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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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アリス・イン・ザ・アンダーワールド

ーー!

ーー!

暗転していた俺の意識が徐々に浮上していく。

何かが聞こえる。これは……誰かの声?

身体を揺らされる感覚に俺はかなりの意識の力を動員し、重い瞼を開いた。

「リン! あ、起きた?」

「ユウキ……俺は確か……」

目の前に現れたのは涙を瞳いっぱいに溜めたユウキの端整な顔。

あたりは薄暗く、埃っぽく、渇いている。そんな場所に俺は横たわっていた。

軽く響く頭痛を意識の外に外しつつ、俺は記憶を整理し始めた。

確か新川恭二が襲ってきて詩乃をかばって刺されたんだったな。

「……ユウキ、すまんが軽く状況説明を頼む」

「う、うん」

ユウキは目に溜まった涙を袖口で拭うと口を開いた。

「燐は救急車で運ばれた後、菊岡さんがこのアンダーワールドに送り込んだんだよ。なんでも現行の医療技術ではすぐに治療するのは無理みたいでね?時間稼ぎをするためにやったみたい」

「なるほど……」

その判断の是非はともかく、今回は菊岡に感情しなければなるまい。周囲の様子を見るに機密性の高いVR空間のようだから、それを使用するためにはかなりの力を要したことを察することができるのだから。

……とは言え本人に言うと図に乗りそうなので言わないが。

「死んじゃうかと思ったんだから……」

「あー……悪かった」

涙目でポカポカと駄々っ子パンチを繰り返すユウキの攻撃を甘んじて受けながらユウキの頭を撫でる。

現実に戻ったら詩乃や直葉に謝らないとな。

ユウキが落ち着くのを見計らって周りを見回す。

「それでここはどこなんだ?アンダーワールドとか言っていたが……」

「ふにゃぁ……ボクが協力していたプロジェクト、アリシゼーションの実験場みたいなところだよ! 普通にアルヴヘイム・オンラインみたいなVRMMOだと思えばそれで合ってるね」

頭を撫でていると、それが心地好いのか至福の顔をしてふやけていたユウキは、俺の質問を聞くと、さっきとは違う意味で潤んだ瞳をこちらに向けながら答えてくれた。

「戦闘システムはどうなってる?」

「んー……魔法みたいな神聖術があるね。あとはソードスキルもあるよ。下級の単発位しか見たことないけど。まあ、ボクは戦う機会がなかったんだけどね」

何となく顎の下を撫でるとユウキはゴロゴロと嬉しそうに目を細めながら喉を鳴らした。……猫か、己は。

軽くイチャつきながらこの世界についての質問を数十分ほどぶつけ、大体のことを理解できた時だった。

「げひゃひゃひゃ! なんだなんだぁ?白イウムのガキが二匹、こんなところに潜り込んでるぜぇ?」

姿を見せたのは緑色の体色を持った人型の化け物だった。頭頂部には髪がなく、耳の付近に針金のような毛が密集していて、眉毛はなく、不自然なほど巨大な眼球は獲物を見つけたと言わんばかりに獰猛で暴力的な光を宿している。

手にはパチパチと燃え盛る松明と鈍い色を放つ肉厚の野太刀が握られていた。

ファンタジーによく出てくるゴブリンと言うべき容姿を持ったやつが三匹。

ドロリと重い悪意を持った視線をこちらに向けている。

「俺たちゃぁ……運がいい。ちょっと貧相だが顔は絶品なイウムの牝を見つけたんだ。ちょーっと楽しんでから売っちまおうぜ!」

「げひゃひゃひゃ! 壊れなきゃいいがなぁ!」

そんな下品な視線に晒されたユウキは毅然とゴブリン達を睨みつける。

「ボ、ボクはリン以外に身体を許す気はないよ!」

ユウキがそう言うとゴブリン達は笑うのをやめ、俺に視線を移した。

そして、悪意の篭った表情でニヤリと笑う。

「男はさっさと殺そうと思ったが、気が変わった。お前は生かしといてやる。彼女はどうなるかはわからんがなぁ!」

下劣な野郎が。

しかし武器がないとなるとどうするか。相手の練度にもよるが、少なくとも殺気は一人前。

そこまで考えた時、ユウキが近くに寄ってきて耳元で囁いた。

「ボクが剣になるから後は頼んでいい?」

「剣になる?」

足を持って振り回せと?いや、冗談だが。

剣に変化するのか?

