【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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闖入劇場
第八七幕 「買い物道とは待つことと見つけたり」
前書き
19日、日刊話別9位。20日、日刊17位・日刊話別4位。
皆どんだけ佐藤さん好きなんですか・・・普段10点しか入らないのに20点入りました。つまり2人でなく4人が点を入れたという事です。割と大きな差です。他の話にもいくつか点が入ってて、お気に入り登録もちょっぴり伸びていました。執筆意欲の糧として有り難く受け取っておきます。
「一夏・・・」
「何だ・・・?」
「空は・・・蒼いね。綺麗な蒼だ・・・」
「そうだな、蒼い・・・吸い込まれそうだ」
だからどうしたという話なのだが、今の一夏とユウにとってはそれすらも話題たりうる十分なものだった。まるで悟りを開いた仏のような安らかで遠い世界を見つめる双眸は、さながら三千世界を見渡す神の如く。では、なぜ2人はそんな表情で空を眺めているのか?その理由は、互いの連れの女子達と別行動中だった女子達が一堂に邂逅してしまったことに起因する。
『うへぇ、ヒモビキニって・・・しかもきわどいなぁ』
『こんなのじゃズレて見えちゃうよ・・・』
『セシリア、如何?』
『嫌ですわそんなの。もうちょっと機能性のある奴にします』
『でもセシリアさんには似合いそうなんだけどなぁ・・・』
『・・・・・・ビキニなんて滅びればいいと思わない?簪』
『・・・・・・同意する、鈴』
とまぁずっとこんな会話が店内から聞こえてくれば自ずと気まずい空気にもなると言うもの。何でも当日までどんな水着を選んだのかを秘密にしておきたいらしく、男子2名は窓際のほとりでこうして空を眺めなければ精神的に耐えられないのだ。2人も新しい水着を買ったのだが、買い物というのは男子の方が圧倒的に早く終わるもの。終わってしまえば手持ち不沙汰なのだ。
「あの雲、大破したF-22ラプターに見えてこない?」
「あぁ、あの端っこで飛び出てるのが尾翼か。見える見える」
「いや見えねーよ!というか何でラプター限定なんだよ!しかも大破してるし!?」
「「・・・!!このツッコミのキレはまさか!?」」
突如意識しなかった方角から飛び込んできた、実家の布団で寝ているような安心感と懐かしさを感じた二人は一瞬目を見合わせ、バッと声の主を振り向いた。
「・・・・・・お前らの中での俺の扱いを垣間見た気がするよ」
―――それは最強のツッコミ神。
―――それはツッコミの究極なる姿。
―――二人が見出した、大いなる親友。
「「きみは行方不明になっていた五反田弾じゃないか!!」」
「なってねぇよ!!というか何故フルネームで呼んだ!?お前ら久しぶりに会ったと思ったらテンションのアップダウンおかし過ぎるだろ!?」
救世主、到来。
「いや、蘭がさ。店に入った途端に鈴とばったり出くわして、そのまま拉致られれちまったのさ。その時にお前らが店の近くで黄昏てるって聞いて」
「で、来たんだ。4か月ぶりくらいになるのかな?久しぶりだね、弾!」
「おーよ!お前も精神はともかく肉体は健康そうだな」
こうして笑いあうのも3人にとっては随分久しぶりだ。何せ2人が男性IS操縦者になって以来、まともに会いに行ける機会は無いに等しかったのだから。特にここ最近やたらと女難が増えた気がするユウにとっては、気の許せる友達と語らう時間はそれだけで非常に有意義だった。
「ははは、ユウは最近更に大変なんだよなぁ。今日も女の子3人を同時に相手することになって・・・」
「そうか・・・・・・ユウ!友達と見込んで頼みがあるんだが、一人くれ!」
「やらないよ、僕の物じゃないんだから・・・というか、そういう女の人をモノみたいに言うのは感心しないね。そんなんだから女の子にもてないんじゃない?」
「ぐべらっ!?」
言葉のナイフは今日も血に飢えておると言わんばかりに突き刺さった「もてない」の一言に、弾は出会って数分で撃沈した。多分だが、自分でもちょっと自身の発言に負い目があったのかもしれない。それにしても、と一夏は女子達の様子を遠目に確認する。
「女子連中はまだ盛り上がってるなぁ・・・お、蘭が佐藤さんに捕まって更衣室に引きずり込まれた」
「これはまだまだ時間がかかりそうだね・・・僕、ちょっとトイレに行ってくるよ。暫く荷物よろしく!」
どうせ待ち時間は暇だから、せっかくなのでトイレ帰りに飲み物とつまむものを買おうなどと考えつつ、ユウはその場を後にした。残されたのは・・・
「うぅ・・・御免、蘭。お兄ちゃんは駄目な男だ・・・・・・」
「おい弾、気にし過ぎだぞ?」
一夏の膝に縋りついてしとしと涙を流す弾とそれを慰める一夏というかなりシュールでホモホモしい光景だった。
