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お屋敷話

作者:白崎黒絵
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ダメ人間のメイド/姉をクビにし隊

「あれ?おじょーさまじゃないですか。お久しぶりです」
「夕陽さん。お久しぶりです」
 ある日。夜月が屋敷の庭を散歩していると、珍しい人に会いました。
 彼女は夕陽と呼ばれる少女です。このお屋敷の電気関係の仕事をしているメイドで、朝陽の妹でもあります。
「珍しいですね。夕陽さんがお部屋から出てくるなんて」
「あたしもたまには外の空気が吸いたくなるんですよ。おじょーさまこそ、いつもだったらこの時間は部屋でおねーちゃんと遊んでいるのでは?」
「一部訂正して頂きたい箇所がありましたが……まあいいでしょう。朝陽さんが今寝ているので、少しお散歩していたのです。学校の課題も終わりましたし」
 ちなみに朝陽が寝ているのは自室のベッドではなく、夜月のベッドの上です。メイドの風上にも置けない所業ですが、朝陽はこれで平常運転なので誰も叱りません。夜月も他の使用人も、とっくの昔に諦めました。
 朝陽が主人のベッドの上で吞気に寝ている間に、夜月と夕陽の間でまったりとした会話が交わされます。
「おじょーさま……ぶっちゃけ、おねーちゃんはいい加減にクビにした方が良くないですか?メイドとは思えませんよ、主の部屋で寝るとか」
「いえ、そりゃあ私だって何度かお父様やお母様に相談したことはあるのですが……なにせ朝陽さんは、やる気さえ出せば何でも出来ますからね。お父様たちも手放したくないみたいです」
 朝陽は基本的に何でも平均以上に出来るハイスペックメイドです。料理や掃除、洗濯などといった家事から、ナイフ術や格闘術などの戦闘技能や、航空機・船の運転、果てには株式運用や会社経営なんかも出来ます。しかし真に残念ながら、性格が壊滅的なくらいダメ人間なので、滅多に働きません。
 そんなダメ人間でもたまにはやる気を出して働くので、夜月の家に雇われているというわけです。
「電気・情報関係なら夕陽さんの方が優秀なんですが……夕陽さんは家事の方が、ちょっとアレですし」
「おじょーさま。どうせ言うならストレートに言われた方が、まだダメージが少ないと思います」
「夕陽さん、料理と掃除と洗濯と裁縫で死人を出せますよね?」
「その通り過ぎて反論できない自分にがっかりです!」
 実際、夕陽が初めて家事を行った日は消防車と救急車とパトカーが出動しました。それ程の大惨事だったのです。
「夕陽さんがまともに家事を出来れば、朝陽さんをクビにしても大丈夫なんですけどね」
「うう……お役に立てなくてすみません」
「あ、謝らなくてもいいですよ。私だって別に、今すぐ朝陽さんをクビにしたいわけではないんですから!」
「そーなんですか?」
 これは夕陽にとってかなり意外な告白でした。てっきり、夜月は朝陽を一刻も早くクビにしたいものだとばかり思っていたのです。
「何でですか?おねーちゃん、仕事はマジメにやらないわ、おじょーさまの勉強の邪魔はするわで、クビにしたくない理由なんて思いつかないんですけど」
 夕陽のその質問に、夜月は頬を赤らめて言います。
「確かに、朝陽さんは働かないし、勉強の邪魔もしますけど。でも、いつだって私の話を聞いてくれて、私と話をしてくれるんです。他の使用人の方々は皆、私の世話をしてくれるだけで、雑談なんてしてくださいませんから。朝陽さん以外で唯一、プライベートな話をしてくださる夕陽さんは、いつもお部屋に閉じこもっていますし。だから私は、朝陽さんには一緒にいてほしいんです」
「おじょーさま……」
 夕陽は感動して目に涙を浮かべます。しかし、そこであることを思いつきました。
「おじょーさま。それって、あたしが部屋から出ておじょーさまの話し相手になれば、おねーちゃんはクビにしても問題ないのでは」
「あ……その手は思いつきませんでした。でも、お父様たちがきっと反対しますし……」
「旦那様と奥方様は、おじょーさまが本気でお願いしたら聞いてくれますよ。今までだってそうだったですし」
「それもそうですね……いける、いけますよ!これで朝陽さんをクビできます!」
「やりましたね、おじょーさま!」
 こんな感じで2人の間ではしばらく不穏な会話が続きました。
 今日もお屋敷は平和です。 
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