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ロックマンX~朱の戦士~

作者:setuna
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第五話 THE DAY OF ΣⅡ

 
前書き
THE DAY OF Σの続き。
ルイン視点で行きます。 

 
エックス達とは別行動をし、ハッキングデータを持って逃走中の犯人を追うルインは朱色のチェバルに乗りながら街を駆け抜ける。

ルイン「…………さて、犯人は一体何をしようとしているのかな…?」

日に日に前世の記憶が薄れてきているルインにはもうこれから先に起こる出来事を殆ど思い出せない。

ルイン「こういうどさくさ紛れにやれることは多いけど…」

誘拐、暗殺、機密奪取、侵入及び潜入、密入国etc.…。
歴史を紐解くまでもなく、混乱に乗じて己の利を貪る者は後を絶たない。

ルイン「他の隊との連絡が取れないのも気になるね。問題は犯人がここまでして狙うものが何なのか…」

その時シグマから通信が入る。

シグマ『ルイン。』

ルイン「あ……シグマ隊長。申し訳ありません。犯人の行方は依然として…」

シグマ『いや、そうではない。お前と個人的な話がしたい』

ルイン「?…はい」

ルインは道端にチェバルを停車させるとシグマとの通信を再開する。

シグマ『ルイン、お前はイレギュラーをどのように思っている?』

ルイン「え?」

シグマ『上層部の人間はロボット三原則を取り戻そうと躍起になっていることを知っているな?“レプリロイドは人間に奉仕するべき”だと』

ルイン「は、はい。それは知っていますが…」

レプリロイドは人間に奉仕し続けるべきだと言う者も少なくはない。
それを聞いたゼロとVAVAは呆れ、エックスは悲しげにしていた。

シグマ『ケイン博士はレプリロイドには可能性があると言っていた。それが何なのか…。人間と似た思考回路を持つお前なら分かるかもしれないと思ってな』

ルイン「…ケイン博士のその話なら私も聞いたことがあります。イレギュラーを含めてその可能性を考えるなら……イレギュラーの方に可能性があるのでは?」

シグマ『ほう?』

ルイン「レプリロイドのイレギュラー化は電子頭脳の故障、プログラムのエラー、ウィルスなどがありますが、過度なストレスや不満がイレギュラー化の原因でもあります。人間で言う反抗期…ですかね?人間の成長の過程に必要なもの…イレギュラー化はそれに似たようなものでは?…と、イレギュラーハンターの私が言うような言葉じゃないですね」

シグマ『いや、大丈夫だ。参考になった。引き続き調査を続行してくれ』

ルイン「了解」

シグマとの通信を切り、再びチェバルに乗り、調査を続行する。
そして間もなくルインの元に本部のオペレーターから緊急通信が飛び込んできた。

『ルイン!!聞こえますか!!?こちらハンターベース!!』

ルイン「どうしたの!!?」

『留置されていた元イレギュラーハンターVAVAが脱走しました!!』

ルイン「VAVAが!!?」

『直ぐに現場に急行してください!!エックスとゼロもそちらに向かいました!!』

ルイン「っ…了解」

ルインはチェバルを加速させ、ハンターベースに存在する地下の独房に向かう。






























ハンターベースの独房に着いたルインは惨状を前に一瞬言葉を失った。

ルイン「一体、誰がやったの…?どれも急所を一撃…VAVAじゃない。丸腰のVAVAにはこんなこと出来ない…。恐らく、例の事件の犯人と同じ奴……」

静かな独房でルインの声が響く。
疑問がつきない中、ルインの下に通信が入る。

『こちら本部。ルイン、応答願います』

ルイン「…こちらルイン」

『やっと通じたわ…コードの発信源を突き止めたわ。北西部のミサイル基地からよ』

ルイン「…向こうに通達は?」

『既に通達を送るも応答は無いわ。エックスとゼロは既に向かいました。至急確認に向かって…それと…シグマ隊長と連絡がつかないの』

ルイン「え…?」

ルインは再び、倒れ伏している看守達を見遣る。
全て急所を一撃。
ルインのように高出力のビームサーベル系統の武装を所持している者は戦闘型でも少ない。
持っていたとしても量産型でも扱える低出力のバッテリー式のビームサーベルだ。
ビームサーベル持ちでこれ程の戦闘力を持つレプリロイドは…。

