ロスト:カラーズ
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第1部
第1章
別れの始まり
前書き
気の向くままに書いてみました。
この世界とは違う世界の兄妹の物語。
ちなみに萌え成分は皆無です。笑
当たり前になればなる程に、大切なものは見えにくくなる。しかし、大切な「当たり前」というものは失った瞬間、どんなに大事なものだったか気付かされる。そしてその瞬間は、想像もしないほど理不尽に、突然もたらされるものだーーーーーーーー。
俺の家庭は、裕福でもなく、かといって貧乏でもなく、絵に描いたようにどこにでもあるような普通の家庭「だった」。そう、俺と双子の妹が、世間から「ロスト」という蔑称で呼ばれる先天性のアーク回路欠損症であったことが発覚するまでは。
<アーク>…正式名称「Automatic React Calculator」全自動作用カリキュレーターと呼ばれるこのデバイスは、身体に眠る能力を極限まで引き上げ、増幅させることができる。個人の特性によって出来ることに制限はあるものの、アークが完成したことで、人類に出来ないことはなくなったといっても過言ではない。そんな夢のようなデバイスだが、光があれば影が作られるように黒い部分も存在する。その1つが、「アーク回路欠損症」なのだ。
「アーク回路欠損症」ーーーーーー
この病は、約千分の1の確率で引き起こされるアーク回路の異常によって、アークが起動できなくなる遺伝子レベルの病気だ。つまり、1000人に1人の割合で、アークを「使えない」人が生まれる。そもそもがアーク回路というもの自体、進化の過程によって生み出された奇跡的な代物であり、アーク回路欠損症とは、とどのつまり「祖先がえり」と同じなのだ。それゆえに、「使える」人と「使えない」人の間に生まれる溝は大きい。それは「ロスト」という蔑称にも表れている。使える人間にとって、「ロスト」とはアーク回路という進化の産物によって生み出されたアークという無限の可能性を「失った」人間なのだ。
自分より下の存在というのは、自分という存在を安心させてくれるものであり、優越感を与えてくれる心地よいものだ。だからこそ、人間という生き物は、自分たちより下の人間にどこまでも冷酷になれる。使える人と使えない人の上下は物理的にも精神的にも覆すことは許されず、「ロスト」は常に迫害を受け続けている。
それは、俺の家族も例外ではなかった。俺と妹がロストであることが分かった瞬間、手のひらを返すように周りの人々の反応は変わっていった。
「ロストを産むなんて、ご両親にも異常があるんじゃないのかねぇ」
「ロストの家族なんて、何をしでかすか怖いから何処かへ行って欲しいもんだよ」
近所では、こんな勝手気ままな噂が囁かれたが、両親は俺たちの味方で居てくれた。時に、理不尽に蔑まれ、時に、陰湿な嫌がらせを受けながらも、俺たちを守ってくれていた。
ーーーーーーーそんな日々すらも長く続けられるわけがなく、限界を迎えていった。
「あなた、もう私たちは限界よ。 こんな生活いつまでも続けられるわけがないもの。」
「分かっている…………………分かっているんだ。だけど、それでも、あいつらを施設に送るなんて。まだ13歳なんだぞ? ロストがなんだ! あの子が何をしたって言うんだ? こんな状況でも強く生きてる俺たちの誇り、宝じゃないか? それを施設に送るなんて出来る訳が………… 」
「そんなの私だって分かってるわよ…………… 分かってるわよ。けどもうそんな強がってなんていられない。このままじゃ、私たちもあの子たちも不幸なままで何も変えられないわ。」
偶然、夜中に起きた時こんな会話を聞いてしまった。聞いてはいけない会話だったのだろう、けれどもその場から動けなかった。両親だけは、どんな状況になっても自分たちを守ってくれる、ずっと自分たちを守り続けてくれるそんな安心が失われたことがショックだったのかもしれない。絶対なんて、永遠なんてあるわけがなく、終わりや限界がいつか来ると知っていながらも、両親の優しさに甘えていた自分に気づき、動揺したからかもしれない。突然に突きつけられた現実に、ただただ呆然とするしかなく、気づいた時には、部屋に戻り、座り込んでいた。
それから数日と経たずに、父親が俺たちに出かけようと声をかけてきた。
「お兄ちゃん、これからどこへ行くのかなぁ? 久しぶりのお出かけなのにお母さんは行かないのかな?」
