SAO ~冷厳なる槍使い~
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SAO編
第二章 曇天の霹靂
EX.1 崩れゆく決意
「二木くぅ~ん。最近ずいぶんチョーシこいてくれたじゃん?」
「ぅあっ」
放課後の校舎裏。
いまどき、マンガやラノベでも使われていないようなシーンを、俺は今リアルで体験していた。
どこぞのアイドルをそのままパクったような髪型、だらしなく着崩した学ラン、なんちゃってピアスやネックレスなどのシルバーアクセサリーをじゃらじゃらさせた典型的今どきの不良四人組に囲まれている。
「お前が居ないせいで最近出費が増えちゃってさぁ……マヂあり得ねえよなぁッ!!」
「ぶぁっ」
「くはははっ! 『ぶぁっ』だってよ、『ぶぁっ』!」
「げっはっは」
「……っ」
こいつらは俺が東雲と出会う前に、俺をパシリに使っていたいじめっ子たちだ。
東雲がSAOに囚われてしまった今、再び俺に接触してきた。
きっとまた、俺のことの都合の良いパシリだか歩くATMとかにするつもりなんだろう。
助けてくれる友人は居ない。
だけど、これからはこいつらに屈するなんてことはしたくなかった。
――俺は誓ったんだ。
東雲の友人に相応しい男になる、って。
それなのにこんな奴らの言いなりになんてなるわけがない!
「ハハッ」
けれど。
「いやいやいやぁ。んでもホント怖いね、二木くんは~」
「マジマジ。あの東雲を――――《殺しちまう》なんてよー」
「……!?」
その言葉を聞いた瞬間、ビクンと体が震えた。
息が苦しくなる。
「あのSAOに誘って、自分だけはのうのうと逃げ延びてるんだからなぁ。ホントこわいぜ」
違う。
「俺たちには真似できねぇよ。――したいとも思わねぇけど」
違うんだ。そうじゃないんだ。
「ねぇねぇ、どんな気分なんだ? 友達殺して今どんな気持ち?」
俺は……俺は……っ。
「バーカ、友達なわけねーだろ」
「!?」
「散々利用した挙句殺した奴のことなんてよぉ……なあオイ?」
違う! 俺は! 俺は東雲を殺してなんていない!
俺たちは……と、とも――。
――どうして、心の中ですらその言葉が言えないんだ……?
俺は、あいつのことを■■だと思っているのに。
■■でありたいと思っているのに。
「――ッ」
「お?」
「あんだよ、その目。ガンくれちゃって」
「へへっ、なんか文句でもあるわけ?」
お前らに何が解るんだ。
俺と東雲の何が解るっていうんだ!
「ったく、すっかり反抗期になっちまって」
「しょうがねーよ。この際ちゃんと教育してやろうぜ」
「ハハッ。顔はやめとけよ」
「わかってるっつの」
その日、俺はボコボコにされた。
でも、心だけは屈しなかった。
――俺は東雲の■■だ、とは一言も言えなかったが……。
東雲がSAOに囚われ、何か月も経ってしまった。
俺たちは中学三年生だ。つまり、一月からは受験が控えていた。
大事な三年生の夏――八月までSAOのベータテストをやっていた俺だ。正式サービス開始の十一月まで当然勉強などしてるはずもなかった。
そして十一月中は東雲の件でショックを受けたこともあり、勉強なんて手もつかなかった。
だけど、十二月からはとある理由もあり、かなり必死に勉強をしていた。
その理由というのは。
東雲が入院している病院に通うようになって数日。
たったその数日で、俺を取り巻く環境はじわじわと変わっていったんだ。
『……ねぇねぇ…………あいつでしょ……?』
『そうそう……あの噂……マジらしいよ……』
『……うっそー……』
教室に入った俺に刺さる好奇の視線。
最初、俺はその視線の意味は解らなかったのだが。
『……友達を…………殺したらしいぜ……?』
「!?」
ボソッと呟いたクラスメイトの言葉で、その意味を知った。
どこでそのことを知ったのだろうか。
どうやら、俺が東雲をSAOに誘ったこと。東雲が今日本中が対応に追われているSAO事件に巻き込まれて今も病院のベッドから目覚めないこと。そして、俺だけがSAOに囚われなかったことが広まっているらしい。
そして噂は歪曲して――《二木健太が東雲蓮夜を殺した》ということになってしまった。
SAOについての情報は既に日本中に出回っている。
天才、茅場明彦が創り出したデスゲームシステムのプロテクトは、どんな人間にも解除することが出来なかった。
無理に解除しようとして更に被害者が増えたことで、政府は被害者の生命維持に力を入れる方針をとった。
