それにしても、ここは眩しい。まるですぐ近くに太陽があるような明るさだ。
ふと、ルイズの前を誰かが横切った。ルイズは自然とその人影を目で追うと、その人影はまっすぐ光の先へと歩いていた。光はとても眩しかったが、同時に綺麗な輝きを放っていた。どんな宝石でも敵いそうにないほどの美しい光。吹き抜けの上に掛けられた足場を歩き、その人影は光へ手を伸ばしていく。
「待て!」
が、ここでその人影の横から、別の誰かが彼の手を掴む。赤々とした体を持つ、赤いマントを羽織った人影。その手を振り払った反動で、光を掴もうとした人影は、横から現れたもう一つの人影に向かって叫ぶ。
「邪魔をするな!」
「その光に近づくな!お前には、まだ早すぎる!」
「舐めるなよ…俺はこの力を使いこなして見せる!!」
立ち上がって、光を掴もうとしたその人影は、マントを着た人物に向かって怒鳴る。だが、さらに別の誰かが三人ほど現れた。三人組のリーダーと思われる男…いや、よく見るとそれは人間ではなかった。
銀色の体に赤い模様を刻み込み、貴族が持ち得ることがないような立派なマントを羽織った…人型の存在だった。
いや、ルイズは知っている。自分の使い魔から聞いた特徴と合致していたのだから。
「ウルトラマン…!?」
そう、彼らはウルトラマンだった。それも一人だけじゃない。この場にいる全員で、5人もいる。
リーダー格の、胸にいくつものマークを刻んだウルトラマンが、赤と蒼の模様と二つの鶏冠か角のようなものを持つ六角形の金色の目を持つ、たった今光を掴もうとした若いウルトラマンに言う。
「お前はM78宇宙警備法を破った。大人しく来い!」
そう言うと、彼の隣にいた二人のウルトラマンたちが、若者のウルトラマンを両側から取り押さえた。
「は、離せ!!」
「暴れるんじゃない!」
「離せよ!!」
自分を捕まえるその手を振りほどこうとするが、二人係りで身動きを封じられた彼はそのまま連行されていった。
(何…これ…?)
一体これは何の夢だ?
若いウルトラマンを止めた、彼と似た特徴を持つ赤いウルトラマンは、言っていることは厳しくも、どこか悲しげに告げた。
「残念だが、もうお前に
ウルトラ戦士を名乗る資格はない…」
なぜこんな光景が?自分は今何を見せられているのだ?ルイズはどういうことが説明を求めようと、ウルトラマンたちに向けて声をかけようとするが、ここでぐにゃりと視界が歪んでしまい、やがてルイズも意識を手放した・
「ん…」
ルイズはここで目を覚ました。まだ外は双月が輝いている。そして目の前には、なぜかシャツとズボンだけのサイトがいる。つまりベットに寝ている自分に覆いかぶさっているのだ。その上サイトはルイズのネグリジェを捲くっていた。下着を着けていない、生まれたままの自分の姿がほとんどさらけ出されていた。
「よ、よお」
「………あんたなんでベットにいるの?というか私に何しようとしたの。っていうか何してるの」
「恋人同士がする愛の語らいを…」
そこまで言ったサイトの股間をルイズは蹴りあげ、ベットから彼を蹴り飛ばした。
「おぐ!?」
悶絶して床の上に転がるサイト。ルイズはそんな彼の頭を、ものすごく荒まじいオーラを放つあまり髪を波立たせながらゲシッ!と踏みつけた。見るからにものすごく痛そうだ。
ルイズはサイトへの怒りの炎が燃え上がっていた。たかが使い魔が、ヴァリエール公爵家三女である自分の高貴なベッドに忍び込み、あろうことか自分の嫁入り前の素肌を汚そうとしていたのだ!女としてこれほど許されないことはない!シスの暗黒卿も思わずガクブルな気迫に、サイトは自分から言葉を放つことが許されないことを思い知った。
「愛の語らいですって?一人でやりなさいよこの馬鹿」
「あれ?ほ、惚れてるんじゃなかったっけ?俺の勘違いなの?」