ルイン「まさか…とにかくミサイル基地に急ごう。早くエックスとゼロと合流しないと!!」

そこでは悲劇が待っていることを知らないルインは嫌な予感を感じながらミサイル基地に向かうのだった。
































ミサイル基地に向かう途中、轟音が聞こえ、空を見上げるとミサイルが発射されていた。

ルイン「何で!?どうしてミサイルが発射されているの!!?」

困惑しているルイン。
ミサイルはそのままシティ・アーベルへ。

ルイン「エックスとゼロはどうしたの…!!?」

ミサイル基地にはエックスとゼロが向かっていたはずだ。
それなのに何故ミサイルが発射されたのか?
ルインはチェバルを停めるとミサイル基地の中に入っていく。
































低く唸る装置の稼働音。
微かに立ち込める粉塵と薄暗い室内。
動かないレプリロイドが2人。
エックスとゼロ。
部屋のコンソールの前には、静かに立つ自分の上司。

ルイン「…シグマ隊長。あなた、エックスとゼロに何をしたんですか?」

バスターをシグマに向けながら、ルインは怒りに満ちた声音で尋ねた。
シグマにとって、ルインはエックス、ゼロに続いて戦いの始まりを告げる為の客人でもあった。
彼女で3人目…最後の招待客である。

シグマ「ふむ、少しばかり遅かったようだな…街は壊滅しているか?ルイン」

ルイン「……シグマ隊長、ええ…あなたがミサイルを撃ったせいで」

バスターモードからセイバーモードに切り換え、セイバーのチャージをしながらシグマに狙いを定める。

ルイン「……今はあなたに聞きたいことが山ほどあります。ミサイル発射以外にも犯人グループの殺害、メカニロイドの暴走やVAVAの脱走の手引きもあなたの仕業ですね?」

シグマ「ほう?何故分かる?」

ルイン「犯人の戦闘力。それから高出力のビームサーベル持ちとなれば犯人は限られてきます。しかもどれも急所を一撃…そんなことが出来るのはあなたくらいですよ」

シグマ「ほう?流石はルインと言うべきか…最近はエックスの補佐ばかりしているから腕が落ちたのではないかと危惧していたが、その様子では、安心できる。」

ルイン「常日頃にトレーニングしているので…隊長、あなたの目的はなんですか?人類に反旗を翻し、レプリロイドの理想境でも創ろうとでも?」

シグマ「そうだな、それも目的の一部ではあるが…“我々”の為だと言うのが一番近いだろう」

ルイン「…?」

シグマ「ルインよ…お前はこの現状をどう思っている?」

ルイン「現状?何の現状ですか?曲がりなりにもケイン博士の最高傑作なら少しはマシな質問をされたらどうなんです?」

吐き捨てるように言う挑発。
しかしこの程度の挑発に乗るような奴ではないことはルインにも分かっている。
チャージを終えたセイバーを構えるルイン。

シグマ「ふむ…記憶を持たないお前に分からないのも無理はないかもしれんな。ルインよ…現在戦闘で戦うのは人間ではなく我々だ。戦場に人間がいたとしても僅かな技術者だけだ。事実、イレギュラーハンター関係者の人間の犠牲は少ない。人間達に作られた我々は、毎日のように破壊され続けられている。これについてはどう思うかねルイン?」

ルイン「…それは、仕方がないのでは?私達はエネルギーが続く限り人間が活動出来ない場所でも活動が可能です。人間の肉体と私達のボディとでは耐久性だって雲泥の差があります。なら、人間では手に負えないところを私達が補い、私達にできないことを人間がやる。人間の代わりとなって働くのは当然です。」