= = =
ふと洗面台の鏡を覗き込むと、自身の顔が映し出される。他人には少し童顔だと称されるこの顔は果たして成長しているのかしていないのか、自分では判断が付きにくいところだ。兄や父に聞けば答えてくれるだろう。アルバムを覗けば答えはあるとも思う。しかし、逆を言えば外見は客観的に自分の容姿変化を判断できる情報材料なしには自覚しにくいということだ。
「でも・・・もう少し男らしい顔にならないかな、これ」
童顔だと損することも多い。実年齢より年下にみられることは勿論、微妙に子ども扱いされたり侮られることが良くあるのだ。もう少し身長が伸びればそれも無くなるかもしれないが、ユウもジョウも体格はそこまで大きくない。兄がそうであるならばユウもそうである可能性は高いだろう。つまり、身長が伸びにくい家系という訳だ。
トイレに行きつくまでも何度か逆ナンされかけて、彼女がいるような風に装って何とか逃れた。いや、むしろ最近は男子が女子を口説く方を逆ナンと呼び始めている位なのだが、とにかくその手のトラブルを引き寄せる顔というのは少し不満が無いでもない。
「・・・・・・やめよう。こんなこと言ってるの弾に聞かれたら絶対逆恨みされるし」
洗面台から離れ、トイレを出る。女性に声を掛けられやすい顔が嫌だなんて弾の前で言っては本気で殴られかねないのでやめた。弾とて悪い顔ではない筈なのだが、行動の節節に浅ましい欲望が垣間見えるのが彼のモテない原因だろう。それでもユウは、そういう所も含めて弾という男を友達として好いている。不良時代から更生する切っ掛けの一人になったのが弾だったからだ。と―――突然誰かとぶつかってしまい、その思考は遮られる。
「わわっ、っと。すいません!ちょっとよそ見を・・・」
「いえ、気にしてないわ。私も油断してたし?」
咄嗟に謝ったユウの目の前にいたのは20代くらいの女性だった。黒に近いさらりとした茶髪を揺らし、身長はユウより少しばかり高い。ぶつかられた女性は別段ぶつかられたことを気にしている風でもなく、こちらに軽くウィンクして自分の非もあったと言った。とてもフレンドリーな人のようだ。
しかし、とユウは思う。気のせいでなければ、ユウは女性が接近してからぶつかるまでの気配を全く感じなかった。目の前に向かってくる人間はよそ見しながらでも気配を察するくらいは出来るのに、何故彼女に気付けなかったのだろうか。つい疑問を抱いたまま女性の顔を見つめてしまう。
「あら、どうかしたの?・・・はっ、まさか一目惚れ!?だ、だめよそんな・・・私なんてもうオバサンなんだからもう!」
「え、いや十分若いと思いま・・・じゃなくて!別にそんなやましい事を考えてたわけでは!」
「あら、一目惚れってやましい事なの?いーけないんだいけないんだー!彼女さんに密告しちゃうぞ?」
「いませんからっ!!」
ムキになって否定すると女性はこちらの様子を可笑しそうにコロコロ笑った。これか、童顔もあってかは知らないが完全に子ども扱いされている。これが嫌で背伸びをしたいのだが、何故出会ったばかりの女性にこんなに翻弄されているのだろうか。
なんともはや、向こうのノリにうまく乗せられているような気がする。そう、丁度兄にからかわれているようなデジャヴを感じた。そんなこちらの反応をいっそ嬉しそうと言えるほどの笑顔で観察した女性は笑い声を漏らす。
「ふふっ、あははははっ♪もう、ちょっとからかっただけなのに可愛いんだからぁ!」
「か、からかわないで・・・うわぁ!?」
「ほーら捕まえた!んー、なかなか鍛えてるわね。関心関心」
言葉が終わった時にはユウはいつの間にか女性に抱きしめられていた。動きが速すぎて全く反応できなかったユウの身体がかちんと固まる。いきなり見知らぬ女性にからかわれた挙句抱きしめられるなんて今までの人生で経験したことが無い。
しかもここは人の往来が多くあるショッピングモールだ。既に周囲の目線が突き刺さっており、まるでいい年をして母親に抱っこされてる子供のような羞恥心がこみ上げてくるのをこらえてもがくが、両腕の拘束を振りほどけない。何故こんな変な人に翻弄されているんだろう、とユウはちょっぴり自分が情けなくなった。
「ちょっと!?は、離してください・・・!」
「はぁー、久々のハグ・・・来るものがあるわね」
「何が来るんですか!セクハラで通報して警察呼びますよ!?」
「私とユウちゃんの仲じゃない♪チューする?」
「しませんよ!!いいから離して・・・っ」
本当に何なんだろうか、この人は。初対面の人間にいきなりやっていい馴れ馴れしさではない。むしろこれは子供を可愛がる親かなにかのような、そういう態度に等しいような気がした。良い大人が分別を弁えずに青少年にセクハラをする事件は全国的に増加傾向にあるが、まさか自分がここまでダイナミックに公衆の面前で辱められるとは思わなかった、とユウは自分がすぐにこの場を離れなかったことを後悔する。