「誰が、誰に?」
「えっと…ルイズお嬢様が、俺に…」
「理由を述べごらんなさい」
睨み付けられたサイトは、冷や汗をだらだらとかきまくって一つの池を作りそうな勢いた。
「あ、ほら…舞踏会の時、この使い魔を見る目がなんだかうっとりと恋する乙女のような目になっていたから…」
「へえ…それであんたは私から愛されていると勘違いしてベッドに忍び込んだと?」
「は、はい…もしや、この使い魔は飛んだ勘違いを…」
あはは、と渇いた笑みを浮かべるサイト。
「勘違いに決まってるわよ。使い魔が主人のベッドに忍び込んで…い、いいい…いいいいいい…いやらしいことを仕掛けるなんて…きき、…聞いたことないわよ?」
ルイズは声がもう止めようがないほど震えている。目の笑っていない笑み、起爆寸前の爆弾のよう であった。
「……ボロ剣、あんた見てなかったのかしら?」
ギロリ!とものすごい目つきで壁に掛けられている古びた喋る剣、デルフを睨む。こいつはずっと見ていたし、自分とサイト以外で理性を持つ奴と言えばこいつだけ。ならばサイトが自分のベッドに忍び込むという破廉恥な行為を止めることができたはずではないか。
「俺?俺っちはどうやって相棒を止めるんだよ。一応忠告は入れておいたんだぜ?」
「役に立たないボロ剣ね」
「無茶言うな。専門外だっての」
自分からでは動けない剣なんかを当てにしたのが間違いだったか。
「まあいいわ。サイト…」
「は。はい…」
「最初に合った時は何かと偉そうに言ってた割に…結局ただの、人の姿をしたケダモノだったのね。よくもまあ、この私を軽く見てくれたわね?」
ルイズという爆弾の導火線に着いた火が、あと少しで爆弾本体に達しようとしていた。
「ごめんなさい!次からはしません!!」
「………次はないのよ。覚悟しなさい!!」
「ぎゃあああああああ!!!」
爆発的な怒りは、大嵐を巻き起こすかのごとくサイトを吹っ飛ばし、彼はスーパーボールのように壁を跳ねながら激突を繰り返す。最終的に床に落ちたサイトはかなりズタボロの状態となっていた。
「い、いつも通り…お、起こしてやったってのに…これ…は…ない、だろ…ガグッ」
「へ?」
倒れたサイトに向けてルイズは目が点になる。さっきまで暗かったはずなのに、今は太陽の光が眩しく差し込んでいる。その光に照らされたサイトの服装は、さっきのようにシャツとトランクス姿ではなく、ちゃんと着こまれた青と白のパーカーにジーンズの姿だった。
と、ここでキュルケがあまりにも大きな声と音のあまり仏頂面でルイズの部屋の扉を開いてきた。
「ルイズ、朝から何の騒ぎ?少しは隣にいる人のこと…も?」
キュルケの視界に入ったのは、下着姿のルイズと朝からボロボロのサイトの姿だった。
「あ~あ~何やってんだか」
デルフはため息交じりに、早朝からの大騒ぎに呆れかえっていた。
「べ、ベッドに忍び込んだんですってぇ!!?」
朝の教室。サイトにベッドに忍び込まれた…と思い込んでいたルイズはサイトに無理やり首輪をつけて歩かせ、逆らったら鞭を振うと言う奇行に走ってしまった。周囲からは当然、ルイズが怪しい趣味に目覚めたようにしか見えず、かなり懐疑的な目で見られている。だが一人で勝手に怒っているルイズはそれに気づいていない。
というより、それ以上に気づくべきなのは、真夜中にサイトに押し倒されたというのはルイズの勝手な思い込みで、ルイズがサイトをブッ飛ばしたところまで彼女の『単なる夢オチ』だったのである。寝ぼけた反動でここまでサイトをブッ飛ばせるルイズの一撃は、ある種の才能かもしれない。
サイトに押し倒されたとルイズから聞いたモンモランシーは顔を真っ赤にしてヒステリックな悲鳴を上げた。
「はしたない!!はしたなすぎるわ!!不潔よ!!」