人間では太刀打ちできないイレギュラーへの対策組織として“イレギュラーハンター”が結成されたのだから。

シグマ「人間では手に負えないために、レプリロイドは代わりに働く…か。」

ルイン「はい」

シグマの言葉にルインは頷く。

シグマ「ならば、お前も理解しているはずだ…。人間では手に負えない環境で、我々は活動出来る。人間が活動出来ない海底、火山口。そして身体能力や、処理能力も人間の遥か上をいく。これだけあればそろそろお前にも分かるのではないか?人間が、我々レプリロイドに勝る点なぞ、何1つないのだと。」

ルイン「何を馬鹿なことを…!!そのレプリロイドを造ったのは人間…あなたを造ったケイン博士も人間です!!」

シグマ「そうかもしれんな。だが私は思うのだよ。何故我々は…レプリロイド同士殺し合わねばならないのかをな。それもただ上から見ているだけの人間の命令でな…」

ルイン「私は人間達を信じます。レプリロイドを造ったのは他でもないケイン博士達人間なんですから…!!」

シグマ「ならば私を倒してみるがいい!!勝利の上にしか歴史は正当性を与えぬのだからな!!」

ルイン「シグマ隊長…いえ、イレギュラーシグマ!!あなたはここで止めて見せる!!」

ビームサーベルを抜き放つシグマ。
それは、いやしくもルインのセイバーと同じ色。
自らが正しいと言うかのように互いの剣は輝きを増す。
最初に仕掛けたのはルインだった。
いくらシグマのアーマーが強固でもチャージセイバーをまともに受ければただではすまない。
バスターで攻撃することも考えたが、簡単に当たってくれる相手ではないし、照準を合わせる前に切り捨てられる可能性が高い。
ならばセイバーによる一撃必殺に賭けるしかない。

ルイン「はああああ!!」

渾身の力を篭めてシグマに向かって振り下ろされたセイバー。
シグマは後退することで回避し、セイバーの衝撃波はビームサーベルで掻き消した。

シグマ「そのセイバーの威力は大したものだ。直撃を受けたならば、私もただではすまないだろう。」

シグマはそう嘲笑うとビームサーベルを構えて切り掛かる。
ルインもセイバーで受け止める。

ルイン「ぐっ…くぅぅ…!!」

鍔ぜり合いで少しずつ身体が後退していく。
武器の出力は殆ど互角。
チャージが出来る分、性能は上かもしれないが、使い手自身のパワー出力が違い過ぎる。
こちらは限界までアーマーやフットパーツの出力を出しているというのにシグマにはまだ余裕がある。

シグマ「どうした?私を止めるのだろう?その程度の力では私を止める事など出来ん!!」

シグマの額の内蔵型武器からバスター弾が発射された。
不意を突かれたルインは咄嗟に身体を捻って回避。
しかし利き腕を損傷してしまう。
シグマはビームサーベルを振るい、ルインの身体に横一文字の傷をつけた。

ルイン「が…は…!!」

傷口を押さえて、床に膝をつけるルイン。

シグマ「ここまでのようだなルインよ」

ルイン「シグマ…っ!!」

シグマを睨みつけるルインだが身体に違和感を感じた。
不快感と痛みが同時に身体を襲う。

ルイン「身体が……ま、まさか…!!?」

シグマ「そうだ。私のビームサーベルにウィルスを仕込んでおいたのだ。どのような頑強なレプリロイドであろうと簡単に停止するほどのな」

ルイン「くっ…シグマ…あなたは…」

シグマ「とはいえ、予想はしていたが、私はお前に驚愕している。ルイン、お前が機能停止せずにいられるはずがない程のウィルスを受けたというのに、お前は活動している。そのようなことはありえないというのに…」

ルイン「………」

シグマ「エックスとゼロもそうだが、私はお前にも興味がある…誰が開発したのかも分からない。内部機関にかけてはブラックボックスの塊。エックス以外のレプリロイドにあるはずのない…人間の“成長する”能力。どれをとっても、お前は従来のレプリロイドとはかけ離れている。ルイン、お前は一体何者なのだ?」

