魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Epos26魔法少女たちの未来設計~Dream and a Wish~
†††Sideなのは†††
事情聴取を終えてはやてちゃん達のところへ向かったルシル君たちと別れた後、私たちは食堂に来た。学校の終業式が終わってからというもの飲まず食わずだったから、もうお腹がぺこぺこ。みんなで遅めの夕ご飯を頂いてる。
はやてちゃん達を誘って一緒にご飯にしようと思ったんだけど、残念ながらクロノ君が、はやてちゃんを交えてこれからのことを話す、ということでおあずけになっちゃった。すぐにでもはやてちゃんたち解放されるといいんだけど。クリスマスパーティをやりたいから。
「そう言えばさ。なのは達はこの後どうするの?」
私たちの顔より大きな特大パフェをものすごい笑顔で食べてるシャルちゃんがそんなことを訊いてきた。真っ先に「この後、って・・・。お家に帰って――」私が答えようとしたところで、「違う、違う❤」シャルちゃんがイチゴを乗せたスプーンを私の口に向かって突き出してきた。
ニコニコ笑顔のままで引っ込めないシャルちゃんだったから、私は「あ、あ~ん」オムライスを掬ったスプーンを一度置いてからパクッと一口。う~ん、合わないよ、シャルちゃん。オムライスにイチゴはダメだよ・・・。口の中が軽い地獄と化しちゃったよ(涙)
「なのはちゃん、大丈夫・・・?」
すずかちゃんがコップに注いでくれた水をひと呑みして「ありがとう」お礼を言っていると、「どういうわけよ」アリサちゃんがシャルちゃんのパフェからチョコスティック1本をひょいっと獲りながら先を促した。
「あっ。むぅ・・・取っておいたのに。・・・はぁ。あれだよ、将来のことだよ。なのは達はこれからどうするのかな、って思ったんだ。わたしは言わずもがな、フェイトは・・・」
「うん。私は正式に管理局に入局するつもりだよ。前にも言ったけど、何かを助けたり救えたりする力を持っているなら、それを困っている人たちの為に使いたいから。私がなのは達に救ってもらえたように。はやて達を助けてあげられたように」
フェイトちゃんがそう言って微笑んだ。シャルちゃんは同い年ながら管理局の中でもすごいって言われてる役職に就いていて、フェイトちゃんも私たちより早くに管理局員になるっていう、しっかりとした決意を持ってるからすごく輝いてる。
でも、私だってずっと考えていたんだ。ユーノ君から貰った、この魔法っていう力の使い道を。どうすれば腐らせずに役立てるのかを。それを思うと、ジュエルシードを集める為に決意した時のことを思い返すことが出来たんだ。
――ジュエルシードを放っておくと、もっと酷いことが起きるかもしれない。それを止めることが出来る力を私が持っているなら、なおさら手伝いたい――
そう。私はもう、その時にはすでに見つけていたんだ。それをフェイトちゃんのおかげで確実なものへと変えることが出来た。漠然とした夢すらも無かった私が辿り着いた答え、それが・・・。
「私もね。この魔法の力で、困っている人たちを助けてあげることが、救ってあげることが出来たらいいなって、そう思うんだ。だから私も、管理局に入ってこの魔法をみんなの為に役立てたい」
シャルちゃんは「そっか。うん、大事な思いだよ。忘れないでね」って嬉しそうに笑顔を浮かべた。と、「ぼ、僕も実は・・管理局に入ろうと思うんだ」ユーノ君がどこかそわそわしながら話に入って来た。
「え、そうなの?」
「うん。闇の書のことを調べていた時、無限書庫の司書長からスカウトされて。僕も自分の知識や魔法を役立てないなぁって思って」
「そうなんだぁ。それじゃあユーノ君も一緒に働けることになんだね♪」
「う、うん」
ユーノ君と笑顔を交し合ってるところで、「アリサとすずかはどうする?」シャルちゃんが黙ったままの2人に声を掛けた。2人にはもう将来の夢がある。すずかちゃんはエンジニア、アリサちゃんは両親が経営してる会社を継ぐっていう。