「そ、そうだぞサイト!なんてハレンチな!!」
ギーシュはサイトがルイズをベッドで押し倒したと言う話を鵜呑みにし、そのことを注意しながらも内心、でも男のロマンだよなぁ~、と心の片隅で思っていた。ちなみにタバサは無視を通したまま今でも本を静かに読み続けている。
「だ、だから誤解だって!!俺は何もしてない!!」
この事態は一体何のギャルゲ展開ですか!!!それとも痴漢容疑をかけられた男を主人公にした映画か?サイトだって、どこぞの世界の自分みたいにここまでのことはしないと思っていた。
…あれ?どこぞの自分って何さ?と自分で考えておきながら自問自答していたが。
「う、嘘おっしゃい!!あああああんた…ごご、ご主人様のベッドに堂々と…!」
純情なルイズには耐えがたい夢だったのか、そんな夢を見てしまったことを頑なに認めたくないようで、ルイズは滅茶苦茶なほど冷静さを失ってサイトの話を認めようとしない。
「いつ?!誰が!?何時何分何秒!?地球が何回まわった時だよ!!?いつも通り起こしてきただけじゃないか!なのに起き出して早々勝手にブチ切れて人をボロ雑巾みたいにしやがって!というかルイズ、こいつを外せ!!俺は犬じゃない!」
懐かしの子供じみたツッコミを混じらせながら、首輪を引きちぎろうとするサイトはルイズに断固抗議する。キュルケもさすがにサイトが哀れに思えたため、彼の味方に入る。
「現実と夢の区別もつかないの?まったく、寝ぼけてダーリンを殴り飛ばすなんて、淑女のたしなみがなってないわね。実はあんたがいやらしい流し目でダーリンを誘惑したんじゃないの?『エロのルイズ』」
「だだ、誰がエロよ!い、色ボケのあんたなんかに言われたくないわよ!夢だろうがなんだろうが、ごご、…ご主人様に歯の浮くようなこと言ってくるこの発情犬が全部悪いんだから!!」
顔を真っ赤にしながらルイズは鎖につないだサイトを指さして怒鳴り散らす。しかし、一方でキュルケは、はは~んと怪しい笑みを浮かべた。
「な~んだ。そういうことだったのね」
「な、何がよ…?」
この時のキュルケの目の意味を、ルイズは理解している。いつも自分をからかったり馬鹿にして言い負かした時の目だ。ルイズを自分に寄せると、キュルケは彼女の耳元で、小声でルイズに言う。
「あなた、サイトが気になり始めたのかしら?使い魔じゃなくて、男として」
夢の中でサイトにここまでルイズをうろたえさせるほどのことを言われたのなら、間違いなくこれは恋だ!とキュルケは読み取った。
「!!!!」
ルイズは耳まで顔を真っ赤にしてキュルケを突き放す。
「ば、ばばば!ばばば…馬鹿言ってんじゃないわよ!いつ!?誰が!?何時何分何秒!?地球が何回まわった時よ!!」
「明らかに動揺してるし、それにチキュウって何よ」
モンモランシーは額に手を当ててはぁ、とため息を漏らした。
「あああもう!!いい加減にしろっての…んんんん、と!!」
いい加減首がこそばゆくなったサイトは、無理やり首輪を引きちぎろうとする。ゼロと同化したおかげだろうか。結構丈夫なために手古摺ったが、首輪はなんとか取り除くことができた。
「か、勝手に千切ってんじゃないわよ!」
「うっせ!!ったく…」
もうここにいられっか!とサイトは吐き捨てると大層ご立腹で教室を出て行った。
「どこに行くのよ!待ちなさい!!」
いつもは主人の護衛という名目で強制的に自分の傍に置いていたのだが、今回ばかりはサイトの怒りの方が勝っていたらしく、サイトは教室から姿を消すまでルイズを無視していった。
「あらら。今回ばかりはあなたが悪いわね、ルイズ」
モンモランシーはやれやれとため息をつく。
「流石にやりすぎではないかい?少しは耳を傾けてあげてもよかったはずだよ」
