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普通だった少年の憑依&転移転生物語

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ゼロ魔編
  014 虚無の曜日、王都にて その2


SIDE 平賀 才人

いきなり俺の腕に現れた赤い籠手に──その籠手から発せられる声に、装備者である俺以外の3人は驚きの表情を浮かべた。

「すまん、ドライグ。3人に見せるために出しただけだったんだ」

<む、そうか。必要になったらいつでも呼んでくれ>

3人が〝籠手〟を見たのを確認すると、それ以上顕現させている必要性は無いと思い〝籠手〟を消す。

「……サイト、さっきのは一体なに?」

「………それに喋っていた」

一番最初に口を開いたのはキュルケで、タバサが矢継ぎ早でキュルケの質問に補足をする。

「ミス・タバサが言っていた〝赤い龍の帝王〟が──赤龍帝ドライグと云うドラゴンの魂が封じ込められた籠手だ。……早い話が、インテリジェンスソードの籠手バージョンみたいな──インテリジェンスガントレットと云った感じかな」

「………私の使い──知り合いが貴方に宿る〝赤い龍の帝王〟が怖いと言っていた。それはどうして? 私は別に貴方の事は怖くない」

「あっ、そういえばフレイム──私の使い魔ね? 私の使い魔もサイトを怖がっててサイトに近寄りたがらないのよね。何でかしら?」

「確かにミス・タバサとツェルプストーの言う事も一理有るわ。サイトが居ると、確かヴェルダンテだったっけ? ……ギーシュのジャイアント・モールも──皆の使い魔もまるで借りてきた猫の様に大人しくなるのよね」

タバサの質問にキュルケ、ルイズの順番に便乗していく。

「それは簡単な話、動物達は人間より〝危険〟に敏感。……リスク管理が巧いし、危険察知能力は高いんだよ」

「危険察知能力は何となく判るとして、リスク管理? リスク管理なんて言葉あまり聞いた事が無いわ」

ルイズはあまり聞いた事の無いワードに鸚鵡返しをしてくる。

「そうリスク管理。俺──この場合はドライグか。ドライグは〝天龍〟とか称される程に強いドラゴンらしくて、そんな強いドラゴンが居る場所で無闇矢鱈に騒いだら──」

「成る程。それで使い魔はサイトの前では静かにしてるのね。それは間接的に主を守る事にも繋がるしね」

ルイズは納得した様で鷹揚と頷く。

「それにドライグはドラゴンだから、竜種には力の差がハッキリと出る分、ドライグを──ドライグの宿主である俺を怖れる傾向は顕著に出易いかもな。……他に質問は?」

「………特に無い。納得した」

俺の誤魔化し混じりの説明にタバサは納得した様で、ルイズとキュルケも納得した表情をしている。

「さて、サイトはこれから何か予定はある?」

「特に無いな。とりあえず支払いを済ませて来る。3人は待っててくれ」

「………私も払う」

「私も出すわ。この娘ってば結構な健啖家だから結構な額行ってると思うわよ?」

「別にいいよ。これくらいなら男の甲斐性だ」

飛び入り参加なタバサとキュルケはワリカンにしてくれるらしいが、流石に女子相手にワリカンとかダサいのでタバサとキュルケの昼食代も俺が出す事にした。……ワリカンにしたのは良かったのだが、タバサは小さい姿(ナリ)に見合わず思いの外健啖家で昼食代が10エキューにも上ってしまった。

(平民1ヶ月分の給金が一気にパアとはな。……流石、貴族御用達の店だな)

資金は潤沢に有るとは云え、それを一括で──それもノータイムで払える俺も俺だが。

さて、ルイズにパイを奢ったことでルイズとの口約は果たされた。

「これからどうする?」

俺は3人に訊ねる。今は時間にして12時30分を過ぎたところ。寮に戻らなければならない時間まではまだまだ余裕があるので、手持ちぶさたと云うわけでは無いが何をするか軽く迷ってしまう。

「んー、じゃあ、サイトの居た薬屋にいってみたい」

「それは良いわね。ヴァリエールにしてはやるじゃない」

「ケンカ売ってるの? 今なら格安で買ってあげるわよ。ツェルプストー」

「はいはい、2人共そこまでだ。こんな人の往来が多いところで杖を抜こうとすんな」

ルイズとキュルケの2人は杖を抜こうてしたので俺がそれを宥める。……この一連の流れは学院でもよく有る事で、2人の小さないさかいを宥めるのもいい加減慣れたものだ。……ギーシュの話では、俺が居ないところでのルイズとキュルケはそこまで仲が悪く無いらしいのに。……解せぬ。