私は、そんな2人と一緒に管理局に入ることが出来たら嬉しいなぁって思うけど、それが無理なことも理解してる。特にアリサちゃんは一人っ子だから、私たちの中で一番管理局入りが不可能だ。
「あ、あの。私も出来たら管理局に入りたいなぁって思う」
「すずかちゃん・・・!?」「すずか!?」
まさかの展開だった。すずかちゃんが小さく挙手しながら管理局に入りたいって。私たちの視線は一斉にすずかちゃんへ向く。すずかちゃんはちょっと照れくさそうに頬を染めながら「管理局の仕事にもエンジニアのようなものあるみたいだから」って言った。
「もしかしてデバイスマイスターのこと?」
「うん。シャルちゃん、マリエルさんを私たちに紹介した時に言ってたよね。魔導師の使うデバイスの製作・管理するデバイスマイスターっていう技術職があるって」
「職っていうか資格ね。技術職は他にもあるよ。艦船整備とか」
「う~ん、私はやっぱりデバイスマイスターの資格を取りたいかな。そしていつか、スノーホワイトやなのはちゃん達のデバイスを看てあげることが出来れば、って」
それがすずかちゃんが新しく思い描いた夢だった。でも、うん。「その時はよろしくお願いします♪」ふかぶか~と頭を下げると、シャルちゃんやフェイトちゃんも「お願いしま~す♪」ってふかぶか~と頭を下げた。すずかちゃんに“レイジングハート”や“バルディッシュ”、“キルシュブリューテ”が看てもらえる日が来るのが待ち遠しい。
「あ、あ、あたしだって! あたしだって管理局に入りたいわよ! あんた達と一緒に、魔法で困ってる人たちを助けたいわよ! そ、そうよ! あたしが一人っ子だからダメなのよ! 今からでも遅くないわ、弟を作ってもらえば!」
わぁーん!って大泣きしそうな顔をしたアリサちゃんはバンッとテーブルを叩きながら立ち上った。というか「落ち着いて、アリサちゃん!」すごいことを言っちゃってるよ。思考が暴走しちゃいそうな勢いだったアリサちゃんを、みんなでなんとか宥めることに成功。
「ねぇ。真面目な話、ホントどうしたらいいと思う? あたし、本当に魔導師として、騎士として、管理局に入ろうって思うんだけど。でも、バニングスの跡取りとしての責任も大事だって思うわけ」
アリサちゃんからの人生相談。人ひとりの今後の人生に関わる重大すぎる相談に、私たちはちょっぴり困る。でも、アリサちゃんは真剣だし、本当に困っているから、親友としては役に立ちたいわけで。
「二足の草鞋でいいんじゃない?」
「「「「二足の草鞋?」」」」
真っ先にシャルちゃんが提示した案。それは管理局員と継いだ会社の運営、その両方をこなすというものだった。それを聴いたアリサちゃんの第一声は「過労死するわ!!」だった。局の魔導師として頑張って、休憩中や休暇で会社運営を行う。確かに疲労で体を壊すこと請け合いだ。
「だったら・・・婿に任せれば? 女の子のひとりっ子っていうことはいずれにしても婿を迎えるんでしょ? 信頼できる人と結婚して、会社運営を任せれば・・・ほら、問題解決――」
「してないわよ! け、け、け、結婚!? この歳で結婚とか考えられないわよ!」
「「まだまだ先だね~」」
9歳の子供な私たちにはまだ早い話だった。シャルちゃんは次に「じゃあ、アリサが言ったように兄弟を作ってもらうか、養子を取るか」そう提案した。アリサちゃんは「やっぱり弟よね~」なんていう始末。そんな簡単に出来るものじゃないんじゃないかなぁ、兄弟って。どうすれば作れるのかは判んないけど。
「ま、どの方法を選択するにしても、みんな共通の問題を抱えているのは確かだよね~」
シャルちゃんが私とすずかちゃんをチラッと横目で見てそう言った。判ってる、私たちが抱えてる問題。そう、「家族に話さないと、だよね」これまでの、魔法とかの事情を全て話した上で、管理局に入る許可を貰わないといけないことくらい。
「もしなのは達が反対されたら、管理局に入るのはルシル達だけになるのかな・・・?」
フェイトちゃんと同じように保護観察処分が決定されたルシル君たちは、他にも管理局従事っていう形で嘱託魔導師になることが決定したって。元よりパラディース・ヴェヒターの実力は管理局の偉い人たちにお眼鏡に適っていたってことらしくて。はやてちゃんについては今頃、クロノ君と話し合いがされてるはず。
