絶対の正義
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第二十五章
第二十五章
「ざま見ろ!」
「天罰よ天罰!」
「これで終わると思うな!」
社員達は階段の下で蹲る彼を見下ろしてせせら笑ってまた罵声を浴びせる。彼はその中で何とか立ち上がって医務室に向かうが。入室を断られた。
「悪いがここに君を治療するものはない」
医務室の医師は温厚な人格者として知られていたが怪我をしてやって来た彼にこう冷たく告げて扉を閉めてしまった。会社の外に出て病院に行こうにも入り口にはデモ隊がいる。とても行けなかった。
「小笠原祐次を許すな!」
「いじめ反対!」
「悪魔を倒せ!」
言うまでもなく岩清水の同志達である。彼はあえて自分の関係者であることを隠してデモをさせていたのである。それもまた小笠原を追い詰めていた。
怪我の痛みに耐え社員達の糾弾から逃れる為に食堂に向かった。しかしそこでもだった。
「この食堂にあんたが座る場所はないよ」
「そうだ、出て行ってくれ」
「二度と来ないでもらいたいね」
食堂のスタッフ達が冷たく告げて彼を追い返す。彼は会社に居場所がなくなってしまった。翌日から彼は会社に来なくなった。来れなくなったのである。
岩清水は残る一人に対する攻撃も続けていた。今度はであった。
「鳥越賢児ですね」
「こいつですか」
「はい、その男です」
岩清水と同志達はある雑貨店の前にいた。そこでまた写真に映っている青年を見て話をしていた。そこには細面で太い眉の青年が映っていた。彼がその鳥越だというのである。
「いじめグループの一人です。そして」
「この店ですね」
「この店にいるんですね」
「そうです」
まさにこの店だというのである。既に店の前には生ゴミが置かれ落書きまみれになっていた。いつもの様な無惨な有様に既になっていた。
「この店の中にいます。家族と一緒に」
「それで家族は」
「誰なんですか?」
「両親と配偶者です」
あえて無機質にお役所仕事的に答えた岩清水であった。
「その三人です」
「そうですか。その三人ですか」
「っていうかもう結婚してるんですね、この鳥越って」
「悪党の癖に」
「その悪党の全てをまた破壊し尽しましょう」
岩清水はここでも同志達に話した。
「今から」
「はい、わかりました」
「じゃあ今から」
そうしてだった。また抗議活動がはじまるのだった。
今回も同じだった。糾弾対象を容赦なく攻撃する。
「出て来い鳥越!」
「今日こそは釈明しろ!」
「兎殺しが!」
「人殺し!」
過去を徹底的に糾弾していく。
「何時までも隠れているつもりか!」
「それならば我々にも用意があるぞ!」
「我々を甘く見るな!」
「悪には容赦しない!」
「いじめをした奴を許すことはない!」
こう言ってだった。店に向かう。店は彼等の連日連夜の抗議活動の影響で客が一人も寄り付かなくなってしまった。バイトの店員達も全部逃げた。その品揃えが豊富なままの雑貨店に進みだった。その店のものをぶちまけその手に持っているバットや鉄パイプで破壊しだしたのであった。
「悪は許すな!」
「全てを破壊しろ!」
「悪人にものは不要だ!」
「止めて下さい!」
ここで店の中から女が出て来た。若い女である。
「貴方達は何なんですか!毎日毎日お店の前でがなり立ててそうして今度はお店の中まで壊して。これはもう立派な犯罪ですよ!」
「犯罪ではない!」
その女の言葉に岩清水が反論した。
「これは裁きだ!」
「そうだ、裁きだ!」
「邪悪ないじめっ子に対する裁きだ!」
「見なさい!」
岩清水はここで店の奥のカウンターを指差した。そこには疲れきった顔の鳥越がいた。彼も抗議の嵐の中で見る影もなくやつれていた。写真では豊かだった髪があちこち抜けて殆ど残っていない。そこまで追い詰められているのがはっきりわかる外見であった。
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