ギーシュもサイトが去って行った教室の出入り口を眺めながら言う。
「あによ!あんたたちも信じてたじゃない!…ふん」
顔の熱が冷めないまま、ルイズは意固地になって椅子に座りこんだ。これはしばらく収まらないか。まあ慌てることもないだろう。キュルケは、ここは傍観した方がいいと思い、サイトとルイズを見守ることにした。
(あのルイズが異性絡みでここまで動揺したんだもの)
ルイズのサイトへの理不尽さには呆れていたが、同時にルイズが女としての幸せに自覚しつつあったことに、同じ女として微笑ましげに笑いながらそう思っていた。無論、サイトのことも狙うつもりなのは変わりないが。
一人で勝手に理不尽に憤慨するルイズはふくれっ面のまま教科書を机の上に置く。舞踏会の時からだ、あの使い魔のことを考えるとかなりドキドキしたりイラついたりする。胸の中に今まで感じたことのない何かが湧き上がってくる感じがしている。一体何なのだ?
(夢と現実の区別がつかない?だからなんだと言うの!ご主人様にこんな思いをさせる使い魔が悪いんだから!!あ~もう!!夢にまで出てきて馬鹿なことばっかり言ってきて!一体何なのよ!!っていうか、なんで私がこんなにイライラしなきゃいけないのよ!)
頭を掻き毟るルイズは一体今の自分に沸いている感情がなんなのか読み取ることができない。
…夢?ルイズはその単語について一つあることを思い出す。
そう言えば、サイトが自分に対して夜這いを仕掛けてきた夢を見る前、別の夢を見ていた気がする。確か…ウルトラマンが何人も出てきて…あれ?ルイズはそこで思考を止める。
(どんな内容の夢だったかしら…?)
夢というものは、起きるとその内容を忘れ去られがちなもの。サイトへの誤解のせいもあって、内容についてルイズはほとんど思い出せなくなっていた。
「た、大変ですぞ!!」
とその時、全身にフリルをあしらった奇抜な衣装と金髪縦ロールのカツラを着けたコルベールが叫びながら教室に飛び込んできた。コルベールのその姿に教室にいた者は何も言わなかった。というか言えなかった。…あまりにもセンスが微妙かつ残念すぎるのだから。
「ナイスファッションセンス!」
ただ一人、コルベールの衣装を見たギーシュが褒め称えていた。横ではモンモランシーが懐疑的な目で彼を見ていた。コホン、とコルベールは一つ咳払いをする。一体何を知らせに来たのかコルベールは説明し始めた。
「皆さんにお知らせです!本日から二日後、始祖ブリミルの降臨祭と並ぶ日に―――」
体を後ろに仰け反って説明するコルベール。すると、コルベールのカツラがスルリと落ちた。それを見て今度はタバサがコルベールの頭を指差しながら一言。
「ツルツル滑りやすい」
「「「あっはははははははははは!!!」」」
「あなたって時々口を開くと面白い事言うわね!」
教室中がドッ!と笑いに包まれる。腹を抱えながらキュルケはタバサの肩を叩きながら話しかけた。
「ええい!黙らっしゃい!!大口を開けて下品に笑うとは!王宮に教育の成果が疑われる!」
笑い声が響く中、コルベールは憤慨して生徒達を叱り付ける。教室の騒動が静まりかけたところで、コルベールはコホンっと咳払いし用件を口にした。
「では改めて…我がトリステイン王国の花!アンリエッタ王女殿下がゲルマニアご訪問からの帰りを利用し、このトリステイン魔法学院に行幸なされます!!」
その言葉に、教室が先程とは別の意味で騒然となる。
「姫様が……いらっしゃる?」
ルイズはさっきまでの湧き上がった熱が一気に冷め、驚いていた。
「したがって粗相があってはいけません!今から全力を挙げて歓迎式典の準備をおこないますぞ。よろしいですかな!?」
「「「「ハイ!!!」」」」
二日後に来訪する姫の出迎えに備え、魔法学院の生徒たちは準備に取り掛かったのだった。