「あ、はやて・・・!」
シャルちゃんが出入り口の方を見てはやてちゃんの名前を呼んだ。そこには車椅子に乗ったはやてちゃんと、車椅子を押すヴィータちゃん、そしてルシル君たち八神家が勢ぞろいしていた。
「みんな! 改めてホンマにありがとう♪ みんなのおかげで、ナハトヴァールをどうにかすることが出来たわ♪」
はやてちゃんの満面の笑顔を見ることが出来た。それだけで頑張った甲斐があるというものだよ。私たちははやてちゃん、そしてルシル君たちの感謝に笑顔で応えた。はやてちゃん達も席に着いて遅めの夕ご飯を摂る。そしてはやてちゃん達を交えての将来設計を話題にしてお話しすることに。
「ねぇ、はやて。あんたはこれからどうすんの? やっぱルシル達のように管理局に・・・?」
「うん。そのつもりや。八神家の主として、みんなにばかり押し付けるような真似はしたないし。それにルシル君には特に申し訳ないからな。ルシル君の目的を思いっきり邪魔してもうた」
ルシル君は“エグリゴリ”を倒すために生まれ故郷の世界、フェティギアを離れてひとり次元世界を旅してるそう。そんな中、私たちの住む世界・地球は日本、海鳴市から強力な魔力を感じたから、海鳴市を訪れた。
その魔力というのは時期的に見て、フェイトちゃんやアルフさん、テスタメントちゃん達と海上で最後のジュエルシードを巡る戦いをしたときで間違いなかった。ルシル君はその強い魔力の出所、そして発した主を見つけるために海鳴市に残ることした。そこで出会ったのがはやてちゃん。ルシル君がサバイバル生活しようとしていたのを止めるために家に招いた、とのこと。
「俺のことはまぁ、どうでも・・とは言わないけど、しばらくエグリゴリ捜索は中断するから問題ないよ。だから付き合うよ、これからも君たちにさ」
「ルシル君・・・、おおきにありがとう❤」
「気にするな。俺とはやての仲だろう?」
仲が良いなぁ、はやてちゃんとルシル君。シャルちゃんはちょっとつまらなさそうだけど。でも邪魔をしないところを見ると、少しは空気を読んでくれているみたい。とにかくはやてちゃんも管理局入りがほぼ決まりみたい。
アリサちゃんが「あたしが一番ヤバいわけね~」テーブルに突っ伏した。はやてちゃんが「どうゆうこと?」って訊いたから、私やアリサちゃん、すずかちゃんも管理局に入ろうかって話をしていたことを伝えた。
そして入局への壁、家族へ全事情を話さないといけないっていうのがあって、断れたりでもしたらどうしようって迷いや不安があること。特にアリサちゃんのプライベート的に入局できる確率が私たち3人の中で一番低いってことも。
「あー、アリサちゃんもお嬢様やもんなぁ~」
「でもアリサってお嬢様って感じしないよな。すずかにお嬢様はピッタリなんだけどさ。なんでだろ、熱血でうるさいから?」
「言ってくれるじゃないヴィータ?」
「あっ! あたしのから揚げ!」
「から揚げゲットだぜ!」
「はやて~、アリサがあたしのから揚げ盗った~」
「お~、よしよし。わたしのピーマンのベーコン巻をあげるな♪ ヴィータ、あ~ん♪」
「ピ、ピーマン・・・、あ~ん・・・むぐむぐ・・うぅ、ぅ・・・」
はやてちゃんから差し出されたベーコン巻を丸々1本頬張ったヴィータちゃんは若干涙ぐみながら咀嚼を続ける。あー、ヴィータちゃん、ピーマンがダメなんだね。それを見たアリサちゃんは「ごめん、ホントごめん」自分のトレイに有るコロッケをヴィータちゃんにあげた。
「話を戻させてもらうけど。君たちは、管理局に入るっていう願いを何においても貫く覚悟があるのか?」
ルシル君が真剣な表情で私とアリサちゃんとすずかちゃんを順繰りに見詰めていった。訊ねられた私たちは「うんっ!」強く頷いた。迷いがあるままで決めるようなものじゃない、ルシル君はそう言いたいんだよね。
「大丈夫。1回や2回くらい許可が出されなくても辛抱強く説得するから」
「私も。お父さんやお母さん、お姉ちゃんを説得してみせるよ」
「・・・・あたしも! どうにかして説得してみせるわ!」