母親がついて行かないことに少し不安そうな顔をしながらも、あどけない表情で見てくる妹。正直なところ行き先は、ある程度予想できていた。俺たちは施設に送られる。けれど、そんなの言えなかった。認めたくなかっただけなのかもしれない。だから、何も知らないであろう妹に返す気の利いた言葉が見つからなかった。
「さぁな、どこ行くんだろうな。 久しぶりに楽しいところに行くのかもな」
そう言って、おどけて笑いかけるのが精一杯だった。
ーーーーーーかなり長い時間、車に揺られていたと思う。山奥の道を進んだ先に厳重な門たたずんでいた。ようやく着いたのかと思ったが、門をこえた後もかなり広い敷地が広がっていた。そのまま道なりに進んでいくと白くそびえる大きな建物の姿が目に入った。
「わぁぁぁぁっ! すっごい大きい建物だね! ねぇねぇ何の建物かな? 遊園地かな? すごいね!」
少し幼さの抜き切れない妹は、建物の大きさに興奮しながら、つれない態度の兄の肩を揺さぶった。
「関心なさすぎでしょ! せっかくのお出かけなのに、楽しまないなんて損だよ!」
あまりのつれなさに少し不機嫌になったのか、顔を膨らましながら、そっぽを向いてしまった。
着いた場所はやはり、想像通りの場所だった。ついにこの日が来たのか、そう思うと何故だか肩の力が抜けて行くのを感じた。両親を責める気持ちは、そんなになかった。母親の言葉の通り、こうでもしなければ、家族は最悪の結末を迎えていただろう。たとえ離れ離れになったとしても、生きていれば、希望は残される。心の中でこれが現状で最良の選択なのだと何度も言い聞かせた。
「お兄ちゃん、ここどこだろー? 来たことないところだねー! お父さんどこ行っちゃったのかな?」
俺らを残したまま、施設の中に消えて行った父親を待っている間に、見知らぬ場所に来て落ち着かない妹が忙しなく話しかけてくる。いつの間にか機嫌はなおっているようだ。天真爛漫というのか、鈍感というのか、このなんとも言えない妹の雰囲気に何度も救われてきた。妹の笑顔を見ていると自分たちは捨てられるのだという見たくない現実に押しつぶされそうな気持ちが緩んでいくのを感じていた。
父親が帰って来ると、すぐに俺と妹も施設の中へ連れて行かれた。施設の中の様子は、学校と似たような雰囲気だった。自分たちと同じような子がそこらにちらほら見えた。心なしか父親は、俺たちと顔を合わせないようにしているように思えた。廊下を進んだ先の行き止まりの角部屋へと入る。中には、白髪で白ヒゲを生やした物腰の柔らかそうな雰囲気のおじいさんが座っていた。
「あぁー。 君たちが、新しく来た子かい? 」
雰囲気と同じような柔らかい口調で声をかけられた。何のことか分かっていないような妹と全てを悟った兄の様子を交互に見ながら、そのおじいさんは微笑む。
「私は、この施設の管理人をしている佐治という者です。みんなからはさじいと呼ばれているよ。まぁ君たちの好きに呼んでくれて構わない。」
「それでは、私は」
そう言いながら、管理人のおじいさんと会釈を交わして、父親は部屋から出て行こうとする。
「えぇぇぇ! おとうさんどこ行くの?」
そう言って呼び止めようとする妹に、少し立ち止まって、背を向けたまま肩が震えていた。
「お父さんたちは、少し用事があって君たちとはしばらく暮らせなくなったんだよ。だからここで、お兄さんと君は暮らすんだ。わがままを言って、お父さんたちを困らせてはダメだよ。 大丈夫。寂しくないよ。ここには、友達がたくさん居るし、お兄さんも居る。しばらくすれば、お父さんが、迎えに来てくれるよ。だから、分かるね。」
状況を飲み込めず、父親のそばへ行こうとわめいている妹をなだめるように静かに落ち着いた雰囲気で言い聞かせる。父親は、振り返らなかった。そして聞こえるか聞こえないか分からないほど小さなか細い声で絞り出したように一言だけ発して出て行った。
「ーーーーーーごめんな」
まだ幼い兄妹を捨て去るように施設に預けてしまう自分の弱さや不甲斐なさ、罪悪感の全てを込めたたった一言だけを残して。
後書き
読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでいただけたでしょうか。
気付いたらシリアス展開な上に説明部分多くなってしまいました。
上手く表現出来ず、人物描写がほぼないです。もっと分かりやすくかけたらなー。
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