ソードアート・オンライン ~最悪の幸運少年~
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プロローグ
前書き
修正するごとに少しずつ上げてきます。そしてなにより、
亀更新をなんとかします。
「もう、終わりじゃ悪しき者」
眼前に広がるのは大陸を埋め尽くす程の甲冑兵。その中心に佇む孤独の人影。
「終わり? 終わりなんて無理に決まってる。オレは終わらない。ボクは終わらない。ワタシは終わらない。いや、終われない」
「違う。彼奴が変われたようにお主も変われる。悪しきそなたはもう終焉を迎えたのじゃ」
集団から少し年寄りじみた声が一人、孤独の人影へ諭すような言葉を投げかける。
「……ヒャハハ、ヒヒヒ。だから無理だって」
声だけでも感じ取れるドス黒い嘲笑いに甲冑達の背筋に寒気が滞る。
「談話はここでなくともできる。ゆっくり話を聞かせてもらおうか。我の城で」
「ゆっくり、話? じゃぁ残念に」
瞬間、一筋の稲妻が人影へ向けて落ちた。
「しもうた! 貴様――っ!」
「ゆっくり話はできませぇん。どうぞ末永い安泰を願ってるよ♪」
この身が戻る、その時までね。
●
「不運だ…」
唐突にそんなことを呟く俺の声が誰かに届くことはない。
唐突に負の感情に属するだろう【不運】という単語を無人の現状で発した意図も異議もさして興味を引くものではない。
一応の説明とすると。
俺は不運なのだ。とてつもなく。幸運ではなく。
2022年、とある一つのゲームが発売された。
名を【ソードアート・オンライン】。
VRMMORPGという、ここ数年で急速に発達した仮想世界シュミレート技術を活用したロールプレイングゲームである。
仮想空間、VR初のRPG、ゲーマー心をくすぐってしょうがない要素に加え一万本限定発売という衝撃はネットだけでなくテレビニュースに取り上げられる程の話題を呼んだ。
そして運営開始当日、その一万本は地獄への切符となった。
俺を含み、SAO正式サービス開始日に見事ログインできた一万人は、製作者である茅場から、直々にデスゲーム宣告を受けたのだ。
ルールはいたって単純、SAOの舞台、100層から連なる【浮遊城アインクラッド】を100層までクリアしろ。死んだら現実でも死ぬからという迷惑極まりないデスペナ付の鬼難易度だ。
当初当然、そんなこと信じられずによくある死んだら実は開放されましたーオチを狙ってか、はたまた単純に絶望しただけか、自ら命を絶つ奴も数十人はいたって話しだ。
――断っておくが、俺は何もSAOにログインしてしまったことで自分が不運だと……いや、それもあるが、自分のことを不運と呼称する理由ではない。
そういうわけで、このデスゲームと化した世界で俺は戦っている。
俺が今いるのは百層の内の七四層目の迷宮区。プレイヤー達が二年掛けて到達した現在の最前線である。つまり現段階で強さトップクラスと言える魑魅魍魎が跋扈している。
いつもは攻略組ソロ、一人プレイをしている俺でもさすがにこんな危険な場所に一人で来るほど強くはないと自負しているので、知り合い一人に同行を依頼しそいつも快く……ではないが同行を受諾してくれ、一緒に迷宮区を攻略していた。
なぜかその日に限りやたら宝箱を見つけるし敵と出会さないしで今日はなにかありそうな予感を感じ自分から頼んでおきながら帰ろうと言い出した。
知り合いのほうは「わたしは調子いいので」と、頼んだときの不快そうな顔は無くなりその場に残ることにした。
その結果、俺は剣を持つ人類と爬虫類が混ざり合ったようなモンスター、【リザードマン】の大群に囲まれてしまった。
「あぁー……どうしよ。不運だ」
相変わらずの不運具合に対して思わず呆れ笑いを浮かべてしまう。