「そうか。頑張ってくれ、なのは、すずか、アリサ。ま、とにかく伝えることだ。自分が抱いた思いを。父であれば母であれば、きっと判ってくれる。信じろ、家族を」
打って変わって笑顔になるルシル君。どうしてだろ、ルシル君のその力強い言葉は私の心の中に有る不安を拭ってくれた。そして私たちは覚悟を示すために携帯電話のメール機能を使って連絡した。大事な話があるから時間を作っておいて、って。この話題はこれで終わって、次は明日25日の夜、すずかちゃんのお家で行う予定のクリスマスパーティについて。
「わたしらはちょう難しいかも知れへん。一応リンディさんやクロノ君のおかげでハッキリとした罪にはならへんようやけど、今後の管理局従事に必要な書類記載やわたしの健康診断とかで時間取られるかもや」
はやてちゃんがしょぼーんと肩を落とすけどすぐに「ま、しゃあないよな」って苦笑い。シャマルさんが「余裕が出来た時にやりましょ」はやてちゃんを抱きしめた。ヴィータちゃんは「うん、やろう!」ってはやてちゃんの右手を握って、リインフォースさんは「料理は私たちにお任せを」そう左手を握った。
「うん。そうやな。クリスマスパーティ、やろな♪」
笑顔になるはやてちゃん達だけど、それでもどこか寂しそう。そんなはやてちゃんを見て黙っているわけにはいかないのが親友だよ。
「ねぇ、シャル。はやて達を今日帰すこと出来ないの?」
「私たちずっと前からクリスマスパーティの約束していたんだけど」
フェイトちゃんとすずかちゃんに続いて「うんっ! 大事なことだと思うけど、書類記載とか遅らせられない?」私もシャルちゃんにお願いしてみる。せめて今日一日だけ、はやてちゃん達を解放してあげてほしい。
「う~ん、わたしに決定権は無いからなぁ~。でも、うん、クロノやリンディ艦長にわたしからもお願いしてみるよ。このシャルちゃんにまっかせなさいっ♪」
自信満々に胸をトンッと叩くシャルちゃん。私たちみんなで「おお!」そんなシャルちゃんにパチパチ拍手を贈っていると、「みんな揃っているな」クロノ君、そしてリンディさんが食堂にやって来た。シャルちゃんが早速、「はやてたち八神家を今日帰したいんだ。お願い!」ってクロノ君に食べかけのバナナを差し出した。私たちも「お願いします!」ってリンディさんにお願いする。
「食べかけなど要らん! ・・・で、八神家を帰すことについてだが、僕は構わない。艦長はどうです?」
「そうですね。今日は帰ってもらってゆっくり休んでもらいましょう」
リンディさんとクロノ君からも許しが出たことで私たちは「やった♪」テーブル越しにハイタッチを交わす。でも、「申し訳ないがルシリオン、君は残ってくれ」喜びも束の間、ルシル君の居残りが決定したことで、私たちはシーンとハイタッチしたままの体勢で停止。
「俺ひとりでいいのか?」
「ごめんなさいね、ルシリオン君。あなたを、本局へ移送することになりました」
リンディさんがそう言うと「移送!? どうしてですか!?」シャルちゃんが勢いよく立ち上がった。はやてちゃんも「なんでルシル君だけなんですか!?」ってリンディさんを問い質した。ヴィータちゃん達も目がそう言ってる。ルシル君だけを連れて行く理由はなんだ?って。
「本局の運用部総部長、キオン・ヴァスィリーサ准将と、特別技能捜査課課長、ガアプ一佐が、会って話がしたいと言っているの」
「運用部?」
「特別技能捜査課、ですか?」
「運用部は人事や艦船などの配置を決定する部署で、キオン・ヴァスィリーサ准将はそのトップ。特別技能捜査課は固有スキルやある一芸に特化した魔導師や騎士が所属している部署で、ガアプ一佐はそのトップだ」
私とすずかちゃんの問いにクロノ君が答えてくれた。それを聴いたシャルちゃんが「どうしてこんなに早くルシルのことが知られて・・・、っ! セラ・・・、あの子!」怒りの表情を浮かべて拳をテーブルに叩き付けた。
「セラティナがどうしたって言うのよ、シャル」
「あの子の所属している部署が特別技能捜査課! あの子が報告したんだ、ルシルのこと、上司のガアプ一佐に!」
「待て、イリス! 彼女は彼女の仕事を全うしたんだ!」
