飾りじゃないのよ涙は
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第三章
「ここで待ってくれれば」
「いいんですね」
「はい」
それでだと言ってくれてだった。そうして。
私はそこに座って手術を待った、もう夜だがそこにいて。
一人祈った、時間を経つことも忘れて。
そして祈ってだった、手術室のランプが消えて。
出て来たお医者さんの一人に向かって立ち上がってすぐに尋ねた。
「あの、手術は」
「成功です」
朗報だった、その詳しいことは。
「意識はありました、ですが肋骨を折っていまして」
「それでなのですか」
「それをどうするかの手術でして」
それで危なかったというのだ。
「肺に刺さりかかっていました」
「そうだったのですか」
「暫く入院しなければなりませんが」
それでもだというのだ。
「もう大丈夫です」
「そうですか」
「後は面会出来る様になれば」
その時にだというのだ。
「またいらして下さい」
「わかりました」
私はお医者さんの言葉に今は無表情で答えるだけだったけれど。
家に帰る途中ほっとして、そして嬉しくて泣いた、ただひたすら泣いた。一人でいるから泣いた。
そして面会出来る様になって彼のお見舞いに行ってこう言った。
「よかったわね」
「泣かないな、やっぱり」
彼はベッドの上から私に笑ってこう言ってきた。
「御前は」
「そうね」
ここで私は言葉を隠した、その後に続ける言葉は。
「確かに」
人前では、言わなかったのはこの言葉だ。
そのうえで彼にこう言ったのだ。
「そうだよな、やっぱり強いよ」
「けれど助かって何よりだわ」
「まだ動くと痛いけれどな」
「気をつけてね」
それはとだ、私は彼に言った。
「いいわね」
「ああ、これからはな」
「肋骨が折れて肺に突き刺さりそうだったらしいわね」
「他にも肩とか折ったからな」
「さもないと次はもっと酷いことになるわよ」
「ああ、本等にな」
彼もしみじみとした感じで答える、本等に心から懲りた感じだ。
「もうこんなことはない様にするな」
「そうしてね、じゃあお見舞いの品はね」
花にした、その花束を彼に差し出して告げた。
「これにするから」
「食物はなしか」
「それは傷が治ってからにするわ」
「そうか、それじゃあな」
「その時にね」
私は彼に淡々と告げた、その表情を消したまま。
私は泣かないのじゃない、人前で泣かないだけだ。けれどそれでもそのことは誰にも言わないし見せないだけだ。そうした涙もあることは誰も知らない。
飾りじゃないのよ涙は 完
2013・10・3
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