戦国異伝
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第百六十七話 信玄動くその四
信長を見ることにした、それで義昭からの文はというと。
自分の手で出して傍にある灯火の上に置いて焼く、そして灰になったそれを見届けつつ高僧達に対して述べた。
「これでよい」
「では」
「これで」
「右大臣殿を見ようぞ」
やはり動かない顕如だった、彼は石山において中立を守った。
信玄出陣の報は浜松にいる家康のところにも届いた、家康は服部からその報を聞くと覚悟を決めた顔でこう言った。
「遂にか」
「はい、その数四万五千」
服部は家康にその数も述べる。
「二十四将のうち殆どを連れてです」
「そうか、わかった」
「殿、ではここは」
「どうされますか」
すぐにだ、徳川の家臣達は家康に断を問うた。
「我等の軍勢は一万二千」
「多くてそれだけです」
「それ以上はありませぬ」
「我等では」
武田は二百四十万石、兵は六万出せる。そのうち一万を守りに置き五千を陽動として秋山に率いさせ東美濃に攻め入らせる。その残り四万五千だ。
それに対して徳川は五十万石、一万二千が精々だ。武田と徳川では力の差はもう歴然とさえしていた。それでなのだ。
彼等もだ、勝てぬと思い家康に言うのだ。
「織田殿が援軍に来られます」
「織田殿が来られればです」
「武田にも対することが出来ます」
「ですから」
ここは自重すべきだというのだ。
「例え何があろうとも」
「そうしましょうぞ」
「籠城か」
ここでだ、家康は自ら言った。
「そうすべきか」
「はい、ここは」
「それではですな」
「我々はですな」
「この浜松においてですか」
「籠城ですか」
「兵を集めよ」
この浜松城にだ、家康は強い声で命じた。
「よいな」
「ではここは」
「浜松城で」
「今戦をしても敗れる」
家康にもわかっていた、このことは。
それでだ、苦々しい顔だがそれでもこう言うしかなかった。決断の選択肢は一つしかなかったのだ。それこそが。
「この城に籠城してな」
「織田殿の援軍を待ち」
「そうしてですな」
「武田はこの城に攻め寄せる」
徳川家の本城である浜松城にだというのだ。
「それならな」
「ここで凌いで、ですな」
「織田殿を待ちますか」
「吉法師殿は来られる」
家康は幼い頃より信長をよく知っている、それでこのことを確かな声で言ったのである。
「大軍を率いられてな」
「他の城の守りはどうされますか」
このことを問うたのは石川だった。
「この城に一万二千で籠城されるとなると」
「他の城の守りはじゃな」
「はい、なくなりますが」
「よい、武田が攻めてくるのならな」
「浜松に殿がおられればですか」
「そうじゃ、この城に来る」
だからだというのだ。
「今はな」
「ここで守りを固めて」
「そしてですか」
「そうじゃ、皆を集めよ」
徳川の諸将も兵達もだというのだ。
「全て空城にしても構わぬわ」
「岡崎もですか」
「そうじゃ、竹千代達もな」
家康の妻子もだというのだ。
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