クロノ君に制止されたシャルちゃんは駆けだそうとするのもやめて悔しそうに「でも・・・!」表情を歪めたけど、クロノ君の真っ直ぐな視線に折れたみたいで座り直した。ルシル君がそんなシャルちゃんの頭を優しく撫でた。
「いいよ。ランサーという名を上げ過ぎたからな。その正体が局の上層部に知られた時、こうなる事は覚悟していた。もしかして上層部で始まっているのかもな。俺の争奪戦がさ。最初のお誘いが特別技能捜査課ということなんだろ? 俺の能力を活かすにはちょうど良くないか? 結構万能だしな。そう思うと悪い気はしない。せいぜい媚を売って来るさ」
ルシル君の自画自賛に私たちは苦笑を漏らす。でも、そうなら安心してルシル君を送り出せるよね。だけどはやてちゃんの表情からはまだ不安が消えてないのが判った。ルシル君はそんなはやてちゃんに「大丈夫。順番が最初に俺に回って来ただけさ」って笑顔を浮かべて安心させようとした。
「とにかくだ。俺は管理局に行く。はやて達は家に戻り休憩。なのは達も家に帰る。そして明日のクリスマスパーティの準備だ。俺も参加するからしっかりとしてくれよ? あ、そうだリンディ提督。なのは達は管理局に入る為に魔法のことをご家族に話すようですから、協力してあげてください」
「えっ?・・・なのはさん達、本当に管理局へ・・・?」
「あ、はい。この魔法の力を少しでも役立てるために」
「デバイスマイスターになって、なのはちゃん達や頑張っている局員さん達の力になるために」
「あたしも。なのはやフェイトと同じ思い」
リンディさんに私たちの思いを伝える。リンディさんは「それは嬉しいし、協力でもなんでもしたいけれど・・・」クロノ君とルシル君を見た。
「ルシリオンの移送は僕とイリスで行いますから、艦長はなのは達と一緒にご家族の元へ。本件解決と共に休暇に入る予定でしたから問題ないでしょう」
「ごめんなさいね。・・・それではクロノ、イリス。ルシリオン君の移送をお願い。私はなのはさん達と一緒にご家族へお願いをしに行くわ」
こうして私とアリサちゃん、すずかちゃんは、家族に全てを話して管理局へ入局するための許可を貰いに、そしてはやてちゃん達は体を休めるために、アースラから降りることになった。
†††Sideなのは⇒ルシリオン†††
「ルシル君・・・」
「そんな心配そうな顔をするな、はやて。大丈夫だよ、悪いようにはされないさ」
泣きそうな顔で居るはやてと目を合わせてそう告げる。そして「待っていてくれ。パーティまでには帰るから」八神家が全員揃う(半年後、リインフォースは居ないからな)のが最後となるクリスマスパーティだ、必ず帰って参加すると誓う。
「リインフォース、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。はやてを頼む」
「「ああ」」「おう」「ええ」「うむ」
「ルシル君!」
「いってくるよ、はやて」
はやて達もなのは達に遅れて転送され、その姿を消した。さてと。踵を返してシャルとクロノと向き合い、「案内してくれるか、本局に」そう言い放つ。はやて達にはああ言ったが、少々きな臭いんだよな。俺の能力のことはセラティナは知らないはずだ。つまり俺を求めているのは運用部のキオン・ヴァスィリーサ准将という将校なんだろう。
それに俺一人を呼びつけたと言うのもおかしな話だ。何を言われるか判ったものじゃない。が、俺の目的にまた一歩と近づける可能性があるため、蛇の道だろうが虎穴だろうが進んでやるだけだ。
クロノがトランスポーターの転移先を本局への中継点へと設定し直しているのを眺めていると、「ちょっと待って。少し時間ちょうだい。ルシル、こっち!」シャルがいきなり俺の左手を掴んで走り出した。
「ちょっ・・・!?」「イリス!?」
面を食らう俺たちを余所に「ちょっとだけ~❤」クロノに振り向いてウィンクするシャル。クロノは目に見えて顔を赤くし言い淀んだ。シャルめ。こんな妙なスキルを手に入れるとは。クロノの純情を玩んでやるなよ、可哀想に。