ここまで大分長々になったが、今回話すお話はサイトたちがメインではない。トリステインから北西のとある場所に目を移すとしよう。
アルビオン大陸。サウスゴータ領の最大都市、シティ・オブ・サウスゴータと港町ロサイスを結ぶ街道から50リーグ(約50キロ)離れた森の中。
そこには地図にも記されていない小さな村があった。
その村の名前は…『ウエストウッド村』。
存在さえアルビオンの国内でも忘れ去られている…というよりほとんどの人々から初めから存在を認知されてもいない村。
その村は、村というよりも孤児院だった。戦争・人売り・盗賊からの襲撃で家族から引き離された子供たちが集う施設でもあった。丸太と漆喰で作られた男子寮・女子寮ともう一つ、村長の家として他の二つよりも多少大きめの家が、最後に切り株を使って拵えたテーブルと椅子が用意されている。
まだ小さな子供たちが無邪気にきゃっきゃっと騒ぎながら走り回っている。一番大きな家の煙突から白い煙が上っていた。今は朝、朝食のためにを火を起こしているらしい。キッチンでは、17歳ほどの美しく長い金髪少女をなびかせる少女が鍋を煮込んでいた。まるで某美麗なCGムービーで有名なRPGの登場人物を実体化させたような輪郭と細い体に白い肌に、あどけなさを残した美貌。まるで妖精そのものだった。ただ、一部分だけ彼女には男女問わずギョッとする外見があった。
…胸だけが、異常に大きいのだ。体はとても華奢なのに、そこだけは異様な大きさを誇っていた。それも、バスト94センチのキュルケさえも凌駕していた。それは今、彼女の料理を待っている女性…フーケさえも驚くもの。とはいえ、この少女とフーケは以前から顔見知りだったので驚きは薄かった。
少女の名前は『ティファニア』と言った。
フーケは、このティファニアという少女を妹・娘のようにかわいがっている。そしてこの村の子供たちのことも大事に思っていた。だがこの村に、大人はいない。自分を除いた年長者であるティファニアにはこの村で子供たちをまとめ養う役割がある。そしてもう一つの理由が、彼女の耳にあった。耳の先がとがっているのである。これは彼女が人間ではなく、ハルケギニアの人間たちから畏れされている種族『エルフ』の血を引いている証拠だった。世間から恐れられている種族の血を引く少女を村の外に迂闊に出すわけにはいかない。さらにもう一つ理由があるが…ここではまだ割愛させておこう。
しかもここに収入源といえるものはなく、働こうにも貴族じゃない人間が子供たちを何人も養えるお金を稼げない。だからフーケは、盗賊稼業に勤しんでいたのだ。
かつてフーケは、今は取り潰しとなったこの領地の前領主の娘であった。当時の名前は『マチルダ・オブ・サウスゴータ』。だからティファニアやシュウから『マチルダ』と呼ばれている。
「なあ、テファ」
「なぁに、姉さん?」
名前を呼ばれ、ティファニア…テファは首を傾げる。
「あいつ…シュウのことなんだけど、ちょっかいとか出されなかったかい?」
「ちょっかいって?」
「あ~いや、なんでもないよ。その様子だと何もされてないみたいだね」
「?」
何を言いたかったのだろうとキョトンとするテファ。彼女は世間に出たことがないので、見てくれ通りの天然…というよりも純粋すぎる少女だった。美貌・スタイルよしな身で、こんな子が悪い男に引っかかったりしたら大変だ。だからマチルダは彼女が、シュウから何かよからぬことをされていないか心配もしていたのだ。
「そういえば、あいつは?」
シュウの姿を、この日のマチルダはまだ見かけていない。
「シュウなら、何か買い物に出かけるって言ってそのまま行っちゃったわ。つい一週間前の昼にしばらく必要な分を買いに行かせたのに…」