とりあえず相手の数を目視で確認していった。だが数が両手で足りなくなると無駄に思えて止めた。
「帰らなきゃよかった、なんて言っても後の祭りか。とりあえずこの状況をどうするか――」
「「「シャアアアァァ!」」」
考えを纏める前にリザードマンが円状に陣形を展開する。そして俺の胴体めがけて一斉に剣を突き刺そうと突進してきた。
「ちょ待っ! さすがにヤバいって!」
咄嗟に靴底が擦れるギリギリまで跳躍し剣を躱す。
「ウルシャアアア!!」
間髪入れず剣を振り上げ追撃を仕掛けてくる。
「危ないってぇ!!」
空中で腰から愛用の片手剣を抜き去り相手の剣を弾くようにして射程距離からうまく離れた。
「逃げ切れるか? この数戦うよりは確率高そうだけど……」
迷っている内に再びモンスターが此方を向く。今度は先程とは違い各々が各個攻撃を仕掛けてくる様子だ。一匹一匹このままでは俺が疲弊するだけである。
「……しょうがないか。奥の手を使うか」
右指を下に振ると空中にメニュー画面が現れた。それを操作しながら俺は少しの陰鬱さをおぼえる。
「見せてやる。これが俺おふぐっ!?」
「先帰ったと思えば、何してるんですかあなたは」
奥の手を繰り出そうとした瞬間、後ろから何者かに拘束され呼吸を奪われてしまう。咄嗟のことに条件反射で肘打ちをいれようとする。
「ってあ、お前か。驚かすなよ」
「お前かってなんですか。その汚く醜く息するだけで二酸化炭素を増やすしかできない害悪な口でわたしを呼ばないでいただけますか?」
「そっちが後ろから忍び寄ってきたんだろうが!」
いきなり現れるや饒舌な毒舌をかましてきたのは俺が同行を頼んだ知り合いだ。プレイヤーネームは【マリー】。俺と同じくソロで攻略組に属している手練れである。
肩まで伸びた茶髪は彼女が動くたびに美しく揺れ、そのきりりとした顔立ちは自然とみなから視線を集める。
全体的に白色でコーディネイトされた華麗な服装の所々にあるエメラルドグリーンの装飾がさらに装備を引き立てている。つまり外見だけなら誰がどう見ようと美少女極まるなのだ。外見だけなら。
「ていうかその毒舌いい加減なんとかならないのか。すごい疲れるんだが」
「喋らないでくださいと言ってるでしょう。なんですか? あなたは一秒おきにわたしへ言葉を投げかけないと身体中から発疹が出てきて絶命するとかそういう病気なんですか? だとしたらすごい変態ですね。この変態」
「何から何まで全部違うぞ! ていうかお前残るって言ってたくせにどうしているんだよ」
「わたしの行動を津々浦々に話す義務でもあるんですか? どうしようがわたしの勝手です」
「そりゃそうだが――って来るぞ!」
会話している中でもリザードマンは待ってくれない。
「マリーこの状況お前ならどうする」
「愚問ですね。そんなこともわからないなら攻略組なんて抜ければいいじゃないですか」
「あるのか。打開策」
「はい。いいですか? まず後ろを向きます。その後その地面を蹴るだけのどうしようもなく利用価値もない屑足を精一杯動かして走ってください以上」
「はぁ? それつまり」
マリーに視線を移した時、既にそこにマリーの姿はなく、代わりに視界に映ったのは
逃げるマリー
襲い掛かるリザードマン
棒立ちの足。勿論俺の
「……マリイィィィ!! 待てぇぇぇぇ!!」
結局俺はゴリ押し脳筋選択‘頑張って逃げる’を半ば強制的に選択させられ命からがら迷宮区からの離脱に成功した。
これは不運に駆られる少年の、深淵の物語――。
後書き
ちなみに感想欄はネタバレが多発しています。初見の方はご注意してください
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