そうして俺はシャルに連行され、到着したのは「いっらしゃ~い、私のプライベートルームへ❤」シャルの部屋。シャルに引っ張られた俺は、「そぉ~れい♪」シャルの掛け声とともに突き飛ばされてしまい、仰向けでボフッとベッドにダイブする羽目に。
「急になにをす――・・・なんのつもりだ?・・というより、今の君はどっちだ?」
俺に覆い被さるように居るシャルに問う。シャルは「さあ、今の私はどっちでしょう♪」と質問返ししてきた。面倒と思いつつも「前世のシャルだな」そう即答してやる。
「ファイナルアンサー?」
「いいから退け。君の前髪がさっきから頬に当たってくすぐったい」
「柔らかくて良い香りでしょ❤ もっと堪能してもいいんだよ?」
「蹴っ飛ばすぞ」
両腕をガッチリ押さえ付けられ覆い被さられてはいるが、足を曲げることは可能。両膝でコイツの尻を蹴り上げてやれば退かすことは出来る。あと10秒数えるうちにどかない場合は実行、と決めたところで、シャルが俺の左頬にそっと手を添えてきた。
「ねえ、どうして判ったの? 私だってことが」
「・・・はぁ。君は、私↑と上がり口調だが、イリスは、わたし↓と下がり口調。当たっているだろ」
そう言ってやると「やっぱり運命だよ❤」シャルが勢いよく抱きついてきた。幸せそうに喜んでいるところ悪いが、「俺を連れて来た理由はなんだ?」本題に入らせてもらおう。
「なんでって・・・、決まってるでしょ。あなたとゆっくり話がしたかったから」
顔をグッと近づけて俺の目を覗き込むシャルに「話をしてやるからそこを退け」そう言い放つ。だが、「ヤ❤」と一言拒否してきたため、「アウト」と両足を勢いよく曲げる。と、「キャン!?」シャルが頭上へと飛んだ。
「いったぁ~い! ちょっと! 女の子のお尻を両膝蹴りってあんまり過ぎじゃない!?」
「はいはい。君もパーティに出たいんだろ? だったらサクサクと本局での用事を済ませようじゃないか。こんな時間を取ってないで」
「あー、大丈夫。クロノに任せて、私は地上に降りるから」
「君という奴は・・・!」
ようやく俺の上から退いてくれたシャルには呆れしかない。もうさっさと終わらせるために俺が折れることにした。2人してベッドの上に座り、背中を合せる。シャルの体温が背中越しで伝わって来る。
「そんじゃ改めて。久しぶり、ルシル。えっと、ルシルの時間で何年ぶりくらいになるの? 千年以内かな?」
「大体・・・9千年くらいか」
「きゅ、9千年・・・!? え、ちょっ、うそ、そんな・・・」
互いに体重を背中越しの相手に掛けていたため、シャルが居なくなったことで「おわっ?」俺はごろんと仰向けに倒れ込むことに。そんな俺に「私が居なくなってから9千年も戦い続けたって言うの!?」顔を真っ蒼にしたシャルが頭上から覗き込んできた。
「泣いてくれるのか・・・?」
「当たり前でしょうが! 本気で好きになった人があれからまた9千年も地獄を見て来ていたなんて・・・!」
シャルは女座りでポロポロと涙を零していた。体を起こしてシャルと向き合う。自然と伸びた右手で彼女の頭を撫でた後、頬へと手を持って行って涙を親指で拭い取ってやる。シャルは嗚咽を洩らしながらも「でも、やっと戻って来ることが出来たんだね。正史の次元世界に」とそれでも笑顔を俺に向けた。
「ありがとう」
「うん・・・。ねえ、どれだけ倒す弧とが出来たの?」
「バンヘルドとグランフェリアの2機だ。なぁ、シャル。レーゼフェアとシュヴァリエルが局に指名手配されているようなんだが、何か知らないか? シュヴァリエルに関しては手掛かりがあるが、レーゼフェアに至ってはサッパリなんだ」
「は!? 指名手配!?・・・ごめん。私、イリス個人の記憶しか持ってないからよく判んない。でも、それホント? エグリゴリが本局に目を付けられてるって」
「しかも最悪なことになのは達の元にレーゼフェアとシュヴァリエルが姿を見せたようなんだ。フェイトの側にはグランフェリアが居たし」
「ちょっ! それってまずくない!?」
「ああ、まずい。今のところはあれから翠屋に姿を見せていないようだが・・・」