「い、いないのかい!?」
思わず声を上げたマチルダ。その迫力にテファはひう!と悲鳴を上げた。妹分をびっくりさせてしまったことに気づいたマチルダは深呼吸して己を落ち着かせる。
「ごめん…ちと興奮したみたいだ。けど…」
なんで勝手に買い物に?それもまだ間もない期間で?この村には無駄使いができるだけの金はないし、自分だって生活を最低限支えられる分しか稼ぎ切れていない。何せ多人数の子供たちを養うのにどれだけの金がかかると言うのだ。それを、あのシュウが知らないはずがない。
…いや、待てよ。
先日、破壊の杖を手に入れようとした自分が怪獣に襲われた。その時あいつは颯爽と現れて、しかもウルトラマンに変身して自分の窮地を救った。こんなのは決して偶然では起こりえない。あいつにはなるべく常時はこの村に留まるように言っていたはずなのだから。なのに買い物に?それはない。
(…どっかで戦ってるってことか)
恐らく自分の危機にちょうどいいタイミングで来られたのはあいつが持つウルトラマンの力の一端。シュウ自身もそれを認めたし、そうでなければあんな都合のいいタイミングで助けに来ることができるはずもない。
しかし、疑問に思う。あいつはいつあの力を手に入れた?そしてどうして、あんな化け物たちと戦うのか?
ふと、マチルダは彼が…黒崎修という男がこの村にやってきたその日のことを思い出す。
何か月前のことだろうか。その日、マチルダは数十日ぶりにウエストウッド村にいるテファたちの元に帰ってきた。
「テファ、チビたち。今帰ったよ」
「マチルダ姉さん。お帰りなさい。皆、姉さんが帰って来たわよ!」
テファは姉代わりの彼女が帰ってきたことにとても喜び、この村で暮らす子供たちを呼ぶ。すると、小屋から多数の10歳未満の子供たちの集団がやってきた。
「マチルダ姉ちゃんだ!」「お帰り、お姉ちゃん!」
「ああ。ただいま」
マチルダは盗賊稼業を勤しんでいる身。裏の薄汚い世界を何度も見てきたし、その分だけこの世界の貴族たちがどんなに汚い連中で出来上がりつつあるのかを知っている。そんな荒んだ世界で大切な妹分と純真無垢な子供たちのために生きている中、この子たちの笑顔はマチルダにとって大きな救いとなり、力をも与えた。
「はい、数ヵ月分の金持ってきたよ」
マチルダは盗賊稼業で稼いできた袋一杯の金をテファに渡す。今回はなかなか珍しいマジックアイテムを、とある貴族の屋敷から盗み出し裏ルートに売りさばいてきたおかげでがっぽり稼ぐことができた。
「ねえ、気になってたんだけど、このお金どこで手に入れたの?」
「ふふ、細かいことは気にしたらダメさ」
そんなことを露知らず尋ねてくるテファに対し、マチルダは意地悪な笑みで誤魔化す。
「もう、いつも誤魔化すんだから…」
ちょっと頬を膨らますテファだったが、マチルダ自身に危険が及ぶようなことがあるのではと悪い予感があったが、無事にまた来てくれたことを喜んでいた。
しかし、相手の心配をしていたのはなにもテファだけじゃない。マチルダもだ。自分がいない間に、何かこの村に危険が及ぶようなことがこの先もなければいいのだが、と思っていたが、万が一のことも彼女は常々考えていた。この辺りは地図にも記されておらず、時折盗賊や悪徳傭兵が略奪目的で現れることだって不思議じゃない。
(テファの『あの魔法』があるからって、いつまでもこの村が安全とは限らないよね。ここは、やっぱりあれに賭けるか…)
マチルダは考えていた賭け…。それは、使い魔召喚の魔法『サモン・サーヴァント』。テファも実は魔法を使うメイジでもある…のだが、魔法をほとんど多用したことがない。しかもそれ以前に、彼女は魔法をうまく扱いことができないのだ。
…それも、後に彼女が魔法学院に努めることになった際に存在を知ることになるルイズのように。