「………私も興味がある」

「……判った。それじゃあ案内しようか」

タバサもパッと見判り難いが、「私、気になります!」と云わんばかりの表情をしているし、連れていかない理由は特に無いので案内する事にした。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「いらっしゃい。サイトから話は聞いているよ。さぁ、入った入った。……まぁ、今日は虚無の曜日で休みの日だから商売はしてないけどね」

店に入ると20歳を少し過ぎた年頃であろう銀髪の女性が──バレッタさんが俺達4人を出迎えてくれた。

「「は、はぁ……」」

キュルケとルイズはバレッタさんの入店直後のいきなりの挨拶に戸惑っている様で、困惑しているのが判る。……因みに、バレッタさんには俺の“別魅”を伝い、人を連れて来店する事は教えてある。

「皆、紹介するよ。この人はバレッタさん。俺が世話になっている人だ。まあ、仕事中はバレッタ師匠って呼んでるけど」

「おいおいサイト、もうサイトの方が腕は上なんだ。いい加減、師匠呼ばわりは止めてくれ。……おっと、自己紹介がまだだったね。サイトの紹介通り、私の名前はバレッタ。この【バレッタ薬剤店】の店主をやらせて貰っている、しがないフリーの水メイジさ」

「初めまして、ミス。私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと云います。……こうなるとは知らなかったとは云え、いきなり知人を拐かす様な仕儀になってしまい、本当に申し訳ありませんでした」

ルイズはずっと気にしていたのだろう、頭を深々と下げてバレッタさんに謝意を伝える。

「ほぅ君が。……とりあえず、貴女の謝罪についてはサイトが〝代理〟を置いてってくれて、特に何の問題も無く店も回せたから私からは特に言う事は無いよ。……でも、君がそれでは納得出来ないのなら君の謝罪を受け取っておこう」

「……御容赦頂き、誠に有り難う御座います」

バレッタさんも、俺が〝代理〟を置いておいた事が幸いしたのか、すんなりとルイズの謝罪を受け入れる。ルイズは緊張から解き放たれたのか、安堵の息を漏らしている。

「………初めまして。私の名前はタバサ」

「お初にお目にかかります。私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。彼──サイトとは〝今は〟友人をやらせて貰っています。気軽にキュルケとでも呼んでくれて構いません」

「ほう、〝今は〟か。……くくく、言っておくがサイトは相当モテるぞ? 私を始め、かなりの女性客から秋波を送られているからな。今じゃサイトの顔見たさに来る客も居るくらいだから、ウチの店は儲かって万々歳だよ」

「ふふふ、サイトがモテるのは学院でも一緒です」

キュルケはキュルケで俺の外堀を埋めるかの様に挨拶をするが、キュルケの発言にバレッタさんは目を光らせながら食い付いた──食い付いたのは良かったのだが、同時にスルー出来ないセリフを溢した。

「ちょっと待ってくれ、バレッタさんって俺の事──」

「好きだ。それに愛してるが、それが何か?」

俺はバレッタさんの言葉に唖然とする。

「……てっきり俺はバレッタさんから見たら、只の若い燕かと思ってたよ」

「くくく、女の身体は──それも純潔は只の若い燕にやるほど安いものじゃあないさ。覚えておくといい。……まぁ、あの時は恥ずかしかったから給金の代わりなんて方便を使ったがね」

ピシッ、と薄氷に皹が入るような音がした。……確かにバレッタさんの〝初めて〟の男になったのは俺だが、その発言は時と場合を考えて欲しかった。……ルイズとキュルケは2人で仲良くバレッタさんの発言にキャパシティを超えたのか、フリーズしている。

「サイトどういう事?」

一番最初に意識を取り戻したのはルイズで、信じられない──信じたくないと云った表情で聞いてきた。

「ノーコメントで。……あえて言うなら、情欲を持て余したうら若き男女の営みがあったという事だけだ」

「………結局言っている」

「謀ったな」

「「「「謀ってない」」」」

皆から──タバサからも突っ込まれた。何故だろうか? ……だがまぁ、これでバレッタさんとの仲をうやむやに出来る──

「で、話を逸らそうったってそうはいかないわよ」

……うやむやに出来る事も無く、しっかりとルイズとキュルケからバレッタさんとの出逢いやら、バレッタさんとのあれそれをちゃんと追及された。

(今度こそ謀られたか……)

ニヤニヤと口角を吊り上げるバレッタさんを見る限り、どうやら本当に今度こそ謀られたらしい。……それに、どうやら俺はこう云う方面では、一生バレッタさんを打ち負かす事は出来そうに無い事を悟った虚無の曜日だった。

SIDE END 
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