シャルと一緒にズーンと項垂れてしまう。グランフェリアはフェイト達テスタロッサ家と大きく関わりを持っていた。しかし、レーゼフェアとシュヴァリエルは翠屋に数回姿を見せただけ。何がしたいのか解らない。シュヴァリエルは一応リンドブルムに所属しているようだが、レーゼフェアの手掛かりはそれ以外にない。
「とにかく。エグリゴリは俺の先を行っている。今後の管理局従事の中で衝突する可能性が高い」
「なのは達が巻き込まれる可能性は?」
「ある。が、そんな不足な事態には陥らせないつもりだ。彼女たちの知らぬ間、気付かぬ間に救済する。必ずだ」
泣き止んだことでシャルの頭から手を退けつつ、俺はグッと握り拳を作る。そんな俺を見たシャルが「手伝えることはない?」と訊いてきた。シャルの魔術師化は正直なところ魅力的な戦力だが、そうは言っていられない。
「シャル。イリスの人格はどうしている?」
俺の問いに「どうして・・・?」シャルは表情の一切を消してそう訊き返してきた。言わなければ。前世の人格である君の影響が、現世の人格であるイリスを押し潰して消滅させかねない、と。だから、俺のこの手で、魔術で、君の人格を・・・消す、と。
「解っているだろ。君は前世の記憶だ。イリスの人格、これからの未来にとって君の存在は――」
「邪魔だって言いたいんでしょ? 解ってるよ、それくらい。私が消えるべき存在だってことは。ルシルは私を消すつもりだったんでしょ?」
笑顔なんて言えない程の悲痛に満ちた笑みを浮かべるシャル。くそ、見ていられない、そんな顔。思わず顔を逸らしそうになったが「最後にお願いがあるの」シャルが伸ばしてきた両手に掴まれて拒まれた。
「お願い・・・?」
「そ。・・・キス、して」
「は? 待て、待て。その体はあくまでイリスのものだぞ。君がどうこうする権利なんてない!」
突き放そうとしたが、思った以上の握力に逃げることが出来ず、キリキリと締め付けられて痛みを覚える。
「いいじゃない、別に。それともはやての為に取っておくとか? エッチ❤」
「どういう思考回路を持てばそうなる。生憎と俺に恋愛をする予定は永遠に無い。はやて然りその他然り。もちろん、イリスともくっつくことはない。解るだろ?」
「??・・・あれじゃん。対人契約をすれば、残れ――」
「ダメだ。俺はもう・・・限界なんだ」
シャルに話す。神意の玉座に座する俺の本体――ルシリオンの精神が限界を迎えたこと、行き過ぎた魔力行使によって削られるこの体や精神を保つために、創世結界に貯蔵されている術式や武装を消費して補完していること、その補完の代償が記憶の消失であること、今回の契約で“堕天使エグリゴリ”を全機救えなければ、本体の消滅は確実だと。
「つまり、これが最後のチャンスなんだよ。失敗すれば消滅。成功すればアースガルドに封印されている俺の肉体に戻れる。どちらにしろ、永遠にさようならなんだよ。だから誰とも恋愛するつもりは、ない」
「あなた、それほどまでに追いつめられて・・・!」
泣き顔に歪むシャル。俺のことを憶えているからこそそんなに悲しみ、苦しむんだ。だから解放しよう。俺のことを・・・忘れることでな。シャルの頭に左手を伸ばしつつ「一瞬で済むからな、シャル」優しく語りかける。
「ルシル。その前にさっきの続き。最後の思い出として、キス、お願い」
「どうしてもか?」
「界律の守護神時代、あなたと一緒になった契約ん時、何時も私からだったじゃん。最後くらいはあなたからしてよ❤」
シャルが目を閉じて待ちの構えになった。最後、か。そういうことなら、と俺も覚悟を決めて、シャルの綺麗な桜色の唇にそっと自分の唇を重ねる。そして唇を離し、「さようならだ、シャル」改めて左手を伸ばそうとしたところで、「あはっ❤」シャルが満面の笑顔を浮かべて「やっほ~~い♪」万歳しながらベッドに倒れ込んだ。
「シャル・・・?」
「やったぁ~~~! わたしにルシルがキスしてくれたぁぁーーーー!」
「わたし?・・・君はイリスか!?」
シャルとは違う下がり口調の一人称。彼女は跳ね起きをし、俺と向かい合った。
「ヤー❤ というかルシル。イリスじゃなくて、シャルって呼んでってば♪」
どういうことだ? イリスの人格がハッキリとしている。シャルの人格はどうしたんだ?