そんな彼女だが、彼女が持つ『たった一つだけ使える魔法』だけでこの村は守られてきていたのである。だからマチルダも遠くへの出稼ぎに出かけることができたのである。それでも、先ほどマチルダが考えていた通りテファの持つ魔法が無敵というわけじゃない。それにこの国…アルビオンはテファが生まれる以前は少なくとも表向きは治世であったのだが、今では各地で反乱が起き始めており、政治・軍事面できな臭さが増していた。はぐれメイジがこの村に金や売却目的の奴隷を求めて現れることも考えられる。
やはりここは、信用できるうえに頼れる存在が必要と考えた。かといって傭兵を雇うなんて問題外。せっかく雇ってもエルフの血を引く彼女を恐れる奴、または彼女の体を売り飛ばそうとする奴かもしれない。それに自分が稼いでる金に、この村を守る傭兵を雇えるような余裕自体ないのだし、子守なんかやってられないと断られることも考えられる。だからテファに使い魔を召喚させ、そいつに彼女とこの村を守らせることが最善ではないかと考えた。
意を決したマチルダはその日の日が沈み始めた頃、子供たちもいる前で自分の意見をテファに告白する。
「テファ、使い魔を召喚してみないかい?」
「え、使い魔?」
急に言われてテファは戸惑う。
「あんた一人じゃ、チビたちを養うの大変じゃないかい?だから、手伝いをやってくれたり、守ってくれそうな使い魔を召喚したら、少しは負担を減らせるかと思って」
「マチルダお姉ちゃん、つかいまってなあに?」
使い魔ってなんだろうと子供たちが考えている中、まだ6歳ほどの少女が気になってマチルダに尋ねてきた。
「使い魔って言うのはね、召喚したメイジの頼れるパートナーになる奴のことさ。召喚のゲートって奴を作り出し、そのゲートからそのメイジに相応しい使い魔を呼び出すんだよ」
「うーん…」
使い魔とはいかなるものかを説明したものの、少女はよくわからないと首を傾げている。こんな小さな子に難しい話は無理か。マチルダは苦笑する。そんな中、子供たちの中で年長者に当たる少年がマチルダに質問してきた。
「とにかく、テファ姉ちゃんの魔法で何かが出てくるんだろ?たとえば…えっと…竜とか」
「ドラゴンって、アルビオンの竜騎士たちが乗ってるあのデカくてかっこいい生き物なんだろ?俺も見てみたい!」
「竜ねえ…そいつは結構難しいよ?」
竜は相当優秀なメイジでないと使い魔として召喚できない。これはメイジの中でよく聞く話だ。お世辞を言っても仕方ないのではっきり思うと、テファにそんなものすごい奴を呼び出せるだろうか?というか、寧ろそいつの世話に手間がかかってしまうんじゃないか?とはいえ、だからってそこら辺の傭兵を雇っても信頼性に欠けるものである。
「僕はグリフォンって奴を見てみたいな」
「かわいい動物がいいな~」
「俺も使い魔っての召喚できないかな?」
子供たちが様々な意見を飛び交わせている中、テファは少し不安げな顔をしていた。
「使い魔…召喚できるのかな?だって私の魔法、『あれ』以外は今まで…」
「小さな爆発しか起こんないからって?大丈夫さ、今度はうまくいくって」
さっきも言っていたが、テファはどういうわけか魔法がうまく扱えない。ルイズと同様で、自分が一つだけ使えると言う『あれ』の魔法以外はこれといった系統魔法が使うことができないままでいた。この爆発現象のため、テファは魔法を使うことにやや不安を抱いている。
「でも姉さんの使い魔は?」
姉に使い魔がいないことが気になったテファが尋ねるが、マチルダはいらないと言った。
「あたしはいいさ。いなくても大丈夫。ゴーレム作れるんだし」
「ほら、でかいのが召喚されることもあるから、外に出な。やり方はあたしが教える」
「え、ええ!?早速!?」