SAOから解放される条件は一つ、それはSAO虜囚者となった被害者たちが、仮想世界でSAOをクリアするしかない。
この程度の情報は国民ならだれでも知っている。
既に千人近く亡くなっていることと――――完全攻略なんてとても無理だということが。
SAOのベータテスターで、正式サービス時にログインしていなかった者も多くいる。
そんな彼らがネット上で呟いた一言すら、テレビで何度も流れた。
『死に戻り不可で百層攻略 なにそれ超無理ゲー』
経験者が語ったベータテスト。何度も何度も死んで、一カ月で第六層まで。
俺もその苦労は文字通り死ぬほど体感している。
――無理だ。
それはほぼ国民全員の共通認識になった。
遠からず、遅からず、SAO虜囚者全員が死ぬだろう、と。
俺もそれに、強く反論は出来なかった。
そしてこの情報は、クラスメイトたちにひとつの結論をもたらした。
SAO虜囚者=遅かれ早かれ死ぬ。
つまり、東雲をSAOに誘った俺は――――《人殺し》。
それを聞いて俺自身も、少し納得してしまった。
このまま本当に東雲が――だったら、確かに俺は人殺しになってしまうのだろう。
仕方のないことだろうけど、しかし既に周りは俺のことをそう見ていた。
突き刺さる陰口。
間接的で遠回しな嫌がらせ。
――苦しい。辛い。
いやだ。此処にいるのが凄くいやだ。
だから、俺は一生懸命に勉強した。
猶予はたった一ヶ月ほどしかないけど、それでもやらずにはいられない。
――俺のことを知らない学校に…………行きたい。
そして俺は、隣の県の高校へと入学した。
入学式の翌日。
俺は高校一年として指定された教室へと入った。
元居た中学とは県を跨いだ所にある大きな高校だ。
偏差値も高く、俺が受かったことは奇跡に近かった。
それに、このぐらいレベルの高い高校に行けば、頭の出来の悪い不良なんて居ないと思った。
何より、此処に俺を知っている者は居ない。
同じ中学の人間が居ないとも限らないけど、それでも俺のことを知っている奴なんて居ないと思う。
――わかってる。
これは、《逃げ》だ。
俺は、俺に向けられた視線に耐え切れず逃げ出したんだ。
あの《犯罪者を見るような視線》に。
こんなんじゃ、東雲の■■に相応しい人間になるなんて、夢のまた夢だ。
くそっ。
最近、自己嫌悪してばっかりだ。
辛い。辛い。辛い。
このままじゃ発狂しそうだ。
せっかく俺のことを誰も知らないだろう場所に来たんだ。
心機一転で、今度こそ自分を鍛え直す!
……そう、都合の良いことを考えていた俺に罰が当たったんだろう。
『……ねぇ? ……あの男子……』
教室の端で、二人の女子の話声が俺の耳に届いた。
『うん……噂の《人殺し》……でしょ……』
「ッッ!!?」
なんで、それを?
どうして、この場所で?
俺は逃げられないのか? 逃げることは許されないのか?
また中学の頃のような状況を三年間味わうのか?
――嗚呼、東雲。
ごめん。ごめんよ。
お前に会わせる顔がないよ。
もう俺は――――心が、挫けてしまいそうだ……っ。
後書き
第二章――――――――完。
適度な窮地、穏やかな日常、楽しい人間関係――――ほのぼの冒険者ライフ。
そんなので本当にSAOが終わると思いましたか? それを望みましたか?
否。否。否!
これはSAO、これはデスゲームなんですよ?
人死に、絶望、欲望渦巻く何でもありのデスゲームですよ? ただで終わるわけがないでしょう!
まだまだ彼らを飲み込む困難は続きます。
それを乗り越えてこその、ハッピーエンドだと思いますから。
PS.
序章で、SAO攻略の決意を。
一章で、SAOを生き、仲間としての結束を深め。
そして二章で、一度目の挫折を味わった。
第三章は、SAO文庫でいうところの第二巻のような感じになると思います。
キリュウと三人娘は別々の道を歩むことになるでしょう。
そして別の道を歩んでいたはずのムラマサは、段々とその道は彼らに近づいていく。
――更に、知っている人は知っている! ついに《あの人》が登場します!
オリジナルキャラですが、先行してとある作者様のコラボ企画に参加させていただいたあのキャラです!
第三章執筆のため、一時更新を停止します。
度々申し訳ありませんが、今しばらくお待ちください。
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