――最後の思い出として、キス、お願い――
そうか、自分で去って行ったんだな。イリスの将来の為に。そんな思考していると、彼女が「シャルロッテ様は居るよ、ちゃんとわたしの中に」まるで心を読んだかのようにそう言ってきた。
「まさか・・・共存しているのか?」
「う~ん。シャルロッテ様の記憶は少ししか流れて来ないけどね。わたしの前世がシャルロッテ様だったこと。そしてなんと・・・なのは達とは別の世界で親友だったっていうこと。あとルシル、あなたとは敵であって戦友でもあったこと。ふふふ。やっぱり運命だったのね~。記憶のフラッシュバックは確かなもの。感情の揺らぎは確かなもの。前世で実際に逢っていたんだから♪」
おいおい、それってまずいじゃないか。今のイリスは未来の事象を知ってしまっているということだ。今度はイリスの記憶の消去をするべきか。グッと左手に力を籠めたところで「きゃいん!?」イリスが変な悲鳴を上げて、俺に倒れ込んできた。イリスを抱き止め「おい!」と声を何度も掛ける。
「・・・あー、ダイジョブだよ、ルシル。イリスの記憶から、私とあなたの前世やテスタメント時代、そして今後に起こるであろう事象の記憶を消しただけ。だからあなたの心配するような事態にはならないわ」
「今度はシャルか」
「ちょっとシャルロッテ様! 今なにしてくれやがりましたか!? 思いっきし頭痛いんですけど!?」
「またイリス・・・」
「ごめん、ごめん。余計な記憶を押し付けて、あなたの記憶や人格を潰さないためには必要だったわけ」
「もう少し優しくしてくださいよ!」
シャルとイリスの人格が交互に入れ替わっていく。それにしても側で見ている限りでは今の彼女は独り芝居をしている怪しい少女だ。というか、「おい、シャル」彼女の頭をガシッと鷲掴む。
「な~に、ルシル?」
「どうして君はそんな軽々と表に出て来ているんだ? イリスの人格は何故耐えられる? そもそもさっきの最後の思い出云々のくだりはどうした?」
「ごっめ~ん♪ 別に私の人格が消えなくてもイリスの人格は問題ないんだよ~☆ 私が覚醒している状態だからこそ、これまでのフラッシュバックが抑えられて、イリスの精神が安定するわけ。それだけじゃなくて精神干渉系の魔法やスキル、技術をキャンセル出来る恩恵もある! まぁ、今のようにそうそう表には出ないようにするけどね~♪ なんていうか、隠居生活、みたいな?」
「ちなみにキ・ス・は~・・・ただ単にわたしとシャルロッテ様の願望だよ~☆」
今、俺のこめかみが引きつくのが判った。
「でも嬉しかったなぁ~♪ ルシルからの、キ・ス・・・きゃっ❤」
プッツンという音が頭の中から聞こえた気がした。
「貴様はぁぁぁぁぁーーーーーーッッ!!!!」
「ちょっ、まっ、これ、パイルドライバー・・・!? うぎゃん!?・・げふっ」
プロレス技の1つ、相手の頭を自分の膝の間に挟み込んだ状態で持ち上げ、真っ逆さまに落とすという技、パイルドライバーをシャルに掛けてやった。白目を剥いて気を失っているシャルに「反省してろ、馬鹿女」そう吐き捨て、部屋を後にする。
「すまない、クロノ。待たせた」
「ルシル!・・・ん? イリスはどうした・・・?」
「ちょっと失礼なことをされてしまってな。少し眠ってもらった」
「・・・・そうか。なんて言うか、悪い子じゃないんだ。頭も良い。しかし人格的に馬鹿なんだ」
「判ってる。苦労しているんだな、クロノ」
お互いに肩をポンポンと叩く。今回の次元世界でも良い友になれそうだよ、クロノ。こうして俺とクロノはシャルを放置して本局へと向かった。中継ポイントを跨いで本局へと着き、トランスポーターホールを出たところで、「くそったれ・・・」俺は自分の不運さを呪った。
「あ! キオン・ヴァスィリーサ准将、ガアプ一佐。お疲れ様です。でもどうしてこんなところに? 応接室で話を、と・・・」
通行の邪魔にならないように廊下の隅に佇んでいた女性2人に敬礼したクロノに、「待ち切れずに来てしまいました」とその2人も敬礼を返した。そして俺へと視線を向けて来た。
「はじめまして、パラディース・ヴェヒターのランサーもといルシリオン・セインテスト君。特別技能捜査課・課長、クー・ガアプ一等陸佐です」
「本局運用部・総部長、リアンシェルト・キオン・ヴァスィリーサ准将です」
2人の女性のうち1人は“エグリゴリ”の1機、実力的にはナンバー2のリアンシェルト・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリアだった。
後書き
グ・モロン。グ・デイ。グ・アフドン。
なのは、アリサ、すずかの3人が管理局入りを決意し、そして管理局の上層部にまで入り込んでいた堕天使エグリゴリ、その三強の一角であるリアンシェルトがルシルの前に登場。ルシルの不運さは酷いものです、自ら書いておきながらですが。
えー、次回ですが、なのは達が家族を説得するシーンを省いた上で(←別に考えるのが面倒なわけじゃないですよ? 本当ですよ?)色々とやっていく予定です。
ページ上へ戻る