いきなりやってみると言う流れにテファは動揺を露わにする。
「はいはい慌てない。さ、行くよ!」
後押しのつもりで、妹分の背中を押すマチルダ。彼女に促され、緊張気味のテファはサモン・サーヴァントを唱えるために外に出る。
子供たちも強く興味を引かれ外に出てテファの召喚の儀式を見守ることにした。一体どんな使い魔が、彼女の元に召喚されるのだろうか。子供たちがわくわくと期待に胸を膨らませる中、姉から唱え方を教えてもらったティファニアには不安府が募る。でも、姉の言っていることは長年の付き合いもあって理解している。自分を思ってくれているからこそだ。ならばそれに応えよう。
テファは目を閉じ、呪文を唱え始めた。
「我が名はティファニア。五つの力を司るペンタゴン。我の定めに従いし使い魔を召還せよ」
目を開いて杖を振うテファ。すると、彼女の周囲に五芒星の魔法陣が展開され青白く光った。おおお!!っと子供たちから歓声が上がる。何が出てくるのか、そんな楽しみ感が最高峰に達する。
テファの目の前に、ちょうど等身大の丸い鏡のような発光体が現れる。召喚のゲートの完成だ。系統魔法がこれといって使えないテファが、どれにも属さないこの手の魔法が使えると言うことに関しては、マチルダは安心していた。さて、あとはどんな使い魔が現れるか…。
ブォン、ブォン、ブォオオオオン…!!!
「?」
「何の音?」
何やら聞いたことのない音が聞こえてくる。まるで暴れ馬のような…いや、それとも違う。とにかくものすごい勢いある音だと言うことは理解できる。なんだろうと思ってゲートを覗き見てみると、まだこのうるさく響く音は聞こえている。それどころか大きくなっている。
バオバババ…!!!
マチルダは長年の勘のおかげか、何かものすごい危険な何かがゲートの向こうにいると確信した。
「やばい!離れて!」
すぐにテファを、そして子供たちをゲート前から非難させるマチルダ。彼女の誘導で直ちにゲートから離れたテファたち。
避難が終わったその途端、ゲートから何か黒い影が飛び出してきた。馬の勢い着いた速さなんでかわいいものに思えるほどのものすごい勢いと速さだった。飛び出したその影は二つに別れた…
いや、違う。人だ。別れた影の片方は人だった。そして一方は何か鉄の塊のような見たこともない物体。その人物と鉄の塊は勢い余ったように地面に転がり落ちた。
鉄の塊はプシュー!ッと音をたて、そして震えながらさっきまで聞こえていた音を鳴らし続けている。もう一方の青年は、今の転がり落ちた衝撃で意識を手放し、しかも打撲とすりむき傷などの怪我を負っていた。子供たちはびっくりしていてもう何が何だかわからなくなって放心状態だった。
「に、人間!?」
鉄の塊のこともそうだが、まさか現れたのが動物ではなく人間だということに、マチルダも驚いた。
「だ、大丈夫!?」
「て、テファ!危ないよ!」
まだこいつが何者なのかわかったものじゃないのに、テファはゲートから現れた人の元に駆け寄る。心配になったマチルダも彼女の元に駆けた。腕の中に納めてその人の顔を見ると、若い青年だった。テファよりもほんの少しだけ長く生きていたくらいの年齢だろうか。顔だちは悪くないが、この青年からどこか強い影をマチルダは感じた。
「命に別状はないみたい。よかった…」
「まだ安心するんじゃないよ。こいつのこと、あたしたちはまだ知らないんだ。まずは傷の手当てをして、こいつが目を覚ますのを待とうか」
レビテーションの魔法で彼と、彼が乗ってきたと思われる鉄の塊を浮かせると、マチルダはテファの家へと運び、テファと子供たちもそれに着いて行った。
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