ジャガイモ
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第二章
「どうするよ」
「このドイツのお店にだよな」
「入るかい?」
こうメリオッティに問うのだった。
「この店にな」
「そうだな、ワインもあるしな」
メニューにはそれもあった。
「モーゼルか」
「ドイツのワインか」
「それもあるからな」
「じゃあ入るか」
マッチェネッリは自分から言った。
「ここは」
「そうだな、それじゃあな」
「ああ、入るか」
「今日はここで飲んで食うか」
「そうしような」
こうメリオッティに言ってだった、そのうえで。
二人はそのドイツ料理の店に入った、するとだった。
店の中は古風な、十九世紀のそれを思わせる煉瓦の造りだった。店の端と端には大きな樽が幾つも置かれている。
店のテーブルや椅子、カウンターは樫だ。その樫もだった。
「ドイツだなあ」
「ああ、そうだな」
「そのままな」
「ドイツだな」
「ついでに言うとわしもだよ」
ここでカウンターから声がしてきた、見事なまでに腹が出て頭は光ってさえいる。口髭がありチョッキとズボン、シャツという格好の中年の男である。
頭の左右に残っている髪の毛は金髪で目は青い、そして肌はマッチェネッリ達より白く背はかなり高い。その親父が言ってきたのだ。
「ドイツから来たよ」
「ああ、見たまんまだな親父さん」
「ドイツからの観光客そっくりだよ」
「言葉の訛りもドイツだしな」
「イタリア語でも」
「ああ、バイエルンから来たよ」
ドイツのそこからだというのだ。
「はるばるな」
「へえ、そうかい」
「バイエルンから来たのかい」
「それでここで店を開いてるのかい」
「ローマで」
「そうさ、結構繁盛してるよ」
見れば店には客が多い、皆ソーセージやベーコンと一緒に巨大なジョッキでビールを楽しんでいる。客は金髪の者が多い。
「見てわかるな」
「ドイツからの人ばかりだな」
「お客さんばかりじゃねえか」
二人はその客達を見回して親父に答えた。
「親父さんもそうだし」
「ドイツからの観光客の一息の為の店か」
「そうさ、あとあんた達にもな」
彼等イタリア人に対してもだというのだ。
「知ってもらいたいんだよ、ドイツの味を」
「っていうかビールをかい」
「ソーセージもか」
「ああ、それにな」
その二つだけでなく、とだ。ここで親父が出したものはというと。
「ジャガイモもだよ」
「ああ、出たな」
「だよな」
マッチェネッリとメリオッティは親父がジャガイモの名前を出すとだった、顔を見合わせてそのうえで笑ってこう言った。
「やっぱりドイツだからな」
「ジャガイモ出るなあ」
「もうお約束だな」
「ジャガイモは外せないんだな」
「おいおい、御前さん達ジャガイモを馬鹿にするのかい?」
親父は二人の口調を受けて彼等に問い返した。
「まさかと思うが」
「いや、馬鹿にはしてないさ」
「それはないさ」
二人も馬鹿にしているかどうかというとそれは否定した。
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