戦国異伝
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第百六十七話 信玄動くその六
「それだけ置くのじゃ」
「わかりました、それでは」
「急いで兵を集めてじゃ」
そのうえでだとだ、信長は己の言葉を続けていく。
「浜松で頑張る竹千代を助けに行くぞ」
「一刻も早く急ぎましょう」
ここでだ、こう言ったのは佐久間だった。彼は慌てている口調で述べた。
「武田の動きは速いですから」
「速きこと風の如しじゃからな」
「はい、ですから」
それ故にだというのだ、武田はただ強いだけではない。その動きの速さでも恐ろしいものがあるのだ。そしてそれを支えているものは。
「騎馬隊があります故」
「あの騎馬隊じゃな」
「無論騎馬隊だけではありませぬが」
武田は確かに騎馬隊が知られている、だがそれだけでなく軍全体が強いのだ。信玄は彼等を隅から隅まで鍛え上げているのだ。
その恐ろしさを警戒しているからこそだ、佐久間も言うのだ。
「何としてもです」
「十五万、急いで集めてな」
「遅れると徳川殿が危ういです」
佐久間は楽観していなかった、徳川家といえど相手が相手だ。それでなのだ。
「十五万の兵をすぐ集め」
「そしてな」
「はい、岐阜から尾張に入り」
そしてだというのだ。
「三河をすぐに通ってです」
「幸い東海道があるしのう」
「ではな」
こう応えてだった、そのうえで。
信長はすぐに十五万の兵を集めさせた、岐阜に尾張、そして伊勢や近江、それに大和と近い国からすぐさまだった。
兵を集めさせる、その中で。
島がだ、信長の下に来てこう進言した。
「今は徳川殿に援軍を送れませぬが」
「それでもか」
「はい、銭をお贈りし」
そしてだというのだ。
「そのうえで強者を送りましょう」
「その強者は誰じゃ」
「飛騨者がよいかと」
贈るものだけでなく送る者もだというのだ。
「あの者達を送りましょう」
「忍の者達をか」
「はい」
その通りだというのだ。
「あの者達ならば武田の隠された武器である」
「十勇士達じゃな」
「あの者達にも対することが出来ます」
それでだというのだ。
「ですから」
「それではじゃな」
「どう思われますか」
「竹千代のところには伊賀者がおる」
まずはこう言った信長だった。
「伊賀者もかなりの手練揃いじゃ」
「ではこの度は」
「しかし武田の兵は多くしかも忍もな」
武田には十勇士以外にも優れた忍達がいる、その強さがまた天下屈指の者達なのだ。
だからだとだ、信長はここで言うのだ。
「十勇士の分はな」
「では」
「うむ、飛騨者達に銭を持たせてじゃ」
無論戦の為の銭だ、それを徳川に贈ってというのだ。
「あの者達を援軍とする」
「それでは」
「すぐにあの者達を送る」
こうしてだった、浜松城に飛騨者達が多くの銭と共に送られた。煉獄は家康のところに来ると笑みを浮かべて言った。
「うちは今十五万の大軍を集めているからな」
「何と、十五万」
「十五万とな」
その数を聞いてだ、家康の下に従う徳川家の諸将は驚き、喜びのそれを挙げて言った。
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