「うん、だからボクを使って?」

「……わかった」

この状況なら是非もないか。

頷いて手を繋ぎながらユウキを隠すように背中にかばう。

……どんな武器になるか聞いてないが大丈夫か。

「最期の挨拶は終わったかぁ?」

律儀に待っていたゴブリン達が一斉に笑い出す。

確かに末期の会話を待っていた方が相手に恐怖を与えられるだろうが……相手を倒しうる力を持つ相手にはその慢心が命取りになる。

「ああ……作戦会議は終わったよ」

「なに……?」

ゴブリンが揃って間抜けな顔で首を傾げた瞬間、ユウキの滔々とした声が響き渡った。

「システム・コール! シェイプチェンジ、ヒューマントゥソード! バージョン、デュアルソード!」

諸に英語なのだが……いいのか。

俺の手の中にあった柔らかいユウキの手がその呪文を唱え終わった時、形が変わっていき、感触が硬質化した。

そして、ユウキの神聖術詠唱に釣られて寄ってきたゴブリンを切り裂く。

手に感じる生々しい感触とともにゴブリンは汚らしい悲鳴をあげ、そのまま崩れ落ち、次の瞬間砕け散った。

軽く剣を振るって付着してるであろう血を飛ばすような動作をすると二本の剣を見る。

黒曜石を切り出したような暗紫色で透き通った両刃を持ち、柄は黒色。シンプルながら見事な装飾が施されていた。

松明の炎に照らされた刃はその切れ味を示すかのように鋭く、そして冷たく輝いている。

その光に圧倒されたように残る二匹のゴブリン達は一歩後ろに下がった。

「な、なんだよそれ……なんなんだよぉ!」

先程まで自分が絶対的な強者で捕食者だ、という様子がなぜか崩れ、怯える犬が吠えるように震えている。

「ああ……そうか」

剣を軽く振るう。鋭く空気を切るような音を聞きながら、自分の現在の感情を理解する。

「無意識に威圧していたみたいだな」

抑えるのは得意だと思っていたのだが、詩乃や直葉やユウキたちと触れ合う中で少しずつ緩んでいたらしい。

「さてと……生きて帰れると思うなよ?俺の彼女の一人を狙ったのが運の尽きだと思え」

「う、うがぁぁぁ!! 死ねぇぇぇ!!」

自棄になったのか、同時にかかれば勝機があると思ったのか、手に持った野太刀を大上段に構えながら二匹が同時に走ってくる。

……ガラ開きの胴を晒しながら。

身体の調子からして現実とほぼ同等の身体能力だと予測できる。

ならば……視覚を誤認させ二匹の間を抜けるのも容易。

地面を蹴って速度をゼロから一気にトップまで持っていく。

そして走り抜けた後、ゴブリン達が俺の位置認識を修正し、振り向こうとしたその瞬間、断末魔をあげる暇さえなく砕け散った。

「ふう……」

一息ついて剣を納めようとしたが、鞘がないことに気づき動きを止める。

……抜き身で持っていけばいいのだろうか?

「あ、鞘を作るの忘れてた」

突然、剣からユウキの声が聞こえると剣が光りだし、刃が鞘に覆われた剣が現れた。

「……喋れるのか?」

「うん! 人型にも戻れるよ?」

この場所が危険だとわかった以上、ユウキが人型に戻るのは得策ではないか。

おそらくだが、ユウキの言っていたアンダーワールド内のダークテリトリーという場所にいると思われる。

ペインアブソーバーもないらしいし、慎重に人の住む領域に戻りたい。

「そういえばソードスキルってどの辺りまで使えるのかわかるか?」

「んー……OSSは全部ダメ。あとレベルは初期化されてるから今の燐が使えるのは初級までかな?」

「そうか……」

試しにバーチカル・アークを放ってみる。……しっかりと発動した。

続いてバーチカル・スクエアを放ってみる。……発動しなかった。

かなり選択肢が狭まるな。使えるスキルも確認できないし、かなりシビアだ。

「あとALOよりも自由度というか意識の力が威力に直結してる気がするよ。菊岡さんは心意って呼んでたけど……」

「まあ、大丈夫だろ」

和人みたいにリアルがモヤシならともかく、俺はリアルでもそれなりに武術を修めてきた。だから問題ない。

「さてと……ならレベリングをしながらダークテリトリーを脱出するとするか」

こんな状況で一人っきりじゃないのはとてもありがたい。どれだけ鍛えようとも孤独というものは辛いものだから。

「そういえばキリトもこの世界に来てるらしいよ?」

「なぜ?」

「燐と同じで死銃に襲われたみたい。あっちは無防備に刺されたらしいよ」

「現実だと弱いからな、あいつ」

辛うじて剣道だけかじったくらいか。スポーツの意味合いが強いから実戦ではほとんど役に立たない……。

まあ、足運びや見切り等くらいには役に立つだろうが。

とりあえず……。

「ユウキ、神聖術を教えてくれ」

自分の手の内を増やしておくか。 
 

 
後書き
ダークテリトリースタート&ユウキ(しかも剣になる)がいるとは誰が予想しただろうか!(ぉぃ

どうも蕾姫です。

ユウキの呪文はオリジナル。なに?ユージオが似たようなものを使った?このスタートが決まったのはあの巻が出る前だから(震え声

聖剣の刀鍛冶からの発想ですし……。

次回からダークテリトリーをウロウロします。完全オリジナルストーリーになりますが、最終的には合流させるので御安心を。

感想その他を募集しつつ次回もよろしくお願いします。

ではではー 
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