ルイン「え…?」

シグマ「……奇妙なことだ。経歴が分からないレプリロイドは数多く見てきたが、これほどまでにデータがないレプリロイドはいないだろう。お前の経歴を探しているうちにいくつかの重要なセキュリティを突破することになったが………驚いた、ルインというレプリロイドはどこにも存在しないということに」

ルイン「……っ!!」

ヒュ…と、音が鳴った。

シグマ「もう一度聞く。ルイン、お前は何者だ?」

ルイン「………」

シグマ「答えたくないのならば、エックスとゼロを破壊する。それでも答えたくないのならば電子頭脳を引きずり出し、お前のデータを見るだけだ」

冷徹な言葉にルインは唇を噛み締める。
ルインの前世の記憶は殆ど残っていない。
しかしこれだけは覚えていた。
エックスとゼロを守るために口を開いた。

ルイン「私は……私は…かつて…人間でした…」

シグマ「人間…だと?」

ある程度の予想はしていたが、ルインが人間であったというのは予想外だったらしい。

ルイン「昔、私に何かあったのかは殆ど思い出せない…でも、かつての私は確かに人間でした…人間としての肉体を無くして今ここに…」

シグマはあまりに荒唐無稽な言葉に虚偽ではないかと疑ったが、同時に納得もした。
ルインはレプリロイドよりも人間に近い。
それどころか人間そのものだ。
思考も行動パターンも。
もしルインが元人間ならばと考えれば、すんなりと納得できた。

シグマ「つまりお前は真の意味で人間の心と機械の身体が1つとなった存在ということか…お前が元人間とはさしもの私も驚いたぞルイン。」

ルイン「………」

唇を噛み締め、俯くルインに興味を無くしたかのようにシグマはこの場を去ろうとする。

シグマ「ルイン…私が間違っているというのなら……私の元まで来い。止めてみせろ、エックスとゼロと共にな」

ルイン「シグマ…」

シグマ「その身でどこまで出来るかを見極めてやろう。人間の心と機械の身体を持つお前に何が出来るか、この私に見せてみろ。」

転送装置の光が視界を埋めていく。
エックス、ゼロ、ルイン、VAVAの4人の戦士。
反旗を翻したレプリロイド達。
全ての者達の手筈は滞りなく完了した。
後はもう、始めるだけだ。
レプリロイドの理想境を創るために。
シグマが転送され、ルインは深く息を吐いて、ゼロに歩み寄る。

ルイン「ゼロ…大丈夫…?」

ゼロ「ああ…すまん。不覚を取った…」

ルイン「いいよ。相手がシグマじゃあ分が悪すぎるよ…早くエックスをハンターベースに連れていかないと…」

ゼロ「…ああ」

腹部に穴が空いたエックスをゼロと共に支え、ミサイル基地を後にする。


































ゼロ「ルイン…」

ルイン「何…?」

ハンターベースの医務室のメンテナンスベッドに横たわりながらゼロはルインに話し掛ける。

ゼロ「シグマとの会話のことだが…」

ルイン「っ…聞いてたの?」

ゼロ「…ああ」

少し間を置いてからゼロは頷いた。

ルイン「そっか…ごめんねゼロ」

ゼロ「何がだ?」

ルイン「何がって…私、黙ってたんだよ?エックスやゼロにも…」

ゼロ「言いたくないことなど誰にでもあるだろう。経歴にしても俺やエックスも誰に造られたかは分からない。俺もイレギュラーハンターになる前は何をしていたかは何1つ思い出せないしな…お前が何だろうとお前はお前だろう」

ルイン「…うん……ゼロ」

ゼロ「何だ」

ルイン「ありがとう…」

ゼロ「礼を言われるようなことはしていない。エックスが目を覚ましたらシグマを止めるぞ。俺達の手で」

ルイン「うん」

戦いの火蓋は切って落とされた。
こうしてエックス達は長い長い戦いへと身を投じていく。 
 

 
後書き
THE DAY OF Σ編終了しました。
 
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