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髑髏の山

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第一章

                      髑髏の山
 キリング=フィールドという映画がある、あまりにも有名なカンボジアにおけるポル=ポト派の虐殺を告発した映画だ。
 この映画で描かれている虐殺は残念ながら事実に基づいている。カンボジアはポル=ポト派によって空前絶後の殺戮を経験した。
 カンボジアの人達は今もこう言う。
「どれだけ死んだかわかりません」
「家族も多くが殺されました」
「林檎を盗んだ子供が死刑になりました」
「眼鏡をかけているだけで」
 知識階級は根絶され美人も殺された、とにかくポル=ポト派に反発する、不穏と思われたらそれで処刑された。
 それで残ったのは運がよかった人達と。
 髑髏の山だった、誰もがその髑髏の山を見て暗い顔になった。
「皆あいつ等に殺された」
「あいつ等のせいでカンボジアは滅茶苦茶になった」
「全部ポル=ポト派のせいだ」
「あいつ等だけは許せない」
「見つけたら殺してやる」
 ポル=ポト派許すまじという空気は強かった、カンボジア国民にとって彼等はまさに悪魔と呼ぶに相応しい者達だった。
 今もジャングルの奥に隠れているという、しかしもう彼等はいないも同然だ。只の狂信そのものの少数勢力と化していた。
 それでカンボジア国民も彼等に警戒しながらも今は文明生活を取り戻し国家の発展に尽力していた。まだ苦しいが。 
 それは首都プノンペンでも同じだ、経済活動が盛んになり店も多い。車も走り人々は笑顔を取り戻していた。
 その中でだ、街で自転車屋を営んでいるウン=ナムは友人達からこんな噂を聞いた。
「へえ、寺の外れにか」
「ああ、出るらしいんだよ」
「あそこでな」
 皆食堂で飯を食いながらだった、ナムに話すのだった。
「呻き声が聞こえてくるってな」
「そういう噂なんだよ」
「確かあそこはな」
 寺の外れと聞いてだ、こう言ったナムだった。熱いビーフンをすすりながら。
「クメールの連中が相当殺したんだよな」
「坊さん達をな」
「尼僧の人達をな」
 そこでもだ。ポル=ポト派の虐殺が行われたというのだ。
「それでだよ」
「あそこでもそんな話があるんだよ」
「成程な、それ絡みか」
 ナムはビーフンのスープ、鶏ガラでナムプラーやコリアンダーで味付けをしたそのスープも飲みながら応えた。
「よくある話だな」
「全くだよ、俺達の生まれた頃のことじゃないけれどな」
「クメールの奴等は無茶苦茶やったからな」
 クメール=ルージュのことだ。ポル=ポト派の別称である。友人達はそれぞれ炒飯や野菜炒めを食べながらナムに応える。
「三百万殺されたらしいからな」
「狂ってるからな、あいつ等」
 当時カンボジアの人口は八百万程だったと言われている、しかしそのうちの三百万が殺されたというのだ。
「あの連中だとな」
「そりゃそれ位は殺してるだろ」
「だからあの寺の外れでもな」
「坊さんや尼僧さんをな」
「有り得るよな、確かに」
 否定しない声でだ、ナムも応える。それでこう言うのだった。
「じゃああそこに行けばか」
「ああ、見るかもな」
「やっぱりいるだろうな」
「肝試しには丁度いいな」
「そうだよな」
「今度してみるか?」 
 ナムはここで提案した。
「肝試しな」
「ああ、やるか」
「それか」
「街の寄り合いでな」
 それで、だというのだ。 
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