「むぅ、そこまで本気でいやがられると傷つくな。これも反抗期って奴ね・・・お母さん悲しいわ?」
「なぁにがお母さんですか!大体反抗期ならとっくに過ぎました!!」
「ううぅ・・・そっか。反抗期過ぎちゃってたんだ」
「・・・?」
今度は何故か悔しそうにがっくり肩を落とす。よく分からないが脱出のチャンスなので素早く手を振りほどいてエスケープに成功した。しかし変な人だ。悪い人ではなさそうだが、本当に変な人だ。まるで兄のようではないか。・・・兄ならこの辺で落ち込んだふりをしつつも虎視眈々とからかう機会をうかがっている事だろう。やはり長居は無用だ。
「よく分かりませんが、いい年なんですからあんまりみっともない真似しないように!では、僕はもう行きますよ!」
逃げる際、一つ違和感に気付いた。そういえばあの人は自分を「ユウちゃん」と呼んだ。何で名前を知っていたのだろうか?名乗った覚えはないのに。他にも言い知れない違和感は感じたが、ひょっとしたらテレビで自分の事を知った熱狂的なファンとかなのかもしれないと思い直したユウは急いで皆の所へ走ることにした。
「あらら、行っちゃった」
謎のショックから立ち直った女性はユウの背中を見送り、また微笑んだ。笑みの含む意味や意図は周囲の人間からは全く分からない。ただ、それは行きずりのセクハラ犯が浮かべるほどに浅いものではなかった。
「さて、ユウちゃんも行っちゃったことだし任務に戻ろっかな。あんまりサボると怒られるし」
実を言うと自分はまだ彼と接触してはいけないことになっていたのだが、つい我慢できずに何も知らぬふりをして顔を合わせてしまった。本当ならばもう一人会いたい子がいるのだが、流石にこれ以上は上司からストップがかかってしまうだろう。
―――彼らと自分の住む世界は違う。決して交わることのない、表と裏の世界。しかし、自分はもうすぐ表へと姿を現すことになる。果たして彼は、私の正体を知ることが出来るだろうか?それは、彼のこれからの行動にかかっているだろう。だから早く成長して・・・体も心も立派になって、そうしたら同じ舞台で踊ろう。そう決めていた。
予定よりもかなり早まってしまってはいるし未熟な所も多いが、きっとあの子は最後の最後まで食らいつこうとするだろう。それが彼女の楽しみ。それが彼女の望み。
「もうすぐちゃんと会えるわ・・・命と命のぶつかり合う場所で」
彼の背中が見えなくなった直後、小さなつぶやきを残して彼女の存在は周囲の認識から掻き消えた。まるで最初から存在しなかった亡霊のように。
= = =
戻ってきたユウが「変な人に絡まれた」と愚痴をこぼしたり、弾が勉強がだるいという話をしたり、買い物が終了した皆が出てきて大勢で学園に帰ったり。今日一日はあっという間だったと一夏は振り返る。蘭が嬉しそうに抱きしめてくる鈴に目を白黒させたり、ついでに時の人である佐藤さんに出会ってしどろもどろになったりもしたし、弾がセシリアや癒子に告白してものの見事にふられてむせび泣いたりもした。
つららは結局セシリアにべったり張り付いて「短い休暇でしたわ」とセシリアが呻いているのは面白かった。簪はユウと手を繋ごうとし、それに対抗するように癒子が反対の手を繋いだことで連行され様な形になってユウが助けを求めてきたが、残念なことに一夏は鈴の荷物持ちを受け持っているので手は文字通り開いていなかった。他にも買い食いしたり、記念撮影したり、久しぶりに「遊んだ」と言える一日だったと思う。
だけどこの時俺達は全く分かっていなかったんだ。
『奪還か・・・フン、精々踊っていろ。最低限役割は果たしてやるが、後は自由行動をさせてもらう』
『指令受諾。これよりアニマス28は任務を変更します』
『お前は、一夏ではない・・・お前は、違うんだ』
『本当の本当に止めないんですね、チカ様・・・?』
『チカ君の頼みじゃ無けりゃこんな事してあげないんだからね?運び屋じゃないんだから・・・』
『目覚めよ・・・汝は・・・・・・唱えよ・・・』
『さて、風花の舞がどんなものか・・・私が見極めてあげる』
この林間学校を境に―――この世界のあちこちで燻っていた炎が一気に燃え上がることになるのを。
後書き
なんかもう今回の話は個人的にはかなりダメな部類に入るような気がします。でもこれ以上引き伸ばして話をするのは得策とも思えないからこれで押します。駄目駄目な私を許してください・・・
こんなにダラダラした小説にまだ人が来てくれると思うと、それだけで胸いっぱいです。同時に、これからの展開を考えると・・・・・・いや、投稿を始める前から決めていた事なんですけどね。気にせんでください。
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